イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

リアクション公開中!

【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

リアクション



9-01 外交策

 外交使節が南へ向かうことになる以前、本営では。
 本営代表となったクレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)は述べる。
 クレーメックは、三日月湖より南側――ノイエ・シュテルンの部隊をその街道一帯に展開させていることになる――オークスバレー奪還、それに南部諸国との外交についてそれらを複合した大きな案を出すことになる。
「オークスバレーは教導団の拠点だが、教導団の領土という訳ではない。今まで同様、基地と補給が確保できるならば、南部領となっても問題は無いだろう。無論、オークスバレーの人々が領主となった南部諸侯の重税や圧政に苦しむ事の無い様、南部王家に対して善処を要請すべきだが。
 また、オークスバレーを領有すれば、南部諸侯は領民であるオークスバレーの民を守る義務を負う事になる。彼らの力ではそれは困難、となれば、彼らとしても我々との同盟を頼りにせざるを得なくなる筈だ」
 こうしてクレーメックは、オークスバレーの領有権譲渡を、交渉成立の切り札とした。
 このように彼は、第四師団包囲網を破るべく師団としての方針を策定したのである。
「ヴァルナ」
「はい。昴殿、これを」
「はっ」
 クリストバル ヴァルナ(くりすとばる・う゛ぁるな)より昴、そして各部隊に、南部王家の旗が配られた。
 ヴァルナは昴に耳打ちする。「南部勢力の撤退軍との戦闘はなるべく、避けるようにお願いしますわ」
「り、りょ、了解であります!」
 クレーメックの有する兵のうち100が与えられた。
 昴は敬礼しつつ震えた。
「つ、ついにこの昴コウジ。この大仕事を……ふるふる」
 幕舎の裏では……
「クロッシュナー」
「ジーベック」
 クロッシュナー。すまない。また、その手を汚させることになるとはな。
 ジーベック。……目で語り合う二人。
 いや、わかっていることだ。これは私の仕事なのだ。私が自ら引き受けていること。
 クロッシュナー……



9-02 ショパンの叙情

 さて、南部諸国では、前回触れている通り、すでに動き始めている者達がいたわけであるが。
「なあ諸般の事情とショパンの叙情って似てると思わねぇ? けけけ」
 最南の館。
 褌姿でショパンを弾いている南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)は、前回以降、すでに退学届を出している。諸般の事情で……彼はすでに野(パラ実)に下った。
 ピアノの傍らには教導団印の手紙が打ち捨ててある。
 この辺から、彼の言う諸般の事情は窺えようか?
 ショパンに合わせて、でたらめな歌詞を口ずさむ光一郎。
「ダメ参謀の先走りを放置するのは団の責任。
 あああッ諸侯から一緒にされると困るんでね」
 音楽室に入って来る、鯉。オットー・ハーマン(おっとー・はーまん)。光一郎の参謀役を果たしてきた。
「お、おう。光一郎や。本営から密書が届いておったというではないか。このオットーに見せずして、どうして一存でパラ実などに成り下がったぁぁ。
 光一郎、見損なったぞ? このオットー、これでも、礼儀知らずで物知らずで恥知らずで馬鹿の貴殿の根性を叩き直そうと、よくよーく面倒を見てきてやった筈じゃあぁあ。お、おう、お、おう、おうおうぅう」
 ちっ。光一郎は咽び泣くオットーを見て少し可哀想に思い、涙の浅瀬にぷかぷか浮かぶ紙切れを指差した。ショパンが止まる。
「フン。こんなもの見てどうすんじゃん」
「おう。見せんかい」
 オットーは手紙を読んだ。
「お、おう。南部王家の極官(最高の官位)を任ずる内示とな? 光一郎、何故受けんかった?!」
「教導団の一部が、王国の人事を専横するのは、南部にとっても教導団全体にもマズイんじゃん。
 だから……」
「退学届を出したんか。光一郎、おぬしきちんと教導団を思いやっておるのだのう。お、おう、おおうぅ」
 鯉も、最近は随分と涙もろくなったものだ……光一郎は再びショパンを弾き始める。しばらくの間、鯉の噎びがその繊細なメロディの合い間途切れ途切れに聞こえていた。
 しかし。光一郎の考えは無論それに留まるものではなかった。
 教導団側も、南部諸国における彼の動向を察知しており、何かと手を打とうとしてきている。彼の意図を色々と推察しているのであろうが……

 場所は変わって、会議室。
 そこにいるのは……
 やはり光一郎と鯉のオットーだ。
「何。ジーベックとな?」
「この手紙の差出人は第四師団となっているが、これはおそらくクレーメック・ジーベックの策じゃん」
「むおう。あの男が、この戦いの本陣代表に就きおったかぁ。
 これは強敵じゃん?」
「そうじゃん?」
 教導団の使節が、すでに南部諸国入りしたとも聞く。光一郎としては、
「しっぽ娘としっぽりしたかったが……」
 外交使節を率いているのは、昴コウジだという。
「おう? 昴、コウジ……?
 おう、おう。それはともかく、光一郎。これはいかんぞ」
「何がいかんじゃん?」
「いいか、よし。説明しよう」
 画面が変わって(変わる必要はないのだが)、黒板の脇にオットーが現れる。黒板をばしばししながら、オットー。
 今までの力関係は
 南臣=>南部諸侯

 そして聞く話では
 教導団>王子
 だそうだ。

 このまま教導団が王子を連れてくると
 教導団>王子>南臣・南部諸侯
 となる。

 だが、これが正しい
 王子>南臣・南部諸侯=教導団

 言い終えると画面が戻り、オットーは、「王子は皆で゛迎えに行く゛必要があろう」黒い笑みを湛えた。「……何しろ軍は移動中が一番弱い」
 ほう。何か策があるようじゃん? 光一郎もにやりと微笑した。
 この老鯉も、まだ耄碌してはいないよう、……か?
 光一郎は、南部諸侯らに集うよう号令をかけた。

 教導団の使節が近付きつつある。
月夜が来るだと? お、おう(ぽッ」