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闇世界…ドッペルゲンガーの森

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闇世界…ドッペルゲンガーの森

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第10章 惑わす森

「見つかりませんねクリスタル・・・」
 恐怖心を押さえ込み、影野 陽太(かげの・ようた)はドッペルゲンガーの襲撃を警戒しながら慎重に探す。
「出合ったとしても、無理に倒さないほうがいいですわね。体力を消耗してはクリスタル探しどころではありませんもの」
「そのほうがいいですね。(特に幽霊は相手にしたくありませんから)」
 隣でヒソヒソと小声で話しかけるエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)に頷く。
「森に来たところから一応、道順をマップにしてみたんですけど・・・もうこれ迷路ですね・・・」
 書き込んだ用紙をバサッと広げ、脱出が不可能そうな迷路の地図を眺めた。
「何かいい探索方法ありませんか?」
 陽太は困り顔でレヴィアに訊ねる。
「残念ながら今のところないな・・・」
「そうですか・・・・・・」
「クリスタルの破壊方法は知っているのか?」
 同行している虎鶫 涼(とらつぐみ・りょう)が問いかける。
「他の者たちがすでにいくつか破壊しているようだから人の手で壊すことは可能だろう・・・」
「簡単に壊せるということだな」
「それなりの力があればな・・・。例え破壊したとしても、派手に音を立てるとドッペルゲンガーやゴーストを寄せてしまうから注意せねばならない」
「なるべく遠距離から壊したほうがよさそうだな」
 破壊方法についての説明を聞くと涼は納得したように頷いた。
「森に来てから何時間経っているんだ・・・もうだいぶ探し歩いているんだが」
 涼は携帯電話を取り出して時間を確認すると、入ってきた時間で止まっている。
「―・・・霊的障害とやらのせいか?」
「この闇世界では時計が全部止まってしまっているようです」
「そうなのか・・・?特に不便はないが不思議だな・・・」
 不思議そうに携帯電話の時刻を見つめる涼に陽太が簡単に説明をしてあげた。
「あまり長時間いることで時間の感覚がなくなってしまうと、生きてるのか死んでるのか分からなくなってパニックを起こす者もいるかもしれないな」
 1人でこんなところにいたら錯乱する者もいるかもしれないと呟く。
 いつゴーストたちが襲ってくるか分からない場所にいることで精神も病んでしまうような場所だ。
「(やはり時間がわからないと、どれくらい歩いたか分からないな・・・)」
 鏡の外では2時間ほどしか経っていないが、涼自身はすでに5時間は歩いている感覚だ。
「オメガさん・・・いつここへ攫われたんでしょうね」
「食べ物もなさそうだからな、攫われたの中には飢え死にしている生徒もいるかもしれないぞ」
「早く助けてあげないと・・・。暗くて恐ろしい森の中で1人ぼっちなんて、俺だったら耐えられないですね絶対に」
 もし自分が1人でぽつんといたらと想像した陽太は顔を青ざめさせる。
「闇雲に探しても見つかりそうにないな。見晴らしのいいところから探してみるか」
 バーストダッシュのスピードで大木へ駆け上がり、涼は双眼鏡を覗き込んで探す。
「もう少し高い位置から見たほうがよさそうだな」
 隣の木へ飛び移り、クリスタルのある位置を確認しようと周囲を見回した。
「草の中に隠れててよく見えないが・・・何か光っているな・・・・・・もしかしてあれか?」
 確認しに行こうと木から飛び降りる。
「何か見つけましたか?」
「あぁ、草の中で何かが光っていた」
「たぶんそれですわ!」
「行ってみるか」
 涼たちは邪魔な草をかきわけて向かう。
「クリスタルとはこれか?」
 宝石のように美しく輝くクリスタルを見つけ、これがそうなのかレヴィアの方を向いて聞く。
「あぁそうだ」
「―・・・壊すにしても回りの草が邪魔だな」
 邪魔な草を排除しようと涼はツインスラッシュの刃風で斬り払う。
「あまり威力が強い爆弾を使うと森が燃えて大変なことになってしまいそうですから、威力が小さく爆発させやすいやつを使いましょう」
 破壊工作用の液体酸素爆薬を詰めた爆弾を作り、クリスタルの周囲にしかける。
 陽太が合図を送るとエリシアは導火線へ火術を放つ。
 ズドォォオオンッ。
 爆弾によってクリスタルはバラバラに砕け散った。
 騒音を聞きつけたゴーストたちがそこへ集まってくる。
「あわわっ、早くここから離れましょう!ひぇえっ道にゴーストが!?」
「驚いている暇はありませんわ、さっさと撃ちなさい陽太!」
 ビビる陽太にエリシアが檄を飛ばす。
 早く倒すように促された陽太はスナイパーライフルのスコープでゴーストの頭部に照準を合わせ撃ち抜く。
「数が多いな・・・しまった!」
 涼は不意をつかれてしまい、襲いかかるゴーストの爪に狙われてしまう。
 レヴィアに助けられ、転んだ掠り傷程度ですんだ。
「庇ったせいで傷を負ってしまったようだな」
「この程度のことは気にするほどでもない・・・」
「向こうの方は隠れやすいですわ、急いで!」
「まっ、待ってくださいよーっ。俺を置いていかないでください〜!」
 先に逃げていくエリシアたちを陽太は全力で追いかける。



