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学生たちの休日2

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学生たちの休日2
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「うーん、面白かったぁ。たんのー」
 プラネタリウムドームから出てきた立川るるは、外でうーんと大きく背筋をのばした。左手首の内側を見て、小さな時計のかわいい文字盤を確認する。
「まだ時間はあるよね。本屋さんで星の本でも買おうかなあ」
 そう言ってウィンドウショッピングをしながら歩き出した立川るるであったが、その足がふと止まった。
「いいよね、これ」
 彼女がぺったりと張りついてのぞき込むショーウィンドウの中には、大型の反射望遠鏡が飾られていた。大きな三脚でしっかりとささえられた太い純白のボディは、うっとりするほど美しい。これなら、パラミタの星の正体までもくっきりと見ることができるかもしれない。
「えーと、お値段は……。はう、だめだよね、○が二つほど多いんだもん……」
 値札を見て、立川るるはがっくりと肩を落とした。それでも、なかなか諦めることができず、ずっとショーウィンドウに張りついたままでいる。
 その後ろを、一組のカップルが通り過ぎていった。
「元気ですね、遥遠は。嬉しそうでなによりです」
 緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)は、横を歩く紫桜 遥遠(しざくら・ようえん)の上機嫌な様子を見て思わず顔をほころばせた。
「だって、いろいろと選んでみたいから、楽しみなんですよー」
 本当に楽しそうに、紫桜遥遠が答えた。緋桜遙遠の服を買いたいとは言っていたのだが、いったい何を買うつもりなのだろうか。緋桜遙遠としては、カジュアルな普通の服で充分なのであるが。
「ああ、ここです、ここ。新しくできた、おしゃれ着からアクセサリーまですべてそろうっていうビルですよ」
 真新しいビルの前に来ると、紫桜遥遠が緋桜遙遠の手を引っぱって率先して中へと入っていった。
「なんだか、メンズは少ないような気がするんですが……」
 店内に飾られている服を横目で見ながら、緋桜遙遠はつぶやいた。
「こっちこっち」
 紫桜遥遠に連れられるままに歩いていくが、さすがにランジェリー売り場のただ中を通るのは勘弁してほしかった。いくらなんでもガン見するわけにはいかないが、目をつぶって歩くというのも変な話だ。
 ああ、あのフリルのついた薄緑のブラとショーツのセットは紫桜遥遠に似合うかもしれない、などと考えているいると、ふいに紫桜遥遠が立ち止まった。
「さあ、着きました。これから、綺麗な服、たくさん選んであげますからね」
「いや、ここは……」
 ヤングレディス売り場だと、緋桜遙遠は言いかけて絶句した。
「うん、そうだよ」
 なんのためらいもなく、紫桜遥遠が答える。
「ああ、遥遠の服を先に買うんですね」
 分かったと、緋桜遙遠はポンと手を叩いた。
「違います」
 即行、紫桜遥遠が首を振る。
「じゃあ、メンズ売り場に……」
「ここで、遙遠の服を買うんです」
「どうしてそうなります」
 言い張る紫桜遥遠に、緋桜遙遠が困惑のため息をついた。
「だって、先日のハロウィーンで、遙遠の女装が結構様になっていましたから。これを機に、いろいろと服装のバリエーションを増やしてもらおうかと……」
「そういうことなら、遙遠は帰……」
「帰ると騒いじゃいますよ!」
 すうっと、紫桜遥遠が大きく息を吸い込む。
「わ、分かったから、早くすませてください」
 こんな所で叫ばれたら、男の自分はどうなるのだと、怖い考えに恐怖して、緋桜遙遠は紫桜遥遠に下った。とにかくここを乗り切らなければ……。
 経過はどうあれ、同意を得られた紫桜遥遠は、にこにこ顔で服の物色を始めた。
「これなんかどうかしら」
 真っ赤なパーティードレスを引っ張り出して、紫桜遥遠が緋桜遙遠に訊ねた。
「遥遠なら似合うかもしれないですが、遙遠にそれを着ろというのは、ある意味犯罪です」
