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学生たちの休日3

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学生たちの休日3

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「ここからでも、シャンバラ宮殿ってよく見えるんですね」
 空京大学のキャンパスから街の中央にあるシャンバラ宮殿を仰ぎ見て、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が言った。
「そうですね。それよりも、早くアクリト学長を捜しましょう。あの、すみませんですわ、アクリト学長はどこにおいでになられますでしょうか」
「学長ですか、学長なら……」
 ふぉふぉふぉふぉ……。きしゃー。
「うわーっ!」
 丁寧なセツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)の物言いに、親切に答えてあげようとした学生は、振り返ったとたん血相を変えて逃げだしていった。
「あらあら、どうなされたのでしょう」(V)
 分からないわと、セツカ・グラフトンが頬に手をあてて考え込む。その後ろで、ふよふよと宙に浮かんだ半透明の二体のレイスが、耳障りな声をあげて笑った。
「あああ、ごめんなさいですぅ。怖くありませんから。何かあったら、すぐにバニッシュで成仏させますので。どうか、学長のいらっしゃる場所を……。ああ、逃げないでくださーい」(V)
 ヴァーナー・ヴォネガットはそう言うが、さすがに無理な相談である。
「なんでレイスなんて連れてきたんです。それも二つも。みんな気味悪がって寄りつかないじゃないですか。もうっ、おしおきなんです。せっかく、アクリト学長のためにオレンジワッフルとローズティーを持ってきたというのに、渡せないではないですか!」(V)
 怒ったヴァーナー・ヴォネガットが、腰に手をあててセツカ・グラフトンに言った。
「えー、かわいいのに、かわいいのに」
 お手と、セツカ・グラフトンが手をさし出すと、レイスがポンとその上に青白い半透明の手らしき物を載せた。
「神様の光です! 聖なるかな、聖なるかな、聖なる光。邪なる物を祓いて、神罰の……」(V)
「バニッシュだめー!」
 問答無用でバニッシュの詠唱に入るヴァーナー・ヴォネガットを、寸前のところでセツカ・グラフトンがその身を蝕む妄執で止めさせた。
「ああ、アクリト学長、お会いしたかったです。お疲れでしょう。さっそく、ボクの持ってきたお茶とお菓子を……」
 目の前に現れたアクリト・シーカー学長の幻影に、ヴァーナー・ヴォネガットは持ってきた差し入れを渡そうとした。
「この私に話しかけるとは……。いいでしょう。だが、まずこれを解きなさい。それができない生徒は相手にしません。落第だ」
 そう言って、幻影のアクリト・シーカー学長が、ヴァーナー・ヴォネガットに問題用紙を渡した。
「そんなもの。理数57のボクに解けない問題なんてありません。このまま、アクリト学長の一番弟子になります」
 ヴァーナー・ヴォネガットは、受け取った問題を読んだ。
「えーと、楕円曲線E上の有理点と無限遠点Oのなす有限生成アーベル群の階数が、EのL関数L(E,s)のs=1における零点の位数と一致する。これを証明せよ……。こ、これは、BSD予想……。む、無理ー。うぅ〜」(V)
 未だ数学界で解けた者のいない問題を出されて、ヴァーナー・ヴォネガットは目を回してその場にひっくり返った。
 
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「お待たせです。これで大物のパーツは最後ですかね」
 中型飛空挺で吊り下げたコンテナを浮き島の地上に降ろしながら、ジェイドが言った。
「ああ。まったく、海賊がパーツの一部をなくしてくれたおかげでよけいな手間がかかったが、これでなんとか作業が再開できそうだな」
 飛空挺のワイヤーをコンテナから外しながら、オプシディアンが答えた。
「それで、蒼空学園の方はどうするんだ?」
「なんでも、通信回線が切断されるというトラブルがあったらしくて。まあ、こちらとしては好都合ですが。タイミングを見計らって、コンテストを開催するつもりですよ。もちろん、あなたもいらっしゃるんでしょう」
「まあな。せいぜい楽しませてもらうとしよう。すべてを知ったときの奴らの顔が楽しみだ」
「すべてを知るのは、空京が滅んだ後ですからねえ。まあ、何も知らずに滅ぶか、うまく阻止したと錯覚しているうちに滅ぶかのどちらかですから、それ以外の選択肢など与えませんが。いずれにしても、それまではじっくりと楽しみましょう。うまくいけば、私たちが手を下さずともすみそうですしね」
 暗雲たちこめる大陸の方を見つめて、ジェイドはつぶやいた。
 
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「さすがに、デパートは品物の数が凄いなあ」
 広いフロアにずらりと並んだ婦人服を見て、椎堂 紗月(しどう・さつき)はちょっと溜め息をついた。
「さて、夏服だけど、二人はどんなのがいいんだ?」
「私は、動きやすい服の方がいいんだもん」
 それほどおしゃれには頓着しない感じで、有栖川 凪沙(ありすがわ・なぎさ)が答えた。
「凪沙も、たまにはフリルがたくさんついた服とか着たらいいのですわ。そうですわね、いっそゴスロリなんかもいいのではないのでしょうか。パッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)とかアルディミアク・ミトゥナ(あるでぃみあく・みとぅな)とか、十二星華にはひらひらした服を着ている者がいますわ」
 小冊子 十二星華プロファイル(しょうさっし・じゅうにせいかぷろふぁいる)ことせーかが、有栖川凪沙に言った。
「うーん、あんまり着飾らない普通の服でもいいんじゃないのか。シンプルなワンピースとかさあ。とにかく、いつもイルミンの制服やパンツルックじゃな。たまにはスカート穿いてみなくちゃ」
「なら、あのあたりはどうでしょう」
 せーかが、とことことハンガーの一つに近づいていく。
 夏向きのワンピースが、所狭しと並んでいた。
「ううーん」
 ちょっと恥ずかしそうに、有栖川凪沙がいくつかを身体にあててみる。せーかも同じように選ぼうとしたが、身長差がありすぎて、せーかに合うサイズの服はここではなくて子供服売り場の方だ。
「まあ、0歳児ではしかたないな」
「ぶー」
 椎堂紗月に突っ込まれて、せーかが頬をふくらませた。
「その、右の方、意外と似合ってるんじゃないのか、凪沙」
「そ、そうかなあ。試着してみようかなあ……」
 ワンピースをハンガーに戻しかけていた有栖川凪沙が、褒められて手を止めた。いそいそと、それを持って試着室へとむかう。
 