「さてどうしたもんか。数時間は探しているはずだが見つからないな」
 ロブ・ファインズ(ろぶ・ふぁいんず)は見通しのいい樹木の上からオメガを探す。
「ドッペルゲンガーに気付かれてしまう可能性があるし、大声で呼びかける訳にはいかないし地道に探すしかなさそうだな・・・」
 どうやって探そうかと考え込んでしまった。
「ロブさん人影が・・・!」
 両手を振ってアリシア・カーライル(ありしあ・かーらいる)が知らせる。
「オメガだといいんだが」
「本物か分からないから少し離れたところで確認しようぜ」
「そうだな・・・」
 慎重に行動しようというレナード・ゼラズニイ(れなーど・ぜらずにい)の言葉にロブが軽く頷いた。
「―・・・すみません、違う人のようです」
「女ですらないな・・・背もでかいし」
 相手から死角の位置になる木の陰へ隠れているアリシアの傍へ行き、レナードは確認して小声で言う。
 髪の長いシャンバラ教導団の生徒の姿が見えた。
「こいつら、喰っていいか」
 潜んでいたドッペルゲンガーのカルキノスがぬぅっと現れる。
「後にしておけ」
 アリシアたちの存在に気づいたドッペルゲンガーのダリルが首を左右に振る。
 逃がさないように偽者のカルキノスがファィアーストームの炎でとり囲む。
「私たちは助けなければいけない方がいるんです、ここでやられるわけにはいきません!」
 レナードの腕をしっかり掴み、バーストダッシュの能力で炎を飛び越え、殺されてなるものかと逃れる。
「逃げるなぁあメシィイイッ!」
 喰らってやろうとサンダーブラストを放つが、逃げられてしまい悔しそうに地団駄を踏む。
「ドッペルゲンガーが現れましたロブさん!早くこの場から離れましょう」
「先に逃げろ!」
 光精の指輪の妖精を呼び出し、目晦ましをくらわせロブも無数の木々が並ぶとこへ逃げ込んだ。



「だいぶ歩きましたけど見つかりませんねぇ」
 疲れきったメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)はしゃがみ込んでしまう。
「そうね、体力を温存するために少しだけ休もうか」
 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)が彼女の隣にぺたんと座る。
「休憩は5分程度にしましょう」
 砂時計を取り出しフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)はきっちり時間を計る。
「ぇえーそれだけ!?」
 フィリッパに向かってセシリアがブーイングをした。
「休みすぎると逆に疲れてしまいますわ」
「むぅ・・・分かったよ」
「ちょっとフィリッパ・・・・・・あっちに女の子の姿が見えません?」
「どこですの?」
 彼女の視線の先を見ると、少女が1人で森の中を歩いていた。
「オメガちゃんだね!」
 やっと探し出せたことで急に元気になったセシリアは立ち上げリ、少女の方へ駆け寄っていく。
「見つけたよーっオメガちゃん〜!あれれ・・・何で逃げるの?待ってよ、ねぇってば!」
 追いかけると魔女は怯えた表情でセシリアから逃げてしまった。
「何で逃げちゃうの、待ってよオメガちゃん!―・・・うぁあっ!?」
 木々の間から飛び出たその時、何者かとぶつかってしまい地面に尻餅をついてしまう。
「こらぁあっ、危ないじゃないか!」
 シャンバラ教導団の男が怒鳴り散らす。
「ご・・・ごめんね・・・。あっ・・・オメガちゃんは!?」
 キョロキョロと周囲を見回すが、すでに魔女の姿はそこになかった。
「どうしたんですかレナードさん」
「またドッペルゲンガーが現れたか!?」
「いやちょっとそこでぶつかってしまってな」
 レナードは立ち上げると服についた土を手で払い、駆け寄ってきたアリシアとロブへ顔を向ける。
「悪いな怒鳴ったりして・・・」
「ううん、僕のほうも急いでたから・・・」
「ひょっとしてオメガを探しているのか?」
「そうだよ・・・さっき見つけんだけど逃げられちゃった」
「ドッペルゲンガーかと思われたのかもしないな」
「うーんそうかもしれないね」
「セシリアーー!」
 息をきらせながらメイベルが駆け寄る。
「あれ・・・オメガさんは?」
「それがその・・・逃げられちゃった」
「たぶんドッペルゲンガーに襲われて怖がっているのしかもしれませんわ・・・」
 メイベルの後からやってきたフィリッパが悲しそうに目を伏せて小さな声で呟く。
「見つけたらやたら追いかけないほうがいいかもしれないな」
「そうしましょうか」
 逃げられないようにゆっくり近づこうというロブの提案にメイベルが頷いた。
 怯えているオメガを助けようと生徒たちは再び森の中を歩きだした。