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【2019体育祭】チャリオット騎馬戦

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【2019体育祭】チャリオット騎馬戦

リアクション

「失礼、どなたかとチームを組んでいらっしゃいますか?」
 戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)がウォーレンに声をかける。
「ん、俺? 今のところは特に組んでないぜ」
「そうですか。よかったら我々と組みませんか? この戦い、二騎で一チームを組み、同一ターゲットを挟撃するのが得策だと思われますので」
「別にいいけど」
「ありがとうございます。それでは、ちょうどあそこで孤立しているチャリオットを狙いましょう」
 小次郎は安芸宮 和輝(あきみや・かずき)を指さした。
 連携をとるチームが多い中、和輝はパートナーのクレア・シルフィアミッド(くれあ・しるふぃあみっど)と共に単独行動をとっている。
 それもそのはず、二人は蒼空学園の生徒なのである。他の蒼空の生徒はいない。正真正銘の単独勢力というわけだ。和輝は己の力を試したくてこの場へとやって来た。
「やれるだけやってみますかね」
 両陣営のサイドから騎兵槍で突撃を仕掛け、御者をチャリオットごとふっ飛ばそうと考えている和輝は、スタジアムを見回してチャンスをうかがう。しかし、自分たちの方へ向かってくる二騎のチャリオットが彼の目に映った。
「え、まさか私たちのことを狙って? なにも完全に孤立している相手を狙わなくても……。まあ勝負ですから、そんな甘いことは言っていられませんね。シルフィ、逃げてください。挟まれたら圧倒的に不利です」
「は、はい! 分かりましたわ」
 シルフィが馬を出す。彼女は修道院時代に経験があるということで今回御者を負かされているが、正直なところ和輝は不安を感じていた。
「しかし梅琳少尉の姿が見えませんね。戦場では彼女の攻撃の補佐に回ろうと思っていたのですが」
 小次郎はフィールドに梅琳の姿を探しながら和輝に近づいていく。
「そりゃそうだ。梅琳少尉は体育祭の運営が仕事なんだから、戦場にはいないさ」
 ウォーレンが教えてあげた。
「な、なんと! それは知りませんでした。残念です……」
「私もですわ。今回の試合について彼女の考えていることや作戦などをお聞きしようと思っていましたのに」
 小次郎のパートナーリース・バーロット(りーす・ばーろっと)は、表ではそう言っているが、誰が好きだとかかっこいいだとかのガールズトークを梅琳と繰り広げてみたいというのが本心だった。
「さあ、そんなこといってないでそろそろ戦いの準備をしようぜ」
「おっと、我としたことが。では行きましょう」
 気がつけば和輝たちはもう目の前だった。シルフィが小次郎たちを振り切ろうと懸命に馬を操っている。そのシルフィに向かってウォーレンが空気銃を撃つ。
「あたっ」
 ウォーレンの空気銃はシルフィの後頭部に命中する。威力自体は大したものではなかったが、シルフィは不意を突かれた。和輝が心配そうに声をかける。
「シルフィ、大丈夫か!」
「だ、大丈夫ですわ……」
 シルフィは和輝に迷惑をかけまいと平静を装う。しかし、集中力を失っている間に小次郎とウォーレンたちに挟まれてしまった。
「しまった!」
 並走されては槍では戦いづらい。和輝は回避に専念しようとする。ところが、ここでやはり和輝の不安が的中した。
