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パラミタ黒ウサギは、悪夢を見せる

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パラミタ黒ウサギは、悪夢を見せる

リアクション

 「ああ、やるよ。運がよければそいつも元に戻れる。祝ってくれた御礼だ」
 ルイは、カップをじっと見ている。
「ワタシは泣くことが出来ない」
「女帝なら戻し方を知っていますわ。お城に行きましょう」
 すくっと立ち上がったミルフィが力強く言い放った。
「ところで知っているかい?」
 黄ウサギが紅茶を飲みながら話し始める。
「今日は何でもある日のお茶会となんでもない日のお茶会があるんだよ」
「えっ?」
 有栖が聞き返す。
「なんでもない日のお茶会は、きっと涙が出るぐらい愉快だよ、なんといっても、なんでもない日なんだから」
 クククッと黄ウサギが笑っている。
「どこでやるんだ?」
「ここだよ、ほらやってきた」

 向こうから歩いてくるのは、雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)だ。百合園の制服を着ている。

「それに空からのお客様」
 黄ウサギの言葉で、有栖が頭上を見上げると、いつもの大きな黒い穴が見える。しかしそこから落ちてくるには人ではなく、魔法の箒だ。
 乗っているのは、朱宮 満夜(あけみや・まよ)ミハエル・ローゼンブルグ(みはえる・ろーぜんぶるぐ)。ふわっと地上に近づいてくる。
「ここで何が行われるのですか」
「お茶会だよ」
 黄ウサギが答える。
「見つかるとメイドにされるよ、早くあっちにいきな」
「ありがとう」
 マジックローブをまとった満夜と貴族服のミハエルは箒の向きを変えると、こちらにやってくるトランプ兵たちを避けて、城の裏手に消えていった。


 リナリエッタはワゴンを引いている。その中には茶器が山のように入っている。元はメイドや兵隊だった茶器だ。
「まあまあ口は利けなくても、お茶会には参加できますわぁ。皆さん楽しんでね」
 リナリエッタの後ろにはトランプ兵も大勢いる。
「折角の小春日和。女帝陛下もきっと許してくださいますわぁ」
「ごきげんよう、お嬢様、今日はなんのお茶会ですかぁ」
 黄ウサギが礼儀正しくリナリエッタに問いかける。
「なんでもない日ですわ」
「やっぱり!さっきまで何でもある日もお茶会をしてたんだよ、僕はついてるね、何でもない日と何でもある日の両方を祝えるなんて!」
 黄ウサギは涙を流して喜んでいる。
 ベファーナ・ディ・カルボーネ(べふぁーな・でぃかるぼーね)が、自慢のシルクハットをしっかり被りやってくる。
「リナ、待ちくたびれました!」
「そうね、でもベファーナ、そんなことを入っては駄目、この茶器さんたちは、もうずっと前から茶器なのよ、ねえ、待ち続けても誰も助けにこない!」
「そんなことありませんっ!」
 急に有栖が声を上げた。
「有栖お嬢様っ…」
 ミルフィが心配そうに見てる。
「大丈夫です、すぐに私たちが助けますっ」
「そのとおりだ」
 いつの間にか、アイリスが来ていた。
「この騒ぎが気になってね」
 アイリスの傍らには、柚子とメイベルがいる。
「まあまあお姉さま、ごきげんよう。こんな変な世界いるのならぁ、私達もへんてこにならないといけないんじゃない」
 リナリエッタはニヤニヤ笑い、あっちの兵に酒を飲ませ、こっちの兵に紅茶と偽ってブランディを飲ませている。
「誰か、瀬蓮ちゃんの情報もっていないかしらぁ」
 メイベルが兵士を見回す。
「知っていたら、教えておくれやす」
 柚子は、瀬蓮の特徴を話す。
 ベファーナは、ひと際大きな茶器に向かって一人ではなしている。
「嗚呼この凛々しいもち手!君は素敵な方だったのかね!。元の世界に戻ったら又飲もう!」
 茶器に乾杯するベファーナ。大きなシルクハットがそのたびにゆれる。

 兵士たちや酔っ払い、場は混沌としている。
 そのなかで柚子とメイベルは瀬蓮の事を聞いている。
 突然、酔っ払った兵が叫ぶ。
「どこもかしこもここにあるものは、皆メイドかトランプ兵さ、見つけようなんて思いより、飲んで忘れろ!」
「そんなことは出来ない!」
 アイリスが激昂する。
 城から一人のメイドが走ってくる。アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)だ。息が上がっている。
「よかった、会えて!瀬蓮さんは浴室ですっ!助けてあげて」
 それだけ告げると、アリアは再び、周囲を警戒しながら城に戻っていった。
「危険を顧みず・・・ありがとう、アリア」
 アイリスが駆けてゆくアリアの後姿に礼を言う。

