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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第2回)

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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第2回)
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9-02 仙國伐折羅救出劇(2)

 仙國 伐折羅(せんごく・ばざら)は何も言わず、ただ瞳を閉じていた。
 忍とは常に死と隣り合わせでござるからな、仕方があるまい。騒ぎ散らしたところで、みっともないだけでござる。
 拙者は教導団のことは絶対に言わぬし、命乞いなどもせぬ。真の忍とは、最期の一時まで忍でなければならないでござる。
「どうだ? これから更に、苦しくなる……仲間の情報を、吐いてしまうがよい」
 黒羊の衣を纏う司祭が、いやらしい笑みで問うてくる。
 伐折羅は、その問いに応じるまでもなく、
 拙者は屈しはせぬ! 仲間を信じよ、己を裏切るな!
 心で、そう叫んだ。



「……しかし、あの捕らわれた坊主、もう覚悟を決めたって感じだな。あの目は、まだ死んじゃいねぇ……。それに、」
 この男には、ほとりのある箇所に、もう一人、潜む男の影が見えていた。
「あのバンダナの坊主は……竜の坊主の仲間か?」
 二人とも、別々だが観衆とは別の場所にいるのだ。周囲を囲む信徒兵からは、見事に死角の位置を選んでいる。
「それに、他にも幾つかの別種の殺気が……ともあれ、バンダナの坊主の武器は、刀か。
 動きたいが、動けないわけだな。よし、いっちょ手を貸してやるか」



 じりじりと、時が経ち……やがて、伐折羅の体が、完全に湖に沈んだ。
「さらばでござる……」
 銃声が聞こえる。
 観衆に、どよめきが走った。
「き、来た……!」
 司祭の男は、緊張を高めながらも、にやりとし、手を挙げる。信徒兵が、まったく無表情のまま、各々の武器を抜いた。
 銃声の方角へ信徒兵ら数名が動いた瞬間に、別の方角から、男が飛び出した。
 刀。
 鋭い一閃が走り、背後をとられる形になった信徒兵が倒れる。男はそのまま、湖に飛び込もうとする、が、さきの信徒兵が起き上がり、男の足を掴んだ。
「く、……! こいつら、何だ!?」
「るーー!!」
 そのとき、また別の方向、木立のなかから、飛び出してきた者。魔獣たちだ。
 小さな女の子が、それを操っている。
「ひさしぶりに おおあばれ だー!」
「ルー。行ったか。
 しかし、さっきのは空砲? 敵の注意を惹き付けたのか。久多と俺たち以外に、救出に来た者がいたということか」
 野生の蹂躙が、警戒の薄い方面を突っ切る。これは、ルーに携えてあった作戦だ。
「来た……来おったなぁぁ。これで、全部か?!」
 司祭は、信徒兵らに采配する。「忠実なるしもべ信徒兵よ。我に従い敵を殲滅してみせよ」
 一閃、信徒兵の腕が断ち切られる。
「おのれ、まだ向かって来るか……人ではないのか!」
 風次郎を、信徒兵が取り囲む。が、再び別の銃声が聞こえ、今度は、頭を射貫かれた一人が、ど、っとその場に倒れた。
「おお、頭、か……」
 近くの樹上からの、久多の狙撃だ。
「狂信者だろうからな、頭をできるだけ狙って、殺す」
 久多はそれからすぐに、シャープシューターで狙いを定めるとスプレーショットを二度放ち、処刑人を仕留めた。
 信徒兵らが、風次郎と、兵の薄かったところに突っ込んだルーのところとへ分かれたとき、デゼル、ルケト、シャンバラ騎狼兵らが、一斉に飛び出した。
 シャンバラ騎狼兵の放った矢が、司祭の胸に刺さった。
 デゼル、ルケトらを中心に、ランスバレストで、伐折羅のところまで一気に駆け抜ける。
「おい、大丈夫か!」
「かたじけない……!」
 しかし、信徒兵は手強い。
「三、四と……仕留めたが。やつら、動きが速いな。次が、あたらな……っ!? しまった」
 三人の信徒兵が、久多の登る樹の下に、迫ってきた。
 風次郎もすでに、二体の首を飛ばしたが、風次郎の動きを止めようとする者が死を覚悟で飛びついてきて、動きを封じに来る。
「るー……まじゅうちゃん、ごめんね……」
 信徒兵の刃に、魔獣たちも斬り伏せられていく。
「ぎゃぁぁぁ!!」
 デゼルの槍が、司祭の男を貫いた。
 ほとりの先端部分だ。騎狼兵が、伐折羅を、引き上げている。風次郎には、最初に空砲を放ったジョニーが加勢し、二人共にデゼルらに合流すると、風次郎は刀で伐折羅を巻いているロープを断ち切った。
 信徒兵らが、じりじりと、迫ってくる。背後は、湖だ。
「……救出は、うまくいったよな。だけど、オレ、泳げないからなぁ……騎狼にしがみついてれば、溺れない……ヨネ?」
「ってことだ。行くぞ、ルケト。
 皆も、騎狼にしっかりつかまってくれ」
 信徒兵の刃を交わし、騎狼は、湖へと入る。
「……久多は」
「俺を狙撃で助けてくれたやつか。まだ、付近に潜んでいるままか」

 樹上から、ひゅんと飛び下りる久多。
「救出は、うまくいったか。けど……」
 取り囲む、信徒兵。
「ここまでか。……ふっ。なら、おまえら、一人でも道連れだ。来い」
 ライフルを向け言い放つ、久多。
「クッ? キュー!」
 デゼルらが失敗したときのため、伏兵に潜んでいたクーが、久多を取り巻く一端に攻撃を仕掛けた。
 久多のライフルが、注意をそがれた一人の頭を打ち抜く。
 更に射撃が来て、一人が倒れる。
「危ういところだな。おまえ、まだこっちにいたのか」
 ジョニー・ザ・キーンエッジが来てくれた。「おい、見ての通り、湖に逃げる。敵は、水には入ってこないぜ。泳げるか?」
「あ、ああ。助かったな……ありがたい」
 残る信徒兵らの攻撃をかいくぐって、久多は、湖に飛び込んだ。

 湖の中心部には、何か突起のような形状のものが見えている。
「あれは、何なんだ?」
「建物の一部……?」
 窓のようだが、入れそうな箇所を見つける。湖と言っても大変な広さで対岸までは数キロとあるかも知れない。騎狼も傷を受けているし、ここに逃げ込むか。