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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

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第12章
土下座する男


 教導団第四師団を代表し、今、この男が、この地に住まう全ての民に土下座する。



 教導団本営のある三日月湖。
 その三日月湖の民達が、大勢集まっている。
 黒羊軍との対決のため、三日月湖に本拠を置いている教導団第四師団。
 民を前に、切実な様子で何か語っているのは、本営代表の戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)
「……戦いを持ち込んだのはお前達じゃないか。その通りです。お前達がいなくなれば戦いに巻き込まれずに済む。そうかもしれません、ですが、黒羊軍は自分達の利益のために他の街を占領、圧政を敷き、民衆は苦しんでいるのが実情なのです。これだけは言わせてください。我々は皆が笑って暮らせる世の中を作らんがために戦っています。それには貴方達の助けが必要なのです」
 戦部はこの公衆の面前で、一切のプライドも何も捨てて……
 土下座してみせた。
「どうか我々を助けてください。お願いします」
 民の間で、様々な声が巻き起こる。
 戦部の言うように、第四師団は、今やまったく四面楚歌の状態となった。
 三日月湖統治については、様々に議論が重ねられていたわけだが、目下、後方の補給も退路も断たれた状態。援軍も、ここまで到達できない。
「小次郎さん、……」じっと見守るリース・バーロット(りーす・ばーろっと)
 土下座する戦部。
 これには、心を打たれた者も少なからずいた。
 しかし、どうすればいいのだ……
 現に、黒羊軍は攻めて来ようとしている。教導団がこの街から出て行けば、ここが戦乱に巻かれることはないのか?
 しかし、あの少尉のおっしゃられたように、黒羊郷は、南部全土の平定の為、街を占拠している。その為、侵攻してきているのだ。では、教導団は何なのだ。教導団こそ、この地を侵略に来たのではないのか?
 真意はともあれ、教導団は黒羊軍を退けるべく、戦っている。それは事実だ……
 黒羊軍を迎え入れ(その占領を認めようとし)た、悪しき(悪政を敷いてきた)バンダロハム貴族も、教導団が黒羊軍と共に、打ち払ったのだ。
 そうだ、打ち払ったのだ、教導団なら、黒羊軍をこの街に近付かせない。勝てる。
 いや、だから今、彼らはピンチにあり、それで我ら民にああやって真剣に助けを求めているのだ。
 教導団が負けたらどうなる? 黒羊郷の支配下に置かれたら、どうなるのじゃ?
 だから、負けないように、我ら民が力を貸すのだ。

 そういった民の声に耳を傾けつつ、彼もまた戦部の行ったことを見ていた。
 群衆の中に混じっている些か高貴な趣の彼は、クレア少尉の守護天使ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)である。
「あの男。……戦部様、あなたはそこまで……」
 現状だと、短期で補給線をつなぎ直すのは困難であると戦部は判断した(第四師団の本拠オークスバレーが抑えられた(第9章))。そうなると、食糧を現地調達する必要が出てくる。
 徴収では当然のこと、買取にしても、供給不足による、物価上昇が起こる。
 そうなれば、民の反感は高まり、最悪の場合、反乱を起こされる可能性が高い。
 戦部はそうして、正直に支援をお願いすることで民の反感を和らげ、民衆の心に訴えることで一致団結し、敵にあたれる道が見えるなら、と思ったのであった。



 一方、統治についてのその後も、進められていた。
 が、こちらについても目下は、戦部は主張していた教導団による統治は取り下げ、民の不満や不安が高じない内に早く体制を整えてしまうべきと判断。
 リースは、バンダロハムの統治は、教導団がするのではなく、バンダロハム貴族への統治復帰を行う。と言う。
 が、これは猛反対に遭う。
 散々、民の金を貪り、悪政を敷いてきたのが、彼らバンダロハム貴族なのだった。
 では、どうすれば……
 クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)は、その人物を見つけあてていた。
 王子だ。
 クレアは、前回、ノイエのメンバーが中心になって行った南部王家や諸侯との会同に、本営からの代表として出席している。
 クレアの計画はまた遠大になっていた。最南の王家の王城(都)を三日月湖に遷都し、(三日月湖を南部の中心として)王子に南部全土を統べさせる、というものである。
 南部諸国については、クレーメックが、ノイエのメンバーを外交使節として、王子に伴わせ、向かわせているわけだが。
 クレーメックは、オークスバレーについても、その領有権譲渡を、南部諸国側への交渉の切り札としている。
 三日月湖経済共同体どころか、南部全体を、一つの王家が統べる形になるのか。
 南部王家と協力関係を築き、南部の統治は彼らに任せる……(教導団は、軍事にのみ関与?)。
 敵対国を滅ぼし、黒羊郷がもとの、異端達にとっての聖地である状態に戻れば……
 ともかく、この地において、教導団は(集団として)所詮は余所者。と、クレアは思う。
 だから、今のように、"教導団さえいなければ"という発想は起こり得る。だからやはり、この地に関わる者が統治を行うべきであり、教導団は"公"の立場から支援・監督をすべきだと。そういうスタンスであってこそ、"教導団さえいなければ"という発想を回避し得る……

 ところで、今や民にとっては必要となくなったバンダロハム貴族。
 彼らのその後を、ハンスは調べ上げておこうとしていた。
 前回、彼らが姿をくらませている、という情報を聞き、付近に潜伏しているのなら、危険だと判断したからだ。
 しかし、彼らの消息は、全く途絶えていた。
 まあ、それならそれにこしたことはなかった。
 粛清する手間が省けたのだから……とハンスは思った。

 ある貴族の館にあった預言書に、亡命を勧める一節が見つかったという。
「"三日月湖における教導団の支配は当面ゆるぎなし。
 砂漠に亡命すべし。そこに貴方方を必要としている者がいる。"……か。一体誰が? どのような意図で?」
 ハンスが去った後、その書物から密やかな笑い声が聞こえた。
 どうやら魔道書のようであった。



「久々に、実況役をやってみるリースですわ。
 前シリーズからやっぱり音信が途絶えている者。
 ミヒャエル・ゲルデラー博士(みひゃえる・げるでらー)アマーリエ・ホーエンハイム(あまーりえ・ほーえんはいむ)ロドリーゴ・ボルジア(ろどりーご・ぼるじあ)イル・プリンチペ(いる・ぷりんちぺ)……」