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【十二の星の華】双拳の誓い(第6回/全6回) 帰結

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【十二の星の華】双拳の誓い(第6回/全6回) 帰結

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「みんな出発したな。さて、我も行くとするか。影に隠れてこそ、忍ぶ者の神髄であるからな」
 次々に出発するゴチメイの仲間たちの後を追って、毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)も身を隠しながら空飛ぶ箒で出発した。何も先頭がえらいわけではない。状況を一番把握できるのは、適度に後方なのだ。
 彼女が最後かと思われたが、実際にはまだ出発できない者たちもいた。
「あいたぁっ。しくっちまったぁ。どうやって海を渡ったらいいんだあ!」(V)
 ざっぱんと波が寄せてくる砂浜に仁王立ちになって、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)は沖にむかって叫んでいた。
 ここは、根性を見せて軽身功で海賊島まで水の上を走っていくしかない。もっとも、それが可能であればの話ではあるが。だが、十キロも先にある海賊島まで、しかも途中戦闘を行いながら水の上を駆け抜けるなど、あまりに現実的ではない。最悪は泳いでいくかなのだが……。
「大丈夫、こんなこともあろうかと、ボートを用意しておいたんだよね」
 騎沙良詩穂が、砂浜に引き上げておいた中型のボートを指して言った。まさに至れり尽くせりだ。
「ありがたい、後で筋肉で御礼するぜ」
「い、いえ、遠慮するんだもん……」
 御礼のポーズをとるラルク・クローディスに、思わず騎沙良詩穂は苦笑いして腰を引いた。
「おお、用意のいいことじゃな。できたらお願いしたいのじゃが、我らも乗せてはもらえぬだろうか」
 ゲリとフレキという二匹の狼を従えたウォーデン・オーディルーロキ(うぉーでん・おーでぃるーろき)が言った。この二匹のために、乗り物に乗ることができずに困っていたのだ。
「よし、そうと決まったらすぐに追いかけるぜ。なあに、俺に任せておけば海賊島までなら一漕ぎだ」
 騎沙良詩穂とウォーデン・オーディルーロキたちが乗ったボードをパラミタ内海に押し出すと、ラルク・クローディスは力強くオールを漕ぎだした。
「むこうは、暖かそうでいいですねー」
「贅沢は言わない。便乗させてもらえるだけでもありがたいんだぞ」
 物欲しそうに騎沙良詩穂たちのボートを指をくわえて見つめる麻上 翼(まがみ・つばさ)に、月島 悠(つきしま・ゆう)が言った。
「ごめんねー、即席だから、こんなものしか用意できなかったんだよねー」
 ちょっとすまなそうに、秋月 葵(あきづき・あおい)が言う。氷術を駆使してなんとか作りだした巨大な氷塊を、高周波ブレードで削りだした即席のボートが彼女たちの前にある。海賊島までなら充分に溶けないでもつとは思うが、なんにしろ寒そうではある。
「すまない、俺たちも乗せてくれ」
 紫月唯斗とエクス・シュペルティアが駆けてくる。
「すまぬな。移動手段を持たぬがゆえ」
 エクス・シュペルティアがぞんざいに頭を下げた。
「それじゃあ、溶けないうちに早く出発するんだもん」
 秋月葵たちは氷のボートを水に浮かべると、出発した。月島悠と麻上翼が左右に位置取り、パワードアームを駆使して快調に進んでいく。
 途中でラルク・クローディスのボートを追い越す。
「ちっ……野郎。やるじゃねえか、勝負だ!」(V)
 機械相手に後れをとったラルク・クローディスが、むきになってオールを動かして秋月葵たちの氷のボートにならんだ。
「この調子なら、あっと言う間に追いつき追い越ししちゃいますね」
 麻上翼が、安心したように言ったときだ。
「すいませーん、避けて避けてー!!」
