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リアクション
★ ★ ★
「さて、今日は忙しいよ!」
お揃いのペールピンクの作業服に身を固めて、朝野 未沙(あさの・みさ)はパートナーたちに言った。
「装甲板は、ここにおけばいいんだな」
孫 尚香(そん・しょうこう)が、大量にストックしてあるひび割れた装甲板から、状態のよさそうな物を選んで運んでくる。フルスクラッチで何かを作るには、こういったジャンクは意外に使い勝手がいい。運がよければ、最初から望む形をしていることがあるからだ。
「とりあえず、いろいろ集めたの、ここにおくよね」
朝野 未羅(あさの・みら)が、機晶姫用のレールガンやキャノン、ミサイルポッド、加速ブースターや、パワーアシストアームなどいろいろな物をファクトリーの床に並べた。
これから、トライポッド・ウォーカーやヘキサポッド・ウォーカーをベースとして、戦闘ポッドに改造しようというのである。
「これが実用化できれば、機晶姫以外でもレールガンとか撃てるようになるんだもん」
朝野未沙は、やる気まんまんだ。
「ハートの機晶石ペンダントからライトニングブラストで取り出した電気を使えばいいと思うんですぅ」
朝野 未那(あさの・みな)が、機晶石のついたペンダントを朝野未沙に渡して言った。
「まずはそこからの実験だけど……」
朝野未沙が機晶石に手を翳す。パチパチと、軽い放電現象が起こった。
「なんの機材もなければ、やっぱりこんなところよね」
エネルギーをコンバートすること自体には、はっきり言ってほとんど意味がない。攻撃としては元になる機晶石の状態にもよるが、放電によるスタンガン程度の物であろう。ちゃんとしたエネルギーとして使うには、エネルギーをためるコンデンサがなければ出力はないも同じであるし、当然、それらを結ぶラインも設置しなければならない。
機晶姫自体は、ブラックボックスである回路を持っているので、それらすべてを代用できると言える。
「物が足りなすぎるわよね」
「レールガンを起動するには、どの程度のコンデンサが必要になるのかなあ」
「仮に、変換効率が十パーセントという超高効率を実現できたとして、現在の機晶姫用レールガンの出力を500KJ(キロジュール)と仮定すると、5Mj(メガジュール)の電源が必要になるんだよね」
朝野未羅が計算するが、どうもピンとこない。
「100wの電球が5万個同時に点灯できる程度の電力なんだもん」
さらりと言われたが、そんなバッテリーを安定した状態でウォーカーに積み込むことなど無理だ。だいたいにして、トライポッドが一人乗り、ヘキサポッドが二人乗りが限界である。その程度のペイロードしかないということだ。
「とりあえず、レールガンは諦めて、機晶キャノンとミサイルポッドを……」
「機晶キャノンも、必要エネルギーは似たようなものだと思うんだよね。メガワットかギガワットの……」
「なんだか、まるで意味が分かんないんだけど、無理なんじゃん?」
軽く頭をかかえて、孫尚香が言った。
「ならば、ミサイルよね。未羅ちゃん、ウォーカーに六連ミサイルポッドを積んでよね」
「はーい」
朝野未沙に言われて、朝野未羅がトライポッド・ウォーカーの右側にワイヤーでミサイルポッドを仮づけしてみた。
「あっ……!!」
転けた。
三本足のウォーカーは、元々バランスがいいとは言いがたい。さらに、人一人の重量でバランスがとれるように調整されている。
「だったら、ヘキサポッド・ウォーカーに積むんだもん」
縦長の六本足タイプなら、二人乗りだし、中心軸に沿って前方に乗せることができるだろう。
「でも、これって、一人しか乗れなくなるし、ポッドの後ろにいたら、ミサイルの排気で死んじゃいますぅ」
火は怖いと、朝野未那が言った。
「じゃあ、横に取りつけてと……。今度は、倒れないけどほとんどかたむきかけてるから、反対側に装甲を追加してカウンターウエイトにするんだもん」
朝野未沙が、朝野未羅に装甲の溶接を指示する。火炎放射器を受け取った朝野未羅が、そのままウォーカーの側面においただけの装甲板に炎を投げかけた。
「燃えてる、燃えてるですぅ!」
朝野未那が悲鳴をあげた。
当然、火炎放射器程度では溶接はできない。本来は酸素とガスを混合して高温をスポット的に作りだすべきものだ。火炎放射器のように、可燃ガスだけを広範囲に吹きつけるものでは、ちゃんとした溶接ができるわけがない。
「あたしがコントロールするよ」
朝野未沙が、ギャザリングヘクスで魔力を高め、火術で火炎放射器の炎を魔法で溶接用の炎に変えた。青白い炎が、筆のような細さとなり、今度はちゃんとガス溶接できるようになる。
「上手だよ、未羅ちゃん」
朝野未沙に褒められつつ、朝野未羅がヘキサポッド・ウォーカーの右側に六連ミサイルポッドを、左側に追加装甲を溶接した。重量バランスはとれていて、今度は転倒しそうにない。
「やったね。強そうなんだもん」
「さっそく動かしてみるじゃん」
