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【十二の星の華】双拳の誓い(第3回/全6回) 争奪

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【十二の星の華】双拳の誓い(第3回/全6回) 争奪

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「ゆっくりと買い物を楽しめと言っていたのですから、少し闇市を散策するのもいいでしょう」
 ロザリィヌ・フォン・メルローゼにイヤリングを押しつけられて困っているアルディミアク・ミトゥナに、浅葱翡翠が言った。
「そのイヤリング素敵だよね。買っちゃおうよ」
 アルディミアク・ミトゥナの意見など無視して、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が、値切り交渉を始めた。
「どうせ、ふっかけているものですわ。徹底的に、値切り倒しておしまいなさい」
「もちろんだもん」
 騎沙良詩穂が、鬼眼で店の男を睨みつけた。あっけなく威圧に屈した店の男が、イヤリングを底値に下げる。
「買っただもん!」
 すかさず、騎沙良詩穂がお金を押しつけてイヤリングをゲットした。
「さあ、つけてくださいまし」
 ロザリィヌ・フォン・メルローゼと騎沙良詩穂が、アルディミアク・ミトゥナに迫ってイヤリングを無理矢理つけさせた。
「アクセサリーもいいですが、香水なんかも面白いですよ。今の香水も素敵ですが、たまには変わった香りを楽しむのもいいでしょう」
「私は、香水なんかつけてないわよ」
 ちょっと戸惑いながら、アルディミアク・ミトゥナが浅葱翡翠に答えた。
「えー。でも、いい匂いがするんだもん」
 クンクンと、騎沙良詩穂がアルディミアク・ミトゥナの香りをかいだ。さすがに、アルディミアク・ミトゥナが、顔を赤らめて身を退く。
「きっと、寝るときに薫いている花の香(こう)のせいじゃないのかな」
 シニストラ・ラウルスたちが花の眠りと呼んでいるアロマテラピーのことを指して、アルディミアク・ミトゥナが言った。
「花のお香だなんて、優雅ですね。案外、アルディミアク様は、いいところのお嬢様だったのでしょうか。海賊になる前は、何をしていたのです?」
 さりげに、浅葱翡翠が訊ねた。
「私が海賊に加わったのは、空京に上がってきてからよ。その前は、地上にいて、そして、十二星華だったわ」
 なんだか、無理矢理思い出すようにして、アルディミアク・ミトゥナが答えた。風が吹き、飛んできた黒い花びらが、アルディミアク・ミトゥナの顔にかかった。少し疎ましげに、アルディミアク・ミトゥナがその甘い香りのする花びらを振り払う。
「そのとき、お姉さんと一緒だったんですよね」
「えっ……。ええ、もちろんよ。私そっくりの、姉と一緒だったわ。シェリル・アルカヤ? ココ・カンパーニュ? アラザルク・ミトゥナ? ううっ……」
 いくつかの名前をあげながら、アルディミアク・ミトゥナが頭をかかえてうずくまった。なんだか、急に記憶が混乱したかのようだった。
「そのへんでいいだろう。少しどこかで休まないか」
 見かねたレン・オズワルド(れん・おずわるど)が、間に割って入った。
「そこでゆっくりと、作戦を練ればいいだろう」
 レン・オズワルドの提案に、他の者たちも賛同する。
「わーい、行こ、行こぉ」
 ノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)が、アルディミアク・ミトゥナの手をとって歩きだした。
「レン、先ほど飛んできた花びらだが……」
 ザミエル・カスパール(さみえる・かすぱーる)が、レン・オズワルドに近づいて耳打ちした。
「ああ、分かっている。あれと同じ物だった。香りも同じだ。なんで飛んできたかは分からないが、花の種類は分かるか?」
 声を潜めて、レン・オズワルドは言った。
「おそらく、黒蓮の変種かと」
 その答えに、レン・オズワルドが難しい顔をした。ごく少量なら鎮痛剤としても有効だが、大量の摂取は記憶の混乱などを招く。明らかに、意図されて与えられていると見た方がいい。
「その理由を知らなければならないな」
 レン・オズワルドは、ザミエル・カスパールに言った。自分が何をしているのか分からずに行動するなど愚の骨頂だ。判断は、自分で下したい。
「ねえ、ここにお食事処ってあるよ」
 ノア・セイブレムが、厚ぼったい大きなテントですっぽりと被われた店を指して言った。外界からは完全に隔離されている上に、中は暗くてそれぞれのテーブルにある蝋燭ぐらいしか明かりがない。密談をするにはうってつけだろう。
「よし、ここにしよう」
 そう言うと、レン・オズワルドたちは、アルディミアク・ミトゥナとともに、サレン・シルフィーユ(されん・しるふぃーゆ)の居酒屋の暖簾をくぐっていった。
 
