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晴れろ!

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晴れろ!

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1・孤児の世話



 一攫千金を夢見た「列車強盗計画」から数週間が経っている。それなりのお宝を持ち帰った王 大鋸(わん・だーじゅ)だったが、学校再建には程遠く、持ち帰ったお宝はすでに金に換わり、子供たちの胃袋に消えていた。
 20人もいるのだ。
 食べ盛りの小さな子供が。

 お宝といっしょに列車から連れてきた盗掘現場で働かされていた子供たち、一番小さい子で3歳、大きく見える子も10歳未満だった。とりあえず、と連れて帰った洞窟がそのまま住まいとなっている。

 かなり広い洞窟だ。地面から地下に潜り込んでいる。頭上には数箇所小さな穴が開いていて、空が見える。雨漏りには悩まされるが、おかげで20人の子供たちが住んでも空気が足りなくなることはない。
 洞窟内は・・・・
 うるさい。ひたすら、うるさい。子どもが起きている限り、うるさい。
 子供たちの喧嘩する声や笑い声、泣き声が入り混じり、洞窟内にこだましている。
 その中で、大鋸は今日も頭を抱えている。
 自慢のモヒカンは、既に子供たちのおもちゃだ。

 「どうするのダヨ」

 背中にとび蹴りしてくる子どもをいなし、肩によじ登ってくる子どもを左手で抑えたシー・イー(しー・いー)は、右手に大なべを抱えてやってきた。
 すぐに、薄汚れた子どもたちがシーの周りに群がってくる。
 シーの作った「とうもろこし粥」を奪い合うように食べる子どもたち。
 殆ど水だけの粥だが、お腹のすいた子供たちにはごちそうだ。
「うめぇ!」
 粥をすすった子どもが叫んだ。
「もう、食べるものもないヨ、明日からどうするのダ」
 シーの顔は浮かない。
「うめぇ!ほんとにうめぇ!」
 ずるずるっと一気にすすったやせっぽちの女の子が叫ぶ。
「ホントかぁ?」
 王は、全く味のない、粒さえ見えない「とうもろこし粥」をじっと見ている。
「オレの知ってるなかでも、一二を争う不味さだぞ?」
「そんなことないぜ!」
 やせっぽちの女の子、レッテが鼻をすすりながら、大鋸を睨む。
「金ねえならよぉ、そうだっ!そうだよ、店出そうぜ、俺が町にいたときにも食い物売ってる店あったぞぉ!」
 レッテは、あっという間に空になりつつある大なべを見て、大きな声で叫んだ。
「この粥を売ろうぜっ!きっと金になる!」
 王が溜め息をついた。
「こんなもん、食うの、俺らだけだ」

「そんなことないですぅ」

 優しい声と共に洞窟の入り口から、甘い匂いが漂ってくる。
「ウッ!来たッ!」
 鍋の底に残った粥を大急ぎで胃袋に放り込むと、一斉に子どもたちは入り口に走った。
メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)と共に立っている。

 三人が両手いっぱいに持ってきていたお菓子は一瞬のうちに消えた。
「子供たちのためにもお金が必要ですぅ。きっとぉ・・・美味しく食べる人もいますぅ・・・と思いますぅ」
 ポーターは、空っぽの鍋を見た。
「なんとか・・・工夫すればぁ・・・」

「オレの服も売る。きっと金になるぜ」
 先ほどの女の子・レッセがメイベルの腕をとって叫ぶ。
「お前、そんなボロ・・・」
 王がレッセの穴だらけの服をつまんだとき、膝や背中に子どもがへばり付いているシー・イーが突然叫んだ。

 「わかっタ! フリーマーケットがイイ!いらないもの売って金を集めるのダ!」

 聞けば聞くほど大鋸のテンションは上がらない。
「ハッ、ただでさえパラ実戦争しているのに、店なんか出してくれる奴いるかぁ?」
「別の学校主催ということにすればいいダロウ。それに空京なら地球からきた観光客も多イ。我々にとってくだらない物でも、彼らにとっては珍しいからナ。これなら他の学校の連中も、協力してくれるに違いナイ」
「別の学校・・・」
 子供たちの視線がじっとメイベルたちに集まる。
 ・・・
「わかりましたぁ」
 それまで思案顔だったメイベルが、明るい声で叫んだ。
 というわけで、百合園女学院のメイベル・ポーター主催で、王の名前は隠してのフリーマーケット開催が決定した。