「どう、ベファーナ。似合っていると言いなさいよね!」
 試着室から出てきた雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)が、外で荷物をかかえて待っていたベファーナ・ディ・カルボーネ(べふぁーな・でぃかるぼーね)に訊ねた……というよりは、賞賛を強要した。
「似合ってるよ、リナ」
 パチパチパチと、ベファーナ・ディ・カルボーネがまばらな拍手を送る。
 ポーズをとる雷霆リナリエッタの出で立ちは、淡い水色のミニのワンピースに、つば広の白い帽子をちょっと斜に被り、新調した赤いパンプスという取り合わせだ。すらりとした立ち姿は意外にも絵になるので、黙っていれば気の強いお嬢様という感じになる。
「気持ちが入っていない! よし、次行くわよ」
 シャーッと勢いよくカーテンを閉めると、雷霆リナリエッタは中でごそごそと着替え始めた。
「どうかしら、これ?」
 あらためて現れた雷霆リナリエッタは、なぜか白のスクール水着だった。
「あら、浮かない顔ね。これより、こちらのビキニの方がよかったかしら」
 ベファーナ・ディ・カルボーネの反応がいまいちだったので、雷霆リナリエッタは手に持った真っ赤なマイクロビキニを見つめた。
「いやいや、そちらの方がずっといいです」
 さすがにそのビキニは恥ずかしいだろうと、ベファーナ・ディ・カルボーネはぎりぎり年相応であるはずのスクール水着の方を褒めた。
「ならいいわ。さあ、この姿でナンパよぉ! むきむきの男をゲットするんだもん!」
 元気いっぱいに、雷霆リナリエッタがそのままの姿で歩きだした。
「ちょっと、リナ、着替えてくださいよ。ファッションショーをするなら、もっといい場所でしましょうよぉ」
 ベファーナ・ディ・カルボーネは、あわてて雷霆リナリエッタの後を追いかけていった。
 
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「お客様、その格好では困ります……」
「いいじゃないのよぉ」
 紳士服売り場の端の方で、何やらもめているような声が聞こえてくる。
「なにか、あったのかしら?」
 アイン・ブラウ(あいん・ぶらう)の服を選んでいた蓮見 朱里(はすみ・しゅり)が振りむいたが、誰がもめていたのかまでは確認できなかった。デパートの店員に連れていかれてしまったようだ。
「どうだい、もう買い物はすんだかな」
 水色のポロシャツの入った紙袋を二つ持ったエルシュ・ラグランツ(えるしゅ・らぐらんつ)が、薄手のホワイトグレイのジャケットを買ったディオロス・アルカウス(でぃおろす・あるかうす)とともに蓮見朱里の許へやってきた。
「なんだ、まだ迷ってるのか」
「まあまあ、あわてることもないじゃないですか」
 充分な時間はあっただろうと少し呆れるエルシュ・ラグランツを、ディオロス・アルカウスがなだめる。
「なにぶん、僕は戦闘タイプなので、こういうことには不慣れなのだよ」
 仏頂面で、アイン・ブラウが答えた。
「違和感減らすにはスーツ系がいいね。似合うし」
「じゃあ、それでコーディネイトしてみようよね」
 エルシュ・ラグランツの提案を入れて、蓮見朱里が言った。三人でわいわいと吟味しながら、アイン・ブラウに着せる服を選んでいく。
 細い縦縞のシャツに茶に近い渋めの赤いネクタイ、やや灰味を帯びた黒のジャケットと同じ色のスラックスで決めててみる。
「似合うかな?」
「うん、とっても」
 わずかにはにかみながら聞くアイン・ブラウに蓮見朱里は即答した。
「朱里さん、もう夏だけど水着は買わなくていいのかな?」
 自分の分はいいのかなと、エルシュ・ラグランツがふった。
「えっと、私胸とか大きくないから、ビキニとかあまり派手なのは似合わないし、無難にAラインワンピースがいいかな、なんて……」
「そうなのか? 売り場移動ならつきあうが。もっといろいろな彼女が見たいのだが」
 あっけらかんと言われて、蓮見朱里が口をぱくぱくさせた。
「まあまあ。そりゃ、朱里の一人ファッションショーは俺も見たいが、さすがに水着売り場で男三人が女の子を囲んで水着鑑賞はまずかろう」
 エルシュ・ラグランツの言葉に、さらに口をぱくぱくさせる蓮見朱里に、ディオロス・アルカウスが後ろをむくと肩をふるわせて笑った。
「さて、俺はちょっと紅茶を買いたいのだが」
「あっ、私もちょっとアクセサリー売り場に用が……」
 買い物の続行を提案するエルシュ・ラグランツの言葉に、蓮見朱里はアイン・ブラウの方をチラリと見てから言った。