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狙われた学園~シャンバラ教導団編~1話/全2話

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狙われた学園~シャンバラ教導団編~1話/全2話

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第4章

 ワームとゴブリンの森を抜けると、川のせせらぎが聞こえる草原が開けていた。

 そこで大岡 永谷(おおおか・とと)とパートナーのファイディアス・パレオロゴス(ふぁいでぃあす・ぱれおろごす)は口汚くお互いをののしり合っていた。もちろん不穏分子をおびき寄せるための演技ではあったが、ファイディアスは、永谷をペット扱いしており、それを日頃から鬱憤をためていた永谷がなんとかこれを期に晴らしたい意図も含まれていた。そのため、二人のケンカは演技を越えて、本気になってしまっている。
「人をペット扱いして調教しようとするな!」
「ふう、永谷、貴殿はまったく子供なんです。すべてが終わったら、調教しなおしてあげませんと」
 あくまでもケンカをせず、流す態度のファイディアスに永谷はカアっと頭に血が昇ってしまう。作戦も忘れ、ファイディアスにつかみかかろうとした、そのとき、近くを通りかかった緋桜 ケイ(ひおう・けい)悠久ノ カナタ(とわの・かなた)がびっくりして二人を止めに入ってきた。
「こんなところで、なにケンカしてるんだ!」
「お前さんたちこそ、インスミールの生徒がこんなところで何をしている!?」
「教導団のセオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)に会いに来たんだよ。そしたら訓練だって」
「わらわたちは、他校からの来校者として申請もしてあるのじゃ。セオボルトに芋ケンピを持ってきたのでな。それに訓練とやら、見せて貰うのも一興…」
 カナタがくすり、と笑う。
「呑気なもんだな、お前さんたちが不穏分子なんじゃないのか」
 永谷の言いぐさに、カナタは機嫌を損ねたのか、すっと目が細くなる。
 その時だった。
「シャンバランダイナミィィィック!!!! 悪は滅びろ!!」
 素っ頓狂な大きな雄叫びが響き渡り、自前のヒーローお面を被った神代 正義(かみしろ・まさよし)が四人の前に姿を現した。
「とう!」
 ずっと身につけているせいか、少しくたびれた赤いマフラーがたなびき、空中で、いや、地面で三回転をしたあと、少し息切れをした状態ですっくと立ち上がると、ポーズを決める。
「テックセッタ! パラミタ刑事シャンバラン!!」
「なんだ、こいつ…」
 四人とも、突然の闖入者に今までのケンカや不穏な空気など吹き飛んでしまっている。
 そんな四人を無視して、神代 正義、いや、パラミタ刑事シャンバランは言葉を続けた。
「今回の訓練、なーぜーかー他校生も参加しているな? …そうか!奴等は今回、訓練という名目で不穏分子と接触を図る為に参加しているのか!という事は犯人の正体は他校生!! つうことはおまえら、インスミールの生徒が不穏分子か!ええい、覚悟しろ!」
「ええ!? どういう理屈!?」
 ケイとカナタは突っ込んでくるパラミタ刑事シャンバランをよけようとしたが、カナタが一瞬足を取られる。
「ああ!」
「くらえ、正義の鉄拳!」
「バカモノー!!」
 永谷の右カウンターが思い切り、パラミタ刑事シャンバランのみぞおちに入る。
「ぐっはあ…!!」
「『正義の鉄拳』とかあるか! いきなりの他校の生徒に対しての暴力とは、教導団をなんだと心得る!」
「くそぉ! シャンバランが悪に屈してしまうとは…子供達よすまぬー!」
「…何を言ってるのかよく分からないけど、俺にもカナタにも入れ墨はないし、不穏分子でもないぜ」
「え?」
「なんなら確認するか?」
 どうみても女の子にしか見えないケイが服を脱ごうとするので、周囲は慌てて止める。
「わらわもじゃ」
 のど元と髪を上げて、首筋をカナタが見せる。
「えっ?不穏分子なんて知らない? …すいません人違いでした…じゃあ、一緒に不穏分子を捜して下さい!」
 パラミタ刑事シャンバランは、あっと言う間に立ち直り、ケイとカナタの手を握るが、
「ごめん、セオボルトのところに行かなきゃいけないからさ」
「そうなのじゃ。…それと、そこの黒髪の教導団の方」
 カナタがくるりと永谷の方を向く。
「なんだ」
「先ほどはこのなんとかバランから助けてもろうた。礼を言うぞ」
「礼なんてどっちでも良いぜ。気をつけていきな」
 と、ケイとカナタが去ろうとしたとき、教導団の軍事訓練を好奇心いっぱいで見に来ていた篠北 礼香(しのきた・れいか)が通りかかる。
「この百合園女学院制服だと、怪しい奴だと思われてしまいます。それにあたしにも入れ墨があるし…」
 礼香は、左の耳の上に剣と盾を模した刺青を撫でながら、周囲を見渡す。
「あ、あそこにインスミールの生徒たちもいますわ!混ぜて貰いましょう!そこのみなさーん…」
と、声を掛けようとしたその時、パラミタ刑事シャンバランが礼香の前に立ちはだかる。
「テックセッタ! パラミタ刑事シャンバラン!! きさまー! その左の耳の上にある入れ墨はなんだ! 不穏分子か! この他校生が!」
「きゃー!! なんなのこの人−!! やる気かー!!」
 と礼香は女王の加護を使いながら危険を避け、またアサルトカービンをパラミタ刑事シャンバランに向ける。
「あ、すみません、それは止めて下さい、ワタクシが悪うございました」
 パラミタ刑事シャンバランはいきなり今までの勢いが無くなり、へこへこと謝る。
「なんなのーこの人! ひっどい、さいあくー! やんのかあ!」
 礼香は半ギレになっている。
「いえ、もう、申し訳ないの一言でして…あの、銃をしまってくれませんかね…」
「やれやれ…」
 永谷やケイたちはその騒動に苦笑するしかなかった。