 その夜。
 穴の開いた天井から星空が見える。
 地面にわらを敷き詰めただけの寝床で、子ども達がそれぞれ好き勝手に眠っている。
 その寝顔を傍らに横たわって、大鋸がじっとみている。
「俺はよぉ、ガキは苦手なんだよ、やっぱりよぉ、こいつら売っぱらうかッ」
 子ども達が脱ぎ散らかした衣類を拾って歩いていたシーが大鋸を睨む。
「こいつら・・・このままここにいちゃ、俺の舎弟だなぁ。それも悪くないけどよぉ」
 溜め息をつく大鋸。


2・フリーマーケット準備



 メイベルは百合園女学院の友達に声をかけ、着々とフリーマーケットの準備をしている。
 可愛らしいチラシも出来た。
 様々な学校の生徒が、参加を表明している。
 大鋸の元に子供が住み着いていることを知って、手伝いに来てくれる生徒もいる。

 大鋸はこのところ悩んでいる。悩んだことの無い大鋸だ、悩むだけで疲れてくる。悩みは単純だ。俺は波羅蜜多実業高等学校の生徒だ。四天王を目指す男だ。パラミタ最強を目指しているのだ、「いいこと」をするわけにはいかない。
「やっぱ、悪いやつは悪いやつでいないとよぉ」
 成り行きとはいえ、善人っぽい自分がこそばゆい。
「なんだかよぉ、気持ち悪いんだよなぁ。あー、疲れたぞ、頭いてーぞ」
 大鋸は、洞窟のわらの上にごろっと転がった。

 洞窟内に不貞寝する大鋸など目に入らないかのように、洞窟の外は活気がある。
 フリーマーケット開催が決まってから、洞窟には多くの人がやってくるようになった。
 百合園女学院のヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)は、パートナーのセツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)クレシダ・ビトツェフ(くれしだ・びとつぇふ)といっしょに、大量の古布やタオルを抱えてやってきた。

「ボク、お手伝いにきましたぁ」                                                                              
 ヴァーナーが洞窟の入り口から顔を出すと、清潔な石鹸の香りが漂う。
 あまり知らない香りに鼻を鳴らす子どもたち。
 男の子の1人が、ヴァーナーに近寄ってくる。
「この匂い、母ちゃんの匂いだ・・そんな気がするぞ」
 その子をぎゅっと抱きしめるヴァーナー。
 11歳のヴァーナーは子供たちとさほど年齢差がないのだが、しみひとつ無い制服を着て手入れの行き届いた美しい肌をもつヴァーナーと子供たちが並ぶと、確かにヴァーナーが大人に見える。
「お風呂、作りたいのです。お水のあるところに連れて行って欲しいのですっ」
「こっちだよ」
 お風呂と聞いて、子供の目が輝く。
 その男の子、ヴァセクがヴァーナーの腕を引っ張って外にでる。

 小川が流れている。
 曲がりくねった川の縁に囲うように石を並べるヴァーナー。子ども4,5人が入れるスペースを作っている。
 ついてきた数人の子供たちもヴァーナーを見習って大きな石を並べている。
「みんな、離れてくださいねぇ」
 ヴァーナーが爆炎波で深い穴を作る。
「すげぇ!」
 子供たちから声が上がる。
 突然、セツカが雷術を水中に打つ。
 魚が上がってきた。
 クレシダが、慌てて浅瀬でその魚を捕まえる。
 キャキャと魚と遊んでいるクレシダは、まだ生まれたばかりのアリスで言葉が育っていない。
 再び歓声。
「釣った魚は丸焼きにして、みんなで食べるといいですわ」
 セツカはにこにこして、お風呂つくりに加わった。



 洞窟の前でも、歓声が上がっている。
 薔薇の学舎の黒崎 天音(くろさき・あまね)が、ビー玉やおはじきなどのおもちゃを平たい岩の上に置き、子どもたちと遊んでいるのだ。
 ぶつけたり転がしたりの単純な遊びの中に、ときどき天音は、大きさや数を考えるゲームを織り込んでいる。
「おっ」
 天音の顔が1人の4,5歳の女の子に向く。
 皆にテアンと呼ばれるこの女の子は、抜群に数学的センスがある。
 小さなメモをもった天音は、子どもたちの顔を見ながら、さらっとなにやら書き込んでゆく。

 ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)がそのメモを覗き込む。顔を上げた天音が微笑む。
「・・・おや、ブルーズ。眉間の皺が1本増えてるよ。新記録達成だね」
 天音はブルーズの背中を見ている。
 背中には子どもが二人、首のあたりにはもう一人が巻きついている。
 ブルーズが前のめりになったために、子どもの一人が天音の膝の上に降ってきた。
「おもしれぇ!」
 そのまま、ブルーズの背中は子どもたちの滑り台になっている。
「他人ごとだと思って面白がっているな・・・しかし何故、子どもというのは登りたがるんだ」
「さあ、折角だし、この際子どもの扱いに慣れてもいいんじゃない?」
 天音は笑いを堪えている。
「何を書いている?」
「いや、子どもはみんな天才だよ」
 天音の視線の先・・・子どもたちはおはじきを積み重ねて、高さを競っておる。
「彼の将来を思ってね・・・」

「おーい!パントルのお絵かき教室開校だぞ!」
 シャンバラ教導団のイレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)は、軍人らしい良く通る声で叫んだ。
 英霊のパントル・ラスコー(ぱんとる・らすこー)は、約一万五千年前、ラスコー洞窟にて動物の絵を描いていたクロマニヨン人の戦士だ。
 子どもたちの洞窟に絵を描くとしたら、彼以上の適任がいるはずがない。
 二人は、大量のクレヨンを抱えている。
 走り寄ってくる子供たちは、巨体の二人を見て、少し身を引いた。
 腰をかがめるイレブンとパントル。
「ウゴウゴ、絵をかくことはたのしいぞ!」
 子どもの背丈まで身をかがめたパントルは、クレヨンを子どもたちに手渡す。


 ジョヴァンニイ・ロード(じょばんにい・ろーど)を伴って洞窟に入ってきた蒼空学園のリリィ・マグダレン(りりぃ・まぐだれん)は、寝転ぶ大鋸を見ると、その横に座った。
「手伝いに来たよ、なんだ、ふつうにきれいじゃん」
 リリィが洞窟内を見渡す。
 大鋸が寝転んだままリリィを一瞥する。
「ああ、シーがいるからな」
 リリィは、わらを足で蹴飛ばす。
「汚すなよ!シーが怒る」
「大丈夫だよ」
「ここをきれいにして」
 パートナーのジョヴァンニイは、わけもわからず洞窟に連れてこられている。
「俺が掃除するのか」
「当たり前じゃない、きれいにして」
 足蹴にされるジョヴァンニイ。この二人、リリィの方が力関係では上にある。しぶしぶ掃除を開始するジョヴァンニイ。
「クソッ、どいつもこいつもッ」
 大鋸が背を向けた。

 突然、洞窟の上で機械音が鳴り響いた。
 この洞窟のある場所は、この地域では珍しく緑があり水がある場所だ。木々も多い。
 その木が音ともになぎ倒され、洞窟の上に降ってくる。
 明り取りの役目をしていた天井の穴が、倒された木によってふさがれた。
「なんだぁ?!」
 眉間にシワを寄せて、大鋸が立ち上がる。
 外に出て見たものは、機関銃を振り回し、木をなぎ倒している、ピエロメイクのナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)だった。
「ハッハッー、どうだガキンチョ!凄いだろう」
 叫びながら、ナガンは木から枝を落としている。
「何、やってんだ、お前?」
 大鋸がナガンに声をかける。
「いっしょにやるかぁ」
「勝手にやってろ!」
 大鋸は、ナガンの楽しそうな様子に腹を立てて、洞窟に戻っていった。
「まったく、お人よしばっかりだぜ」
 大鋸は、また不貞寝だ。

 子どもたちはナガンを遠巻きに見ている。
 なぎ倒した木をチェーンソーで切りつつ
「血煙爪さえ使いこなせば生活には困らんぞ、ガキンチョ!」
 叫ぶ、ナガン。
 器用なのか、倒した木に穴を開けたりしながら、凹凸を作り家具らしきものを作り上げていく。