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【十二の星の華】夢の中の悲劇のヒロイン~小谷愛美~

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【十二の星の華】夢の中の悲劇のヒロイン~小谷愛美~

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第2章 マナミンの猛烈アタック

「ん……ごほっ!」
 浜へと寝かされたソルファインは目を覚ますなり、飲み込んでしまった海水に咽た。
 咳が収まると改めて、自分の居る状況を知るべく辺りを見回す。
「気がついたのね!?」
 聞こえてきた女性の声にソルファインが顔を向けると、そこには下半身が鱗に覆われ、魚の形をした――先日、船上パーティにて絵描きに見せてもらった絵本の中の人魚姫そのもの、が居た。
「あ、ああ。僕は海に落ちたんでしたか……」
「ええ。そこをね、私が助けたの。あ、私は愛美。マナミンって呼んでね」
 笑顔を向けてくる人魚の女の子――愛美に、やや気圧されながら、ソルファインは頷く。
 浜へ彼を共に運んできたリカインは、他の人間を呼び寄せるために、浜を離れていた。
 今は2人きりだ。
「昨日ね、私、初めて海の上まで昇ったの。そこで、あなたの見つけたのよ。あなたの顔が忘れられなくて、今日も見に行ったわ。そうしたら、あなた、海に投げ出されてしまって……。海水、飲みすぎちゃっていない? 大丈夫?」
 矢継ぎ早に繰り出される愛美の言葉。
 大丈夫とか、そうなんだとか、応えているうちに、陸の方から駆け寄ってくる足音が聞こえた。
 ソルファインが振り返ってみると、側近が来ていた。
「王子、ご無事でしたか!」
 大野木 市井(おおのぎ・いちい)がソルファインへと声を掛けた。
「ええ、こちらの方が助けてくださって」
「はい?」
 彼の言葉に、市井は愛美の方を向いた。
 全身を見て、彼女が人魚であることを認める。
「そうですか。王子を助けてくれてありがとうございます。王子、人魚も悪くないでしょう」
 告げる市井に、ソルファインも頷いた。
 溺れてしまったのだから、医師に身体を見せないと、と市井に連れられ、ソルファインは城へと帰っていく。
「あの、私、毎日ここに来るから!」
 愛美はそう告げて、城へと帰っていく王子を見送った。



 城へと帰ってきた王子を待ち受けていたのは、彼が海に落ちてしまったのを心配していた側近やメイドたちであった。
「王子様、カッコいいです〜」
 出迎えたメイドのうちの1人、広瀬 ファイリア(ひろせ・ふぁいりあ)は王子に見とれながら呟く。
「お姉ちゃん、王子様に見とれてないで、お掃除の続きしよ?」
 共に、メイドを演じる広瀬 刹那(ひろせ・せつな)がモップや雑巾を片手に、仕事を促す。
「そうね、お掃除も大事ですよね」
 何とかして人魚姫、愛美に接触したいファイリアは、王子が人魚にもっと興味を示してくれないものかと思案する。
 人魚姫に興味を持ち、行く行くは彼女の想いを受け止めて欲しいと考えているのは他の学生演じる側近、メイドたちも同じことだ。
 身体に不調がないことを確かめられた王子は、また執務へと戻る。
 けれど、側近やメイドたちがやって来ては人魚の良さなどを吹き込んでいった。
「王子様」
 一仕事終えた王子、ソルファインは海の方を見ていた。そこへ声を掛けてきたのは、メイドの朱宮 満夜(あけみや・まよ)だ。
 彼女の傍らには、城に仕える魔法使いであるミハエル・ローゼンブルグ(みはえる・ろーぜんぶるぐ)も居る。
「王子様は、この世のものとは思えないくらい美しい人魚姫がいるのはご存知ですか? ストレートの長い髪に愛らしいお顔、そして内面はとても明るいお方だそうですよ」
「やけに具体的なんですね。けれど、そんな人魚なら知っていますよ」
 訊ねる満夜にソルファインは頷く。
「もしその人魚姫が仮の姿だとしたら、王子、貴方はどうされる」
 頷いた姿に、ミハエルが言葉を続けた。
 人魚姫が半人半魚の姿になったのは、王子を救うためにそうなったのだ、とミハエルは告げる。
「まさか」
 そんなことはないだろう?
 驚くソルファインに、ミハエルは更に続けた。
「人魚姫のかかってしまった呪いを解くには、彼女が愛した王子、貴方が彼女を愛すること」
「そうすれば、きっと彼女は真の姿を取り戻します」
 続く満夜の言葉に、王子は今一度、海へと視線を向けた。