イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

パラミタ黒ウサギは、悪夢を見せる

リアクション公開中!

パラミタ黒ウサギは、悪夢を見せる

リアクション

 「左から三番目を」
 兵がくるっと前を向く。
「ハートの10です。」
 今度は女帝の番だ、
「右から43番目を」
 すぐにトランプが前を向いた
「クラブのエースだ」
 鼻で笑う女帝、最後は・・・ミハエルを指差す女帝、
 ミハエルがトランプ兵に代わる。
「何をするのだ」
「そちは自分のカードで勝負せよ」
 ミハエルはそっと自分の数字を見る。
「クラブのエース、引き分けです」
「なんと!なんとつまらない、これも黒ウサギの仕業か。だが、残念だ、この程度で兵を人に戻すわけにはいかぬ」
 女帝は、ミハエルに言い放った。


 次に、するするっと女帝の前に進み出たのは、イルミンのクラーク 波音(くらーく・はのん)だ。小柄な体を自前のメイド服に包んでいる。
「女帝様、兵隊が揃わないなら神経衰弱はどうですかぁ?」
「神経衰弱と?」
「まあ、よい。倒れないドミノより楽しかろう。皆、準備に付け!」
 大広間のトランプたちは右往左往して同じ数字の仲間を見つけてペアになり女帝の前に並んだ。
 同じ数字が見つからないものたちが取り残され、あちこち仲間を探している。
「目障りだ!」
 女帝の一言でペアの見つからないトランプ兵はバルーンに変えられ、大広間の天井をふらふらさまよっている。
「まずシャッフル!」
 女帝に掛け声で残ったトランプ兵は、大広間を走り回る。
「ストップ!ふせろ!」
 兵はとまり、その場に絵柄を下にして伏せた。
「では始めようか」

 最初に戦ったのは、魔女のアンナ・アシュボード(あんな・あしゅぼーど)だ。
「美しい女帝様はきっと聡明でもあられるかと。私ごときで勝負になるかどうか」
 勝負が始まった。
 アンナは大広間に入っていって、開けたいトランプ兵さわる。トランプ兵が立ち上がる。
 外れ。
 女帝の番だ。
 女帝は台座から降りない。指差すのみだ。指されたトランプ兵の下にメイドが走る。二枚目の札を空けるとき、女帝が大広間を指差すと、勝手にペアのトランプ兵が立ち上がった。
 たった一回の順番で、女帝はすべてのトランプを手に入れた。女帝の勝ちだ。

 二回戦の相手は、アリスのララ・シュピリ(らら・しゅぴり)だ。
「女帝さま、ララはまだ小さいの〜」
 甘えた声を出す。
「よい、ハンデをあげよう」
 ポンッ!
 兵隊がすべて立ち上がり、くるくる回りだした。
「これなら絵札が見えよう。揃えるのも簡単だ!」
 ところが、既に酒に酔っている兵隊たちはすぐに目を回して、別の場所に倒れてしまう。
 札を揃えるどころではない。
 ララは兵隊たちの隙間を歩いて絵柄を探しているうちに、酒に酔って倒れてしまった。
 女帝の勝ちだ。

 最後は、クラークの番だ。
「女帝様、連敗で勝ち目なさそうだし、万一、あたしが勝てたら皆を元の姿に戻して帰してあげるのってどうかな?」
 女帝はせせら笑う。
「まあ、好きにせよ」
 ゲームが始まった。
 ルールは、アンナのときと一緒だ。しかし試合展開は同じにならない。
 トランプ兵が女帝の言うことを聞かないのだ。
「俺はクラークの味方だ」
 トランプ兵は先ほどかなりの数が女帝の知らないうちに入れ替わっていた。
 中には、潜入していた鬼崎 洋兵(きざき・ようへい)が混じっている。
 女帝の指示で立ち上がろうとするトランプ兵がいると、打ち身を入れ失神させる。
 クラークの指示に従わないトランプ兵は無理やり立たせる。
 洋兵の活躍で、なんとクラークが勝ってしまった!
 大広間が歓喜で沸いている。
「約束よ」
 詰め寄るクラークに女帝は言う。
「まだ、わらわの二勝一敗ぞ。勝負はこれからじゃ。」