「じゃあ、これはどうですか?」
 今度は、白いブラウスにチェックのミニスカート、その上にマイクロベストという組み合わせだ。これに、リボンタイと帽子でも組み合わせれば、ちょっと小粋なボーイッシュなスタイルになる。
「うん、似合いますよ、遥遠なら……。やっぱり、なんだかんだ言って、自分の服を選んでるんじゃないですか?」
 ちょっと安心したように、緋桜遙遠は言った。
「そんなことないわよ。別に、自分がほしい服じゃないんだから。遙遠に似合う服だと思ってるのよ」
「そう思ってくれるのはいいですが、スカートというのは……」
「大丈夫。着てしまえば、慣れるから」
 引きつる緋桜遙遠を、紫桜遥遠は試着室の方へと引っぱった。
「だから、それを着ろというのは……」
「着替えさせてほしいんですね」
「自分で着ます……」
 いつの間にか下着まで手に持った紫桜遥遠にじっと見つめられて、緋桜遙遠はしかたなく試着室に避難した。
「遥遠も着替えまーす」
 外でそう声がしたかと思うと、紫桜遥遠が隣の試着室に入ったらしい。ここに入ってこなくて助かったと、緋桜遙遠はほっとするとともに、ちょっと残念に思うのだった。
 
「ああ、ここが空いてるよ。留美、早く早く」
 真っ赤な衣装をかかえた久世 沙幸(くぜ・さゆき)は、同じ衣装をかかえた佐倉 留美(さくら・るみ)を試着室の方へと手招きした。他の人に取られては大変と、素早く試着室に飛び込んでカーテンを閉める。
「よかったですわ。もうコスプレ売り場の試着室は全部埋まってるんですもの。このまま一生着替えられないのかと思いましたわ」
「ちょ、ちょっと、留美は隣!」
 さも当然のように同じ試着室に入ってこようとした佐倉留美を、久世沙幸はあわてて押し戻した。
「あら、残念」
 負けじと押し入ろうとした佐倉留美ではあったが、頑強に抵抗されたのでとりあえずは諦めた。カーテンを閉めると、残念そうに拳を握りしめる。そのとたんにサンタ帽を落としてしまい、カーテンをミニスカートからはみ出たおしりで押すようにしてゆらしながら、身をかがめて拾いあげた。
「ミニスカサンタの衣装も、これで最後だったもんね」
 隣の試着室から、久世沙幸の声が聞こえてくる。
「何かイベントでもあるのですか?」
「知らないの? サンタさんのバイトがあるんだよ」
 佐倉留美の疑問に、久世沙幸が答えた。
「だからといって、みんながみんな、ミニスカサンタにならなくても……、あら、でも、少し、す・て・き・かも」
 思わずうっとりとしながら、佐倉留美は言った。
「留美、着替え終わったよー」
 試着室の外から、久世沙幸の声がした。
 しまったと、佐倉留美があわてる。先に着替えて、久世沙幸の試着室に乱入するというよこしまな企てが、脆(もろ)くも崩れ去った瞬間だった。
「ちょっと、待っててくださいまし」
 佐倉留美は、急いでホーリーローブとブラを外すと、すっぽんぽんになってミニスカサンタ服に着替えた。
「お待たせですわ。まあ」
 外で待っていた久世沙幸の姿を見て、佐倉留美は顔をほころばせた。
「おそろいですわね」
 ショルダーレスのワンピース型のサンタ服に、サンタ帽、長手袋、その裾はみんなもふもふのモヘアつきだ。そして、もふもふのチョーカーもついている。自分のことはさておいて、色っぽい。
「でも、ちょっとスカートが短くて……」
 一生懸命スカートの裾を下へと引っぱりながら、久世沙幸は言った。ミニスカートは好きではあるが、丸見えはちょっと困る。今のスカート丈だと、ちょっと動くとショーツが丸見えだ。
「留美はなんで、見えないのよ」
「気合いですわ」
「ええい、見せなさいよね!」
 自慢げに言う、佐倉留美に久世沙幸がふざけ半分でつかみかかっていった。
「こ、これ……」
 もつれ合った二人が、バランスを崩した。倒れまいとした佐倉留美が、思わず試着室のカーテンをつかむ。
 シャーッという音とともに、試着室のカーテンが開いた。
「ん?」
 中の鏡に全身を映してポーズをつけていた、スカート姿の緋桜遙遠の姿が現れる。
「へ、変態だわー」
 久世沙幸と佐倉留美が、声をそろえて叫んだ。
「何を言うんですか、ちゃんとしたペアルックです。行きましょ、遙遠」
