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引き裂かれる絆

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引き裂かれる絆

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第4章 それぞれの役割

「ふむ、まさか家一軒、丸ごとハチの巣になっているとは思いませんでしたね」
 シーナから情報を聞いたザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)は、一足先に巣までやってきていた。
 目的は、巣に向かう人たちの露払いである。
「ハチなら温度を下げれば動きも鈍るはず……なのですが、塀や壁もありますし、難しいかもしれませんね」
 ハチの巣と化した屋敷は、周りにある家よりもひと回り大きな建物だった。
 塀の陰に身を潜めて、ザカコは巣に近付いていく。
 さすがに巣に近いだけあって、ハチの数は目に見えて増えていた。
 割れた窓や開けっ放しの玄関からは、ひっきりなしにハチが出入りしている。
「とりあえず、やれるだけやってみましょう」
 敷地へと入ったザカコが、氷術によって付近にあるものを手当たり次第に凍らせていく。


「と、突撃です――!」
 小型飛空艇にまたがり、軍用ヘルメットをかぶった影野 陽太(かげの・ようた)が屋敷の正面から無謀とも言える突撃を仕掛けた。
 敵に気付いた何匹かが陽太の体を刺していくが、陽太はスピードを緩めない。
 そのまま一気に、門から玄関までを駆け抜ける。
「――!」
 陽太が声にならない悲鳴をあげた。
 衝撃が陽太の体を揺さぶる。
 小型飛空艇の体当たりによって、半開き状態だった玄関の扉が完全に吹き飛んでいく。
「はあ、はあ、はあ……」
 屋敷の壁に激突する寸前で、どうにか陽太は小型飛空艇を止めることに成功する。
 だが、陽太が危険な場所に突っ込んだことに変わりはない。
 強引な停止によって尻もちをついた陽太を、敵意を剥き出しにしたハチの大群が見下ろしていた。
 このまま逃げ出してしまいたい衝動に駆られる陽太だったが、
「この作戦が成功したら環菜会長はボクを認めてくれるでしょう認めてくれますきっと認めてくれるはずです!」
 ぶつぶつと呟いた言葉が、彼の心に勇気の火を灯す。
「うわあああ――!!!」
 設置した機関銃を、陽太は叫びと共にぶっ放した。
 狙いもつけずにメチャクチャに撃ち出される銃弾の嵐。
 破砕された家具やハチの体によって、周囲に粉塵が舞った。
 文字通り蜂の巣をつついた騒ぎになった屋敷の中で、
「こ、こっちです! 付いてきなさい!」
 震える声で挑発した陽太に、粉塵を突っ切ったハチたちが襲いかかった。
 小型飛空艇に飛び乗った陽太が、大量のハチを引き連れて死地からの脱出を図る。
 

「陽太が派手にやったようですわね」
 凄まじい勢いで黒い影を吐き出す屋敷を見ながら、エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)が言った。
「では、私たちは巣に潜入しますわ」
「ええ、囮はお任せください。人々の役に立ってこそのシャンバラ教導団ですから」
 突入組に合流するエリシアに、守屋 輝寛(もりや・てるひろ)が応じる。
 彼の軍用バイクのサイドカーには、燻蒸式の殺虫剤が大量に積んであった。
「蜂というのは比較的薬剤に弱いとか……試してみますか」
「どうぞ、於鶴さん。そちらの側車に乗ってください」
「ふむ、ナディア殿世話になる」
 輝寛に並び、ナディア・ウルフ(なでぃあ・うるふ)大祝 鶴姫(おおほうり・つるひめ)が軍用バイクに乗り込んだ。
「では、行きますよナディア、鶴姫」
 殺虫剤に火をつけ、輝寛が混乱の最中にある屋敷の周りをバイクで走り回る。
 殺虫剤によって一瞬、統率の乱れたハチたちであったが、やはり倒すまでには至らない。
 それは輝寛も予測していたのか、すかさずバイクをターンさせ、ハチにトミーガンによる銃撃を叩き込んでいく。
「かわいそうだけど、一匹たりとも残すわけにはいかない」
 その輝寛の頭上から、多数のハチが毒針を繰り出すが、輝寛は動じることなく攻撃を続ける。
 そして、彼に毒針が触れるかという直前、
「ふふ、輝寛さんには指一本触れさせませんよ」
「殿は私たちがお守りします!」
 ナディアのカルスノウト、鶴姫のランスが、輝寛を狙ったハチたちを全滅させる。
 その後も彼らは、混乱した戦場で的確に働きハチを仕留めていった。


「ファイリアたちも負けてられないですっ!」
 広瀬 ファイリア(ひろせ・ふぁいりあ)も、囮役の戦いに参戦。
 ハチの群れに飛び込み、仕込み竹箒を振り回す。
「ファイ〜っ!? 少しは落ち着きなさいっ!?」
 声をかけたウィノナ・ライプニッツ(うぃのな・らいぷにっつ)が、エンシャントワンドの先から雷術を放ち、ファイリアをフォローしていく。
 それにより、彼女自身に隙ができるが、
「ふたりはボクが守ります!」
 ウィルヘルミーナ・アイヴァンホー(うぃるへるみーな・あいばんほー)のランスがハチを貫く。
 ヒロイックアサルトによって強化された一撃だ。
「町の皆さんのためにも、頑張って巣に向かう人達の手助けをするですっ!」
 ファイリアの性格だろうか。数では圧倒的に負けていても、彼女たちに悲壮感はない。
 むしろ、全滅させんばかりの勢いで戦っていた。
 と、そんなファイリアが、先に屋敷に近付いてハチたちと戦っていたザカコを見つけ、走り出す。
 ファイリアの刀がハチを斬り、彼女を追ったウィノナとウィルヘルミーナが、残りを蹴散らしていく。
 近くにいた最後の一体をザカコが氷術によって凍らせた。
「大丈夫ですっ?」
「ええ、助かりました。しかしひどい混乱ですね。囮にはいいのかもしれませんが――」
「おおおお――!」
 ザカコが殺虫剤の煙に咳き込んだ直後、陽太の小型飛空艇が猛スピードで彼らの間を駆け抜けた。
 陽太を追っていたハチの群れがふたつに別れ、片方がファイリアたちへと目標を変更する。
 すかさずファイリアがザカコに、
「一緒に戦いましょうですっ!」
「ふむ、それが得策のようですね。協力しましょう」
「攻撃はボクに合わせて」
「よろしくお願いします」
 戦い方の似ているウィノナがそう提案し、ウィルヘルミーナが丁寧に頭を下げる。
 即席のパーティーを組む4人に、ハチの群れが接近していた。
 先頭に立ったファイリアが、まだまだ元気な様子で仕込み竹箒を掲げる。
「どこからでもかかってこいですっ!」