 
4.戻りしもの
 
 
「なんで、そんな物を肩に乗せているんだ」
 相棒の肩に乗る極彩色の鳥を見て、オプシディアンが嫌そうに言った。
「かわいいでしょう。ペットですよ」
 ニコニコしながら、ジェイドが答える。肩に乗っているのは、ケツァールという鳥だ。エメラルドグリーンの羽根に、赤や青の極彩色の美しい羽根が混じっている。
 髪を黒く染めているオプシディアンとは違って、顔のばれていないジェイドは素顔のままだった。
「どうして、そう突飛なことばかりするんだか」
 思わず、オプシディアンが頭をかかえる。
「いいじゃないですか。面白いでしょう」
「いいか、私たちは、海賊たちがなくしたという機材を回収するのが目的なんだ。そこを忘れるなよ」
「はいはい。まったくあのお兄さんは、短気ですねえ」
 ケツァールのくちばしをなでてやりながら、ジェイドが適当に答えた。そのとき、風が吹き、ケツァールが翼を羽ばたかせて一声鳴いた。
「甘たるい匂い……。アーテル・ネルンボか」
「そのようですね。私としては、アルブス・ニンファーの方が好みの花なのですが」
 つぶやくオプシディアンに、ジェイドが言った。
「まったく胡散臭い場所だ。さっさと仕事を済ませてしまおう」
「ええ、そうですね」
 二人は、機械物が並んだ場所へと進んでいった。
「それにしても、なんと遅れた機械ばかりなのか。これじゃあ、産業革命以前だな」
 玩具を見るような目つきで、オプシディアンは売られている機械類を見やった。思わず、ジェイドも苦笑する。
「しかたないでしょう。だからこそ、私たちの求める物が判別しやすいということですよ。さあ、頑張って探すとしましょう」
 
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「ふふふ、ここでなら、普段手に入らない爆薬類も入手し放題ですね。もう、破壊工作に爆薬がないから無理なんて言わせません」
 無造作にシートの上に並べられた武器弾薬の数々を、藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)はうっとりした目で眺め渡した。
「スタングレルードなどがあると嬉しいですが、どうでしょうか。まあ、売り渋ったり、ぼったくったりされそうになったら、その場ですぐに試させてもらえばいいことですね。というか、ここで手榴弾を一つだけ爆発させたら、いったいどこまで誘爆するのでしょう。ああ、想像するだけでうっとりとしてしまいます」
 思いっきり危ない発言を繰り返しながら、藤原優梨子は本当に売り物の手榴弾の安全ピンを抜きたい衝動と必死に戦い続けた。
 
