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 第5章 記録された魔女


 ホレグスリの作成者であるエリザベートは残りの薬全部をペットボトルに入れ(瓶はさすがに重い)、着々と勢力を伸ばしていた。彼女の右隣をビデオを持った風間 光太郎(かざま・こうたろう)が、左隣を幻 奘(げん・じょう)が固める。
 そこに、神代 明日香(かみしろ・あすか)がやってきた。ミーミル・ワルプルギス(みーみる・わるぷるぎす)の手を握っている。光太郎と明日香は、それぞれ「あ」という顔をしたが、すぐに表情を切り替えた。
「ミーミルじゃないですかぁ〜何やってるですぅ〜? 危ないから早く戻りなさぁい〜」
「その危ない状況を作ったのは誰ですかぁ〜?」
 校長のレオタード姿には怯まず、明日香は男子生徒から奪った原液の小瓶を突きつけて詰問する。
「一流の魔法使いであるあなたが、後始末の用意をしてないはずがないですよねぇ〜?  解毒剤を出してください〜!」
「そんなもの、無いですぅ〜」
 唇を尖らせて、エリザベートはそっぽを向いた。
「此処で、同姓の私が飲むとどうなるのかなぁ〜?」
 明日香は、エリザベートの瞳に視線を集中させて薬の瓶を口につけるふりをする。
「好きにしなさぁい〜、私には味方がいっぱいいますぅ〜、あなたが捕まるだけですぅ〜」
 どこからこんなに大量に調達したのか、エリザベートはレオタードを着た取り巻き達を仰ぎ見る。
 だが、明日香は余裕を崩さずに言った。
「ミーミルちゃんに飲ませちゃいますよ〜?」
 ミーミルを片手で抱き、自分の時と同じように瓶を口元に持っていく。ミーミルは「?」という顔でされるがままだった。
 初めて、エリザベートが顔に焦りの色を浮かべる。悔しそうにしてから、白状した。
「昨日の夜に作った薬の解毒剤なんか、そんな即席に出来ませんよぉ〜。まあ、作る気もなかったですけどぉ〜。さあ、ミーミルから離れなさぁい〜」
 エリザベートの言に明日香はびっくりして、それから頬を膨らませた。
「無責任にもほどがあるですぅ〜。一流の魔法使いでも校長でも、やっぱり子供です〜。でも、本当ですかねぇ〜」
 そう言って、明日香は持っていた薬を呷った。視線をエリザベートに固定しようとする。しかし、そこでミーミルが割り込んできた。
「何してるんですか? 明日香さん」
「!」
「ミーミル!」
「あーあ……でござるな」
 ミーミルを見た明日香は、恋をする少女そのままに彼女にしなだれかかった。
「ミーミルちゃん、大好きです〜。エリザベートさんなんかほっといて私と一緒に来ませんか〜?」
「残念ですけど……お母さんはあれでも良いところがたくさんあるんですよ。明日香さんも好きですけど……」
「知ってますぅ〜。肩肘はって苦労して、ちょっと……すこし……かなりひねくれちゃってるけど〜、其処がまた可愛いんですよねぇ〜、でも、ミーミルちゃんの方が可愛いですぅ〜」
 紡ぎだされる言葉に赤くなったり怒ったりと忙しくしていたエリザベートだったが、明日香がミーミルとキスしようとしたところで我に返った。
「と、取り押さえなさいぃ〜」
 ぎりぎりのところで、ミーミルの唇は守られた。

「どうだ、できたか?」
 エリオット・グライアス(えりおっと・ぐらいあす)に請われ、クローディア・アンダーソン(くろーでぃあ・あんだーそん)は透明のビニールに入れたクッキーを掲げて見せた。袋は2つ。1つはノーマルで、1つにはホレグスリが入っている。食べる人が気付かないように食紅を足したせいで、クッキーの色はかなり毒々しかった。
「……もう少し、自然な色には出来なかったのか」
「それなら、自分で作れば? 言っておくけど、私は今回の計画に賛成したわけじゃないんだから」
「もう同罪だ」
 エリオットはクッキーを受け取ろうとしたが、思い直して手を引っ込める。
「お前が渡した方が効果的だろうな。――行こう」
 彼は、ちょっとした悪戯心でエリザベートにホレグスリを摂らせようとしていた。
普段から思いつきで行動し、またやたらと生徒をこき使うエリザベート校長。自分もこれまでに、まともなものから無茶苦茶なものまで「あの」校長の命令で依頼をこなしてきた。というわけで、たまには生徒の方から「仕返し」させてもらってもいいだろうと思ったのだ。
別に、恋愛を狙ってのことではない。要は「あの」校長を罠にかけることができればそれでよかった。