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【2019修学旅行】京料理バイキング

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【2019修学旅行】京料理バイキング

リアクション

「どのチームともいい感じで進んでますね、料理長」
 レポートを担当するらいむも段々と調子が出てきていた。
「そうですね、料理に慣れている人も初めての人もいますが。お互いに助けあってうまくやってますね」
 当初は心配もあった料理長だが、生徒たちの様子を見るにつけ現在の進行に満足していた。
「じゃ、隣の調理室のほうにもいってみましょう!」
 らいむはそう言って、隣の調理室へ続くドアを開けた。
「あ、良い匂いがしてますね。ここは何の料理を作ってるんですか?」
「えっとこれ何だっけ、アイナ?」
 風祭 隼人(かざまつり・はやと)はレンコンの皮をむきながら隣にいるパートナーのアイナ・クラリアス(あいな・くらりあす)に尋ねた。
「お餅だよね? ソルラン」
「僕に聞くんですか……うん、確かレンコン餅です」
 ソルラン・エースロード(そるらん・えーすろーど)が手元にあるレシピを見ながら答えた。
「え、レンコンって餅になるのか?」
「さぁ、なるんじゃない?」
 隼人とアイナはまたもやソルランに答えを求めた。
「このレシピを見る限り、そのように書いてますが」
 料理にくわしくないソルランは困って料理長に助けを求めた。
「レンコン餅はそのままでも食べれますが、京はそれをアレンジして【揚げレンコン餅の椀物】に仕上げてもらいます」
 料理長の解説に隼人は思わず納得した。
「なるほどひと手間加えるってわけだ」
「隼人、分からずに作ってたの?」
「お前はもっと分かってなかっただろ」
「隼人さんもアイナさんも手を止めてないで。レンコンをむき終わったら今度はすりおろしますよ」
 ソルランは隼人とアイナにおろし金を手渡した。
「手をするなよ、アイナ」
「そんなドジじゃないよー」
 テキパキと作業に励む隼人たちに感心しているのは原田 左之助(はらだ・さのすけ)だ。
「なるほどレンコン餅ってのはこうやって作るんだな」
「左之助兄さん、任せておいて。京子ちゃんと協力してバッチリ再現するから」
「そうよ、左之にぃ」
 左之助のパートナー椎名 真(しいな・まこと)双葉 京子(ふたば・きょうこ)は今日のイベントに思い入れがあった。
 昔、左之助が食べたレンコン餅の味を再現しようというのだ。
「そんな無理すんなって。もう気持だけで」
 そうは口で言ったものの、左之助は内心嬉しかった。
「料理長さん、味付けで相談したいんですけど」
 真は揚げたばかりのレンコン餅を持って料理長に相談を始めた。
「なるほど思い出の味を再現したいんですね」
「そうなんです、お願いします」
 京子も加わって、あぁでもないこうでもないと盛り上がっている。
「どうもこれだと足りないものがあるみたいで」
 真は料理長にレンコン餅を試食してもらった。
「あぁ、なるほど。もうすこし粘り気があったほうがいいかもしれません」
「粘り気か、気づかなかったな」
「真くん、何の材料がいる?」
 真も京子もヒントをもらって俄然とやる気が増した。
「おい、お前達……そんないっぱい作ってもなぁ」
 味見を任された左之助だが、すでに何個も試食を重ねてお腹はすっかり膨れ上がっていた。
「心配いらないぜ、どんどん作るから」
 ヤジロ アイリ(やじろ・あいり)は左之助を肩をポンと叩いた。
「こりゃもう喰うしかないな!」
「そうそう、その調子だぜ」
「その手つきじゃドンドンには程遠いですけどね」
 アイリのパートナーネイジャス・ジャスティー(ねいじゃす・じゃすてぃー)はさらりと皮肉を言ってのけた。
「あぁ、ネギの切り方はそうじゃないでしょう……まったくヤジロと来たら」
 ネイジャスは言うだけあって料理の実力もきちんとしていた。
「こういう風に切れませんか?」
 鮮やかな包丁使いでアイリに切り方の見本を指南する。
「く〜俺だって」
 対抗するアイリだが実力の差は歴然だった。
「あぁ、そんな調子じゃいつまでやっても」
「ソルラン、見ろ見ろ。すげー薄いぞ」
「すごいです、ネイジャスさん」
 勝ち誇るネイジャスだが、気がつけば周りには隼人、アイナ、ソルランといったにわか弟子入り志望が増えていた。
「いや、私は別にみんなに教えるほど」
 ネイジャスは場の雰囲気に流されまいと抵抗したが無駄だった。
「よろしくお願いしまーす」
 アイナの一言でネイジャスはすっかり押し切られてしまった。
「いい先生がいてよかったな」
「ほんと、ほんと」
「助かりました、これでようやく解放されます」
 有無を言わせない隼人たちの押しにネイジャスはすっかり参っていた。
「ですから、私は教えるなんて」
「へー、珍しいもんだ」
「ヤジロ、見てるだけじゃなくて。この人たちに何とか言ってください」
 珍しくネイジャスも困ることがあるんだと、アイリは意外な一面を見た気がした。
 一致団結したチームワークで山のように生産されるレンコン餅。
「さーて、喰うかぁ」
 左之助は喜びのため息をつくしかなかった。


