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空賊よ、風と踊れ-ヨサークサイド-(第2回/全3回)

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空賊よ、風と踊れ-ヨサークサイド-(第2回/全3回)

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chapter.11 中央遺跡1・崩壊 


 15時01分。
 ヨサークたちは島の中央付近まで歩を進めていた。入り組んだ廃墟の中を歩くヨサークと生徒たちは、ここに来るまでに新たに2枚の壁画を発見していた。
細道を抜けると少し開けた場所に出たので、一行はそこで小休止を取ることにした。腰を降ろした陽太が、壁画のことを話し出す。
「最初、お昼前くらいに梓くんたちが見つけた壁画は、雲のような模様の中を、翼を持つ黒い女性らしきシルエットが飛んでいる姿でした」
 そして……と陽太は2枚の写真を取り出した。新しく見つけた2枚の壁画を、撮っておいたのだ。
「こっちが、俺たちがあの後2番目に見つけた方です」
 そこに写っていたのは、同じく翼を持った、女性らしきシルエット。そのシルエットを囲むように、歪な線が何本も描かれていた。よく見ると描かれている女性はところどころ色が違っており、歪な線が触れている部分だけが黒くなっているようだった。
「もうひとつは……さっき見つけた、これですね」
 写真を見ると、今度は女性らしきシルエットが数人に追われているような絵があった。前の2枚と同じく女性に翼は生えているが、シルエット自体はこれまでのような黒いものではなかった。
「博識のスキルでもこれを解明することは出来ませんでした。翼が生えている女性、ということは守護天使かヴァルキリーなのかな、とは思いましたけど」
 他の生徒たちも色々と考えたりしてはみるものの、いくつかの予想がぼんやりと出るだけで、それを裏付ける証拠も情報が誰かの口から出ることはなかった。もっと深く考え込もうとする生徒たちを、ヨサークが急かす。
「おめえら、そんな絵のことよりも、そろそろ島の中央部に着くぞ! さっきから俺の勘が言ってんだ、もうすぐ何かが見つかるってよお」
 そして再び彼らは立ち上がると、廃墟の合間を縫って歩き始めた。



 戦艦島の中央に建っている遺跡。
 大きさは比較的小規模で、地上3階分ほどの高さしかない。外観は一見特徴がないように思えるが、上空から見るとそこにある特徴が現れている。平らな屋根に、鏖殺寺院の紋章が刻まれているのだ。上から見れば気付くことが出来るが、屋根の上にいると単なる傷と見落としかねないほどの、些細な意匠である。

