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伝説のメイド服を探せ!

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ぴなふぉあ空京店へようこそ
「いらっしゃいませ、ご主人様ぁ」
 パラミタの人気メイドカフェ・ぴなふぉあ空京店。
 シャンバラの各地から、メイドさんの癒しを求めてお客さんが集まってきています。
 そろそろランチタイム。
 いつもなら、お店の前にはお得なランチを求めて行列ができている時間なのですが……。
「どうして……どうして今日はこんなにも暇なのかしら?」
 中心となって店を切り盛りしているメイドのまゆみは、ご主人様に召し上がっていただくためのサラダを準備しながら、店内をぐるりと見回した。
 普段であれば間違いなく満席の時間帯なのに、店内には2人のご主人様しかおられない……。
 まゆみは理由が分からず、混乱していた。
「まさかご近所に似たようなメイドカフェができた……なんて話は聞いていないですわ」
 実は今日、お客さんがいないのにはある理由があるのだが……まゆみがそれを知るはずがない。
「もしかしたら! 今日はとももみりも……ことのはも、ゆずきもお休み。メインメンバー4人が欠席して、ご主人様ががっかりした……。これが原因なのかしら?」
 今朝、ともからかかってきた電話を思い出す。
「ごめんなさぁぁい! 4人揃ってキマイラインフルエンザになってしまいましたですぅぅ!」
 主力メンバー4人が病欠。ぴなふぉあ空京店、オープン以来初の出来事だった。
「はぁ……。まだまだ長い一日が始まったばかりですわね」
 まゆみは、ただただ呆然とするばかりだった。


ことのはと愉快な仲間たち
「うーん! 森の空気って気持ちいいですわぁ」
 ジャタの森を進む、先行グループ一行。そのリーダーであることのはは、大きく息を吸い込んで、ひと伸びした。
 まゆみのために、ジャタの森の奥地にある遺跡へ「伝説のメイド服」を取りに行くことになった、ぴなふぉあメイド4人。
 ぞろぞろと全員一緒に行動しても効率がよくないため、役割分担をしたのだった。
 それぞれのメイドさんには、手助けをしたいといって集まった大勢のご主人様・お嬢様が同行している。これこそ、ぴなふぉあ空京店が暇になってしまった原因だった。
 ことのはは、先行して森の道を切り開く役目。ジャタの森を、軽い足取りで進んでいく。
 木漏れ日がやさしく差し込むジャタの森は、ことのはたちを優しく迎え入れてくれたようだった。一切の危険は感じられない。一行はお喋りに花を咲かせながら、まるでピクニックのように進んでいった。
「ねーねー、ことのはさんがパラミタで飼い始めた猫さんって、どんな子なんですか?」
 桐生 ひな(きりゅう・ひな)が、目をキラキラさせてことのはに尋ねた。
「ひなお嬢様も……お好きなのですね?」
 猫好き同志というのは、目を見て分かるもの……らしい。ことのはは、ひなが間違いなく猫好きであることを一瞬で悟った。
「猫、連れて来ていますわ。ほら、この子」
 ごそごそごそごそごそ。
 ぽんっ!
 ことのはの懐から飛び出してきたのは、掌に余裕で乗ってしまう、超小型猫だった!
