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【番外編】金の機晶姫、銀の機晶姫

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【番外編】金の機晶姫、銀の機晶姫

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その8 砕けた記憶の戻る刻





「ニフレディ!!」


 ルーノ・アレエは火がついたように飛びつくが、おろおろとしてニフレディを抱きしめた。朝野 未沙がメイド服のすそを掴んで駆け寄ると、「未羅ちゃん、未那ちゃん、工具を! あとアーティフィサーの人は手伝って!」と手早く指示を出した。

 処置が早かったおかげか、ニフレディはすぐに意識を取り戻した。だが、その身にある機晶石に重大な欠点があることが発覚した。

「ニフレディさんの機晶石、ひびが入ってる。ほとんど力を失ってる石だよ、これ……」
「……おかしい。この機晶石は、もともと彼女のものじゃないんじゃないか?」

 エヴァルト・マルトリッツは、機晶石とつながったパーツを見ながら、すわりの悪さを指摘して朝野 未沙に視線を送る。どうやら見解は同じらしく、彼女は頷き返してきた。リリ・スノーウォーカーは小さく呟いた。

「やはり、銀の機晶石が存在する、ということなのだろう」
「あれ? この箱、ルーノさんの中にあったのと一緒だ」

 朝野 未沙が取り出した黒い箱を、ルーノ・アレエが触れると黒い箱から金色の強い光が放たれ、ルーノ・アレエは光に包まれた。そのうち、その光は彼女の中の気象席に飲み込まれるようにして消えていった。そして、糸が切れた操り人形のように倒れこんだ。

「ルーノさん?」
「ルーノ、大丈夫?」

 ラグナ アインや伏見 明子が声をかけると、ルーノ・アレエは頭を押さえながら起き上がろうとする。それを、エメ・シェンノートが支える。

「大丈夫ですか?」
「はい……思い、出しました」
「思い出した? 何をですか?」
「私は、『私達』は、一時ではありますがいっしょにいました。私が先に目覚め、ニフレディは後に目覚めました。名前は確かにイシュベルタ・アルザスがつけてくださいましたが……私達は、博士達から別の名前で呼ばれていた。私はエレアを除いた後ろの三文字。ニフレディも後ろの三文字で、よく使われる単語になってしまうから、伸ばすことにしたと……そう、話しているのを聞きました。意味が、そのときはわかりませんでしたが、それが、私たちの本当の起動キーなのでしょう……」
「エレアリーゼではなく……リーゼという言葉が、ルーノさんの兵器としての起動キーなのですね?」

 こくん、と一つ頷いた。次第に回復してきたのか、支えがなくとも起き上がれるようになった。朝野 未沙は前回ルーノ・アレエの中から取り出したオルゴールを、ためしにニフレディの体に触れさせたが、うんともすんとも言わなかった。
 オルゴールを取り出して背中を閉じたニフレディは、七瀬 歩から渡された緑色のワンピース姿でルーノ・アレエに駆け寄った。

「……私も、思い出しました。私たちの記憶、ないほうがいいんだって、イシュベルタ兄さんがエレアノール姉さんに言ってました。だから、このオルゴールにしまって、それぞれの中に入れて、離れた場所に眠らせようって……姉さんは、ヴァシャイリーの湖のそばに。私は、遺跡の隠し部屋の中に……目が覚めたとき、イシュベルタ兄さんから、『しばらく身体が辛いかもしれないが、辛抱してくれ』っていわれました。きっと、この石が、私のものではないからなんですね」
「まって、それじゃ『銀の機晶石』はどこにあるの?」

 リーン・リリィーシアがそう問いかけると、そこへナコト・オールドワンとシーマ・スプレイグがかけてきた。牛皮消 アルコリアは不思議そうに二人に問いかけた。

「どうしたの? 警護は」
「差出人不明の荷物ですわ。マイロード」
「送り先は、ルーノ・アレエと、ニフレディだ」


 渡された箱の中には、一枚の手紙。それと、3人の少女を模した人形が、仲良く手をつないでいるマスコットだった。
 赤い髪はルーノ・アレエだろう。緑色の髪の毛はニフレディ、そして青い髪はエレアノールであることがわかった。