 ここに現在いるのは、島村組のメンバーだけのはずであった。入口前の大きな踊り場で深い穴をいくつも掘り終えた彼女たちは、その後遺跡内へと入り、中の様子を調べていた。それに気付かず、今遺跡内へと侵入しようとしていたのはクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)だった。
「やっと……やっと俺の出番が来ました……! さあ、俺が溢れ出しますよ!」
彼はここに来る途中まではヨサークと共に行動していたのだが、中央遺跡の存在を知るや否や離脱し、フリューネ側に属していたパートナーたちと合流するため遺跡の裏手側でパートナーが来るのを待っていた。そこに、フリューネ側にいたふたりのパートナー、マナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)シャーミアン・ロウ(しゃーみあん・ろう)が駆けつけ、無事合流を果たす。
「クロセル……この変装は、必要であったのか?」
「マナ様、おそらくそれは、こいつの趣味です」
 クロセルは、離脱の際素性がバレないようにと、変装をあらかじめしていた。元々目元を覆う白い仮面を装着している彼だが、今回はさらにそれに加え、サングラスとカラスマスク装備という、かなりの変質者スタイルだ。そしてこの変装はマナとシャーミアンも同様にしていたため、3人とも顔の露出部分が一桁という怪しい集団になっていた。クロセルに至っては仮面の上からサングラスをかけているせいで、変人指数がより上昇していた。
「マナ様のお言葉がなければ、このような格好など決してしないものを……!」
 今にもクロセルに殴りかかりそうなシャーミアン。どうやら彼女だけは、納得した上でこの格好をしているわけではないようだった。
「今は格好でうんぬん言っている時ではありません。さあ、これよりユーフォリア強奪作戦を始めますよ!」
 クロセルが悔しがるシャーミアンを横目に作戦開始を告げる。と、拳を握り上を見たクロセルがぽつりと呟いた。
「もし、既に中に誰かがいるとしたら……正面から入っては、ヒーローとして0点ですね」
 ヒーローの原型はまるでないのだが、どうやら彼はヒーローにこだわりを持っているらしい。クロセルはそう言うなり、おもむろに屋根へと上り始めた。それを「始まったか……」というような目で見ているクロセルとシャーミアン。
「あれ……ふたりとも、上らないんですか?」
「さあマナ様、行きましょう。それがしたちは、至って普通に」
 上から見下ろしているクロセルを無視するように、シャーミアンはマナと共に遺跡の中へと入っていった。ちなみに正面入口前に通じている踊り場には島村組が掘った穴がたくさんあるが、クロセルたちがいた裏手側にも実は目立たない場所に入口があり、そちらには穴が掘られていなかったのだ。そこから侵入を試みるマナとシャーミアンに対し、屋根を上りきったクロセルは採光用と思われる天窓を見つけていた。
「これは……助かりましたね。これがなかったら、ドラゴンアーツで無理矢理穴を開けるしかありませんでした」
 彼に、天井以外から入り込むという考えはないようだ。ちなみにきちんと内部へ続く階段が設けられているのだが、クロセルの目にそんなものは映っていなかった。
 中の様子を窺おうとクロセルが覗き見ると、そこは天井高く造られた大広間で、部屋には数名の生徒がいるのが見えた。何やら壁などを見て話し合っているようだ。
「やはり、先を越されていましたか……しかし、ヒーローは遅れてやってくるのが常識ですからね。そこは問題なしです」
 目を凝らして見ると、部屋の中央に翼のようなものを背中に生やした人型の石像があり、それを数名の生徒たちが運び出そうとしているところだった。
「もしかして、アレがユーフォリアですか……?」
 クロセルが飛び出るタイミングを計り、窓に手をかけた時。持ち出そうとした数名の生徒のところに新たに3人の生徒が現れるのを彼は見た。どうやらその3人も像を持ち出そうとしているらしく、最初にいた生徒と対峙していた。それを見て、クロセルは確信した。
「さては、今がベストタイミング!!」
 クロセルは急ぎ小窓を開け放つ。そして窓の縁にぶら下がり、大声で名乗りを上げた。
「ハーハッハッハッハ! 皆さん、お待たせしました! お待ちかねの俺がやってきましたよーっ!!」
 一手に注目を浴びるクロセル。彼はもうそれだけで割と充分だった。ユーフォリアを空賊の手に渡さないようにしよう。最初はそう思って行動に及んだが、あまりにも視線が気持ち良すぎて一瞬他のことを忘れるほど陶酔した。
「ハーハッハッハッハ! ……ええと、ちょっと待ってくださいね」
 注目が集まったことを確かめると、クロセルは石壁の継ぎ目を伝いゆっくりと下へ降りた。その所要時間は約10分にも及んだ。
「……何をやっとるのだ」
 下では、彼のパートナーが待ちくたびれていた。やっと地面に降りたクロセルとパートナーたち、新たに現れた3人の生徒、そして最初にいた数名の生徒たち――島村組。この三つ巴の戦いの火蓋が今、切って落とされようとしていた……と思っていたのはクロセルだけで、彼はこの後顔面を鞭でしばかれ、即座に脱落したのだった。登場シーンに全てをかけていたため、戦闘のことまで頭が回っていなかったのが彼の敗因だろう。そして残ったふたつの勢力は、しのぎを削りあうのだった。



