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【十二の星の華】双拳の誓い(第6回/全6回) 帰結

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【十二の星の華】双拳の誓い(第6回/全6回) 帰結

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「各個撃破の愚は侵したくないが、とはいえ、馬鹿正直にひとまとめで突っ込んでいっても、思わぬ罠がある可能性もあるな。ここは、波状攻撃をしかけて、先鋒隊が敵を引きつけ、その隙に本体が突入、後続隊が本体への追撃を阻止しつつ退路を確保というのが理想だろう」
 アーサー・レイスを黙らせてきた土方歳三が、大まかな作戦を披露した。
「とりたてて、目新しいところも奇抜なところもありませんが、それゆえ堅実な戦い方ですね」
 ペコ・フラワリーが、土方歳三の言葉を支持した。
「だったら、自分たちが露払いをさせてもらおう。海賊たち、特にデクステラには恨みもあるからな。自分には勝利しかない、奴を討つまでは」(V)
 すかさず、鬼崎 朔(きざき・さく)たちが先鋒を名乗り出た。
 以前、キマク近くの海賊たちのアジトに入り込んだときに、持っていたヴァンガードエンブレムのせいで問答無用で牢に入れられたという経緯がある。
「ふふふ、朔よ、いつぞやの恨み、思いっきり晴らそうではないか」
 ふいをつかれたとはいえ、たいした抵抗もできずに鬼崎朔と二人で牢に入れられたことが、相当プライドを傷つけたのだろう。パートナーのアンドラス・アルス・ゴエティア(あんどらす・あるすごえてぃあ)もやる気まんまんであった。
「今度は俺がいるんだしい、楽勝じゃん」
 黒狼の獣人であるテュール・グレイプニル(てゅーる・ぐれいぷにる)が、全身の毛を逆立てながら豪快に笑う。
「準備は万端であります」
 真紅のボディに漆黒のプロテクターというカラーリングのパワードスーツに身を固めたスカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)が、戦闘用ドリルを掲げて言った。
「だったら、シニストラは私とねーさまでなんとかするんだもん。指揮する人をやっつけちゃえば、きっとかなり有利になるはずだもん」
 久世 沙幸(くぜ・さゆき)が、海賊たちのもう一人の要であるシニストラ・ラウルスを押さえると宣言する。こちらも、かつてヴァイシャリーの海賊船を偵察していたときに、奇襲を受けてあっけなく捕まったという苦い思い出がある。
「でも……」
 隅の方で、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が人知れずつぶやく。アルディミアク・ミトゥナを救いたいためとはいえ、シニストラ・ラウルスと袂を分かってしまった彼女であったが、その心の内は複雑だ。
 騎沙良詩穂から見れば、海賊たちが全員すべて極悪人とは言い難い。もちろん、海賊をしている時点で完全な善人であるはずがないのだが、それを言ってしまえばゴチメイを含めたパラ実生のほとんどはどうなのだということにもなってくる。
 とにかく、騎沙良詩穂としては、シニストラ・ラウルスたちにも生き残ってほしいのである。
「雑魚は、僕たちがなんとかしますよ」
「うん、頑張るんだもん」
 様々な思いなど知らず、菅野 葉月(すがの・はづき)ミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)が言った。彼女たちとしては、ココ・カンパーニュをアルディミアク・ミトゥナに会わせてあげたい一心なのだ。
「ココさんたちの護衛は私たちがしますから。心おきなく進んでください。信じる道を進むのであれば、私はそれを止めはしませんし、誰かに止めさせもしません」
 クレア・シルフィアミッド(くれあ・しるふぃあみっど)安芸宮 稔(あきみや・みのる)を連れた安芸宮 和輝(あきみや・かずき)が胸を張って言った。
「罠などは、私が排除します」
「怪我しても、私が癒してさしあげますわ」
 パートナーたちとともに集まった者たちは、それぞれに力を合わせたり役割分担をしている。大まかな戦術さえ決まっていれば、戦闘はそれぞれに任せた方が効率がよかった。
「そう、思いっきりやってよいのだよ。何かあれば、そのときのためにわらわたちがいるのであるのだから」
 エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)も、治療要員としてずっとココ・カンパーニュたちのそばを離れないつもりだ。
「退路は、俺が確保しておきますから。海賊たちに、星剣を渡すようなことだけは避けなければなりませんし」
 紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が言う。彼の思惑は、若干、他の者たちとは違っているようだった。もちろん、ココ・カンパーニュとアルディミアク・ミトゥナの再会に助力することにはまるで異存がない。だが、もしも失敗したとき、星剣をどう扱うのかということにまで考えを巡らせてもいる。それが達観なのか、勝手な思いなのか、取り越し苦労なのか、判明するにはまだ早かった。
「私に任せて。リンちゃんは、私が守ってあげるんだもん。というか、一緒に弾幕張ろ、弾幕。敵を蹴散らして、寄せつけないんだもん」(V)
「弾幕……。ちょっといいかも……」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)に誘われて、リン・ダージがちょっとうっとりした目で言った。
「とにかく、サポートは私たちに任せてですぅ」
「ありがとう。でも、私の勝手な都合のために、みんな、なんでこんなに手伝ってくれるんだ?」
 神代 明日香(かみしろ・あすか)の言葉に、ココ・カンパーニュがつぶやくように訊ねた。