「お、おい、この格好のまま……」
 紫桜遥遠が、二人が元着ていた服を問答無用でバックに押し込むと、レジの方にむかって緋桜遙遠を引きずっていった。
 
「まったく、どうしてこんなことに……」
 紫桜遥遠が服を返してくれないのですっかり諦めモードになった緋桜遙遠ではあったが、いざ開き直ってみるとだんだんとどうでもいいというか大胆になって、スカートのまま紫桜遥遠と歩けるようにまでなっていた。
「おっ、ちょっといいですか」
 楽しそうに腕を組んでペアルックとつぶやいている紫桜遥遠に、緋桜遙遠は声をかけた。そのまま、アクセサリー屋に入っていく。
「ついに、アクセサリーにまで目覚めてしまったのですね」
 怪しい妄想に、紫桜遥遠はもうおなかいっぱいという感じだ。
「うーん、これなんかいいかな」
 片羽根の形をした対のイヤリングを手に取ると、緋桜遙遠はそのままレジへと持っていった。
 紫桜遥遠が待っていると、ややあって、綺麗にクリスマス用の包装をされた小箱を持った緋桜遙遠が戻ってきた。見るからにプレゼントのようだが、誰にあげる物なのだろうか。
「では、次の店に行きましょう。そうそう、これ邪魔なんで、持っていてください。別に、あなたに買った物ではありませんから、誤解しないでください。でも、買ったはいいんですが、誰にあげるあてもないので、しばらく保管していてくださいね。中は見てもいいですが、返品はできませんからね」
「別に、返したりしてあげないわよ。そんなに言うなら、中身を見てあげるけど。言われたからするんだからね」
「後にしなさい」
「うん。家に帰ってからにする」
 緋桜遙遠に言われて、紫桜遥遠はそっとプレゼントをポケットにしまった。
「おっ、ペアルックのラプラブカップルだぜ」
 遠目に二人を見つけた雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が、容赦なく指さして言った。
「でも、なんで、二人ともスカートなんだ。ありゃ、絶対片方は男だろうに」
 自分で言っておいて、理解できないと雪国ベアは首をかしげた。
「まあ、人それぞれ、いろいろと趣味も嗜好もあるのであろう。それよりも、早く皆に追いつかねばな。保護者としては、ちと問題であろう」
 雪国ベアの肩に乗った悠久ノ カナタ(とわの・かなた)は、そう言って急かした。一緒に歩いていた緋桜 ケイ(ひおう・けい)ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)たちは、もうずいぶんと前を歩いている。雪国ベアが、ヴァーナー・ヴォネガットおすすめの店で、五段アイスのトッピングの組み合わせで悩んだために、二人だけおいていかれてしまったのだ。
「おう、少し走るぜ」
 そう言うと、雪国ベアは悠久ノカナタを乗せたまま走り出した。
 途中で、アクセサリーのワゴンに群がっている二人組のミニスカサンタを追い越していく。
「ベア〜、こっち、こっちです!」
 走ってくる雪国ベアに気づいたソア・ウェンボリスが、振り返って大きく手を振った。
「まったく、道案内をかってでた人が、一番後ろでどうするんですか」
「わりい。やっぱり俺様がいないと、御主人は迷っちまうからな」
 悪びれることなく、雪国ベアが言った。いつものことだと、緋桜ケイとヴァーナー・ヴォネガットは連れ添ってくすくす笑っている。
「そんなことないもん。みんな行きましょう」(V.脳内再生、または音楽室でVOICEをどうぞ)
 ちょっとむくれて、ソア・ウェンボリスが言い返した。
「それで、おすすめの店というのはどこなのかな」
「おう、すぐそこだあ」
 悠久ノカナタにあらためて聞かれて、雪国ベアは斜向かいのビルを指さした。何ともごてごてした派手なビルだ。
「なんでもそろう、『ゆるゆるサンチョパンサ』だ。チェーン店だが、お値段は激安、品揃えはたくさん、特にゆる族グッズは空京一の品揃えときている。クリスマスプレゼントを探すなら、ここが一番おすすめだぜ」
「あんたって、クマは……」
 自慢げな雪国ベアに、ソア・ウェンボリスはポンと肩を叩いて抗議した。
「とにかく、入ってみようではないか」
 悠久ノカナタに言われて、全員が店の中に入っていく。