 ドサッ。
 落ちてきたのは、ゆる族のメメント モリー(めめんと・もりー)だ。
 メメントはパートナーの早川あゆみを探しに来た。
「ちょ、ちょっとちょっと〜、ここどこぉ?」
 モリーは周囲を見回して、きょろきょろしている。
「あれ?宴会?」
 そう、もうお茶会というより宴会だ。
 アイリスがモリーの腕をとる。
「もしかしたらセレンといっしょかもしれないな」
 うなずくモリー。

 お茶会の席は、着ウサギがテーブルの上に立ち、でたらめな歌を披露している。
「私たちは、浴場に向かおう!」
 アイリスたちは、ゆっくり、気付かれないようにお茶会を後にした。


6 再び城の中

 ドサッ。
 今度女帝の前に落ちてきたのは、ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)だ。
 スッと音もなく大理石の床の上に立っている。ピエロメイクのいつものナガンが立っている。
「黒ウサギめ、手を抜き出したな」
 女帝は再び怒り出した。
「そちは、メイドで働くか兵として城を護るか、どちらを選ぶ?」
 女帝がナガンに問いかける。
「メイドや兵士もいいですがピエロの道化師はいかがですかなァ?女帝たるもの一人はいるべきでしょう?」
 値踏みするようにナガンを見る女帝、ナガンは歩み寄る。
「肩揉み、靴舐め、人間椅子何でもお申し付けくださァ〜い、家具とは違う人肌の椅子は格別ですョ」
 跪くと、女帝の靴をなめる。
「ホホホホーーー、そのようなことはしなくてよい。よい、そのまま道化師として飼おう」
 女帝の機嫌が直っている。
「わらわはこれから湯浴みする、同行せよ」
 跪いて、従順の意を表すナガン。

「はやく元にもどりたいっ」
「セレンちゃん、もう少しの辛抱よ。きっとアイリスさんが助けにきてくれるわ」
 話しているのは、瀬蓮と早川あゆみだ。
「うむ、天音もあれで頼りになる、セレン、元気を出せ」
 ブルーズも励ましている。
「しっ誰かがくるわ」
「大丈夫だよ、こっちの声聞こえないもん」
 瀬蓮がふてた声を出す。
「アイリスだといいなぁ」
 扉が開いて入ってきたのは、また女帝だ。今度はナガンを携えている。
 女帝が湯浴みしている間、ナガンは彫刻を見ている。
「こっちにくるな」
 ブルースの心の声だ。
「おや、見たことがある」
 ナガンは、ブルースの背中に飛び乗ると、
「おぉーー」
 滑り台代わりにして大騒ぎしている。


 百合園女学院の稲場 繭(いなば・まゆ)もメイドとして働いている。
「大変っ、間に合うかな」
 女帝の入浴に使う香油を取りに戻ったのだ。入浴に間に合わないと何をされるか分からない。
 女帝の部屋に入り、言われたとおりに一本のビンを手に取る繭。棚の色を間違えていることには気がついていない。」
 繭はビンを持って小走りになる。いつもは廊下の端を歩いているのに急いでいるために真ん中を走ってしまった。
 真ん中は油がまかれている。
「キャぁー」
 転んだ拍子に香油を頭から被ってしまう繭。
 そのまま深い眠りに落ちてしまう。
 目が覚めたとき、繭は女帝が愛おしくて愛おしくて仕方なかった。早く女帝に会いたい!
 そう、繭が被ったのは、あの薬だ。


 女帝はこの日のために数着のドレスをあつらえている。
「目が見えないというのに、なんと魅力的な組み合わせ!」
 目のみえない如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)は、女帝のアクセサリーを選んでいる。宝石の大きさや形、質感などを指で確かめて、選んだ宝石を女帝の指や首元を飾ってゆく。
「ありがとう…ございますぅ…でも…心配ですぅ…本当に…いいのか」
 女帝は微笑んだ。
「わらわは、本当は気に食わないものを調度品に変えるのだがねえ、お前だけは特別だ、一瞬だけ夢を見せよう」
 女帝が指を鳴らすと、日奈々の姿が消えた。
 日奈々がいた場所には大きな鏡が置いてある。
「鏡になればわらわの姿も見えるであろう、どうだ、美しいであろう」
 女帝は日奈々に語りかけた。
 すぐに、日奈々は元の姿に戻る。
「みえたか?」
「ありがとうありがとう…ございますぅ…でも…不思議なものが見えて…鏡で見たのは…そのぅ…」
 日奈々は動揺している。
 鏡に映ったのは、女帝ではなく、別の人物だったのだ。


 いよいよパーティの準備が整った。