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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第2回)

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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第2回)
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3-04 ジャレイラと

 鏡の合図があった。
 テング山……制圧。
 レオンハルトは、
「眼は潰した、次は口を奪い足と腕を?ぐ。鋼鉄の獅子、状況開始!」
 鋼鉄の獅子が動いた。



 前線では、すでに交戦状態にある両軍。
 ジャレイラが出てきたことで、敵軍の士気は上がる。そんな中……
「レジーナ! 一体何を!? こんな状況で話しかけても!」
 金住が、止める。
 レジーナは、思わず、ジャレイラに向かって呼びかけていたのだ。
「やめてください! これ以上戦っても誰の得にもなりません!
 女王陛下がもうすぐ復活されるというのに……。
 今のあなたをご覧になればきっと悲しまれるでしょう。今ならまだ間に合います!」
 後方のジャレイラが、レジーナの叫びに気付く。
「おまえ、あのとき(吊り橋の戦い)の……。……? しかしどこか違う。一体、何が変わったのだ」
 フランベルジュを取り出し、ざ、ざっ、とジャレイラが近付いてくる。
 レジーナはたじろぎながらも、今回は退かない(胸パッドはささやかな対抗策?)、「こうなれば、神子の……」
「女王陛下……?
 今の我を悲しむだと。そのようなことは」
 ジャレイラがフランベルジュを振りかざしたとき、
「【獅子の右目】イリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)。黒羊軍指揮官ジャレイラに決闘を申し込む!」
「イリーナ?」
 ジャレイラの脇に控える瑠璃、
「ほう……イリーナが来たか……」
 レオンハルト、ルカルカではなかった。彼らの姿はこちらにはないらしい。テング山奪還後、イリーナは待機450の内400を率い本陣を出立。ジャレイラの方に軍を進めてきた。
「伏兵……」
 瑠璃は、周囲を注意深く見回す。
 イリーナのパートナーらがいる以外、相手側には、あやしい様子は窺えない。
 正々堂々の、一騎打ち所望のようだ。
「犠牲を増やしたくなければ、一対一でどうだ?」
 剣の柄に手をかけ、誘いをかけてくるイリーナ。
「ジャレイラ様……相手は鋼鉄の獅子の副官です……」
「そうか。いいだろう、面白そうだ。
 自信はありそうだが、さて」
 フランベルジュの切っ先が、イリーナに向けられる。
「ふっ」
 イリーナも剣を抜き放った。高周波ブレードだ。高い破壊力を持つ。
 フェリックス・ステファンスカ(ふぇりっくす・すてふぁんすか)トゥルペ・ロット(とぅるぺ・ろっと)が、レジーナのもとへ走る。
「大丈夫?」「大丈夫でありますか?」
「大丈夫でありますか?」金住も、すぐに駆け付ける。
「え、ええ……」力が抜けて、座り込むレジーナ。金住と、トゥルペが支える。
「レジーナ。無茶を……あのまま、切られていたかもしれないのに」
「健勝さん……。
 (けれど。ジャレイラ、あれでよかったのでしょうか……あの方にはもう戦いしか見えていない? 私の力を使っていたところで?
 私の、力……)」
 ヒュンッ
 ジャレイラの剣が、イリーナをかすめる。熱い……
 イリーナは、ファイアプロテクトで耐炎性を高めてある。そうでなければ、触れなくとも、火傷を負っている。それでも、かまわないけど、とイリーナは剣を振るう。(肌に傷が付いて誰が困るでも無し。(なのか?))
 数度に渡り、ジャレイラの剣を交わした。隙がない……
「はぁ、はぁ、……」
 イリーナはしっかりと心を落ち着ける。
 フェリックス、それにトゥルペは銃をかまえ、一騎打ちに邪魔入らないよう辺りを見ている。綺羅瑠璃やジャレイラの兵も、一騎打ちを見守る。
 もう一人、エレーナ・アシュケナージ(えれーな・あしゅけなーじ)はイリーナが心配なのか、つい、前に出てくる。
「いいぞ。手助けは、無用だ……」
「それにしては、随分息が切れているが?」
「ふ。ジャレイラ。おまえさえいなくなれば、この戦乱も収まる。それを分かっているか?」
 イリーナはジャレイラを挑発し、斬りかかった。
 「貴様!」「ジャレイラ様に……!」周囲の黒羊兵が怒りをあらわにする。弓を引いた者もいる。
「いい。イリーナとやら、そんなことで我が」
 ジャレイラはまったく動揺する様子もなく、フランベルジュを振った。
 イリーナは向かってくる剣を真っ向からへし折る勢いで突っ込んでいたが、一瞬剣を引くと相手のそれを交わし、深くに飛び込んだ。喉元へ。
「無謀すぎる」
 ジャレイラは剣を返してイリーナを斬り裂こうとした。
「ま、待ってこの者の命が惜しくないのですか!」
「チッ」
 ジャレイラは即座に剣を引いて、後ろに飛んだ。イリーナは、片手を付き倒れるが、すぐ立ち上がる。
「エレーナ……! 余計なことを」
 叫んだのは、エレーナだった。さき、イリーナの挑発に飛びかかろうと出てきた中の敵兵を人質にとった。
「わ、わたくしはイリーナが……傷付くなんて、……!」
 震えながら、エレーナは言う。
「ふん。なんだ、一騎打ちにならんな。気が抜けた」
 ジャレイラは、あっけなく剣を閉まった。人質に獲られたのは……義勇軍に従軍していたあの男か。前線で戦いの記録などしたいと言っていたな。「その者は、黒羊の将兵ではないぞ。土地の者で協力してくれていた。どうするつもりだ?」
「この方は人質に頂きますわ、一度、兵を退いてください」
 敵が、卑劣な! と怒声を上げる。主を捕らわれた獣人が牙を剥いている。
 イリーナは、エレーナが下がるのを確認し、ククク、と笑うと「甘いな、ジャレイラ」と言った。「そんなふうに生きたいならば、戦いなどせず、どこかの小さな集落で仲間とのんびり暮らす方がいい。その方がおまえに似合っている」
「何。どういう意味だ……」ジャレイラは、これに少し怒ったようである。「この場は下がる。人質をこれ以上どう使うのか知らないが、脅しになら乗らんぞ。そちらも、土地の男ひとり殺したところで、何にもならんだろう。
 おまえとの勝負はもう着いた。気が抜けたのだ、仕切り直したいところだな。その様子ではそちらにもう我と一騎打ちできる将なぞ残っていまい。今度は全軍で一気に潰す」
 双方は一度、兵を退いた。