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ホワイトデーはぺったんこ

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ホワイトデーはぺったんこ
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リアクション

 
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「これは、ゆゆしき事態ですね。正義の味方、チビッコのヒーロー、クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)としては、見過ごすわけにはいきません」
 周囲のドタバタを憂慮しながらも、着実に情報を集めたクロセル・ラインツァートが決意を新たにした。
「どうやら、大ババ様が、メガネ君を手玉にとって、悪戯をしかけたようですね。それはいいとしても、イルミンスール魔法学校以外の生徒に発覚したら、結構面倒なことになりそうです。その前に、なんとしても、残りのキャンディを取りあげましょう」
「なんでも、赤いキャンディの他に、青いキャンディを見た者もいるそうだぞ」
「うーん、大ババ様のことですから、それがなんなのかは確かめないと迂闊には……」
 確認するマナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)に、クロセル・ラインツァートは言った。
 とはいえ、状況から考えると、青いキャンディは反対の効果を持っている可能性が高い。マナ・ウィンスレットとしては、それを食べれは一気にチビッコドラゴンからりっぱな大人のドラゴンになれるかもしれないという思いがある。
「マナさん、マナさん、よだれよだれ」
 ちょっと妄想の世界にトリップしていたマナ・ウィンスレットに、クロセル・ラインツァートが言った。
「じゅるり。いや、これは、甘い物を食べたいというわけではないぞ」
 あわてて、マナ・ウィンスレットが否定する。だが、そうは言っても、マナ・ウィンスレットの甘い物好きは、クロセル・ラインツァートとしてはとてもよく知っていることだ。
「とにかく、正義の味方として、すべての女性フアンのぼんきゅっぼんを取り戻し……いえ、困っているチビッコを救うのです!」
 口にでかけた本音をあわてて引っ込めると、クロセル・ラインツァートは山葉涼司を捜した。
 
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「ぺったんこに、栄光あれ!」
「ジーク、ぺったんこ!!」
「ぺったんこカレーに、香辛料あれれーデース」
 人影のない場所に再集合して、日堂真宵は、土方 歳三(ひじかた・としぞう)アーサー・レイス(あーさー・れいす)に、ぺったんこ騎士団流の挨拶を交わした。
「それで、成果はどう?」
「上々だ。青い飴を求める者たちには、石田散薬謹製の丸薬を与えたからな。今ごろは、胃もすっきりして気分は上々に違いない」
 訊ねる日堂真宵に、土方歳三が淡々と答えた。
 彼女たちの目的は、偽の青いキャンディを配ることによる攪乱と、さらなる赤いキャンディの普及である。イルミンスール魔法学校の実験室で大ババ様が二種類のキャンディを作る手伝いをさせられた以上、その時点で彼女たちもまた共犯であった。こうなれば、毒を食らわば皿までである。
「赤に青に、特製の黄色キャンディで、カレーの普及もばっちりデース。食べてくれない人には、強制的に口に放り込みましーた」
 自慢げに、アーサー・レイスが言った。
「あのう、そろそろ、こんなことはやめにしませんか?」
 おずおずとベリート・エロヒム・ザ・テスタメント(べりーとえろひむ・ざてすためんと)が言った。
「なぜ!?」
 他の三人が一斉に振りむいて聞き返す。
「カレーのためデース」
「石田散薬の普及のためだ」
 きっぱりと男二人が言い切った。
「いい、このままではたっゆんのせいで世界が滅びてしまうのよ。将来の魔王としては、世界がなくなったら困るでしょうが。いい、私怨じゃないんだからね、私怨じゃ。見なさい、この古より伝わりし『魔』の書物にも、人々は世界の支配者の前には等しい存在であると書いてるわ」
 そう言って、日堂真宵は、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントの本体である魔道書をバンバンと叩いた。
「そんな本じゃありません、聖書です」
「いーのいーの。人は等しく、同じ胸でないといけないとちゃんと書いてあるんだから」
「誤読曲解が酷いです……」
「あーあー、聞こえない。聞こえないわ」
 ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントの必死の抗議を、日堂真宵は無視し続けた。
「でも……」
「いいのよ!」
 そう言って、日堂真宵は、魔道書を振り回した。
「あああ、目が回ってしまいます。やめてやめて……」
 ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントが悲鳴をあげておとなしくなる。
「とにかく、作戦続行よ。ぺったんこに、栄光あれ!」
「おおー」
 
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「わーい、おねーさんたすけてー」
「なんなんです、この子!?」
 突然、幼児化している橘 カオル(たちばな・かおる)だきつかれかけて、志方 綾乃(しかた・あやの)はあわてて飛び退(すさ)った。目標を失った橘カオルが、何度目かのヘッドスライディングをする。
「わーん、たっゆんのおねーちゃん、にげちゃやだー」
「ふっ、無様ですね」
 仁王立ちになって、志方綾乃が言った。
「いい、もし一生そのままの姿でいたくなかったら、後日、イルミンスールで開かれる『イルミン春の鍋祭り』に参加するのですよ。すべての解毒剤は、私が集めて鍋の出汁にしますから。それまでは、たっぷりと地獄を味わいなさい。蒼空のたっゆんに死を! たっゆんは、イルミンにだけいれば充分なのです」
 ビシッと、志方綾乃は橘カオルに言い切った。とはいえ、まだ大ババ様を見つけてはいないので、青いキャンディの回収はこれからなのだが。
 一方の橘カオルは、今ひとつ志方綾乃の言葉を理解できずにいた。遠慮なくおねーちゃんにだきつける今の姿のどこが地獄だと言うのだろう。天国じゃないか。
 さっさと去っていった志方綾乃は諦めて、橘カオルは次のターゲットを捜した。
 
