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サンタさん? いいえ、ジュンロクです

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サンタさん? いいえ、ジュンロクです

リアクション


一章

 クリスマス――。

 それは、イエスキリストの生誕祭だが、そんなことは今の世には関係無い。
 クリスマスと言えばサンタさん。プレゼントを乗せたソリをトナカイに引かせ、世界中の子供たちにプレゼントを配る白ひげ赤服の老人。
 クリスマスと言えばパーティー。生誕祭とは、もはや関係無しにお祭りをする。何を祭ってるのか、それは誰も知らない。
 クリスマスと言えば恋人との、あまぁ〜い一時。お互いにプレゼントを交換してキャッキャッウフフ。
 そんなクリスマスには、誰もが幸せになれる。
 ただ、一部を除いて……。

 その夜は寒かった。雪が降り、風は吹き、おまけにそこは遮蔽物の無い、屋上だった。
 魔法学校イルミンスール。その屋上。景色は良好で、雲海の果てすら一望できそうだ。空は快晴。どこまでも広がる闇に輝く星々が散りばめられ、大きく欠けた月がパラミタの大地を優しく照らす。
 その中に、奇矯な動きで絶叫する者が一人。
「クリスマス、リスをルシミで、クルシミマス……字余りだよコノヤローッ!!」
 それは東條カガチ(とうじょう・かがち)という名のソルジャー。
「みんなしてクリスマスクリスマスクリスマスクリスマスクリスマスクリス魔ァァァァアッ!!」
 頭にサンタ帽。両手にトミーガンというちぐはぐな格好の彼は、その場にいた者の注目を集めている。
「ちくしょうッ! キャッキャッウフフしやがってぇ! ジュンロクだかスゴロクだか知らねえが、まとめて蜂の巣だよォ! ヒャッハー!!」
 後ろで束ねた黒髪を降り乱しながら、トミーガンも乱れ撃ちするその言動は、およそ、ギャングのものとしか思えなかった。

 無作為に放たれた弾丸は周囲にいた生徒たちの頭上とはいわず、眼前を通りすぎる。
「ちょ、ちょっと、危ないじゃないのよ!」
「ゆ、唯乃、伏せるのですよっ! か、かすっているのです!」
 当たりそうで当たらないプリーストの四方天唯乃(しほうてん・ゆいの)と、そのパートナーで魔女のウィザード、エラノール・シュレイク(えらのーる・しゅれいく)
 唯乃は、こうなったら私の光術で……、と言い。エラノールは、私も火術で手伝うのです、と続いた。
 光術で目暗まし、そのスキに火術を叩き込む作戦を立てる二人。
 流れ弾をやり過ごして、タイミングを見計らう。

「あいたた、あたた、いたいいたい、いたいですって」
 やり過ごした流れ弾は見事に奥にいたセイバーの額に命中していた。百点。
「ああいたい、この仮面が無ければ死んでいました」
 そう言った黒衣の男クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)は、自らの仮面を撫でる。弾はすべて仮面が防いだのだ。
「運が良かったなクロセル、頑丈な仮面だ」
「頑丈すぎますよマナ様!?」
 などというボケとツッコミを披露するのはパートナーであるドラゴニュートのマナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)と、獣人のシャーミアン・ロウ(しゃーみあん・ろう)の二人だ。共にローグでもある
「まあ、自分……ヒーローですから」
「そうか、ヒーローは仮面で銃弾を弾くのだな?」
「黙れ似非ヒーロー! マナ様、信じてはいけません!」
 弾丸が当たったにも関わらず、その事について言及すらしない三人だった。

「……なんか、うるさいわね。こっちは謎が解けなくて、徹夜してイライラしてるっていうのに〜!」
 寝不足の目を擦りながらフェルブレイドのカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)は、ヒーハ―ッ! と騒ぐカガチを睨む。
 隣では、パトーナーの機晶姫にしてビーストマスター。ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)が溜息をついた。
「それは寝ない方が悪いのだが……と言うとこっちもうるさくなるから言わないでおく」
 丸聞こえだった。
 愛らしい見た目とは裏腹にジュレールはハッキリと言うのだ。
「もーっ! ちょっと氷漬けにしてくる!」
「八つ当たりか。それでは、我はこのダンボールに隠れてジュンロクを待つとしよう」
 ビデオカメラを片手にそう言った。

 騒ぎが拡大する屋上。その上空には空飛ぶ箒で飛び回り、事態を俯瞰する影があった。
「スゴイ事になってるねカーラ。この中からジュンロクを捜すのは難しいかな」
「簡単です。私は高性能ですから、ティータイム前です」
 それはウィザードの鳥羽寛太(とば・かんた)と、箒の後ろに乗る機晶姫のパートナー。バトラーのカーラ・シルバ(かーら・しるば)の二人。
「それじゃあ、お願いするよ。ジュンロクはいるかな?」
 ズズッという音が聴こえ、次にカーラはビッと指さした。
「あの毛、角、間違いありません」
「いつの間にお茶を……いや、それよりも、あそこかい?」
 寛太が指の先を見ると、そこには一匹のドラゴニュートがいた。