「こ、これはぁぁぁぁ! かわいいぃぃ!」
 ちょこんと掌に乗るサイズ。白くてふわふわの毛並み。まんまるな瞳。ことのはの猫には、猫好きの心を一撃で射貫く威力があった。ひなは既にくらくらだ。
「こ、この子はもしや……パラミタトーイボブテールでは……?」
 ぜーはーと肩で息をしながら、ひなは子猫を指さして言った。
「ひなお嬢様、よくご存じですわね! この子はパラミタトーイボブテールですの」
 ことのはは笑顔で、子猫ミニをひなの肩に乗せた。
「ああああ、ちっちゃいねこが……ちっちゃいねこが……肩に乗ってるぅ……」
 ひな号泣。そこへ……。
「へぇ。これがパラミタで一番小さい品種のパラミタトーイボブテールなんだね!」
 ひなとは猫好き仲間の七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が、ひなの肩に乗っている子猫の頭を指先でなでながら話しかけた。
「ひなさん、よかったね!」
「子猫が……こんなにも小さくてぇぇ……」
 まだ感動さめやらぬひなのこともなでなでした歩は、地球に残してきた猫のことを思い出した。
「あたしが地球にいた頃飼っていた猫は、この猫ちゃんとは逆ですごく太ってたなぁ。この子が背中に乗れるくらいだったよ」
「大きな猫さんもかわいらしいですわ! 歩お嬢様の猫にもお会いしてみたかったです」
「でも、散歩はすっごく大変だったんだよ」
 歩とひなが猫トークで盛り上がっている間、肩に猫を乗せられているひなは、彫像のように固まってしまっていた。
「もしかしたら……この子と仲良くなるんじゃないかな?」
 歩は、連れてきていたゆるスターを、にゅっと猫の目の前に付き合わせてみた。
『……』
『……』
 ゆるスターと猫は、双方無言で見つめ合っている。しばしの沈黙。そして……。
「あ、寄り添った!」
「仲良しだね!」
 ゆるスターと猫は、どうやら友情のちぎりを交わしたようだった。
「あゆむん、俺も混ぜてや〜」
「おっ。ひさしぶり。ほらほら、猫だよ!」
 歩の友人、日下部 社(くさかべ・やしろ)も加わり、猫トークはさらに盛り上がった。
「ちっさぁ。食べてしまえそうやな」
 びくぅ。
 社の言葉が理解できたのか、おびえる猫。
「食べたらダメだよ……。食べたいけど……ね」
 社を止める歩も、まるでおおきなケーキを見るような目で、猫のことを見つめているよだった。
「歩ちゃんもイケナイ瞳をしているから、気をつけようね!」
 猫と歩の間に割って入ったのは、歩の友人、遠鳴 真希(とおなり・まき)だ。
「ちょっと抱かせて〜」
「ええ、どうぞ。やさしくしてあげてね」
 真希は、ひなの肩にいた猫をそっと抱き上げた。
 ひなの肩を気に入っていたらしい猫は一瞬嫌がったが、真希を見ると猫好きの人間だと分かったらしく、おとなしく従った。
「この子の名前はなんていうの?」
 猫の頭をなでながら、真希がことのはに尋ねた。
「小さくて、カップに入っちゃうから、ティーカップっていうんですの」
「へぇ。カップちゃん!」
 耳の後ろをなでると、ティーカップは嬉しそうに目を細めた。
 さらに質問を重ねる真希。
「男の子? 女の子?」
「うふふ、どちらだと思います?」
「……この上品な雰囲気は、お嬢ちゃんやろ!」
 社がぽんと手を叩いて答えた。
「正解ですわ、社様。ティーカップは女の子ですの。いずれ立派なメイドさんになりますわ!」
「メイドさんになれるかな……。楽しみだね!」
 今度は真希の腕の中がお気に入りの場所になったらしいティーカップは、うとうとと眠り始めていた。
「寝顔もまた……いいねぇ」
 修次・釘城(しゅうじ・しんじょう)もティーカップの寝顔を見て、目を糸のように細めた。
 ことのはが声をかける。
「修次様も猫がお好きなんですの?」
「猫は危険な生き物ですねぇ。見つめていると、本当に足から溶けてくる気がするなぁ」
 類は友を呼ぶというが、修次もまた大の猫好き。
 正直なところ、猫目当てで、この先行チームに同行したのだった。
「私も猫が好きなんです!」
 元気に挙手をしたのはソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)
「なでなで……」
 真希の腕で眠っているティーカップの頭を、ソアがそっとなでる。一瞬くすぐったそうに身じろぎしたティーカップだが、まだ夢の中にいるようだ。