 高村 朗(たかむら・あきら)が歩み出る。
「俺とポーカーをしてください」
 傍らには、メイド姿のルーナ・ウォレス(るーな・うぉれす)がいる。
 女帝が笑う。
「挑戦者が多くては、何度もはできぬ。一回だ」
 頷く朗。
 トランプ兵が一列に並ぶ。
「好きな番号を申せ」
 朗が数を告げる。その数からトランプ兵が二人の本に5人ずつ動く。
 朗はポーカーフェイスを気取っている。ルーナは心配でならない。
「ゲームで勝負がつくのかしら」
 ルーラの横にいつのまにかメイドの稲場 繭(いなば・まゆ)が来ている。トロンとした目で女帝を見つめている。
 朗が兵を二名交換した。
 再び繭が女帝を見る。
 女帝は兵を変えない。
 兵を表にする。同じツーペアだが、数の大きさで女帝の勝ちだ。
 うなだれる朗。
「女など連れてくるからじゃ」
 女帝は笑っている。
 振り返る朗、自我をなくした繭を見てすべてを悟る。

「次は、女帝の好きなトランプゲームで戦いませんか?」
「ポーカーでは?」
 声を出したのは、崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)だ。
「いましたばかりだ」
「いえ、違うポーカーです」
 亜璃珠が提案したのは、トランプ兵を使ったポーカーだ。
 カードは山札から引くのではなく、兵士が5人ずつ自由に集まって役を作り、自分か女帝どちらかの場についてもらうことで勝負をする。それぞれのゲームに使った手札の兵士は全て勝った側のものにできる
 52枚全てのカードを使用し、最終的に兵の多い側が勝ち。実にシンプルで分かりやすいゲームだ。
 トランプ兵はふらふらしている。
 5人で役を作れるものもそうはいない。ワンペアツーペアが続いている。
「亜璃珠、味方するぜ」
 洋兵がやってきた。ミハエルもやってきた。
 亜璃珠は、ストレートフラッシュを完成させる。
「何をこしゃくな」
 女帝は、亜璃珠に味方したトランプ兵をすべてボールに変えてしまった。勿論、洋兵やミハエルもだ。
 しかしこれは亜璃珠の作戦でもある。
 これで、トランプ兵の数は半分にまで減っている。


「女帝様、私たちとチェスをしませんか?」
 秋月 葵(あきづき・あおい)エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)が声をかける。
「私も参加するのです」
 鷹野 栗(たかの・まろん)も声を上げる。栗はパーティにはパラミタにもいない不思議生物が沢山いるのではと楽しみにしていたのだ。ところがいるのは、トランプ兵とメイドとウサギだけだ。この国には他には住んでいないのかぁ、少しがっかりしている。

 女帝は、あちこちに伸びているトランプ兵をみやる。
「そうか、兵は使い物にならぬし、チェスでもよいか」
 女帝にも勝算がありそうだ。



9 街で黒ウサギはワインを飲む


 そのころ、ヴァイシャリーの街角では、大金を手にした黒ウサギが優雅にワインを飲んでいた。
「あとはこれを持って高飛びだ。日本に行こうかなぁ、それとも・・・」
 思わず顔に笑みが浮かぶ。

 その様子を遠巻きに見ているのは、プレナ・アップルトン(ぷれな・あっぷるとん)穂露 緑香(ぽろ・ろっか)
 クルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)アイリス・ゼロ(あいりす・ぜろ)の4人だ。
「……さて……責任を取らせて、反省をして貰いに行くとするか……」
 クルードの銀色の髪が風になびき、怒りに震える瞳がむき出しになる。
「ここで追いかけてもウサギさんに逃げられちゃいますからね。向こうの路地に罠を仕掛けます」
 プレナが、何か思いついたようにクスッと笑う。
「準備が出来たら合図しますね」
 百合園の制服をきたプレナは、パートナーの緑香の腕を引っ張って、路地に消えていった。
「マスター、なぜあのウサギを捕まえるのですか。とても楽しそうにしていますのに」
 まだ感情が成長していない機晶姫のゼロには、なぜクルードがウサギを捕まえようとしているのか分からない。

 黒ウサギは今度は大きなチーズを注文、のんびりワインを飲んでいる。

 路地にいったプレナは罠作りに熱中している。
 路地裏の陰になった場所に、地面にペンキでウサギさんが作った穴と同じ大きさの「穴の絵」を描くプレナ。
「反射的に落ちないよう避けて通るハズです」
 絵を描きながら、緑香に話しかける
 絵の無い所(絵と絵の間等)に捕獲用のネットを仕掛ければ、黒ウサギ捕獲黄の出来上がりだ。
「さすがトラッパーを持つプレナさんは手際が違うっす♪」
 緑香は突っ立ってみている。
「絵は水性ペンキなので、もちろん後でお掃除しますねぇ〜、緑香の仕事ですよ〜」
「は〜い」
 緑香が気のない返事をする。


 プレナが合図をする。
「……行くぞアイリス」
 クルードがそっと黒ウサギの背後に回りこむ。
「聞きたいことがある……」
 黒ウサギは一目散に逃げ出した。前方にはゼロが立っている。左手は高い壁だ。しかたなくウサギは右の路地に逃げ込む。