 百戦錬磨のコウの愛馬の殺気で、シルフィの馬がおびえだしたのだ。走行が不安定になってくる。
「おいジュノ、そろそろ代われ」
 コウが御者を交代するようジュノに言う。
「分かりました。好きですねえ」
 ジュノは速やかにコウと御者を交代する。コウは満を持して戦闘に加わる。
「俺は馬が好きだ! だが戦の方がもーっと好きだ!!」
 これが決め手だった。完全に動揺したシルフィの馬が後ろ脚で大きく立ち上がる。
「きゃあっ!」
「シルフィ!」
「後ろががら空きですよ。いただきます」
 小次郎がシルフィのことしか見えてない和輝のハチマキをつかみ取る。
「やりました!」
 小次郎はウォーレンと喜びを分かち合おうとする。だが、目の前の光景に顔が青ざめた。シルフィが馬の上から自分の反対側に落ちていくのが見えたのだ。馬に踏まれでもしたらただではすまないだろう。もちろん落馬させるつもりなんて小次郎にはなかった。
 和輝は必死に手を伸ばし、シルフィの片手をつかむ。だが今の体勢では彼女を支えきれない。もうダメだ。和輝もシルフィもそう思ったときだった。
「つかまれ!」
 ウォーレンが手を差し出した。シルフィはギリギリのところでこれにつかまる。チャリオットから落っこちそうなほど身を乗り出したウォーレンの体にコウがしがみつき、縄に足をかけて全力で踏ん張る。コウは自分に責任を感じていた。
 やがてリースがどうにかシルフィの馬をコントロールし、ジュノと息を合わせてシルフィを落とさないようにする。シルフィは和輝とウォーレンの手で無事引き上げられた。
「はー、焦りましたわあ」
 危機を切り抜けて馬を止めると、リースは全身脱力した。女性が大の苦手であるジュノに至っては、既に気絶している。ウォーレンに言われ、リースと組むと決めたときからずっと我慢していたのだ。
 和輝とシルフィは皆に礼を述べて回った。
「いやあ、別に怪我させるのが目的じゃないしよ。何にせよ無事でよかったぜ」
 ウォーレンが言う。彼は情に厚い男なのだ。
 共に困難を乗り越え、スタジアムの片隅では妙な一体感が生まれていた。

スタジアム中央で対立する二つのチーム、南 鮪(みなみ・まぐろ)ハーリー・デビットソン(はーりー・でびっとそん)組と織機 誠(おりはた・まこと)エクリプス・ポテイトーズ(えくりぷす・ぽていとーず)組は一際目立っていた。何せバイクのハーリーが御者を務め、誠の引くチャリオットに馬のエクリプスが乗っているのだから。
「ドルゥンドドドド(戦車+バイク! 大世紀末合体!)」
「バイクが御者とは、面妖なチームだな。バイクなら大人しく戦車を牽引していればよかろうに」
「ドルルルルルルル(旧時代の乗り物の馬風情が)」
 ハーリーはいきなりエクリプスに向けて排気ガスを発射する。
「ドドドドドブォォォン(喰らいな!CO2たっぷりの排気ガスを!)」
「ぶは、おまえ、やりやがったな! 人生の機微を知らぬ、矮小たる鋼鉄の車め。この俺が相手をしてやろう!」
 エクリプスはハーリーに強烈な蹴りを浴びせる。ハーリーは空気パンパンのタイヤでこれを受け止めた。
「ギャォン(タイヤで削ってやる)」
 ハーリとエクリプスの横で、鮪たちも馬鹿ら――激しい戦いを繰り広げる。
「ヒャッハァ〜誠、邪魔だァ〜! 今日の俺は梅琳のおっぱいが本物か確かめなくちゃいけねえんだ。あそこにもエアーが入ってる気がするからなァ!」
 どうやら今回鮪のメインターゲットは梅琳のおっぱいらしい。
「ヒャッハー! ポテト! 武器だ、武器持ってこーい!」
 乗り物関係のこととなると性格が豹変する誠も、テンションでは負けていない。