 大きな包丁を使って鱧の骨切りに挑戦しているのは瀬島 壮太(せじま・そうた)とパートナーのミミ・マリー(みみ・まりー)だ。
「お前、頼むからちゃんと抑えてろ」
「でも、壮太。これ大きくて」
 二人とも料理長のお手本は見ていたものの、やるのと見るのとでは実際大違いだと感じていた。
「こんな感じだったよな?」
「僕がやってみるよ」
 包丁を受取ったミミだが、出来上がっていくのは【はもまぶし】にはとても使えなさそうな鱧の千切りだった。
「それ、なんかちがってねーか」
 壮太は千切りにされた鱧を指で摘んだ。
「こ、こんな感じだったもん」
「ま、鱧は鱧だよな」
 壮太はおかしさを感じつつも、強引に自分を納得させようとしていた。
「炭火が起きましたよ」
 大草 義純(おおくさ・よしずみ)は様子を見に来て驚いた。 
「せ、千切り?」
「わ、わりい。すぐやり直すから」
 壮太とミミは再び鱧の骨切りにかかるがどうも手つきがおぼつかなかった。
「あ、飛んだ!」
「鱧、消えちゃったぁ」
「……が、がんばってください」
 当分進みそうにないと判断した義純は、会場で出すサプライズ料理の準備に取り掛かった。
「この生麩をみんなに食べて欲しいんですよね」
 京都ではよく使われる生麩を田楽にして出そうというアイデアだった。
「これは粟麩と蓬麩ですね」
 あちこちのテーブルを巡回していた料理長が義純の用意した生麩を手に取った。
「はい、以前に食べた田楽がおいしかったものですから」
「見て見て、エマ。宝石みたいよ。もう、ここでも本なの?」
 アリス・ハーバート(ありす・はーばーと)は生麩のカラフルな彩りに感動していたが、パートナーのエマ・アーミテージ(えま・あーみてーじ)はそうでもないらしい。
「私、料理はあんまり得意じゃないんです」
 エマは苦手なことを言われる前に器の準備に取り掛かった。
「もうエマったら」
 口を尖らせるアリスに、気を使った義純は違う話題をふった。
「このカボチャ麩なんかはカボチャが練りこんであるんですよ」
「へー、そうやって色をつけているのね」
 エマはカボチャ麩を手にとって見つめてみた。
「いいものに目をつけましたね。生麩は京料理には欠かせない素材で、お吸い物などにすごくあうんです」
 料理長の説明に義純は嬉しそうに納得した。
「壮太、プニプニするよ〜」
「すげー、やわらけーぞ」
 普段触ることのない生麩に壮太やミミも興味津々だった。
「京料理って奥が深いなぁ」
 すっかり生麩に夢中のアリスだが、肝心のご飯の準備をすっかり炊き忘れていた。
「うーん、困りました。ここからどうすれば……」
 エマは仕方なくお釜にお米を入れてみたものの、料理自体が得意ではないのでよくわからなかった。
「あ、僕わかる」
 ミミがそう言って出してきたものはオレンジジュースだった。
「あ……それは」
「こうやって入れて炊けばいいんだよっ」
 エマはなみなみと注がれるジュースを見てすごく違和感を感じたが、大きな問題はないだろうとほうっておいた。
「おいしいご飯になーれ」
「……無事であればそれでいいです」
 エマは独り言のように呟いた。
「さぁ、もう時間もありませんよ。続きをお願いします」
 料理長の言葉で、アリスや壮太は【はもまぶし】の準備へともどった。
「エマ、たれを作るから手伝って」
「私がですか?」
「手があいてるでしょ」
 呼ばれたエマは仕方なくアリスのサポートに入った。
「ご飯はもっと炊いたほうがいいですね」
 義純はボウルに米を入れて研ぎだした。
 全員が協力して急ピッチで間に合わせようと急ぐのだが、甘いご飯が炊き上がるというハプニングにはまだ気がついていなかった。



