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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

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7-07 夜襲(2)

 夜も更けていく中、前方に、敵大船団の船影が見えてくる。
「いよいよね……あれだけの数で、攻め込まれていたら、どうだったことかしら?」
 敵は前回の反省から守りを固める筈(もっと密集しなさい……)。とローザマリアは踏んでいたのだが、思うほどには、敵は固まっていない。火攻めを恐れてのことだろうか。周囲に散っている船は、消化のための船か、攻めてきた敵を包囲するためのものだろうか。今ひとつ、敵の策は見えない。とは言え、こちらのこの夜襲を読んでの布陣というわけではないだろう。おそらく、火が起こった場合や、敵襲にもある程度警戒はしているのだろう。罠ではない……。こちらのこの夜襲を知っている筈はない。見張りも気付かれることなく、抑えることができたのだ。前方の船団にも、見張りはあるだろうが、それの最も少なかろう時間帯を今こうして狙っているわけだ。
 ローザマリアは空を見上げる。少し、白み始めている。明け方近くを待って、攻撃開始。……そろそろか。
 各艦の指揮者達に、伝えた。ジャンヌ、シェルダメルダ、ミューレリア、刀真。セオボルト……!
「……攻撃を開始するわ」



 ローザマリアの指揮する本隊の船が、敵船団に近付いていく。
 この正規の船には一艘のみ、盾や木材での即席の補強を突貫で行われている。その船を先頭に、一列単縦陣に組んで、敵船団へ突進していっているのだ。
「敵襲だ!」
 という声が、聞こえ始めた。が、
「遅いわ」
 この時間帯を狙ったのだ。敵はすぐに、迎撃のための艦をこちらへ回しては来れまい。
 その前に、本隊は敵船団への距離を詰めた。
「充分か……ここだ!」
 ローザマリアの目が見開かれた。
 先頭の船から、順次左へ!
 ローザマリアが手を挙げ、合図する。
 ローザマリアの指し示す方向へ転進していく船。湖賊の腕の見せ所であった。敵前回頭……ローザマリアと湖賊による南部戦記版゛トウゴウ・ターン゛である。
 各船から一斉に、水ならぬ油風船が投擲され、続いて、火矢が撃ち込まれる。
 そしてローザマリアの敵前回頭と時を同じくして、沼舟による舟艇白兵隊が船団の横合いから突入していた。東より……つまり彼らは太陽を背にすることを計算に入れており、夜明け前の刻を選んだのもその為でもあったわけだ。(もっともこの作戦が完璧に運ぶことはなかなか難しかろうが、これを更に周到に、光術で補強している。)
 敵側の斉射も開始されるが、そのときにはこれら奇襲隊が敵艦にぶつかり、湖賊や兵達が、一気に攻勢をかけていた。
 トウゴウ・ターンを見せた本隊は囮であったのだ。
 またこのときすでに本隊にローザマリアの姿はなく、上杉 菊が指揮を預かっている。
 周囲に散っている敵船には、黒豹小隊が撹乱を開始している。
 ジャンヌのA船が、スモーク擲弾筒と手榴弾(スタングレネード)を使い、敵の視界を遮っている。
「ニャー!」ニャイールの合図で、投擲するねこ達。「ちゃんとよく見てあてろや!」
「このクラウドから出てきた部隊を、私の船と味方の水軍部隊とで、各個撃破する!
 そら、今だ!」
 ジャンヌはみけをなでながら、叫んだ。
 ロイのB船が、火力を注ぎ込む。「分隊、射撃用意! 火力は集中し、にゃんこは弓で応戦せよ!!」
「にゃんこ兵、仰角15!!」
「ぎょーかく15にゃ」「ぎょーかく15にゃ」「よくわからないにゃ」
「にゃんこ。……可愛い」
 一緒に乗り組んでいるみずねこが、仰角15を教えた。
 みずねこ船も負けじと、散らばっていく敵を追い、殲滅していく。(反対の方では、シェルダメルダら湖賊の船が同じく周囲の敵にあたっている。)
「本隊の方は……? どうなっている、勝ってるのか?
 水軍の戦いは初めてだが、一体どうなってんだか。とにかく、今は少しでも船の上での戦いに慣れるか」