 時刻は16時を過ぎていた。
 クロセルが丁度名乗りを上げていたその頃、ヨサークたちもついに中央遺跡へと辿り着いていた。上を見上げ、ヨサークが呟く。
「間違いねえ。ここに何かがあんぞ」
 自然と警戒を強めながら、ヨサークたちはその遺跡の入り口を目指して上へ上へと登り始めた。やがて大きな踊り場に足を踏み入れたヨサークだったが、その時罠発見職人、和人が何かに気付く。
「この場所、妙に怪しいぜ……! どことなく、地面が掘り返された後があるような……」
 和人のそんな言葉で他の生徒たちもスキルを使用し、罠の有無を急いで確かめる。その結果、無数の落とし穴がこの踊り場に仕掛けられていることが判明した。
「舐めたまねしてくれるじゃねえか……!」
 ヨサークは怒りを覚えながらも、穴に足を踏み入れぬよう慎重に歩を進めようとする。
 その時だった。
 落とし穴ゾーンを挟んだ反対側に、集団の姿が見えた。その先頭に立っていたのは、あの女義賊、フリューネである。彼女の後ろには、こちら同様に依頼を受けて集まったであろう生徒たちが集まっている。
ヨサークとフリューネは、互いの存在に気が付くとその口を開いた。
「ユーフォリアを狙ってるって噂は本当だったみたいね、ヨサーク」
「義賊とか言われて調子こいてんじゃねえぞクソパンツ。下半身冷やしてそのまま腹痛に悩まされてろボケ」
「やっぱり下品な男ね……それを言ったら、あんたは上半身冷やし過ぎなんじゃないの?」
「うるせぇ! おめえのヘソの胡麻ほじくり返して、炒り胡麻にして戻すぞっ!」
「こっちはあんたの指バキボキにへし折って、二度と農作業出来ない身体にしてやるわ!」
 フリューネがハルバードを突きつけると、ヨサークは鉈を肩に担いだ。
「とにかく、絶対にユーフォリアは渡さないわ!」
「うるせぇ、クソアマ! こっちの台詞だ! 近日中に胃下垂になれ! それか死ね」
 ヨサーク側。フリューネ側の生徒たちも、睨み合いに参加している。
 そのやり取りを中断させるかのように、ぴし、と何か不吉な音が響いた。
 生徒たちがそれを耳にし、何かが起こると警戒を強めた次の瞬間、足下に無数の亀裂が走った。ただでさえ穴だらけで地盤が緩んでいる所に、大勢の生徒が押し寄せたのが決定打となったようだ。ヨサークとフリューネは声を張り上げた。
「みんな! 早く上に登って! ここはもう崩れるわ!」
「なんだおい、これ!? 誰の許可取って勝手に土掘ってやがんだ! 耕すのは俺の専売特許だろうが……!」
 ふたりの言葉とほぼ同時に、崩落は始まった。
 一瞬にして地面はその形を変え、ガラガラと音を立てながら生徒たちを飲み込んでいく。突然の出来事に多くの生徒は脱出が間に合わず、また多くの生徒は自分の身に何が起こったか知る事もなく、瓦礫と共にその姿を煙の中へと消した。