 そんなマスコットをよこす人物は、他にいない。

「アルザスか」

 緋山 政敏の言葉に、ロザリンド・セリナも頷いた。

「リンちゃん、何でその人だってわかるの?」

 七瀬 歩が問いかけると、「以前も、お人形を作って彼女たちに渡しているからです」と答えた。

「お人形作りが趣味だなんて、結構かわいいよねぇ」
「ええ。とても、かわいい少年でした。昔は……」

 桐生 円の言葉に、ルーノ・アレエは答えた。マスコットには爆弾の類はなく、ただの贈り物であったことがわかった。そして、手紙にはこう書かれていた。

『銀の機晶石がほしければ、金の葡萄を求めろ』

 無骨な文字は、男性のものであるのがわかった。残念ながら、大人のイシュベルタ・アルザスの筆跡はデータとして残っていないので照合のしようがない。比島 真紀は事前に収集した情報の中で、金の葡萄という単語を聞いてすぐにその場所を理解した。

「……金の葡萄。ディフィア村ですね。ここにある遺跡に、銀の機晶石があるのでしょう」
「明らかに、誘っているとも取れる内容だな。銀の機晶石をはずした理由も、まだ分かっていない」
「行かなければ、ニフレディが死んでしまうでしょうね」

 ガートルード・ハーレックが哀しげに呟くと、く足しそうに大地に拳をたたきつけたのはシルヴェスター・ウィッカーだった。

「わざとやったのだとしたら、イシュベルタ・アルザスはやはり許しがたい輩じゃ!」
「……どう、すれば」

 ルーノ・アレエがこわばった表情で呟くと、篠宮 悠は意を決して口を開いた。

「ルーノは、どう思ってるんだ?」

 その言葉に、一同がルーノ・アレエに視線を向けた。彼女は一瞬戸惑ったが、じっくりと考えた後に頷いた。

「……どうしたい、という希望があるわけではありません。でも、誰もが笑える日が来るなら、私はその日のために何かしたいです」

 そのはっきりとした言葉に、拍手が贈られた。言った本人は急に顔を赤らめてうつむいてしまった。ニフレディは泣きそうな顔で姉に飛びついた。

「姉さん……ありがとうございます」




「さあ! ショータイムだ!!」

 そう叫び声が聞こえたと思うと、夕焼け空になっていた天空に、花火が飛び上がった。鮮やかな華が空に咲き誇れば、先ほどまでの湿った空気が一変する。もさ、と音を立てながら現れたのは四条 輪廻だった。その手には、機晶エネルギーの入った瓶があった。

「はーっはっはっはっは! 見よ、影野くんに協力してもらい、一発だけ成功した機晶エネルギー花火はどうだ! 残りは魔法で直接あげるぞ!」

 その叫び声で、天空に火術で花火を打ち上げる。数発打ち上げて後、主役達がぽかん、としているのに気がついたアフロこと四条 輪廻は歩み寄って手にしていた瓶を返す。

「なにやら元気がないな。これは、君に返すよ。ニーフェ」
「え?」
「ああ、すまない。いきなり略称で呼んでしまったな」

 少し恥ずかしそうに頭をかきながら、照れ隠しのためか影野 陽太にお礼を言うべく、颯爽とその場を後にした。

「そうですね、ニーフェ、ニーフェ・アレエという名前なら、暴走しないかもしれません」
「ニフレディ?」
「姉さんも、もう昔の名前じゃありません。私も、新しい名前で姉さんとこれから生きていきたいです。兵器じゃなくって、ただの妹として」
「そんなえらそうなことを言っているようじゃ、妹キャラへの道は遠いのですよ」