うきうきと言いながら、孫尚香が乗り込んだ。
「発進!」
シーン……。
動かない。
重いのだ。無限軌道や車輪とくらべて、多脚歩行タイプは関節部の強度に弱点がある。他の方式とくらべたら、歩行機能自体を強化しない限りペイロードはとても低い。
「えーと、失敗?」
朝野未那が残念そうに言う。
「まだよ、まだ終わらないわ。他にもブースターとか、アームとか……」
少しむきになって、朝野未沙が用意したいろいろなパーツを取りつけていく。だが、どれもまともに装着できなかった。
「結論。このウォーカーが貧弱すぎ」
孫尚香が切り捨てた。現時点で、ウォーカーを改造するのは根本的に無理そうである。
「はあ、うまくいかないものねぇ」
大失敗に、朝野未沙が溜め息をつく。
「なんか、いい匂いがするじゃん。どこかで、肉じゃが煮てるんじゃん?」
どこか御近所から漂ってきたいい匂いに、孫尚香がクンクンと鼻を鳴らした。
「御飯にしようか」
朝野未沙は、パートナーたちをねぎらうように言った。
3.空京の眺望
「なかなか、いい物件はないものですね」
空京の町をてくてくと歩き回りながら、六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)はつぶやいた。
今日は、空京に事務所を探しに来ているのである。
「ユーキが自分から積極的に動きだしたからと喜んだが、いきなり通信社が作りたいとは、俺様も驚いたぜ」
横を歩いて、手頃な空き部屋を探しながら、アレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)が言った。
「私も卜部 泪(うらべ・るい)さんのようなジャーナリストになりたいと思ったから……。私だって、やればできるんです」(V)
少しはにかみながら、六本木優希が答えた。
「それなら、本来はテレビ局あたりに就職といくところだが、いきなり自分の通信社だからなあ。あ、でも、自らの信念を通すんなら、小さくたって、自分の組織だぜ。誰かの下にいたんじゃ、真に自由な報道なんてできないからなあ」
感心半分、心配半分という感じて、アレクセイ・ヴァングライドがまくしたてる。
決心はいい。次はそれを形にするための本拠地だ。
「安心しろ。俺様がちゃんといい物件を……って、いててててて」
胸を張ってドンと任せろと言いかけたアレクセイ・ヴァングライドが、麗華・リンクス(れいか・りんくす)に耳を引っぱられて悲鳴をあげた。
「酒が切れた」
麗華・リンクスが、座った目でアレクセイ・ヴァングライドに言う。
「痛いって。お前、昼間から酔ってるな」
「若造、酒買うから、一緒に来い」
「おい、俺様は……」
有無をも言わせず、麗華・リンクスがアレクセイ・ヴァングライドを引きずっていく。
「お嬢、荷物持ち借りていくぞ。何か見つけたら連絡をくれるのだぞ」
一方的な麗華・リンクスの行動にちょっと面食らいながらも、六本木優希はこくんとうなずいた。
「無茶しやがって、ユーキが心配じゃねえか」
脇道に引っ張り込まれたアレクセイ・ヴァングライドが、急いで戻ろうとする。
「自分で何もできないときとは違うんだし。若いうちに苦い経験は早めにしておいた方がいいんだよ……。やっと世間を知り始めた箱入りお嬢にはね。いいかい、若造みたいな奴のことをなんと呼ぶか教えてやるよ。お節介って言うんだ」
「うるせー、俺様はユーキを見守るって決めてんだ」
「だったら、黙って見守れ。ほれ、こうやって物陰からな」
麗華・リンクスは、アレクセイ・ヴァングライドの頭をつかむと、ぐいと六本木優希の方へとむけた。なんだかお上りさんのようにキョロキョロとしながらも、六本木優希が、気に入った場所の物件をメモしていく。今日はまだ下見なので、空京の貸事務所がどのような場所にあるのかというのを調べている段階だった。
「わーい、シャンバラ宮殿にゴーなのである」
「こら、ジュレ、走ると危ないわよ」
なんだか元気よく走っていくジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)の後を追いかけて、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が走っていく。巻き込まれそうになって、六本木優希がちょっとよろけた。
「はうぅ〜、す、すみません。こら、ジュレ!」(V)
あわてて謝って、カレン・クレスティアはジュレール・リーヴェンディの後を追いかけていった。
「うお、ユーキ、あぶな……」
すぐさま飛び出していこうとするアレクセイ・ヴァングライドの首根っこを、麗華・リンクスがつかんで引き戻した。
「過保護」
「ううっー。じゃ、十メートルだ、十メートル離れて後をつけるぞ、それでいいだろ」
そう言って、アレクセイ・ヴァングライドはこそこそっと移動していった。
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