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闇世界の廃校舎(第2回/全3回)

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第8章 第3生存者ジューレ・ジャック

-PM23:00-

「2階と比べて上の階はさすがに暗いな・・・」
 紫煙 葛葉(しえん・くずは)から渡された光条兵器の光が暗闇を照らし、冷たく空気の重い空間を歩く天 黒龍(てぃえん・へいろん)たちにはその明かりが少し暖かいように感じた。
「―・・・こうしている・・・間にも・・・・・・この中の・・・誰かが・・・悪霊に・・・・・・とり憑かれている・・・・・・かもな」
 ボソッと小声で葛葉が不吉なことを言う。
「うわぁ・・・何か、すごく嫌な場所だねここ。たしかに誰かいきなり憑かれちゃっても不思議じゃないかもね」
 重苦しい空気に高 漸麗(がお・じえんり)は眉を潜める。
「もしそうなった人がいたら、とりあえず縄で簀巻きだな」
 鈴倉 虚雲(すずくら・きょん)は笑いながら軽い冗談を吐く。
「ねぇ・・・何か聞こえない?」
「―・・・だんだんこっちに近づいてきているな・・・・・・」
 ミシリッミシリッと床を踏みしめる足音が、黒龍たちの方へ近づいてきた。
「ひょっとして・・・・・・例のチェーンソーを持ったゴーストだったり?」
「あうぅわわ・・・・・・う・・・うっ・・・・・・」
「う・・・・・・?」
 顔を青ざめさせて虚雲が指差す方を振り返ると、漸麗のすぐ後ろに凶器を持ったゴーストがいた。
 校舎内が暗すぎるせいで、近くまで来ていたことに気づかなかったのだ。
 ギュィイイイーンッと騒音を立てて、チェーンソーで漸麗へ目掛けて横薙ぎに振る。
 虚雲と漸麗はとっさに床に伏せてかわしたが、避けるのが少しでも遅かったら胴体を真っ二つにされてしまうところだった。
「うかつに飛び込んだら真っ二つだな・・・・・・」
「―・・・・・・どうする?」
「逃げても追ってくるだろう・・・・・・。ならば・・・ここで倒すしかない」
 円月刀のような広刃の形状をした光条兵器の黒い柄を握り、黒龍は体制を低くし床をダンッと蹴ってゴーストの懐へ飛び込む。
 標的の脇腹を斬り裂き、振り返り様にゴーストの背を右袈裟斬りに光条兵器を振り下ろす。
 ドンッと大きな音を立てて、真っ二つに斬り裂かれたゴーストの身体が床へ転がり落ちる。
 その状態になっても動こうとする化け物の上半身を、壁際へ蹴り飛ばしさらに4分割にした。
 さらに漸麗がランスの柄でゴーストを殴りつける。 
 ブシュァアアッと赤黒い血と臓物が飛び散り、避けられなかった虚雲は千切れた大腸や肺を頭から被ってしまう。 
「くそ・・・少し傷を負ってしまったようだ・・・・・・」
 飛び込んだ時にゴーストのチェーンソーによって右腕に傷を負ってしまい、葛葉がヒールをかけて治してやる。
「ひっぐ・・・ぎゃぁあああ゛あ゛あ゛!!」
 臓物で塗れた服を全て脱ぎ捨て、何も身に着けていない状態となった虚雲は、叫びながら廊下を走っていった。
「ほとばしるパトスで〜ゴーストを更に吸い寄せる〜♪ロード・クィーン・ジャックはどーこーマイロード!!」
 虚雲は歌いながら校舎中の廊下を駆け回る。



