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【2019体育祭】チャリオット騎馬戦

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【2019体育祭】チャリオット騎馬戦

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 二 チャリオット騎馬戦、開幕!
 
 午前十時。

「……十時になったわ。全員そろっているわね」
 梅琳がスタジアムを見回す。教導団とパラ実の両陣営に分かれた生徒たちは、チャリオットに乗り込んで睨み合い、競技の開始を今か今かと待ちわびていた。
「それじゃあアリーセさん、開始の合図をお願い」
「分かりました」
 アリーセは一つ咳払いをすると、大きく声を張り上げた。
「シャンバラ教導団対波羅蜜多実業高等学校inチャリオット騎馬戦――始め!」
 アリーセの合図で、両校の生徒が一斉が飛び出す。その中でも一番のスタートを切ったのはラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)率いる【波羅蜜多騎馬隊】だった。
「うっしゃあ! 小細工はなしだ! 正面突破!!」
 ラルクが威勢良く雄叫びを上げる。
 御者役の悠司はラルクの指示に従い……とは言っても正面突破なので、とりあえず事前に目をつけておいた良い馬に向かっていく。
 これを迎え撃つのは黒乃 音子(くろの・ねこ)とパートナーのアルチュール・ド・リッシュモン(あるちゅーる・どりっしゅもん)ニャイール・ド・ヴィニョル(にゃいーる・どびぃにょる)。音子たちは敵陣を一点突破する予定だったが、ラルクたちが向かってきたので応戦せざるをえなかった。
「おりゃあああっ!」
「いっちば〜ん槍ぃ〜!」
 ラルクと音子の武器が交錯する。しかし、二人の体格の差は歴然だ。すぐに音子が押されて体勢を崩した。
「隙あり!」
 ラルクが音子のハチマキに手を伸ばす。が、音子の頭はラルクの手をかいくぐった。
「そうはさせないであります!」
 御者を務めるアルチュールが華麗な手綱さばきで音子を救ったのだ。
「おまえなかなかのイケメンだな。でも容赦しねえぜ! あたしたちが勝ったらアドレス教えろ!」
 危機を脱したのも束の間、【波羅蜜多騎馬隊】のもう一人のメンバー泉 椿(いずみ・つばき)が、アルチュールを見てそんなことを言いながら音子に襲いかかる。ニャイールはバトルアックスを手に椿の前に立ちはだかった。
「左はミーが相手するで」
 ニャイールはどさくさに紛れて音子に抱きついている。
「二人ともありがとう、助かったよ。当初の作戦は一点突破だったけど、この相手は振り切れそうにないね。戦うしかないかな」
 音子が不適な笑みを浮かべる。アルチュールとニャイールも頷いた。
「よし、正面からぶつかり合ったんじゃ不利だ。アルチュール!」
「任せるであります!」
 馬の扱いはアルチュールの専売特許だ。アルチュールは巧みに馬を操り、ラルクたちの周りを高速旋回する。
「さあ、ここからが本番であります。お相手願おう!」
「いっくよー」
「今度はこっちの攻撃やで。ニャガル族の誇りに賭けて……ニャー!」
 音子とニャイールは、チャリオットの上から次々と打撃を繰り出す。ラルクと椿は避けるので必死だ。
「うお、危ねっ」
「くっそー、ちょこまかと。おい悠司、なんとかしろ!」
「無茶言うなって」
 周りを旋回されているので抜け出すことができない。悠司はチャリオットの位置を微妙にずらすので精一杯だった。
「それそれー、このまま一気に押し切っちゃうもんねー」
 音子の素早い槍による攻撃で、ラルクたちは徐々にチャリオットの隅へと追いやられていく。
「ちっ、しゃーねえなあ。秘密兵器を使うか」
 そこで椿が何かを取り出す。それは露天で買っておいた空気入りの王 大鋸(わん・だーじゅ)人形だった。
「あとはこいつを置いておけばっと……」
 椿は人形を前に突き出す。すると、人形のモヒカン部分がニャイールのハチマキに引っかかった。ニャイール自身が前進する力で、ハチマキがはずれる。
「あ、ミーのハチマキが! ねーちゃん、そりゃ卑怯ってもんやろ!」
「卑怯? 使用可能なのは空気の入った武器。あたしは何の違反もしてないぜ」
「ぐぬぬ……いくら意表を突かれたとは言え、ニャガル族として恥ずかしい戦いをしてもうた。無念や、ご先祖のラ・イール様に顔向けできへん」
 ニャイールは悔しそうにうつむく。
「ニャイールがやられた! アルチュール、分が悪い。ここは一旦退くよ」
 音子の指示で、アルチュールが馬を走らせる。
「ラルク!」
「おうよ!」
 それを見た椿はラルクの手を踏み台にすると、音子に向かって思いっきりジャンプした。
「逃がすかあああああ」
「へ? うわあっ!」
 激しい音を立てて、椿が音子の上に落下する。
「いたたたた……」
「よっしゃあ、取ったぜ!」
 椿が勝ち名乗りを上げる。その右手には音子のハチマキが握られていた。
「しまった」
「ふふん」
「全く無茶をする人だなあ。まさかチャリオットからチャリオットに飛び移るとは思わなかった。びっくりしたよ。見事にハチマキとられちゃった」
「あたしの勝ちだね。それじゃあ次の獲物を――」
「おっと、それはどうかな?」
 立ち去ろうとする椿に、音子が右手を差し出す。その上にはパラ実の黒いハチマキ。
「な、まさか!」
 椿は慌てて頭に手をやる。そこに彼女のハチマキはなかった。
「おまえいつの間に……」
「キミが飛び込んでくるのが見えたとき、ハチマキに向かって反射的に手を伸ばしたんだよね。一か八かだったけど、取れて良かったよ」
「ちぇ、なんだよ引き分けか。おまえやるじゃねえか」
「そっちこそ」
 さわやかな笑顔を浮かべ合う二人。と、アルチュールが言い出しにくそうに口を開いた。
「あの〜、良い雰囲気のところ悪いのですが、そろそろどいてもらえないでしょうか……」
 彼の顔は、椿のお尻の下敷きにされていた。
「わ、お前! 人のブルマに顔埋めてんじゃねえ! イケメンでも許さねえぞ!」
「な、誤解であります! そっちが勝手に!」
 椿はアルチュールに蹴りを入れる。
「わわ、ちょっとそこまでそこまで! ボクたちはもう脱落だよ。さっさと退場ないと」
 音子が止めに入り、ようやく椿が大人しくなる。
「やれやれ……どうやらあたしはここまでのようだ。すまないな」
 椿が言うと、悠司は彼女の健闘を称えた。
「何言ってんだ。椿一人で四ポイントだぞ。十分すぎるだろ」
「その通りだぜ! あとは俺たちに任せてゆっくり見ててくれ」
 ラルクも椿に向かって親指を立てると、再び戦場へと身を投じていった。