 空飛ぶ箒に乗った二人組が降下する。
「おや? もしかして、ジュンロクを見つけたのでしょうか」
「それじゃあ急がないと、先を越されてしまうではないか」
 水上バイクに似た乗り物、小型飛空艇でジュンロクを捜していたプリースト。ルイ・フリード(るい・ふりーど)と、パートナーのセイバーリア・リム(りあ・りむ)は空飛ぶ箒の行く先を確認する。
「ふむ? ……はっはっはぁ! どうやらその心配は無さそうですよ」
 豪快に笑うスキンヘッド筋肉親父ルイに、機晶姫リアは首を傾げる
「どういうことだ?」
「まあそれよりも、本物のジュンロクが出て来たら……」
「了解してる。この六連ミサイルポッドを全弾お見舞いする」
「その意気ですよリアちゃん!」
 ミサイルの標的を捜して飛び続ける小型飛空艇だが、ルイは思った。
「全弾発射と意気込んじゃいましたが、周りの被害は……ま、大丈夫ですよね? ね?」

 屋上ではまだ乱射しているサンタ帽ギャング。
 その弾が足元に着弾。火花を散らせる。
「……ヒャハッ」
 凶悪な笑みを浮かべるソルジャーロッテンマイヤー・ヴィヴァレンス(ろってんまいやー・う゛ぃう゛ぁれんす)は喜びの声をあげる。
「ぃいねえ、ジュンロクを狩りに来たんだが……愉快そうなのがこんな所にもいるなんてなぁ」
 手紙にあった『良いモノ』を奪い、邪魔者は蹴散らすつもりだったロッテンマイヤー。
 手に持つアサルトカービンを構えて『邪魔者』を見据える。銃口はカガチに向けられた。
「さぁて……レッツ、パァァリィィィィィィ!!」
 真っ直ぐ、標的に向かって突撃する。
 戦闘では無く、戦争が始まってしまった。

 ドドドドドドドッ!
 パパパパパパパッ!!

「夜中にやかましいっ! これから寝る人もいるんだぞ! 俺だがっ!!」
 そう言って屋上にやって来たビーストマスターレン・オズワルド(れん・おずわるど)が目にしたものは。

 飛び交う銃弾。
 仮面で受け止める黒衣の男。
 空飛ぶ箒に乗る二人組に追われるドラゴニュートと、マナ様は某が守る! という獣人。
 辺りが一瞬、ピカッっと昼間の様に明るくなり、今よエル! という言葉。
 炎がサンタギャングを包み込むように放たれるが、同時に氷漬けになっていたサンタギャングの氷を溶かすだけだった。
 解凍されたサンタギャングはビショビショになっていた。
 寒さで頭が冷え、冷静になり。
 そこに銃を乱射して突撃してくるソルジャー。
「イヤァァァァァ来ないでェェェェゑゑゑゑゑ!!」

「…………」
「あの、これは一体なんですか?」
 そう訊いたのはウィザードベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)。ビーストマスター小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)のパートナーで剣の花嫁だ。
 美羽とベアトリーチェは、というより、美羽が問題を解けず、べ、別に問題が解けないから八つ当たりするんじゃないんだからね! の精神でジュンロクに八つ当たりしに屋上へと来たのだ。
 しかし、実際に来た屋上の有様を見て言葉を失った。それは訊かれたレンも同じだ。
「これは……地獄絵図だ……」
 レンにはそうとしか答えられなかった。
「美羽さん? 先程から静かですけど……?」
 一言も発しない美羽を怪訝に思うベアトリーチェ。顔色を伺っていると。
「アレ」
 言われて視線を辿る。そこには。
「前の箒二人乗り〜止まりなさ〜い!」
「なんかジュンロクじゃないみたいだけどカーラ? まあ、後でいいわけすればいいかな」
「あなたの角が折りたいです。いいですか?」
「折れるものならば折ってみよ!」
「タマ様!? 挑発はおやめ下さいっ!」
 おかしな鬼ごっこが開催されていた。美羽は、特にその中の黒衣の仮面男を見ていた。
「あの方がどうかしましたか?」
「目立ってるなんて……私より目立つなんて許さないんだからね!」
 争いの渦中へと突入していく。
「え、あ、あ〜……でも、ジュンロクなんて得体の知れない相手よりは良いですね」
 後を追うベアトリーチェ。残されたレンは。
「とりあえず、静かにするにはこいつらを黙らせればいいんだな。よし」
 人暴れして、一汗かいて寝るか。と、突撃しようとした。
 その時、奇妙な音を聴いた。

 シュゴォォォッォォォオッ!!

 次の瞬間には爆破音が轟き、屋上が爆炎に包まれていた。

「……撃っちゃった」
「…………」

 爆風でダンボールが吹っ飛び、下からジュレールが姿を現す。
 彼女は見た。ロケットが飛んで来て、爆発。パートナーが炎に消えた光景を。
「……カレン?」
 さっきまで、元気に氷術を放っていた。その場所を見つめる。
 そこには、もう……誰もいない。

「あ〜死ぬかと思ったよっ!!」
「だと思った」

 背後から現れたカレンは若干コゲていた。
「どんなギャグ能力で生き残った?」
「いやあ、実力ってやつ? 本当に危なかったんだよ!」
「まったくだわ。二人がいなかったら丸焼よ」
「私だけでは防げなかったので助かったのです」
 そこには唯乃とエラノール。実はこの三人、爆炎に巻き込まれる前に、カレンとエラノールの氷術で作り上げた氷柱を盾にしたのだった。
「それで、こんな事をする悪い子は誰なのかなぁ〜?」
 宙に浮く小型飛空挺に目を付ける。

「ああ良かった。誰も怪我してません」
「一安心だ。でも、睨まれてる」
「……他の所に行ってみましょ――」
 そこで言葉は途切れた。何かが、誰かが上から落ちて来たのだ。
 何人も。
 そして彼等は墜落した。