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「さて、はたして奴らはここにいるものかどうか」
 闇市を子細に調べて回りながら、緋桜 ケイ(ひおう・けい)は、仇敵であるオプシディアンたちの姿を捜していた。
 彼らの使う魔導球もそうだが、今までいろいろ暗躍していたときに、いろいろな物をどこから手に入れていたかが疑問であったのだ。特に、ワルプルギスの丘でのパーティーの支度は、日用品から魔道具やモンスターなどの多岐にわたった品物が必要だったはずだ。普通、そんな物を正規ルートから仕入れれば、簡単に足がつくだろう。それに、魔糸の買い占めなど、自ら闇商売に手を染めていたこともある。それなら、この闇市などは、いろいろな物を手に入れるのに最適だと思うのが自然である。
 とにかく、仮面の男と魔糸と魔導球に的を絞って、緋桜ケイは聞き込みを続けていた。
「魔導球? また激レアな物を探しているねえ。さすがに、俺もまだ売られているのを見たことはないなあ。大昔はポータラカから輸入されていたという伝説もあるが、今じゃ遺跡からごくまれに発見されるぐらいだからねえ。もしお目にかかれるんなら、俺も自分用にほしいくらいだよ。なんでも、意志をもたない機晶姫の簡易型みたいな機械だって言うじゃないか。あんた、もしかして、見たことがあるのかい?」
 逆に質問されて、緋桜ケイは適当に誤魔化してその店を離れた。
「うーん、アーティファクトに関しては、もっと別のルートがあるんだろうか」
 少し的外れであったのではないかと、緋桜ケイは不安になった。
 海賊たちがキマクでアジトにしていた場所は、明らかに何かの倉庫として使っていたものだ。特に、用途の分からない機械類がたくさんおいてあったとも聞く。なんでも、仮面姿の鏖殺寺院メンバーと接触していたという噂もあるので、オプシディアンたちが何かを運ばせようとしていた可能性は非常に高かった。
「うーん、もうちょっとでうまく一つの糸に繋がりそうなんだけどなあ」
 今ひとつ要素がうまく繋がらなくて、緋桜ケイは頭をかきむしった。いっそ、もっと的を絞って、一つずつ確認していった方がいいのかもしれない。
「とりあえず、仮面から調べるか。あれは、きっと目立つだろうからな」
 方針を決めると、緋桜ケイは再び聞き込みを再開した。
「仮面の兄ちゃん? ああ、見た見た。確か、なんとか本舗とかいう土産物屋の前で、女王像の買い取りとかしてたっけなあ。ずっとむこうに行った方だぜ」
「本当か、ありがとう」
 短く礼を言うと、緋桜ケイは言われた方向へむかって走っていった。
 
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「もう、変なことは企んでないんだもん、ちゃんと協力するんだから。あたしも機工士だし、こういった機械物には詳しいんだよ」
「まあ、そう言うんなら、手伝ってもらうけど」
 必死に頼み込む朝野 未沙(あさの・みさ)に、マサラ・アッサムはまだ警戒しつつも、協力を受け入れた。
「とはいえ、機械物はあんまり関係ないとは思うんだよなあ。女王像が実は機晶姫で、元通りに復元したら、最強のガーディアンになるとかだったら面白いけどねえ」
「ああ、それもらいです。もし違ってても、あたしが改造してそうしちゃいます。任せてください。うん、それなら、あそこにある部品なんか使えそうだよ」
 機械関係の店の前で、朝野未沙はちょっとうっとりとした目で言った。
 もちろんかわいい女の子や、色っぽい女の子は好きだけれど、こういうメカも大好きだ。
「うーん、ボクにはちんぷんかんぷんだな。ここに売っている物って、そんなに凄い物があるのかい?」
「うん、結構レアな基盤とかチップがあるよね。ほら、あそこの銀髪の女の人の持っている基盤、光条砲台の制御回路の物によく似てるんだもん」
 朝野未沙が、白いケープを羽織った女性がかかえているいくつかの基盤を指して言った。
「光条砲台? うーん、やっぱ、分かんないや。ボクたちが探しているのは、女王像の右手だからね。もっと、それらしい所に移動しようか」
「えっ、暗い所に行くの? ぽっ」
「ぽっじゃない。もっと人目の多い所に行くの! 変なことしたら串刺しにするからね」
 やはり朝野未沙は気が抜けない相手だと、マサラ・アッサムはさっさとペコ・フラワリーと合流することにした。