 店内はカオスと言っていいほどに雑多な商品が、あまり整理されずに並んでいた。ビル全部がこんな感じだとすると、ある意味すごい。
「本当に何でもあるのだな。おや、地球の麻雀パイまであるのか。しかも、プラスチックではなく本物の竹とは。珍しい」
「へえ、それって珍しいんだ」
 子細に悠久ノカナタの様子を観察しながら、緋桜ケイは訊ねた。
「まあな。珍しいことは間違いないのう。昔はよく遊んだものでな」
「おおい、みんなこっちこっち」
 雪国ベアがみんなを呼んだ。苦労して店内を進んでいくと、自分そっくりのぬいぐるみの前に、雪国ベアが立っている。
「わあ、かわいいぬいぐるみ。かわいいは正義です。プレゼントにはいいかも」(V)
「まあ、かわいいって言っても、俺様ほどじゃないがな」
 走り寄ってぬいぐるみをもふもふするヴァーナー・ヴォネガットに、雪国ベアが言った。
「それに、うちの御主人へのプレゼントだったら、このシロクマのイラストのついたティーカップセットなんか最高だぜ」
 秘密情報だとばかりに、雪国ベアがヴァーナー・ヴォネガットに耳打ちする。
「その模様は、却下ですよ」
 小耳に挟んだソア・ウェンボリスが、ぽかりと雪国ベアの背中を叩いた。
「女の子へのプレゼントなら、あっちにあるアクセサリーなんかの方が喜ばれたりするんじゃないのかな。ヴァーナーさんもそういうの好きそうよね」
「へえ、そうなんだ」
 じゃらじゃらと無造作に壁に並んだアクセサリー類を前にして、緋桜ケイはつぶやいた。
 ペンダントや、ネックレスや、イヤリング、リングやアミュレットまでもが並んでいる。
「おや、それが気になるのかな。取り立てて魔力があるようには見えないがのう」
 緋桜ケイがアミュレットの一つをじっと見つめているのを見て、悠久ノカナタが訊ねた。
「うーん、形は面白そうだったんだけど、やっぱりこんな所で売っているのはたいした物じゃないか」
 ちょっと残念そうに、緋桜ケイは答えた。
「いいんだよ。このチープさがたまんねえんじゃねえか」
 シロクマのぬいぐるみにすりすりしながら、雪国ベアが叫んだ。
「まあ、とにかくいろいろ見て、いい物があったら買いましょう」
 ソア・ウェンボリスに言われて、しばらく一同は散らばってプレゼントを物色した。
 再び集合したとき、雪国ベアがいくつかの紙バックを手に持たされていた。ソア・ウェンボリスは結局外のワゴンに戻って買い物してきたらしく、違う店の紙バッグを雪国ベアに押しつけた。
「結局、俺様が荷物持ちかよ」
 予想はしていたんだと、雪国ベアが軽く悪態をついた。
「わらわを担がなくなったのであるから、楽勝であろう」
「いや、荷物の方が重いぜ」
 珍しく、雪国ベアが悠久ノカナタにお世辞を言う。
「そうそう、アンティークなカップなら、ザンスカールの骨董屋にいい物があるかもしれぬぞ。あそこなら、ほどよいアミュレットもありそうだしのう。よければ、今度案内してやろう」
「そいつは、覚えとくぜ」
 悠久ノカナタに耳打ちされて、雪国ベアはニヤリとほくそ笑んだ。
「それにしても、みんな何を買いやがったんだ」
「こらこら、のぞいちゃだめですよ」
 勝手に紙バックの中身を見ようとする雪国ベアを、ソア・ウェンボリスがたしなめた。
「ちぇっ」
 雪国ベアはやけに重たい紙バックと、もこもこ大きい紙バックと、ちょっと高級そうな紙バックを、透視してやるという感じで睨みつけた。
「まあ、プレゼントは、クリスマス当日のお楽しみということだな。楽しみはとっとくもんだぜ」
 緋桜ケイの言葉に、ヴァーナー・ヴォネガットがちょっと残念そうな顔になった。それを見て、ソア・ウェンボリスがちょっと背中を押してやる。
「えっと、そうだな、少し前払いしとくか」
「あんっ」(V)
 自分の前に押し出されてきたヴァーナー・ヴォネガットを見て、緋桜ケイはちょっと考えてから、コートの下にあるショートパンツ姿の身体を直接だきよせて軽くハグした。
「さて、わらわたちはお茶にでもしようかの」
「ああ、そうだな」
 やってられんわと、悠久ノカナタと雪国ベアがさっさと歩き出す。
「ああ、待ってよ」
 ソア・ウェンボリスは、ちょっと迷ってから、二人の後を追いかけていった。