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【十二の星の華】剣の花嫁・抹殺計画!(第3回/全3回)

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【十二の星の華】剣の花嫁・抹殺計画!(第3回/全3回)

リアクション

 イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)が投げたブラックコートがパッフェルの目の前で広がった時、背後を護っていたミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)が彼女の前に出ようとしたが、パッフェルは腕を掴んでそれを止めた。
「… いい… 私がやる」
「でも…」
「… 下がって」
 右瞳を赤く輝かせたまま、パッフェルはランチャーを構えると、巨大な波動の弾を放った。
「がっ」
「ぐっ」
 放たれた直後に分裂した波動は、イーオンやエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)を吹き飛ばしたが、エヴァルトの狙いはここからであった。
「ここだっ!」
 吹き飛ばされながらも、ハンドガンでパッフェルの手を狙い撃った。
 この狙撃はミネルバが紋章の盾でパッフェルを守ったが、そこにディアス・アルジェント(でぃあす・あるじぇんと)が飛び込んだ。
 ディアスは氷術で氷を纏わせた針葉樹の槍矢を2人に目掛けて投げつけた。
 これにもミネルバが高周波ブレードの剣撃と盾で防いだが、ディアスが意識的に投擲範囲を狭めたため、迎撃したミネルバの体はパッフェルの右半身側に移動してしまっていた。パッフェルが瞳を向けた時、ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)が空中に飛び出していた。
 パッフェルはライゼに瞳を向けるのと同時にランチャーを向けていた。これはパッフェルが剣の花嫁の気配を感じる事が出来るからであり、この瞬時の判断と、ここに生じた余裕が「赤い光」を撃つという選択をパッフェルにさせた。
 しかし、パッフェルが視界に捉えたのはライゼではなく、夏侯 淵(かこう・えん)の姿であった。淵はライゼの前に位置したまま共に飛び出していたのだ。
 パッフェルが「赤い光」を撃つ刹那前、望月 寺美(もちづき・てらみ)は上空に投げられていた手鏡を狙撃した。「赤い光」が放たれた時、辺りにはキラキラと輝く手鏡の破片が舞い落ちていた。
 淵が構えた手鏡を含め、「赤い光」は手鏡の破片を幾つもに反射すると、パッフェルの左肩を貫いた。
「よっしゃ!!」
 手鏡を上空に投げた日下部 社(くさかべ・やしろ)は喜びの声を上げると同時に、社、淵、そして寺美の順にパッフェルの波動の弾に狙撃されてしまった。そしてこの時を待って飛び出した者もいた。
 パッフェルの強さはイルミンスール襲撃や森中での襲撃の報告によって周知であった。彼女に辿り着く為には、波状攻撃の中にも理詰めの行動で彼女を追い詰めるしかない。それが追加部隊の出した答えであった。
「ここです!」
 狙いを定めて、夜霧 朔(よぎり・さく)機晶姫用レールガンを放った。
 雷を纏った弾は、パッフェルのランチャーに命中したが、ランチャーを弾く事は出来なかった。ランチャーは腕に装着されていたからであるが、その衝撃は、すぐに引き戻せない程に腕を弾いていた。引き戻せなければ狙撃は出来ない、自由を奪う事は成功していた。
 連携攻撃の終の一手。朝霧 垂(あさぎり・しづり)はランチャーへ、意識を取り戻した葉月 ショウ(はづき・しょう)はパッフェルへと突撃した。
 垂は光条兵器の鞭でランチャーの銃身を狙った。捕えたなら勝利は間近!
 パッフェルはこれを避けようとしたが、ランチャーも腕も動かせなかった。
「くっ」
「捕えた!」
 鞭がランチャーに巻きついた時、ランチャーが消えた。
 垂が瞳を見開くのと同じに、ランチャーが姿を現していった。
 その瞬間、ショウの左指が、パッフェルの右瞳を突き刺した!!
 