「ルフナ、ラビアン、ジューレー?・・・・・・誰かおらぬかえー」
 セシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)は先に体育館へ入り、小さな声で呼びかける。
「(面白い所っていうから来てみたら・・・何よここ!?)」
 身を縮めて怯えながらミリィ・ラインド(みりぃ・らいんど)は彼女の後をついていく。
「お、おねーちゃんこういうの苦手じゃなかったっけ・・・・・・?」
「んー・・・まあ今回は相手もわかっているからのう。ゴーストだって気をしっかり持ってれば憑かれる事はない。大丈夫じゃ大丈夫」
「だだ大丈夫ってねえ・・・。大体何で私を連れてきたのよ、他にもパートナーいるでしょ!」
「しょうがないじゃろう。2人は何やら用があるようだし、かと言って1人で来るのも心許なかったし。それにあまり騒ぐ方がかえってゴーストを呼び寄せてしまうかもしれぬ」
「いるなら返事して、早く出てきてくれないと帰れないのっ」
「もうとっくに17時すぎてますよ?」
 捜索の途中で一緒に行動することになった六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)が、傍からミリィにさらりと言う。
「うう・・・17時過ぎているなんて・・・・・・もうやだ・・・・・・。さっき変な歌も聞こえたきたし・・・」
 虚雲の歌声をゴーストの仕業と思い込んだミリィは、銀の瞳に涙を浮かべてその場に足を止めてしまった。
「結構広いんだな・・・・・・」
 8メートルほど高さのある天井を見上げ、ウェイル・アクレイン(うぇいる・あくれいん)は周囲を見回す。
「倉庫内とかに隠れているかもしれないわね」
 フェリシア・レイフェリネ(ふぇりしあ・れいふぇりね)はそう言うと、体育館の奥へ向かう。
「ゴーストに遭遇する前に、なんとか見つけたいわよね」
 ゆっくりと歩きながら小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は辺りを警戒する。
「とり憑かれたらイヤですね・・・。きゃぁあっ!」
 足元を走る何かに驚き、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が悲鳴を上げる。
「どうしたの!?」
「あぁあ足元に何か・・・・・・」
「―・・・・・・ただのネズミよ」
「えっ?・・・・・・何だ・・・よかった。てっきりゴーストが現れたかと思ってしまいました」
「何か出ましたか!?」
 一緒に行方不明者を捜索していたアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)がベアトリーチェの悲鳴に駆け寄ってきた。
「ただのネズミだったわ」
 心配そうな顔をするアリアに、美羽は肩をすくめて騒動の原因の小さな生き物へ視線を移す。
「向こうの方に絵がありますよ」
 優希が生徒たちを呼び寄せる。
「この町の背景を描いたようだな・・・」
「まだ下書きみたいだけど上手いわね」
 ウェイルとフェリシアがキャンバスを覗き込み、関心したように言う。
 キャンバスは背景用の5号サイズ348×242で、木製のイーゼルに立てかけられている。
「こっちに倉庫があるわよ。錆ているせいでなかなか開かないわね・・・」
「あぁ分かった、手伝おう」
 引き戸に手をかけ、美羽とウェイルは力いっぱい引いた。
 ギギギッと鈍い金属音を響かせて扉を開けた。
「中に行方不明になった方が隠れているのかしら?」
「そうだといいな・・・・・・」
 美羽とウェイルが先に中へ入っていく。
「(ゴーストが中にいたらイヤだな・・・・・・)」
「(中に化け物がいませんように、いませんように!)」
 ベアトリーチェは祈りながら、彼らの後に続けて体育館の倉庫の中へ入っていった。



 ウェイルたちは息を潜めて注意深く倉庫の中へ入ると、どこかにゴーストが潜んでいないか確認する。
「ゴーストはいないようだ・・・・・・」
「それじゃあ手分けして探しましょうか」
 アリアは埃を被った積み重なっているマットの近くにいないか探してみる。
「こんな所にはいませんよね」
 今にも崩れ落ちそうな天井棚を優希が見上げて言う。
「体育館といえば放送室がありますよね。ちょっと見てきます」
 そう言うと優希は倉庫から出て、壇上によじのぼって階段を駆け上がり放送室へ向かった。
「幽霊さん・・・いないようですね・・・・・・」
 ゴーストが潜んでいないことを確認し、行方不明者が隠れていないか室内をキョロキョロと見回す。
「いないですね・・・皆さんの所へ戻りましょう」
 放送室を出て壇上から下り、倉庫の方へ駆けていく。
「見つかりましたか?」
「それがまだ見つからないのじゃ・・・。ん・・・・・・跳び箱の近くに誰かいるようじゃ!」
 跳び箱に寄りかかる人影を見つけ、セシリアが駆け寄っていく。
「無事かえ?」
 床に座り込み跳び箱に寄りかかっている男子生徒を見つけて声をかけるが、彼からは返事が返ってこない。
「寝ているのかえ・・・?」
 顔を俯かせている生存者の手に、セシリアはそっと触れてみる。
「し・・・死んでる・・・・・・!?」
 あまりの冷たさにぱっと手を放し、思わず声を上げた。
「手遅れ・・・だったんでしょうか・・・」
 助けられなかったと思い悔しそうな顔をしたアリアは、緑色の瞳に涙を浮かべる。
「そんな・・・・・・せっかく見つけたのに」
「うるさいな・・・」
 生徒たちが落胆していると、死んだと思っていた生徒が床から立ち上がった。
 ウェイルと同じくらいの背丈で華奢な体型、闇色の短髪の赤い瞳の色をした、一見少女のように見える整った顔立ちだった。
「生きているようだな。俺たちはおまえたちを救出しようと探しにきたんだ」
「―・・・そうだったんですか」
「体育館にあった絵はあなたの?」
「えぇ、そうですよ」
 フェリシアの問いかけに生徒はこくりと頷いた。
「3人一緒じゃなかったんですね。えーっと・・・あなたの名前は?」
「―・・・ジューレ・ジャックです。他の人たちは何か用があるみたいだったんで、ここで待っていたんですよ」
「そうだったんですか・・・。それじゃあ絵と道具を持って、美術室へ行きましょう」
 倉庫を出るとアリアはキャンバスとイーゼルをジューレに渡してやった。
 体育館を出ようとすると、もの凄い勢いで何者の足音が近づいてくる。
 生徒たちが警戒して身構えていたら、虚雲が体育館内へ駆け込んできた。
 虚雲の後を追ってやってきた葛葉は自分のマントを彼に巻きつけ、女子が多く集まっている空間で視覚被害者を出す大惨事を間一髪防ぐ。
「おまえが生存者か?助けにきたぞ」
 助けに来たと言う虚雲だったが、他の生徒から見たらまったくそんな感じゼロだった。
 体育館を出ると葛葉と漸麗が待機していた。
「(―・・・女子生徒があんなに!?鈴倉・・・・・・)」
「見つかったんだね。それじゃあ美術室に行こうか」
 漸麗たちは生存者と一緒に美術室へ向かった。