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【2019修学旅行】のぞき部どすえ。

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【2019修学旅行】のぞき部どすえ。

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第11章 夫婦滝登り鯉

 大草義純は、浴場前の休憩所にいた。
 1台しかないマッサージチェアは、伊達藤次郎正宗が独占している。
「伊達さん。今日一日中そこにいますよね。ちょっとだけ、譲ってもらえませんか」
 正宗はギロリと義純を見て、
「いやだね。隠れる場所なら、他にもあるだろ」
「む。さすがは伊達さん。バレてましたか……」
 と、そのとき廊下の向こうから声が聞こえてきた。
 義純は慌ててマッサージチェアの下にもぐった。
 やってきたのは、キリン隊の面々だ。彼らも風呂に入って体を休めようというのだろう。
 義純には気づかぬまま、「男湯」と書かれた暖簾をくぐって中に入っていった。
「伊達さん。僕、行ってきます」
「……」
 正宗はマッサージしながら眠っていた。
 そして義純は、「男湯」の暖簾をくぐった。

「女湯」と入れ替えた「男湯」の暖簾を、くぐった。

 脱衣所に入ると、そこは本来「女湯」。
 既に女子の甘いニオイが漂っている。
 しかし、キリン隊は祝杯をあげたせいだろうか、気がついていなかった。
「いやあ。のぞき部ってほんっとバカだよね」
「見た? あの格好悪いマスク!」
「ぶっぷぷー! あれは笑ったぜーーー!」
「やっぱりカッコいいのは、ケンリュウガーとシャンバランだけだな」
「英希もがんばったんだから、このままキリン隊入れば?」
「うーん。どうしようかなー」
「あ、でも魔法少女だからパンダ隊だね!」

「あっっはっはっはっは」

 みんな楽しそうだ。
 普段はクールな焔も、頼もしい仲間たちのリラックスした様子を見て、小さく笑っていた。
 そしてその中に、義純はまぎれこんでいた。
 浴衣を脱ぐと背中にはバッチリ「夫婦滝登り鯉」の刺青が入っていてバレやすくなるので、浴衣は着たままだった。
 義純は心の中で呟いた。
「完璧だ……!」

 ここで、義純の「完璧な」作戦を説明しておこう。

 現在彼らがいるのは女子風呂だから、脱衣所の向こうは当然……女子の裸がいっぱい。
 誰かが服を脱ぎ終わって洗い場への扉を開けたら、当然……女子の裸がいっぱい。
 簡単にのぞけるわけだ。
 しかし、ここで大事なのは、「義純は一番に扉を開けてはいけない」ということだ。
 念のため扉は他の男に開けさせて、のぞきの罪はそいつになすりつけておく。
 そして、義純自身は後方から驚いたふりをしながら、しっかりのぞく。
 暖簾の入れ替えを見た者はいないし、正宗が告げ口するとは思えないから……無罪!

 完璧だ……!

 洗い場への扉を開けようとしているのは、なんと……焔!
 義純の頭の中ではもう笑いが止らない。いいですね。隊長自らのぞき部に堕ちてくださーーーい!
 しかし、そのとき……
「でもよお。キリン隊って、こんなことしてて意味あんのかな」
 新人の零が疑問を呈した。
 扉にかかっていた焔の手が、ピタリと止った。
 酔ってるのか、零は話し続ける。
「のぞきは男の性だし、のぞかれるのも女の誇りかもしんねえよな。それをわざわざ止める俺たちって、偽善者っていうか、ああ。そうだ。むしろ辱めを受けるべきは俺たちの方なんじゃないかっ!」
 義純は唇を噛む。その通りです! でも、今は黙っててくださーーーい!
「俺たちキリン隊! 格好悪いぜ!」
 ようやく焔が口を開く。
「格好悪くてもいいさ。大事なのは、のぞかれたくない女子が現実にいるってことだ。偽善だろうがなんだろうが、被害者の気持ちに応えるってことは人として間違いではないだろう。だから、俺はこの活動を続ける」
 キリン隊のあり方に関する重要な話し合いはまだまだ続くが、創設時からのメンバーでもある幹部の葉月ショウはこの場にいなかった。

 ショウは、レースのパンティーにいた。
 さすがはキリン隊幹部。まだ油断せずに、ハシゴの上から森の前の森を見張っていた。
 今日は赤月速人の穴を見逃してしまったり、大事なときにぼっとんをツンツンしてたり、全く集中力がなかった彼だが、それはずっと考えていることがあったからなのだ。
 きっと、キリン隊の未来について、マジメなことを考えていたのだろう。
 そして今、ショウはなにやらブツブツと呟き始めた……。
「キリン隊は、麒麟ではなくキリン。キリンは、首が長い。長いから、高いところからいろいろ見える。いろいろ? そう。いろいろ。いろいろ見えるから、のぞき部を発見できる。そうだ。でも、待てよ。物事には表と裏がある……」
 ショウは、体を横に回転するようにズラしていく。
「高いところからいろいろ見えるなら、何が見える? もしかして……そうだ! これが真理だッ!!! キリン隊は高いところから、女子の裸をのぞく組織なんだ!!!!!」
 そして、体を回転させ、女子風呂をのぞく――
 刹那!

 ガッターーーーーン!

