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【2019修学旅行】京料理バイキング

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【2019修学旅行】京料理バイキング

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第三章 中庭でのお茶会


「わ、キレイ〜。見て見て、愛美」
 マリエル・デカトリース(まりえる・でかとりーす)はホテルの中庭を見て素直に感動の声をあげた。
 ホテルの中庭は回遊式日本庭園になっていて、湧水を利用した池庭も造られている立派なものだった。
 京都ならではの心づくしで、野点で抹茶が楽しめるようにと紅い野点傘の下にいくつかの茶席もしつらえてあった。
 ホテル側で食事を楽しめるようにと今回は開放してくれていたので、小谷 愛美(こたに・まなみ)はせっかくだから目の前でお菓子を作ってゲストにサービスしようと集まったメンバーに話した。
「ね、ここでお茶会ができたら素敵だと思わない?」
「愛美さん、それ最高」
 愛美の提案に朝野 未沙(あさの・みさ)は両手を挙げて賛成した。
「でしょ。ここならきっと運命の出会いも待ってそうな気がするの」
「うん、ある。絶対あると思う」
 未沙は愛美と手を取り合って喜んだ。
「マナはすぐ運命の人見つけちゃうからなぁ」
 いつものことながらマリエルは愛美の行動が不安だった。
「重いよ、未那お姉ちゃん」
「頑張って未羅ちゃん。もう少しですぅ」
 未沙のパートナーである朝野 未羅(あさの・みら)朝野 未那(あさの・みな)は早速テーブルなどを運び込んで準備にかかっていた。
「あたしも持つわね」
 未沙は未那と未羅に微笑みかけた。
「やっぱりお姉ちゃんは優しいの」
 甘える未羅の頭を未沙は優しく撫でた。
「もう未羅ちゃんはいつまでたっても甘えんぼですぅ」
 未那は未羅を軽くたしなめた。
 未沙はそんなかわいい二人の妹がいつも気になってしょうがなかった。
「これはどこに置いたらいいですか?」
 料理道具を運んできた菅野 葉月(すがの・はづき)は、ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)に確認した。
「えぇ、コンロはそこで。材料の丹波栗はむかなきゃいけませんからこっちに置いてください」
「わかりました。じゃ、これもここでいいですね」
「そうです、ありがとうございます」
 ウィングが葉月に的確な指示を出しているので、段取りはスムーズに運んでいた。
「やっぱりくわしい人がいると助かります」
「いえ、みなさんの協力があるからですよ」
 カフェでのバイトの経験からお菓子作りのリーダーを任されてウィングは驚いたが、みんなの協力で助かっていた。
「もう、ワタシがやったげる。葉月は休んでて」
 葉月のパートナーのミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)は、葉月が他の人と仲良くするのが気が気でないようだった。
「これくらい大丈夫ですよ」
「いいのいいの、ワタシに任せてよ」
 ミーナは葉月の背中を押しながら、キッとウィングを睨んだ。
 ウィングは困って苦笑いするしかなかった。
「……どうにもお邪魔みたいですね」
 ウィングは二人のお邪魔にならないようにと、下準備に入っている浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)のほうへ歩いていった。
「いかがですか、栗きんとんのほうは?」
「言われたとおりにやってますけど」
 いつものクセでやった発言に翡翠はまずかったなと気になり、フォローを入れた。
「でも、カフェでのバイトも役に立つ時があってよかったですね」
 翡翠は褒めたつもりがまた皮肉っぽくなってしまったことにハッと慌てた。
「あ、すいません。そのなんて言うんですか……」
 ウィングは悪気はないんだろうと思いつつも返答に困った。
「いいんですよ、そんなに気にしないで。キミに悪気はないのはわかりますから」
「栗、ここに置いておきます」
 風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)がざるに入った栗を翡翠の前に置いた。
「これだけだとすぐに茹であがってしまいますね」
 翡翠はまたもや口を滑らせてしまったと気づいた。
「あの、そういう意味で言ったわけではなくてですね」
「じゃ、すぐに持ってきますね」
 優斗は少しも悪く取ることもなく、持ち場に戻っていった。
「わ、わ、この子たちって滑りますわ」
 パートナーであるテレサ・ツリーベル(てれさ・つりーべる)ミア・ティンクル(みあ・てぃんくる)は栗の皮に傷をつける作業をしていたが苦戦していた。
「丹波栗は小さいから軍手するんですよ」
「わかってるって、僕はちゃんとつけてるもん。わ、滑る」
「あ、あぶないですわ」
 慣れない作業ではあったが、優斗たちは童心に返った様子で楽しそうだ。
「注文が入ってますからね、がんばりましょう」
「うん、僕やるよ」
「ミアちゃん、慌てないで。ゆっくりでいいんですよ」
「だいじょうぶ、できるもん」
 心配するテレサをよそに、ミアは危なっかしい手つきで栗と格闘していた。
「じゃ、翡翠さん。茹でていきましょうか?」
 ウィングの指示に浅葱は頷くと、栗を入れた鍋に水を張って火にかけた。
「こんな感じですか?」
「えぇ、バッチリです。次は砂糖を入れていきましょうか」
「はい」
 ウィングの親切な教え方に、翡翠も少しずつ打ち解けつつあった。
「人がいい方ばかりですね」
「キミもね」
 ウィングの言葉に照れた翡翠。
 本当にいい人たちだと翡翠は思ったが、どうにも表現することは苦手だった。