 間一髪生き埋めを免れ、跡形も残っていない踊り場と遺跡入口の間、崩れかけの階段に立っていたのは、ヨサークとフリューネ、そしてそれぞれの陣営の中で運良く危機を脱することが出来た数名の生徒だけだった。
「ちっ、遺跡に誰かがいんのはもう間違いねえな……俺の船員はこんなので死ぬほどヤワじゃねえ。先に耕すのはあっちだ!」
 ヨサークは後ろに広がる瓦礫の山を一瞥すると、正面を向き直り遺跡へと駆け抜けた。彼の近くに位置していたため上へ残ることが出来たヨサーク側の生徒、団員のナガンもそれに続こうとする。が、ヨサークとナガンを分断させ、ナガンの前に立ちはだかったのは島村組の遠野 歌菜(とおの・かな)、そして彼女のパートナーリヒャルトだった。歌菜のそばにはゴーレムも立ちはだかっていて、さすがのナガンもこれには足を止めざるを得なかった。距離を開けられたナガンの耳に、ヨサークの声が届く。
「おめえはそいつ耕しとけ!」
 それを聞いたナガンは、にぃ、と軽く笑い歌菜に目を向けた。
「団長命令だ、手加減しないぜェ」
「ヨサークさんに、女性の素晴らしさを……ううん、愛の素晴らしさを、教えてあげたいんですっ! だから、悪いけど下に落ちてもらいます!」
 言うが早いか、歌菜はゴーレムをナガンにけしかける。自身よりもやや大きな姿をしたそれは、ナガンを下へ突き落とそうとその硬い体で迫ってくる。しかしナガンは人を食ったような動きでゴーレムを翻弄し、易々と触れさせない。ゴーレムの突き出しを掻い潜ったナガンは、そのままゴーレムの持ち主である歌菜のところへと突っ込む。
「ヒャハァ!! あんな鈍いもんでナガンを落とそうなんて甘いんじゃァないか!?」
 が、歌菜にとってゴーレムは囮に過ぎなかった。彼女の本当の狙いは、それをすり抜けてきた相手への直接攻撃。
「歌菜ちゃん、今だよ!」
 リヒャルトの合図で、歌菜とリヒャルトは左右に分かれた。攻撃の対象を一瞬迷ってしまったナガンの両脇に、鋭い痛みが走る。ヒロイックアサルトによる、エルフの一突きだ。痺れるような痛みに思わず後ずさったナガンを、歌菜がとどめと言わんばかりに強く押し、瓦礫の中へと落とした。
「下へ参りまーす、なんてね!」
 おどけて片手をすっと出すと、その手にリヒャルトが軽く触れた。同じ役目を負ったカガチは無事だろうか。姿の見えない彼に少しの不安は残るが、とりあえず目の前の敵を排除出来たふたりは安堵の表情を浮かばせた。
「これで、僕たちも無事役目を果たせたね」
 ここに残った島村組の役目、それはヨサークとフリューネをふたりきりにさせ、他の邪魔な生徒と隔離させること。島村組の計画は着々と成功に向かって進んでいた。