 ハシゴが蹴飛ばされて、ショウは地面に叩きつけられた。
「あへええ。いってーーー」
「こういう人がいると思っていたんですよ」
 見抜いていたのは、ライ・アインロッドだ。
「キリン隊の幹部と聞いてましたけど、違うんですか」
「のぞきこそ、真のキリン隊なんだ……ううっ」
 間違っている。
「とにかく身柄を拘束してキリン隊に届けます。これからは、女性の裸を見たいのでしたら、恋愛するというか交際するというか、それなりの段階を踏んでからにしましょうね」
 ライはショウの手を取り、起き上がらせる。

 カクッ。

「ぐああああ!」
 ライの肩は脱臼癖がついていて、すぐ外れるのだった。
「へへ。ラッキー。悪いね」
 ショウはこの隙に逃げようするが、のぞき部側に回ると戦闘能力が軒並み下がってしまうということに気がついてなかった。
 ガン! ガン!
 ライが脱臼した肩をかばいながらアーミーショットガンを威嚇射撃しただけで、ショウは転んで頭を打ち、脳みそがトコロテンになった。
「んぱーんぱー。きっと、隊長も……どっかでのぞいてるぱー」

『葉月ショウ、戦死』


 脱衣所では、隊長の焔が、再び洗い場へ続く扉に手をかけていた。
 喧々囂々の話し合いはようやく終わったようだ。
 と、そのときだった。
「見事な刺青ですね!」
 優斗が感心して義純に声をかけた。
 痛恨!
 義純は、のぞき寸前のドキドキで暑くなり、思わず浴衣を脱いでしまったのだ。
 当然……ピタ。焔の手はまた止った。
 恭司が、義純の前にやってくる。
「君は、のぞき部の大草義純だな……ひっくしゅん。優斗。大変なお手柄だ。ひっくしょん」
「ええっ!」
 新人の優斗は驚いた。まだのぞき部全員を把握していなかったため、気づかなかったのだろう。
「へへ。まあ。キリン隊なら当然ですよ」
 そして恭司は、冷や汗が滝のように出ている義純に問いつめる。
「君が何故、今、ここにいる? 何を企んでいる?」
「い、いや、あの、その、えっと……」
 そのときだった。

「きゃあああああああああああ! ガートナ、たすけてーーーーーーーーー!!!!」

 酔っ払いだらけの女子風呂で、島村幸だけが唯一のぞきかけたショウの姿を見ていた。
 あまりの恐怖に声が出なかったが、澪が「ほらほら。今ですよぉ」とツンツンしてくれて、ようやく声が出た。
 憧れのヘルプコールが、出た!
 と同時に全女子が一斉にきゃあきゃあ叫びだし、ケンリュウガーが即座に事態を把握した。

「まずい! ここは女子風呂だッ!!!」

 男・義純は逃げずに……洗い場に向かった! くっそう! こうなったらもう、強引にでも……のぞくっきゃねえ!
 しかし……

「魔法少女エーコ!」

 素っ裸のため、少女でもエーコでもない城定英希がちんちんをぶらんぶらんさせながら、義純の尻にキック!!
 義純は一撃でダウン。
「く、熊が……熊がああああ!」
 とわけのわからないことを叫びながら、外に引きずり出された。
 キリン隊のみんなも、全員急いで外に出た。
 誰もいなくなった脱衣所には、熊の着ぐるみが置いてあった。
 もしかして、今、女湯にいる大勢の女子の中に、ゆる族が……???

「さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ、さあああああっっっっっちいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」

 男子風呂のガートナは、慌ててベルリンの壁をのぼって幸を助けに行く。
「うおおおおおおお!」
「ブボーッ!」
 シルバはその光景に思わず酒を吹いた。
 愛の力は偉大なのか、ツルツルで滑るはずの壁を、ガートナがどんどんのぼっていく。
 鹿次郎はトコロテンになりながら悔しがる。
「んぱー! の、のぼれるでござるかーーーーー!」
 ガシッ!
 ガートナはてっぺんに手をかけ、屋根との隙間から女子風呂に行こうと頭を出した、そのとき!

「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 全女子から風呂桶を投げられた。
 まさか壁から助けに来るとは思いもしなかった幸も投げていた。
 ボコボコボコボコッ。
 手が離れ、ツルツルツル……バシャーン。ガボゴボガボ……

『ガートナ・トライストル、戦死』


 結局、のぞき部の最後の希望は砕かれ、混浴城のミノムシが3体増えただけだった。
 義純、鹿次郎、そして元キリン隊のショウが新たに吊された。
「あ。みなさん、どうも。真のキリン隊、いや、のぞき部の新入部員です。よろしくー」
 のぞき部はショウの扱いについて話し合いを始めた。
「どうする? こいつ、のぞき部に入れる?」
「うーん。この前はボッコボコにされたからなー」
 ショウの頭の中は、のぞき部か、キリン隊か、世界は2つに1つしかない。キリン隊を追放された今、もうこっちで生きていくしかない、と必死だった。
「あ、あの。みなさん! いつまでも吊されて疲れたでしょう。俺に任せてください……ガッシュ! まだか?」
「お兄ちゃん。来たよー。このロープ?」
 川原には、ショウのパートナー、ガッシュ・エルフィードがやってきていた。ショウが危険が及ばないようにとずっと離れさせておいたのだ。
「そうだ! 全員分切ってくれ!」
「オッケー!」
 ガッシュはハンドガンを構えて、ガーン! ガーン! ガーン!
 ひゅーーードサッ。ズテッ。グチャッ。

 こうして、のぞき部はミノムシから解放され、ショウは正式にのぞき部として認められた。

「パシリから頑張ります! お願いします!」