 
 ショウは突き刺した指で、瞳を抉ろうとした。しかし、それは叶わなかった。
 指が瞳に沈んだ時、瞳から紫色の光が弾き溢れた。
「ぐあっ、ぅあっ」
 ショウの体は、突き刺した指から、紫色に侵されていった。
「ショウっ!!」
 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)がショウに駆け寄り、ヒール
キュアポイゾンを続けて唱えたが、ショウは変わらずに地の上でのた打ち回っていた。
「…… ムダよ…… そんな魔法では解毒できない」
 肩で息をしているパッフェルの顔には、右瞳から紫色の液体が溢れ流れていた。それでもショウの姿を見たパッフェルは、満面の妖笑を浮かべていた。
「複数の猛毒を一度に受けたのよ。ふふふっ、じきに死ぬわ」
「そんな……」
 波動の弾に狙撃された朝霧 垂(あさぎり・しづり)は痛みを堪えながらに立ちあがった。
「なぜだ… どうやってランチャーを消した…」
「惜しかったわね。私はただ、体内に戻して出しただけよ」
「バカな!! ランチャーが光条兵器であるはずがない! 光条兵器の形は1つ、弾を撃ち分けられるはずがない!!」
「「波動弾」に、「水晶化」と「毒」の要素を加えただけ。彼は直接、瞳から毒を持って行ったみたいだけど」
 パッフェルはショウの元へと歩むと、頭を踏みつけてグレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)へと呼びかけた。
「コイツの毒を治せるのは『青龍鱗』だけ。さぁ、『青龍鱗』を渡しなさい」
「そんな手に乗るか! 毒なら医療チームの到着を待てば―――」
「そんな時間は無いわ! 猛毒がブレンドされてるの、5分と持たずに死ぬわよ」
 笑みを溢れさせながら叫んだパッフェルを見た反応は、対峙している樹月 刀真(きづき・とうま)桐生 円(きりゅう・まどか)では正反対のものであった。
「くそっ、パッフェルめ」
「テンション高いねぇ、ボクはあの方が好きだけど」
 グレンは唇を噛み締めていた。
「解毒するのに、なぜ『青龍鱗』なんだ」
『青龍鱗』には『浄化の力』があるの。『青龍鱗』を渡すなら、水晶化の解除方法も教えてあげるわ」
「そんな力があるなら、俺が使って解毒する」
「女王の血を持たなければ『力』は使えないの。持っていないでしょう?」
「…………! ミルザム・ツァンダが向かっている! 彼女が使えば―――」
「あと3分! 彼、死ぬわよ」
「……………………」
 グレンは唇を噛み切って。『青龍鱗』をパッフェルに手渡した。
「ごくろうさま。下がりなさい」
 パッフェルの手の中で、『青龍鱗』は柔らかい光に包まれていった。
 水晶化した左肩に『青龍鱗』を当てると、パッフェルの左肩の水晶化が解除されていった。また、ショウの体に当てると、変色したショウの体から紫の色が抜けて行った。解毒は達成されたようである。
「約束通り、解除方法も見せてあげたわ」
「くっ」
 解除方法が分かっても、『青龍鱗』がパッフェルの手にあっては意味が無い。
『青龍鱗』を確保したんだ、撤退しよう」
 そう言ってパッフェルに歩み寄った鬼崎 朔(きざき・さく)は、パッフェルの口が開き始めた瞬間に妖刀村雨丸 でパッフェルに突きかかった。
 パッフェルの警戒は緩んでいた。ランチャーを向けても間に合わない! パッフェルは体を傾けながらそう判断したが、朔の剣を防いだのは、ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)であった。
「そうはさせませんよ」
 ザカコは、朔の首元にカタールを当てて制止させた。パッフェル側についたと見せて裏切ろうとする者が居る、と警戒していたザカコだからこそ反応できたものだった。
「くっ、なぜ邪魔をする」
「彼女は水晶化の解除方法は示しました。彼の解毒もしました。彼女は筋を通したと思いますが」
「バカな! 水晶化した花嫁たちは今も苦しんでいるのだぞ」
 松平 岩造(まつだいら・がんぞう)ドラニオ・フェイロン(どらにお・ふぇいろん)が辺りに睨みを効かせながらにパッフェルに歩み寄った。
「そんなものはイルミンスールやヴァンガードが解決法を見つければよい事だ」
「今のうちに、行こうぜ」
 パッフェルは高揚を少し抑えようと息を吐いてから、歩みを始めた。それに合わせてトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)煙幕ファンデーションで煙幕を張ると、パッフェルはその中を悠々と歩んでいった。
 視界が遮られている事。朔の裏切りを防いだ事、またパッフェルを慕う生徒たちが打ち合わせたように素早く集まった事は、パッフェルに信頼にも似た感情を芽生えさせていたようだった。


 煙幕から少しと離れていない場所に、パッフェルは漆黒のグリフォンを待機させていた。
 一行はそれぞれに小型飛空艇空飛ぶ箒に乗り込んだ。パッフェルはグリフォンに跨ると、そっと首筋を左手で撫でた。その瞬間に、狙撃された。
 パッフェルが針葉樹の林を落ち合う場所としたのには理由があった。針葉樹の葉はとても鋭利で、触れるだけで斬れてしまう。そんな樹と葉に囲まれていては、大きく動く事はできない。警戒さえしていれば、また場所さえ特定してしまえば、そこを狙撃するだけで済む、そう考えていたからである。
 林の中から狙撃した神代 夕菜(かみしろ・ゆうな)の弾は、瞬時に反応したパッフェルの弾が迎撃した。刺された右瞳からは今も紫色の泪が流れてはいるが、花嫁たちを操る力は発動できなくなっていた。全身を水晶化されていたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)、また葉月 アクア(はづき・あくあ)大神 愛(おおかみ・あい)たちも再び動かぬ水晶人形に戻っていたが、それはパッフェルの戦闘力や反応速度が通常時に戻った事を意味していた。そして何より、夕菜は剣の花嫁であった。
 完全に捕えた、そう思っていた夕菜は驚きのあまり、直後に隠れていた次弾に反応できなかった。構えていた星輝銃を弾かれてしまった。
「夕菜ちゃん!!」
 パートナーの神代 明日香(かみしろ・あすか)が叫びながら飛び出すと、松平 岩造(まつだいら・がんぞう)ナナ・ノルデン(なな・のるでん)も一斉にパッフェルに仕掛けていた。