 背後でそんな戦いが行われている中、ヨサークは遺跡入口へと到達していた。それはしかし、フリューネも同じだった。扉を開け、中へ入ろうとするフリューネ。しかしヨサークは、女に遅れを取ってたまるかと自分が先に中へ入ろうとする。
「おい、何女が勝手に開けようとしてんだこらあ!」
「後から割り込んできたのはあんたでしょ? その手離しなさいよ」
 入口を前にして、いがみ合うふたり。その時、ふたりの頭上から声が聞こえた。それは、一足先に遺跡内部で石像を手に入れ、屋根へと上っていたメイベルと島村組のリーダー、幸だった。その腕には、遺跡で手に入れた石像がどんと抱えられていた。
「これが欲しいんでしょう? 争ってる場合じゃないですよ」
 欲しければふたりで力を合わせ、奪ってみなさい。言い換えればそれは、こういうことだった。これでふたりがこちらに向かってくれば、島村組の計画は大成功となる……はずだった。幸のところに迫ってきたのは、ヨサークでも、フリューネでもなかったのだ。そこに突如現れたのは、ずっとこの機会を窺っていたレイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)だった。
彼は日中の間既に光学迷彩を使用してヨサークのところから抜け出し、ユーフォリアを手に入れるチャンスを待っていたのだ。そして今、最大の好機が訪れたのだ。
「未開の地にある秘宝なんてワクワクするもの、他のヤツに取らせるわけには行かないぜ!」
 屋根の上に上っていたレイディスはそのまま幸たちのところに近付くと、問答無用で爆炎破を放った。際どいところでそれをかわした幸たちは、反撃に出ようとする。しかし、そんな幸たちとレイディスの間に、聞き覚えのある声が届いた。
「ハーハッハッハッハ! ここで、このタイミングで俺ですよ!!」
 それは、ついさっき遺跡内で他の生徒にやられたはずのクロセルだった。彼はあの後しばらく放心状態だったが、屋根に誰かが上っているようだと気付くと、こうしてはいられないと気力を振り絞り立ち上がったのだ。
「高いところは俺の専用ポジションです! 屋根上は戦場ですよ!」
 クロセルを派手に演出するかのように、そのタイミングで突如遺跡がズズズ、と揺れた。遺跡内部で、何か大きな衝撃でも起こったのだろうか。たたでさえ不意に第三者が登場し気を取られていたところに、急な揺れでバランスを崩した幸たちとレイディスには僅かな隙が生まれていた。それを逃さず、素早く石像を奪い取るクロセル。そして彼は、先ほど幸がやったように石像を下にいるヨサークとフリューネに見せびらかした。
「空賊とは自由を求める者! しかーし、それは秩序の中でこそ輝くものなのです! それを理解していないあなた方に、この宝は過ぎたるもの! 俺があなたたちに代わって有効活用してあげましょう!」
 そう言うとクロセルは「正義の烏賊」と書かれたのぼりをどこからか持ち出した。それを見て、後ろからパートナーのマナがぽつりとつっこむ。
「……それはイカと読むのだぞ」
 おそらく彼は、その変装した格好にちなんでカラス族と言いたかったのだろう。が、この場において一番の問題は、ネーミングではなく石像とのぼりを両手に抱えてしまい身動きの取れない彼の状態だろう。クロセルは慌てて呼び出しておいたトナカイのそりに荷物を乗せようとするが、それを黙って見ている幸とレイディスではなかった。屋根上で揉みくちゃになる3つの勢力。そんな彼らの争いを止めたのは、フリューネの何気ない一言だった。
「……その像、何?」
 それを聞いた瞬間、全員の動きがぴた、と止まった。
「……え? 何って、ユーフォリア……」
 答えようとする幸だったが、フリューネはあっさりとそれを否定した。
「それはユーフォリアじゃないわよ。私が知ってるユーフォリアは、そんな姿形じゃない」
「え、じゃあこれって……」
「さあ、私も知らないわ。何よそれ」
 どうやらフリューネ以外の全員は、大きな勘違いをしていたようである。今屋根の上にある石像は、伝説の秘宝ユーフォリアではなかったのだ。寺院の紋章がこの建物にあることから考えて、おそらく昔寺院のものが崇拝して作ったダークヴァルキリーの石像だと思われる。
 真相を知ったレイディスは落胆と怒りのあまり、石像に轟雷閃をぶつけた。みしり、と音を立て、容易く石像は砕けた。
「せっかくすごいお宝が手に入ると思ったのに、がっかりだぜ!」
 八つ当たりをし、少しだけ気が晴れたレイディスはそのまま屋根を降り、裏手から斜面を下り去っていく。力を出し尽くしたクロセルもその場に倒れ、パートナーたちによってそりで運ばれていった。幸とメイベルらもここまで綿密に立ててきた計画が水泡に帰し、大人しく屋根を降りようとする……が、彼女たちだけはすんなり退場することが出来なかった。
「キミたち、よくも仲間を罠にはめてくれたわね。どの指から折られたい?」
「おめえ、前も男だと騙してくれたよなあ、ええ? そもそも女が上から見下ろしてんじゃねえ! 耕すぞこらあ!」
 空賊ふたりの怒りを買った幸は、図らずも一時的にではあるがふたりの意思を揃えることが出来たのだった。しかしそれはそれとして、自分たちが逃げないことには何をされるか分かったものではない。
「これまでのようですね!」
 捨て台詞を吐いた幸は屋根から空に向け、勢い良く火術を放った。垂直に立ち上った細長い炎が、瞬く間に空の彼方へと消えていく。島村組最後の作戦、それはこの火術を合図に逃走することだった。もっとも、この時島村組の半分以上は合図を確認出来ない状態にあり、あまり意味はなかったのだが。
 合図を終えると、幸はメイベルらと共に一目散に逃げ出した。追いかけようとしたヨサークとフリューネだったが、その追走の足はすぐに止まった。それよりも優先すべきことが、ふたりにあったからだ。
 ――あの像は確かに偽者だったけど、中にはまだ見落としているものがあるのでは?
 そう当たりをつけたふたりは、再び競い合うようにして遺跡へと入っていった。



 一方、崩壊した遺跡前踊り場。
「う……」
 瓦礫の中で、ヨサーク空賊団船員のひとりが目を覚ました。彼はどこまで自分たちが落下したのかを知るため、瓦礫の山から顔を出し、上を見上げた。

 そこで船員が見たものは、瓦礫の山の上に立つひとりの女性だった。黄金色をした女性の髪が、夕日をまとって揺れていた。