「うーん、黄色いキャンディをもらったんだけど。これは、赤でも青でもないから、別物ッスよね」
 さきほど、アーサー・レイスからもらったキャンディを見つめて、サレン・シルフィーユが言った。
「カレーの香りがするものね。サッちゃん、食べてみなさいよ」
 少し、目を輝かせてヨーフィア・イーリッシュがうながした。
「そうッスねえ、少しお腹もすいたし。変わった味のキャンディは、まずくても話のネタにはなるかもしれないッス。そうと決まったら、はい、食べてッス」
 サレン・シルフィーユは、期待でニコニコしているヨーフィア・イーリッシュの口に、黄色いキャンディをねじ込んだ。
「かっらーい。ひどいよ、サッちゃん」
「やっぱり、げぼぼキャンディだったッスか。いいネタに……」
「私だけなんて、許さないんだから」
 お返しとばかりに、ヨーフィア・イーリッシュもサレン・シルフィーユの口に、持っていた黄色いキャンディを無理矢理放り込んだ。
 激辛のカレー味のまずさに、二人がのたうっていると、その身体からするりとなけなしの服が落ちた。
「あれ、ヨーさん、縮んでるッス」
「そういう、サッちゃんこそ、むねのばんそーこー、まるみえだよー」
「ははははははは、おにょれー、あのおとこ、だましたッスねー」
「かえしてー、わたしたちのむねをかえしてー」
 サレン・シルフィーユだけを幼児化して楽しもうと思っていたヨーフィア・イーリッシュであったのだが、自分まで幼児化してしまい、すっかりあてが外れてしまったと、ほとんどすっぽんぽんの姿で叫んだ。
「おねいさーん」
 一心不乱に走ってきた橘カオルが、そのままの勢いでちっちゃくなったヨーフィア・イーリッシュたちに飛びかかってだきついた。
「きゃあ」
 幼児三人が、勢い余ってごろごろと転がる。
「ああ、さっきまであったたっゆんがなーい。どこー、オレのたっゆんはどこー」
 あてが外れた橘カオルが、二人の洗濯板を見て泣きべそをかく。
「いきなり何するッスか。正義の鉄槌、食らうがいいッス」(V)
 怒ったサレン・シルフィーユが、橘カオルをこづいた。べそをかいていた橘カオルが本泣きになる。
「あら、かわいい。よちよちよち」
 思わずヨーフィア・イーリッシュが橘カオルをだきしめた。だが、ほんとうならたっゆんに顔を埋めるところなのに、今のヨーフィア・イーリッシュの胸に顔を押しつけられてもごりごりするだけである。
「いたい、いたい……」
 違う、シチュエーションはあっているが、オレの望んだ物はこれじゃないんだと橘カオルは心の中で叫んだ。
 
    ★    ★    ★
 
「なんとすばらしい世界。この世のすべてがぺったんこに満たされればパラダイスだね」
 桐生 円(きりゅう・まどか)は、あたふたと学校内を走り回ってパニックを起こしている元たっゆんの蒼空学園女生徒たちを見下して高笑いをあげた。もともとトリプルAの桐生円としては、たとえ幼児化した今でも、失う物は何もない。
「このようなすばらしい計画を実行に移せるのは、世に名高いぺったんこの女王、イルミンスールのぺったんここと超ババ様に違いない。いいかい、なんとしても超ババ様を捜し出して、そのお手伝いをするのだよ……って、おい、聞いているのか?」
 せっかくの演説なのに、パートナーたちは全然聞いていない。
「ははははは、怖いわよ〜! 怖いわよ〜!」
 毒虫の群れで、ちっちゃい子たちを追い回しながら、幼児化したオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)がはしゃぎ回っている。
「こら、ボクの話を聞けって。超ババ様を捜し出すのだよ」
「たのしいですぅ〜、もうちょっとこのままで過ごしてもいいと思いますぅ〜」
 はあはあと興奮して息をはずませながら、オリヴィア・レベンクロンが桐生円にだきついてきた。
「うわーい、ミネルバもまじぇてー」
 もみ合う二人に、ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)がタックルをかました。
「いやあー」
 ごろごろと三人が団子になって転がっていく。そのまま、建物の外まで転がっていってしまった。
「あー、たのちー」
「こんなことしている場合じゃ……」
「じゃう、ひくうてー、のろー」
 ちょっと怒る桐生円に、ミネッティ・パーウェイスが、小型飛空挺で大ババ様を捜そうと提案した。
 すぐ横の小型飛空挺置き場に、彼女の乗ってきた飛空艇はあったのだが……。
「よいちょ、よいちょ」
 苦労してシートによじ登った物の、手足がハンドルやら何やらに届かない。
「あーん、どーちよー」
「歩くしかないよね」
 ぐずるミネッティ・パーウェイスに、桐生円は溜め息をつきながら言った。