「それにしても……ことのはさんが連れていらっしゃる猫がこんなに小さいのは意外でした」
「どうしてですの?」
「私、ことのはさんが猫を連れているって聞いたとき、きっとパートナーのゆる族なんだと思ったんです」
「確かに……空京から出るわけだから、護衛に連れているとも考えられるねぇ」
 ソアの発言に、修次もなるほどとうなずいた。
「わたくし、パートナーさんっておりませんの」
「え? 契約していないんですか! それじゃあどうやって……?」
「これですわ」
 ことのはが取り出したのは、小型結界装置だ。
 出回っている数の少ない、珍しいアイテムを見て、修次の目が輝く。
「へぇ。確かにこれがあれば、空京の外にも出られるねぇ」
「だけど……これとっても壊れやすいから、空京の外に出たらあんまり暴れないようにとのことですわ」
「そんな状況でよく冒険に出ようと思いましたね……」
 ソアが、ため息まじりに修次に向かって言った。
「でも……だからこそ、守ってさしあげなくてはなりませんね」
「確かにねぇ。戦闘になったら、身体を張ってあげないとねぇ」
 「機晶石」の欠片で作られている小型結界装置は、契約者でなくても空京の外で活動することができる道具だ。
 便利だが、多少の衝撃でも壊れやすいという欠点もある。
 この装置を持って遺跡の探索など、本来とても危険なことなのだ。
 だが、ことのはも、他の3人のメイドも、危ないことをしている自覚が全くないのだった。
「友達の為に動くというのは良い事だと思います。ただそれで君に何かあったら、その友達はきっと落ち込むでしょう」
 一行の一歩前で邪魔な草を切り開いてくれていた樹月 刀真(きづき・とうま)が、結界装置の話を聞いて振り返り、ことのはに話しかけた。
「護りますから、我々の一歩後ろにいてください」
「でも……」
「その装置が壊れてしまったら大変なことになるでしょう」
「……ありがとうございます、刀真様」
 ことのはは素直にうなずいた。
 主人の危険な状況を察したのか、ティーカップが目を覚まし、真希の腕からぴょんとことのはの肩に飛び移ってきた。
「にー」
 鼻先をことのはにすり寄せて鳴くティーカップ。
「可愛らしい猫ですね。ですがこちらの猫も可愛いですよ」
 刀真がにやりと笑い、自分の「猫」を引っ張ってきた。
「ボクもおともにつれて行ってほしいです。あ、にゃ〜です」
 ネコミミとシッポをつけて現れたのは、刀真の飼い猫……ではなく友人のヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)
「人懐っこさは一級、愛らしさは特級! さらに傷と心を癒しちゃうヒーリングハグまで習得しているキティちゃん。その名もヴァーナー・ヴォネガット! 貴女のお供にさあどうぞ」
 刀真はヴァーナーを抱き上げ、ことのはの目の前に突き出した。
「あらぁ、可愛いですわ!」
 ぎゅー。
 かわいらしいヴァーナーを思わず抱きしめることのは。
「にゃーーー」
 ヴァーナーも嬉しそうに、ことのはにすりすり。
 どこからか、ご主人様たちの嫉妬に満ちた視線が感じられなくもなかったが、二人は全く気にせずにじゃれあっていた。
「猫家来、しっかりとお仕事しときました! ねっ、刀真おにいちゃん」
「このチョコレートの香りは、ヴァーナーですね」
「そういえば、甘い香りがしますわ」
 森の中をふわふわとただよう甘い香り。これはヴァーナーが、道に迷わないようにチョコレートで印をつけてきたからだった。
「ねぇねぇ。ちょっと休んでお茶にしようよ! 休憩しようよ!」
 誰かがそう声を上げた。
「確かに、ちょっと疲れましたわね」
「甘いチョコの香りも、お茶が欲しくなるねぇ」
「ほな、休憩がてらお茶しよか!」
 待っていましたと『ティータイム』で素早くティーセットを用意する社。
「お見事だねぇ。どこからともなく、わりと高級そうなティーセットが出てきた」
 手際の良さに修次が思わず拍手をする。
「んー……そうですね。かなり進んで来れたはずですし、少しお休みしましょう」
 ことのはも休憩をとることに賛成し、お茶の準備を始めた。
 かくしてことのは一行は、ピクニック気分のまま順調に森を進み、盛大な森のお茶パーティを始めたのだった。