 ラグナ ツヴァイが二人の間に割って入ると、手本だといわんばかりに自分の姉、ラグナ アインに飛びついた。

「姉上! コレからもずっとずーっといっしょですよね!?」
「うん、もちろんだよ、ツヴァイ」
「こうやるのですよ」

 鼻を鳴らしながら、自慢げにそういうラグナ ツヴァイにニフレディは笑った。ララ ザーズデイはその肩を叩いて、微笑みかける。

「姉に甘える、というときくらいはレディであることを忘れてもいいんだ。無理に笑って、大人ぶることもない」
「え、あの」
「姉妹であるなら、造り手が同じであるなら、君たちの中の感情回路も似ていておかしくない。なのに、ニフィー、君は泣いていない。泣くことは、刻に彼女のように喜びを伝えられるんだよ」
「ララさん」
「ニーフェ?」

 新しい名前を呼ばれて、ニフレディ……ニーフェ・アレエは振り向いた。今にも泣きそうな顔をしている姉の顔が、今は滲んでよく見えない。飛びつく勢いで抱きつくと、その目からこぼれる水がなかなか止まってはくれなかった。

「さぁ、まだ食事は沢山残ってますよ」
「お茶会は食事がなくなるまで終わりじゃありませんわ」

 緋柱 陽子と、エイボン著『エイボンの書』がそれぞれのパートナーが作った料理を二人に差し出した。メイベル・ポーターもクッキーを持って二人の前に差し出した。ミラベル・オブライエン特製のクリームを載せたシフォンケーキはクリームの種類だけ皿に盛られた。かわるがわる食事やお菓子を勧められて、追いつかなくなってきた頃、牛皮消 アルコリアは飲み物を二人に差し出しながら、ずっと聴きたかった言葉を口にした。

「ねぇ、楽しいですか?」
「「はい! とっても」」

 姉妹から同じ返答が帰ってきて、お茶会に参加したものたちは表情を柔らかくした。
 
「せっかくですから、写真でも撮りませんか?」

 神楽坂 翡翠がそういうと、「いいですね〜」と永夜 雛菊が真っ先に返答し、背中からの冷たい視線を感じて振り向いた。

「そうやって、前回もちゃっかり写りましたよね……」
「や、ええと、ご、ゴメンね?」
「三脚がありますから、全員はいりますよ」

 苦笑しながら、そういわれると、樂沙坂 眞綾もカメラを渡して「とってほしいの〜」とお願いをする。神楽坂 翡翠は早速カメラをセットすると、声をかけた。

「さぁ皆さん、笑ってくださいね〜!」
「笑わんと、雷様にへそとられるど!」

 シルヴェスター・ウィッカーの妙な言葉にどっと笑いが巻き起こった。その様子が、レンズの向こうに焼き付けられるとお茶会は幕を閉じたのだった。





担当マスターより

▼担当マスター

芹生綾

▼マスターコメント

 お疲れ様です。
 前回、次はディフィア村、といったのに番外編を書いてしまい申し訳ありません。
 次からは、本当にディフィア村での遺跡探索が始まります。前編後編になりますので、お付き合いただければ幸いです。

 ニフレディこと、ニーフェ・アレエはNPCとしてケイラ・ジェシータさま案のデザインを使用してイラストを作らせていただきます。
 どうぞ、これからもニーフェとルーノをよろしくお願いいたします。 

 私自身の感想になってしまいますが、今回皆様のアクションがどの方も「彼女たちに幸せになってもらいたい」「もっと仲良くなりたい」という気持ちを書いていただき、思わずアクションに目を通しながら涙ぐんでしまいました。初めてルーノを皆様にお披露目したときは、こんなに愛していただけるキャラクターになるとは夢にも思いませんでした。本当にありがとうございます。

 今回は通してほのぼのとした物語になりましたが、次回、次々回は皆様のアクションによっては悲しい別れもあるかもしれません。
 どうぞ、お付き合いいただければ幸いです。