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【十二の星の華】夢の中の悲劇のヒロイン~小谷愛美~

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【十二の星の華】夢の中の悲劇のヒロイン~小谷愛美~

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第3章 海の魔女、現る!?

「人魚姫もしつこいね!」
 振られても尚、浜辺へと向かう人魚姫、愛美に、海の魔女であるマリエル・デカトリース(まりえる・でかとりーす)は声を上げた。
「人魚姫が振られるよう、成就させようとする者を石像に変えてやったというのに……」
 ソルファイン王子やその側近たちを石像へと変えたのは、マリエルの仕業だったのだ。
 愛美の様子を見に行ったとき、ある男に取引を持ちかけられた。
 人魚姫の恋愛を成就させようとする者を石像に変えて欲しい。そうしてくれれば、毎日、美味しいスイーツをくれる、と。
 そう言って男が持って来たのは、王宮付のパティシエたちが作った、とても美味しいスイーツであった。
 そのスイーツ食べたさに、人魚姫に惚れた王子と、唆した側近たちを石像に変えたのだ。
「こうなったら人魚姫そのものを石像に変えてやるよ! 浜辺で王子の姿を見られるだけでも幸せでしょ!?」
 そう告げて、海の底から出て行こうとするマリエル。
「「そうはさせないよ!」」
 彼女の前に立ちはだかったのは、愛美の姉妹人魚である霧島 春美(きりしま・はるみ)超 娘子(うるとら・にゃんこ)だ。
「がんばってる女の子をそう簡単に石像にしちゃうなんて、春美と」
「正義のヒロイン、娘子が許さない!」
 海上に向かおうとするマリエルに対して、2人掛かりで行く手を阻む。
 愛美とマリエル。それぞれが役になりきっているようではあるけれど、2人のことだ。
 夢の中でも、何処かで繋がっていて欲しい。
 マリエルに、愛美の邪魔をするのを止めて欲しい。
 そう願いながら、春美と娘子はマリエルに向かっていく。
「うっとうしいね! そんなに石像になりたいの!?」
 言うが早いか、マリエルは2人に向かって、石化させる魔法を放った。
「ああ、新鮮ぴちぴちでおいしそーなお魚さんが……」
「どうしたら止められるの?」
 尻尾の先から石化していく身体を嘆く娘子と春美。
 数秒後には海底に2体の人魚像が転がっていた。
「引き上げるのは後でいいよね。今は、人魚姫のところに」
 呟いて、マリエルはまた上昇していく。

「マリエル!」
 次に、立ち塞がるのはミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)だ。
 腕の中にはたくさんのスイーツを抱えている。
「愛美ちゃんを石化させるの、これで手を打ってくれないかな?」
 スイーツを差し出し、ミルディアは訊ねる。
「そんなスイーツより、マッシュが持ってくるスイーツの方が美味しいに決まってる! だから、手を打つなんてしないよ」
「マッシュ、さん?」
 訊ね返すミルディアに、マリエルは頷いた。
 彼女を唆して、石化魔法を使わせているのは、王子の弟、マッシュだったのだ。
「スイーツに釣られて、そんなことするなんて! 愛美ちゃんは漸く運命の相手を見つけたんだよ? 結ばせてあげようよ!」
 手にしていたスイーツが海中へ漂っていくのも気に留めず、ミルディアはマリエルの肩を掴んで、説得する。
「美味しいスイーツのためなのよ!」
 揺さぶられてもマリエルの心は、人魚姫の邪魔をする魔女のままだ。
 ミルディアに向かっても石化魔法を放った。
「うのぉ、尾ひれが動かない……」
 尾ひれが動かなければ、泳ぐことすら不可能だ。
「あたしのできるのはここまでだね。あとはみんなに任せ、た……!」
 ミルディアは完全に石化してしまう前にそう告げて、海の底へと沈んでいく。

 姉妹人魚たちを次々と石化させたマリエルの前に、立ち塞がる相手はもう居ない。
 一気に海上を目指すと、人魚姫の居る浜辺へとやって来た。
「振られるなんて可哀想ね、人魚姫。そんなに未練がましく毎日ここに来るのだったら、一生ここに居ればいいのよ!」
「え、一生っ!?」
 人魚姫、愛美の姿を見つけたマリエルは近付いていき、告げる。
 何事かと驚く愛美は、見る見るうちに石像へと変えられてしまった。
 そこへ王子の弟、マッシュがやって来る。
「ありがとう、海の魔女。やはり石像でなくちゃね♪」
 愛美の姿を見て、恍惚とした笑みを向けるマッシュ。
「どういたしまして。海の底にも人魚の像がいくつか出来たから、後で持ってくるよ。だから、特上のスイーツを用意して待っててよね?」
「もちろんさ」
 マリエルのおねだりに、マッシュが頷き、それぞれ海の中や城へ戻ろうとした。
「待ちな!」
 そこへ響いた声は、朔のものだ。
「愛美の邪魔をしていたのはおまえたちだったんだな」
「だったらどうだっていうのかな?」
 朔の言葉に、マッシュが訊ね返す。
「消えてもらう。愛美が幸せを手にするために」
 彼女の傍に控えていたブラッドクロスとアンドラスがマッシュへと飛び掛った。
 それをマッシュは難なく交わす。
 マリエルは今のうちに逃げようと海の中へと向かおうとしたが、気づけば煙幕に囲まれてしまっていた。
 不意に、背後に気配を感じたかと思うと、首筋に鈍痛を感じる。当たり所の所為か、マリエルは気絶してしまった。
 そんな彼女を受け止めたのは、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)だ。
 首筋に手刀を入れた者でもある。
 煙幕が周りを漂う中、マッシュたちが取っ組み合っているところから離れていった。
「いい加減諦めなよね。あんたたちに俺を捕まえることは出来ないよ」
 ブラッドクロスやアンドラス、朔からの攻撃を交わしながら、マッシュが言う。
「諦めるか!」
 朔はそうはできないと首を軽く横に振った。
「面倒だね。もう充分、石像見たことだし、いっか♪」
 先に諦めたのはマッシュだ。
 後方に避けたかと思うと、そのまま浜辺から出て行く。
「逃がすか!」
 朔たちもそれを追って行った。

 一方、浜辺の端の方では気絶させたマリエルを美羽が介抱していた。
「愛美を石にする海の魔女役なんて、本当はマリエルも嫌なんでしょ?」
 訊ねるように呼びかけながら、マリエルが目を覚ますのを待つ。
 何度か声を掛けたところで、彼女の閉じていた瞼が震えた。
「んん……」
「目、覚めた?」
 美羽はマリエルのことを覗き込む。何度か瞬きをして、マリエルは身体を起こした。
「ねえ、人魚姫の、愛美の石化を解いてあげて」
 マリエルは美羽の言葉に、首を横に振る。
「他の人の石化なら解けるけれど、人魚姫にかけた魔法は、彼女を愛する人が彼女のありのままを受け入れないと解けないものなんだよ」
 だから、自分に解くことは出来ない、とマリエルは肩を落とした。
「そう……」
 美羽も肩を落としながら、相槌を打つ。
 けれど、すぐに気を取り直して、マリエルでも解けるという、他の人たちの石化だけでも解いてもらった。