「おっと、ここかぶら蒸しのブースでは男同士の激しい料理バトルが〜」
 ノリノリのらいむからマイクを向けられ、佐々木 真彦(ささき・まさひこ)は思わず閉口した。
「いや、私たちは別にバトルなんて」
 真彦は一緒になって料理をすすめていたミレイユのパートナーシェイド・クレイン(しぇいど・くれいん)に助け舟を求めた。
「えぇ、そうですよ」
「えー、盛り上がらない……いまからでもそうしましょうよ」
「そんな、盛り上がらないって言われても」
 真彦は強引に進めようとするらいむにどうにも困ってしまった。
「男と男の熱い戦いをみんな望んでるんです」
「でも、今日はみんなに振舞うバイキングを作るのが目的ですし」
 シェイドの正論にもらいむはめげなかった。
「ですから、イベントを盛り上げましょう!」
「よくわからないけど、二人とも勝負だね」
 ミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)はこの突発的なイベントにマジボケしていた。
「真彦、やっちゃえ」
 真彦のパートナー関口 文乃(せきぐち・ふみの)は軽いノリだ。
「うちのシェイドは負けないわよ」
「真彦だってやるんだから」
 ミレイユと文乃はパートナーに負けて欲しくなくてすっかり乗り気だ。
「シェイド、勝つよね?」
「そうよ、勝負勝負」
 止めに入らない周囲に流され、真彦とシェイドは本当に料理バトルをさせられることになった。
「参りましたね」
 言いながらも真彦はシェイドの腕を隣で見ていただけに少し楽しみでもあった。
「しかたありません、やりますか……」
「あなたとは戦いたくなかったですがこれも運命でしょう。お手柔らかにお願いします」
 それぞれのパートナーに手伝ってもらいながら、真彦とシェイドはかぶらの皮むきから始めた。
「ほうほう、これは二人ともなかなか」
 慣れた手つきで均一の厚さの皮を切れることなくむいていく二人に、料理長も思わず感嘆の声を上げた。
「聖護院かぶらというのはこれであろう」
 材料探しに行っていたデューイ・ホプキンス(でゅーい・ほぷきんす)は言いながら、聖護院かぶらをシェイドに見せた。
「ありがとう、デューイ。これでおいしいかぶら蒸しが作れそうです」
「まだまだ、たんまりもって来たぜ」
 マーク・ヴァーリイ(まーく・う゛ぁーりい)は両腕に抱えた聖護院かぶらをテーブルに置いた。
「ふむ、シェイドが料理勝負か。それも一興であろう」
「男はバトルだぜ。真彦、負けんなよ」
 デューイとマークはそれぞれのパートナーに声援をかけた。
 特選素材が揃い、料理にもますます熱が入った真彦とシェイドは手際よくエビ、鱈などの材料が適度な大きさに切っていきトレーの上に並べていった。
「やりますね」
「そちらこそ」
 真彦とシェイドの実力はほぼ互角といえた。
「腹減ったぞ、まだか?」
「ちょっとくらいなら大丈夫だよ」
 我慢できないミレイユとマークは湯通ししただけの鱈やエビをつまんで口に入れた。
「う、薄いな……これが京料理ってやつか……」
「うん……」
「ワタシも食べたい。あ、本当だ。薄いかも」
 つまみ食いに参戦した文乃も渋い顔をした。
「君たち、つまみ食いはよしたまえ」
 料理バトルを肴にしながら材料を遠慮なくパクパクと食べる三人をデューイは思わず諌めた。
「だってよ、待ってるだけじゃ腹が減って」
「そうそう、我慢はよくない」
「塩なかった?」
 ミレイユ、マーク、文乃はまったく悪びれずにつまみ食いをやめなかった。
「よしたまえ。あぁ、せっかくの特選素材が」
 デューイの嘆きも三人には馬の耳に念仏状態だった。
「お醤油あうね」
「お、いけるぞ」
「マヨネーズは?」
 調子に乗った三人はどんどん材料を平らげていった。
「できた!」
 真彦とシェイドの声はほぼ同時だった。
 蒸し器からせいろを取り出し、かぶせてあった布巾を取ると見事な【かぶら蒸し】が完成していた。どちらのかぶら蒸しも甲乙つけがたい出来であった。
「では、試食をさせていただきましょう……これは、うん。まいったなぁ、もう二人には教えることがありませんよ」
 料理長の脱帽発言に、真彦とシェイドは握手を交わした。
「いい勉強になりました」
「こちらこそ、ありがとうございます。じゃ、次は本番に……」
 振り返った真彦とシェイドは驚いた。
「あれ……」
「違うの、シェイド。味見してたらつい」
「そうよ、真彦。わざとじゃ」
 ミレイユや文乃たちはすっかり材料を食べてしまっていたのだ。
「あなたたちという人は……」
 真彦はあきれて言葉も出なかった。
「まったく……」
 シェイドも冷たい視線でミレイユを見た。
「め、面目ない」
 監督不行き届きの責任を感じてデューイが白ウサギの着ぐるみの頭を下げた。
 素顔は見えないはずなのに、なぜかその姿には男の哀愁が漂っていた。