「そうこれだこれえ! 確か武器は空気が入ったものだったなあ! こいつで撲殺してやるぜヒャッハー!!!」
「しゃらくせえ! 食らいやがれ、こいつが俺のヒロイックアサルトだァ!」
 酸素ボンベで殴りかかってくる誠に、鮪は目つぶしの灰を投げつけて対抗した。
「うおお、目が! 目があ! 貴様よくも俺の純潔を奪ってくれたなあ!」
「バカめ! こいつで終わりにしてやるぜえ!」
 まだ視力が回復しきっていない誠に向かって、鮪は不意打ちでモヒカンブーメランを放つ。
「な、何い!?」
「ヒャッハァ〜伊達や酔狂でこんな髪型してるんじゃねえんだよ」
「く、避けきれん!」
 誠のピンチを救ったのは、エクリプスだった。
「当たらなければどうということはない!」
 エクリプスは後ろ脚で誠を思い切り蹴り飛ばす。派手に吹っ飛んだ誠はモヒカンブーメランをかわした。
「ポテト、何をする!!」
「助けてやったんだ。感謝しろ」
「ちい、駄馬が邪魔しやがってえ。それならこいつでどうだァ!」
 鮪は浮き輪に長いロープがつながったものを取り出すと、ぶんぶん振り回す。しかし誠のよけたモヒカンブーメランは大きく弧を描いて鮪の背後に回り込み――
「ヒャッハァ〜! お前なんか浮き輪に入れて振り回してやブッフェー!!」
 鮪の後頭部にクリティカルヒットした。
「ふひ〜、梅琳のおっぱいにそんな秘密が……」
 鮪は完全に目を回している。
「ふはははは! このマヌケが! 俺の高度な作戦にまんまとひっかかりやがったぜえー! こりゃジェイダス杯もいただきだなあ!」
 誠は頭にたんこぶを作りながら勝ち誇る。
「ドギャギャギャギャ(ちい、使えないやつだ)」
 ハーリーは鮪が負けたのを見ると、彼をスタジアムの隅に捨てて戻ってくる。
「ブルルルルル、ブオオオオオオン(待たせたな、本当の戦いはこれからだ)」
「そのとおりだよ!」
 世紀末チャリオットの上に、突如一人の少女が現れる。彼女は時雨塚 亜鷺(しぐづか・あさぎ)。これまで光学迷彩で姿を隠していたのだ。
「鮪の旦那に代わって、ここからはボクが相手をするよ!」
「なんだあ? おまえは。痛い目にあいたくなかったら、大人しく逃げ帰った方が身のためだぜお嬢ちゃあん!」
 誠が亜鷺を威嚇する。しかし亜鷺は一歩も退かない。それどころか誠の眼前に無数の風船をばら撒くと、それを次々と針で割り始めた。破裂音が誠を襲う。
「どわ!」
 思わず尻餅をつく誠。
「だあもう! びっくりするじゃねえかこのアマァ!」
「あれえー? 銃弾飛び交う中掻い潜る教導団員ともあろうものが、風船なんかにビビっちゃってんのー?」
 亜鷺は誠に向かって憎らしい笑みを浮かべる。
「下手に出てれば調子に乗りやがってえ!」
「油断しないほうがいいよ。『スポーツマンシップに則って、いけしゃあしゃあと裏をかく』がボクのモットーだからね!」
 亜鷺は再び大量の風船を取り出す。
「ほらほら、続けていくよー。風船ジェーット!」
 そして風船の口を開けて誠に発射した。
「ぬお、やりやがったな! 後悔しやがれ! 秘技風船返し!!」
「あはは、何これー。ただの風船じゃ……って、くっさ!!」
「ふははははは! そいつにはポテトの吐息がたっぷりと入ってんだ! マジで臭えぜ?」
 誠は亜鷺をビシっと指さして決めポーズを取る。
「俺のイメージが悪くなるだろ!」
 誠は再びエクリプスに蹴り飛ばされた。
「ひ、ひどい……ひどすぎる。謝罪と賠償えお要求していいレベルだ……」
 あまりの臭さに、亜鷺は涙を浮かべて倒れ込む。こうしてイロモノバトルは誠&エクリプス組が勝利を収めたのだった。