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【2019修学旅行】舞妓姿で京都を学ぶ

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【2019修学旅行】舞妓姿で京都を学ぶ

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3・楽しいお茶会

 お茶会を希望したグループは、それぞれに用意された人力車に乗って、茶席に向かう。
 空色の着物を着た秋月 葵(あきづき・あおい)は、ふっくらと可愛らしい割れしのぶにゆった髪に、白い小花がいっぱいついたかんざしをつけ、なんとも可憐。着物に合わせた空色の鼻緒のおぼこ(靴)を器用に操って、席に腰掛ける。
 パートナーのエレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)は、着物は初体験、人力車に乗るのも初めて。おぼこを履いたときから、ずっと葵につかまって、ようやく車に乗り込む。
 「きゃ!」
 人力車が動き出すと、ノルマンが声を上げる。
 小柄な二人は、舞妓姿が良く似合っている。

 冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)は、真っ白な、それでいて艶やかな髪を少し大人っぽく結い上げ、藍白の着物を着ている。半襟は遠めには白だが良く見ると、豪華な手刺繍が施されている。裕福な小夜子の実家が、この日のために揃えた特注の品だ。
 馴れないおぼこ(靴)でも優雅に動き、車夫の手を借りて車に乗り込んだとき、車が揺れた。
「がたんっ!」
 車に頭をぶつけたのは、桜井静香(さくらい・しずか)。おぼこを手に持っている。足袋にサンダルをつっかけている。
「ごめんね、裾踏んじゃった。隣に乗るよ」
 サンダルのまま、車夫の手も借りずに車に乗り込む静香。
「着物は動きにくいね」
 にっこり笑う静香の着物は、ラズィーヤが用意した特注品だ。これでもかっと金糸や銀糸で飾られ、花嫁衣裳のような重量感がある。頭には大輪の百合の花のかんざし、多くの宝石と共に飾られ、ゆさゆさ揺れている。とても美しく豪華なのだが・・・
「なんだか、重そうですね」
 小夜子は、ちょっと静香が気の毒になった。

 次の人力車に乗っているのは、稲場 繭(いなば・まゆ)崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)だ。
 銀の髪に金の瞳を持つ繭は、淡く銀色に輝く着物を着ている。小柄で可憐な姿だ。
 亜璃珠は財閥の令嬢として育ち、大和撫子に必要な一通りの作法を習っている。
 京都に旅行と聞いて、実家が用意してくれた最高級の着物は、繭と同じ西陣織で、亜璃珠の黒髪が映えるよう誂えた。黒地に大柄な花の刺繍が美しい。かんざしも着物と揃え、まっかな百合の花だ。
「わたし、お茶は初めてて・・・緊張します」
 繭は既に不安げだ。
「大丈夫よ、私が教えてあげる」
 亜璃珠は、繭の頭をそっと撫ぜた。


 アピス・グレイス(あぴす・ぐれいす)は、人力車の前で悩んでいた。車夫は手を差し伸べているが、どうやって乗っていいのか分からない。
 アピスは、日本の文化に触れるのは初めてだ。
 大広間の着付けでは、ただ立っていれば皆が全て整えてくれたが、車の乗り方は教えてくれなかった。
「裾を持てば、いいのよ」
 よろよろと歩いてきたリリアナ・エレトリカ(りりあな・えれとりか)が裾を大きく持って、先に車に乗り込む。
「ね?イキでしょ?着付けのときに聞いたのよ」
 イタリア人のエレトリカは陽気でおしゃべりが大好き。多くの着物を試着して選んだだけあって、イタリア人らしい華やかで可憐な装いになっている。
「京都は初めてなの」
「わたしもなの」
 人力車が動き出すと二人共に声を上げる。
「変なのりものだわ」
 顔を見合わせ微笑む二人。

 四台の人力車は連なって、茶席が用意された南禅寺周辺へと向かう。
 通りすがりの観光客が人力車にカメラを向ける。
 髪の色も瞳の色もさまざまな一行は、本物の舞妓らしくは見えないが、それぞれに美しく、京の街並みに溶け込んでいる。

 南禅寺手前で車夫が車を止める。
 静香がかんざしを気にしながらよろよろと降りてくる。
「茶席はほんの少し先なんだけど、少し歩いた方がみんな楽しいよね」
 それぞれの車夫が手を差し出し、みんなを車から降ろす。
「南禅寺を見学しようよ」
 静香が歩き出すと、車夫がその横にぴったりと付き添う。
 ふらふら揺れる静香を気遣う小夜子にはその車夫が不思議でならない。
「なぜ、彼らは付いてくるのですか」
「ボディーガードなんだよ」
「静香校長のですか?」
「いや、これの」
 頭にささったかんざしを指差す静香。
「ここの宝石1つで、ヴァイシャリーに別荘が買えるらしいんだ。日本では、こういう貴金属には護衛が付くらしいよ」
「大変ですわね」
 重い衣装と、車の中で履き替えたおぼこ(靴)に苦戦している静香を気遣う小夜子だった。

 南禅寺の名所のひとつ、洋風のアーチ橋の上を疏水が流れる水路閣をくぐる。美しい紅葉が目前に広がっている。
「キレイだよね」
「本当ですね」
 葵がうっとりと目の前に広がる色とりどりの紅葉を眺めている。
 元々知り合いだった繭と亜璃珠は、人力車の中で話が弾んだらしい。寄り添うように、境内を歩いている。
「ウツクシイデス」
 エレトリカは好奇心の赴くまま歩いては、付き添いの車夫を質問あれこれ質問している。