 突然、頭上から本郷涼介をかかえたクレア・ワイズマンが落ちてきた。
「ちょっと、何すん……むきゅ」
 あわてて月島悠がパワードアームでガードしようとしたが間にあわず、氷のボートの中に二人が落ちてきた。クレア・ワイズマンがパーストダッシュでなんとか落下速度を減速したおかげで大事には至らなかったが、おかげで氷のボートの中では五人の男女が団子状態だ。とはいえ、男は本郷涼介ただ一人であるから、これはうらやましい状況なのか、後が怖い状況なのかは、どちらだとも言えない。
「だから、大丈夫かと聞いたんだ」
「あーん、ごめんなさーい。冷たーい」
 身動きのとれない本郷涼介に言われて、クレア・ワイズマンがひたすら謝る。
「ちょっと、どこさわってるんだもん」
 秋月葵が叫んだ。
「不可抗力だ」
「あーん。ちょっとどいてー。どけってんだろー」
 本郷涼介の下で、麻上翼がじたばたともがいて状況を悪化させる。
「いったい何が……むぎゅっ」
 状況を把握しようとした紫月唯斗が再び船底に突っ伏す。
「すいませーん、ちょっと通るであります」
 なぜか、突然現れたスカサハ・オイフェウスが、一同を踏んでジャンプすると加速ブースターで再び空に舞いあがっていった。
「なんだ、今のは」
 まさに踏んだり蹴ったりだと本郷涼介が叫ぶ。
「踏み台にされましたー」
 麻上翼が泣き声をあげた。
「おのれ、わらわの唯斗を足蹴にするなど、許せぬ。仇はきっととろう」
 小さくなっていくスカサハ・オイフェウスの姿を見送って、エクス・シュペルティアが憤慨した。
「お先にー」
 この隙にと、ラルク・クローディスが氷のボートを追い抜いていく。
「ああ、抜かれちゃったんだもん」
 やっとこ抜け出した秋月葵が叫んだ。
「とにかく、進むぞ」
 月島悠が、なんとかパーワードアームを動かして氷のボートを再び進めていった。
「よし、一気に海賊島に上陸だぜ」
 破竹の勢いでボートを漕いでいたラルク・クローディスだったが、こちらのボートの方にも空の落とし物は分け隔てなくやってきたようだ。
「どいてくださーい」
「きゃあ、何よ、何!?」
 突然頭上からした声に、騎沙良詩穂があわてて船尾の方に逃げた。
 ズドンと、フィオナ・クロスフィールド(ふぃおな・くろすふぃーるど)にかかえられたアンドリュー・カー(あんどりゅー・かー)が落ちてくる。
「貴様あ、敵かあ!」
 反射的に、ラルク・クローディスが立ちあがって拳を構えた。
「アンドリューさんをいじめちゃだめー!」
 とっさに飛び出したフィオナ・クロスフィールドが、ラルク・クローディスの足にタックルした。バランスを崩したラルク・クローディスが海に落ちる。
「てめー」
「すみません、すみません。疲れちゃった私がいけないんです」
 怒り狂うラルク・クローディスに、フィオナ・クロスフィールドがひたすら謝った。海賊島にむかったのはいいが、海岸に来て初めて海を渡る方法がないことに気づいたのだ。しかたなく、守護天使であるフィオナ・クロスフィールドの翼を頼りに二人で飛んできたわけなのだが、先のクレア・ワイズマンと同様に、途中で力尽きてしまったのである。
「筋肉が足りねえんだよ。筋肉が。まったく、少しは自分たちの体力というものをだなあ……」
 ボートの縁に手をかけてあがろうとしたラルク・クローディスであったが、その背後から何者かが彼の身体をよじ登るようにしてボートに飛び込んできた。
「いやあ、助かったじゃん」
 その狼型の獣人は、ボートの中央でブルンと身震いした。たちまち、四方八方に雫が飛び散る。きやっと小さな悲鳴をあげて、女の子たちが狭いボートの中を逃げ回った。
「敵ではないようじゃのう」
 ゲリとフレキを押さえながら、ウォーデン・オーディルーロキが言った。
「もうちょっとで溺れるところだったしい、ほんと助かったじゃん」
 悪びれずにテュール・グレイプニルが言った。どうやら、ここまで犬かきで泳いできたらしい。
「ああ、どうでもいいから、急ぐぞ!」
 構っていたらきりがないと、ラルク・クローディスは再びボートを漕ぎだした。