「えー、いいなぁ」
 愛美は葉月たちの体験を聞いて思わず叫んでしまった。
 ゆで栗を待つ間、時間のできた愛美たちの間ではすっかりガールズトークが盛り上がっていた。
「昨夜のお土産買ってるときにですか? 葉月さんてモテるんだ」
 愛美の言葉に反応したミーナが葉月を睨んだ。
「そんなんじゃありませんて。あれはどれがいいかって聞かれただけで」
「葉月、ワタシが見てない間に」
「だからそれは君の誤解なんですって」
「葉月、ワタシというものがありながら」
「落ち着いてください、ミーナ」
 嫉妬にかられたミーナは葉月に襲い掛かった。
「いいなぁ葉月さんとミーナさんは仲良くって……」
 落ち込む未沙を愛美たちは心配した。
「だから違いますって」
「葉月さん、かっこいいからな」
 愛美の不用意な発言はミーナの嫉妬に火を注いだだけだった。
「あたし、実はこの間好きな人に失恋しちゃって……」
「わかるよ、その気持ち」
 つらそうな未沙を愛美はそっとハグした。
「想いってなかなか伝わらないものなんですぅ」
 未那はなかなかうまくいかない未沙の恋愛が心配だった。
「大丈夫、もっといい出会いがあるよ」
 マリエルの言葉に、愛美も強く頷いた。
「私もきっと運命の人に出会えるって信じてるの。だから、未沙さんもね」
「……ありがとう」
 料理そっちのけで盛り上がる愛美、未沙、葉月たち。
「ちょっと夢見すぎだな。俺が恋愛のことを教えてやるか」
 茶席のお客としてやってきた永夷 零(ながい・ぜろ)は愛美たちの話を偶然聞いて、パートナーのルナ・テュリン(るな・てゅりん)につぶやいた。
「また厄介ごとに首をつっこんむでございますね」
「どうせミイラ取りがミイラになるのであろうな」
 真里谷 円紫郎(まりや・えんしろう)はどうにも不安でならなかった。
「おもしれぇ、なるかならないかそこで見てな」
 立ち上がった零は愛美に近づいて声をかけた。
「小谷だろ? ちょっと話があんだけど」
「私ですか?」
 お客さんだと思って応対した愛美だが、未沙たちの思わぬ盛り上げに顔を赤くしてしまった。
「キャー、呼び出しだって」
「これがマリエルさんが言ってた運命の出会ですね」
「ほら、ミーナ。あっちが何か盛り上がってますよ」
「え、どこどこ?」
 思いがけない展開に葉月はようやく救われた。
「マナ……また運命の人、見つけちゃったのぉ?」
 マリエルは呆れたように呟いた。
「いや、なんか勘違いがあるみたいだけど。そういうことじゃなくて、俺はだな」
 予想外の周囲の盛り上がりに困る零。
「あの、お話って……」
 しかも、愛美の目には期待感がありありと浮かび始めていた。
「いや、小谷。待て待て」
 零はルナと円紫郎に助けを求めるが、二人はあくまで傍観者を通していた。
「おい、なんとかしてくれ」
「予想通りの展開でございますね」
 ルナののんきな解説に、円紫郎はやはりなとため息をもらした。
「助けたほうがいいんでございますか?」
「零が自分でまいた種だ。なんとかするであろう」
 ルナもそれはそうかと納得した。
「だから、その運命とかってのはだな」
 零は今までに感じたことのない冷たい汗が背中に流れるのを感じていた。
「えーっと……」
 完成したできたての栗茶巾を運んできた優斗だが、料理そっちのけのみんなに声をかける暇がなかった。
 さすがに甘い栗茶巾でも、この運命じゃない恋を成就させることはかなり難しかった。