 船団の中央付近はすでに、白兵戦になっていた。
 中央付近は、敵船が密集している。
 セオボルトは、パワーブレスで強化したドラゴンアーツの力を持って、次々と武器を全力投擲していた。フレイルが敵をぶっ飛ばし、ヘキサハンマーが敵をぶっ潰す。ランスは敵に突き刺さり、エペは敵に突き立った。忘却の槍は、敵に全てを忘れさせた。教科書は、敵に思い出させた。
「はぁっ! く、もう武器がない。こうなったら、光条ブーメラ」
 ぱし。
「は?!」
 投げようとした光条ブーメランを、水月が掴んだ。
「少し返してもらうぞ」
「水月」
「ん……」初めての戦いで、ちょっと緊張しているな。ブーメランを構える、水月。私は上手く戦えるだろか? と。私に帰る場所をくれた、この人達のためにもがんばろう。
 周囲では、文治、ヴラドも戦っている。
 光のブーメランは弧を描き、飛んだ。
「うむ……!」
 セオボルトは、武器もなくなったことなので、少し後退し、辺りを見回す。
 すでに、多くの船に火が燃え移っている。周囲に散開していた敵船も来ず、おそらく、黒豹小隊、みずねこ小隊それに湖賊らが撹乱し各個撃破に入っているか。
 ここから、旗艦が見える。
「ローザ……今頃。
 はっ。ローザ……!?」
「えっと……エリザベスであるが。何か?」
「おっと。自分としたことが」
「妾は、これより旗艦に向かう。ここらの指揮は、セオボルト殿に任せしてよいか?」
「ええ。お任せあれ」
 護ると言っておきながら、ローザのもとを離れていることを歯がゆく感じるセオボルト。しかし、彼女が作戦の立案者。ここは割り切ってしっかりとこの場を戦い抜く。
「! ブリテン・テューダー。行くのですね」
 刀真は、グロリアーナに続いた。
 グロリアーナは、中央に密集している敵船の、舷側から舷側へと、飛び移るようにして、渡っていく。身軽で、水上に慣れていなくてはなかなかできる芸当ではない。
「玉藻?」
「ああ、この程度、我にも易い事」
 九尾狐の尾を生やした姿で、玉藻も付いていく。



「フハハハハ!」
 続々と敵を串刺しにしていく、ヴラド・ツェペシュ(ぶらど・つぇぺしゅ)
「此方の杭は有象無象の杭とは違う」
 左に串刺し、
「地面さえあれば、」右に串刺し、「此方の呼びかけに、」上に串刺し、「堪えてくれるのじゃ!」
 ギャァァァァ!!
 敵の断末魔がヴラドの周囲あちこちで立て続けに響いている。
 これはまだまだ、前回お預けを喰らったの分である。
「思い知るがよい俗物ども。此方に歯向かうことが如何に愚かか教えてくれるわ!」
 甲板を突き抜けて出現する杭、杭、杭。
 ヒロイックアサルト゛カズィクル・ベイ゛。長さ1km・幅3km、二万人を串刺しにした杭の、一部を召喚している。その杭はしかし殺された者達の血によって魔力を帯びている。杭は再び、新たな血を浴び始めた。
 フハハハハ! ヴラドの笑いが響き渡る。「串刺しじゃ! 串刺し祭りじゃ!」
 その隣では、館山 文治(たてやま・ぶんじ)が、こちらは冷静に常に状況を見つつ、戦っている。
 先ほどまでは、姿が見えなかった。今、敵船の幾つかの箇所で爆発が起こっているのは、文治がトラッパーで爆薬を仕掛けてきたものである。倉庫等、爆発が効果的に起こる場所を、ピッキングでこじ開けて仕掛けてきたのだ。
 串刺しに酔うヴラドの後方で、しっかりと敵を狙撃銃で狙い撃つ文治。
「おめぇ。ヴラド、隙が多いぞ。気を付けな」
「おお、戻ってきたておったか。それにしても相変わらずブンディーはかわいいのう!」
「……」
 戦闘中じゃなかったら、おめぇに狙いを定めるところだ。と思うブンディーこと文治。(しかし、ヴラドのかわいい連呼に対しては最近諦め気味だけど……。)
「文治。……」
 二人のなかなかに絶妙なコンビを見つつ、水月。
 文治の言っていたこと……私が剣の花嫁だからか? 水月は、気になっていた。"大切な人に似ている"という、剣の花嫁だから、あんなことを言ったのだろうか。
 水月は、襲い来る敵へ、ブーメランを投げる。
 ……そもそも、記憶なんて殆ど無い。
 水月――私の名。幻のようなって意味、か。自分自身が本当に幻なんじゃないかと思えるようで、皮肉だ。
「水月!」
「はっ」
 危うく、手もとに戻ってくるブーメランを取り損ねるところだった。
 名を呼んだセオボルトがヘキサハンマーで敵を倒しつつ、来る。
 水月を連れ、少し後退した。
「もうすぐ。ローザ達が、やってくれます。それまでもう少し、守りぬきましょう」