「面白いからさ」
 レン・オズワルド(れん・おずわるど)が言う。
「ひっどーい」
 言葉どおりに受け取って、リン・ダージが非難の声をあげた。
「酷いことはないぜ。面白いから手伝うのは、自分がそれをしたいと思うことだからだ」
「そうですね。冒険屋として、これは依頼ですらありませんから」
 メティス・ボルト(めてぃす・ぼると)が補足する。
 タシガンの城の件までは、レン・オズワルドの一党は海賊たちの呼びかけに応じて仕事として行動をともにしていた。それはビジネスだ。だが、思い入れれば入れるほどに、人は組織ではなくて人に惹かれていく。
「自分の意志なのだから。誰に強要されたものでもない、正真正銘、これは自分自身の意志だ」
 レン・オズワルドは、アルディミアク・ミトゥナのそばに残ったノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)のことを思って言った。その思いには答えてやりたい。それはまた、レン・オズワルド自身の意志でもある。
「じゃあ、出発するか!」
 ココ・カンパーニュが元気な声で言った。
「待っているぞ。ここは、二人が戻ってくるべき場所だ。そして、みんなが戻ってくる場所だ。一人で来る場所ではない」
 土方歳三がココ・カンパーニュに言う。
「みなさん、気をつけて」
 留守番組を代表して狭山珠樹が、一同を見送る。
「ああ、後でまた会おうね」
 言うなり、駆けだしたココ・カンパーニュがひらりとジャワ・ディンブラの背に飛び乗った。
「さあて、行くか」
 待ちくたびれていたジャワ・ディンブラが大きく翼を広げて咆哮した。その声に震える大気を、力強い翼の一打ちで地面に叩きつける。わずかに乾いていた砂浜表面の砂粒が舞いあがり、ココ・カンパーニュを乗せたジャワ・ディンブラの身体がふわりと宙に浮いた。続く翼の一打ちで、素早く上空へと飛翔する。
「行きますよ!」
 彼女たちに続いて、ペコ・フラワリーたちが砂浜にならべられていたそれぞれの小型飛空艇に飛び乗っていった。一列にならべられた小型飛空艇は、ベースは空中バイク型として一緒でも、取りつけられたカウルでそれぞれかなり印象が違う。完全にオープンなバイク型のものもあれば、流線型のカウルがほぼすっぽりとドライバーを被うような物もある。
 それらが、機晶石をコアとした浮遊エンジンを発光させて浮きあがる。独特のエンジン音を響かせて、砂を蹴散らして進んだ小型飛空艇が、水面すれすれを白い波を蹴たてて進んでいった。
「ではあ、あたしたちはあ、優雅にい、高空から行きますよお」
 避難所の横に立てかけてあった空飛ぶ箒を手にとってチャイ・セイロンが言った。イルミンスール魔法学校の生徒たちを中心とした者たちが、次々と箒を手にして空に飛びあがっていく。
「遅れるよ、ナナ」
「ああ、はい。行きます!」
 ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)に急かされて、ナナ・ノルデン(なな・のるでん)もあわてて空飛ぶ箒にまたがった。
 だが、次々に出発していく者たちの中には、取り残されようとしている者もいた。
「チャイさん、待ってくれ。護衛がいなければ危険だ」
 本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)が叫んだが、あろうことか魔法の箒を忘れてきている。
「飛べない人わあ、お留守番、よろしくですう」
 素っ気なく、チャイ・セイロンとリン・ダージを中心とした一隊が遠ざかっていく。
「ああ、私としたことが、なんてことだ」
 悔しがる本郷涼介の身体が、突然後ろからだきしめられてふわりと宙に浮いた。
「まったく、私がいないとおにいちゃんは全然だめなんだから」
 本郷涼介をだきかかえたまま、クレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)がヴァルキリーの翼を広げて飛んでいった。
「すまない、クレア。だが、海賊島まで飛んで行けるのか?」
 すでに少しよろよろとしているクレア・ワイズマンの飛行を見て、本郷涼介が訊ねた。
「うーん、でも、頑張るよ、おにいちゃん」
 クレア・ワイズマンは、けなげにもそう答えた。
 前方の空中では、それぞれ出発した者たちが合流して、陣形を再編している。
「遅いぞ、御主人」
 パワードスーツを着て小型飛空艇に乗った雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が、遅れて空飛ぶ箒でやってきたソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)『空中庭園』 ソラ(くうちゅうていえん・そら)にむかって言った。
「ごめんごめん、ベア」
「謝ることなんてないわよ、ソア。だって、ベアが勝手に進みすぎるんだもの。ちゃんと私たちについてこないと、怪我するわよ」
 簡単に謝るソア・ウェンボリスを尻目に、『空中庭園』ソラは言いたい放題だ。
「普通逆だろ、それはよお。二人とも、俺様の後ろから離れるんじゃないぜ」
 雪国ベアが、騎士兜の下から『空中庭園』ソラに言い返した。葦原島では頭をガードし忘れて失敗したので、今度は自慢のプリチーなフェイスを犠牲にして、騎士兜でしっかりと守っている。
「ココさん、ジャワさん。周囲は、俺が守るから安心してくれ。この戦い、必ず勝つぞ」(V)
 物静かな少女である『地底迷宮』 ミファ(ちていめいきゅう・みふぁ)を空飛ぶ箒の後ろにちょこんと乗せた緋桜 ケイ(ひおう・けい)が、悠々と宙を舞うジャワ・ディンブラの横につけて言った。
「まだ少々危なげに見えるが、言ったことはちゃんとできるつもりだ。安心して、周囲はわらわたちに任せるがよい」
 横座りに乗った空飛ぶ箒でぴったりと緋桜ケイの斜め後ろにつけながら、悠久ノ カナタ(とわの・かなた)が保証した。