 夕方になって薄闇が辺りを覆い始めると、中庭は照明でライトアップされて雰囲気も変化した。
 すでに準備が終わった生徒さんたちなどが繰り出しきていてて、あちこちでグループを形成していた。
 作ったバイキング料理はお弁当にしてわけてもらうことも出来たので、イルミンスール魔法学校から遊びに来た高月 芳樹(たかつき・よしき)アメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)も茶席の一角にお邪魔していた。
「これ、なんて魚だろ?」
「たしかグジって言ってましたわ」
 【グジの酒蒸し】に箸をつけた芳樹はその上品な味わいを口中で楽しんだ。
「おいしい、口の中で広がる感じだ」
「本当、繊細だけど豊かな味だわ」
 お弁当の中には他にも【かぶら蒸し】や【湯葉の白菜包み】など眼にも楽しい料理が並んでいた。
「すごいな、これって全部生徒で作ったんだろ」
「帰りにレシピを教えてもらえば、家でもつくれるかも」
「あ、それいいな」
「京都旅行のお土産ね」
 思いもかけないおいしさで芳樹とアメリアは幸せな気分を満喫できた。
 笑顔は不思議にも周りへ波及するもので、芳樹は近くの席にいた葉山 龍壱(はやま・りゅういち)空菜 雪(そらな・ゆき)に視線が合うと思わず笑顔で会釈した。
「どうも」
 普段、口数が少なく無愛想に見られがちな龍壱も芳樹に会釈を返した。
「雨じゃなくてよかった。せっかくの紅葉がだいなしだぜ」
「まったくだ」
 芳樹と龍壱は初対面だが言葉が自然に交わせた。
「本当に京都にきてよかった」
「えぇ、そう思います」
 アメリアと雪も笑顔を交わした。
 こんな一期一会の出会いも京都ならではだ。
「ご主人様、冷えるので少しだけ暖めておきました」
 雪は【揚げたレンコン餅の椀物】を龍壱に手渡した。
「ありがとう、雪」
 龍壱は口をつけてすぐに雪の心遣いを理解した。熱いものが苦手な彼にちょうどいい温度にしてあったのだ。
「甘〜い。これが日本の味かぁ!」
 高 漸麗(がお・じえんり)の大きな声に、芳樹や龍壱もそんな叫ぶほど甘い料理があったかと思わず振り向いた。
「そんな料理あった?」
「さぁ……」
 甘いと言われて天 黒龍(てぃえん・へいろん)も【はもまぶし】に箸をつけてみたが、ご飯はオレンジジュースの味がして明らかに異質だった。
「これは絶対に失敗作であろうな。鱧と全くあってない」 
 つきあって参加したものの黒龍も京料理は初体験で、味はよく知っていなかった。
「でも、おいしいけど」
 モリモリ食べる漸麗。
 黒龍はそんなはずはないのだがと首をひねった。
「よかったらいかがですか?」
 優斗が【栗茶巾】と抹茶がのったお盆を黒龍に差し出した。
「これは? 頼んだ覚えはないのだが」
「茶席に来た人へのサービスなんです。栗きんとんを固めて焼き色をつけてます」
 優斗が手で示した先では、テレサやミアも芳樹や龍壱の席へお茶菓子を運んでいた。
「では、いただこうか」
 黒龍は受けとった栗茶巾を漸麗にも手渡した。
「わーい、いっただきまーす」
 漸麗は一口で栗茶巾を食べると、たちまち至福の笑顔になった。
「おいしー! これが京料理なんだね」
 思わぬサプライズに気をよくした漸麗は古代の楽器・筑で曲を奏で始めた。
「いい曲だな」
「えぇ」
 芳樹とアメリアの言葉に、黒龍は頭を下げて感謝を示した。
「ステキなプレゼントですね、ご主人様」
「あぁ」
 龍壱と雪も筑の調べに心を奪われていた。
「余興にしては悪くないわ」
 予告もなくフラリと登場した環菜に一同は驚いた。
「わー、これが京料理ですか。ボク、食べたことないんです」
 環菜に付き添って現れたヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)は早くも興奮気味だった。
「カンナ校長先生、食べてもいいですか?」
「好きにしなさい」
「いただきまーす」
 栗茶巾に手を伸ばしたヴァーナーは至福の時を味わった。
「これ、誰が作ったんですか?」
 ヴァーナーは初めて食べた京菓子にすっかり感動していた。
「ここ、座るわよ」
 環菜は予定ではバイキング会場で挨拶しているはずだったのだが、少し不機嫌そうでピリピリしているため誰も聞けそうになかった。