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5000年前に消えたはずの…蜃気楼都市

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5000年前に消えたはずの…蜃気楼都市
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第5章 餌を集める檻

「ここの住民たちは普通に生活しているようだね」
 公園のベンチに座り音井 博季(おとい・ひろき)は人々の往来を眺める。
「僕・・・思ったんだけど、誰もが愛し愛され、種族とかそういうの関係なく交流出来たり、皆が全ての命を大切にする・・・そんな世の中を・・・」
「どうしたの突然、そんなこと言い出して」
 隣に座っている西宮 幽綺子(にしみや・ゆきこ)が首を傾げて聞く。
「そうすれば皆、笑い合って生きていけるかなって思ってね」
「(うーん・・・たしかに、そうしたら争いごともないかもしれないわね)」
 話しを続ける博季に対して、幽綺子は黙ったまま彼の話しを聞き、相手を見つめる。
「いがみあったり、殴りあったりして。力任せに訴えることに、何の意味がるのか・・・」
 互いに傷つけあったり、そんな犠牲を積み重ねてどれだけの価値があるのかと考える。
 そんな彼を幽綺子は、ただ純粋な願いなんだろうと思った。
「何は寿命がある生き物だっているけど。中には突然、命を奪われたりすることもあるから。家族や友達が死ねば悲しいはず」
 死んだ者の思いや、それを悲しむ者の思いは誰が守るのか。
 虫や動物といったあらゆる生命が消されることなく、互いが尊重しあって生きていけることを、博季は目を瞑って願った。
 目を開けるとそこには、博季が思い描いたような光景がある。
「そう、僕が思ったのはこれ。こういう世の中・・・」
 叶えられた光景は都市の中だけだが、人々はアリや小さな生き物を踏まないように歩いたりしている。
 一見幸せそうに見えたそれらは、別の場所へ視線を移した瞬間、博季の表情は一変した。
「あれ?何だか痩せ細ってる何で・・・」
 本来、栄養源として食べなきゃいけない生き物を食べていない肉食獣が、痩せ細ってしまいよたよたとしている。
 交渉ごとをしている人たちは、互いに意見の譲り合いを続けている。
 またある者は気を使うあまり、過度のストレスで道に倒れてしまい、病を発病してしまっている。
「こんな・・・努力しても、倒れたら死んでしまうなら・・・元の方がいいよっ」
 生き物が増えすぎて住む環境が減り、本来食べているものを食べられず死に絶えたりする状況に、こんなのは平和と呼べないと願いを取り消す。
 涙を流す博季の背を幽綺子が優しく撫でる。
 彼女が思うように移り変わる春夏秋冬の命を尊ぶのは大切だが、その目標を達するために努力を強いるのは、結局過度のストレスで生き物の身体が病んでしまう。
「これじゃ生き物が死んでしまう。もっと別の方法を考えなきゃいけないのか・・・」
 博季の願う世界では命を奪わないということは食べ物が変わり、それは食物連鎖を変えるようなことになり、自然に反して生き物を住みづらくしてしまうのだ。
「皆、同じ生き物なんだから、分かり合っていけるよね・・・きっと。少なくとも僕はそう思いたい・・・」
 ある程度の意見は必要で、怒っても互いに許し合っていける環境が必要なんだと思った。



「カキ氷を買ったってことは住人がいるということだよね、その人たちの目ってどんな感じだったの?」
 コトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)は都市に遊び来たウェリスに聞く。
「この外で生活している皆と変わらないよ」
「そうなの・・・」
 彼女の言葉からすると住民の目に生気がないわけではないようだ。
「ねぇ、ここで今までどんな出来事があったの?」
 花に水をやっている住人のおばさんにコトノハが聞く。
「どんなこと?特に毎日変わったことがないけど。可笑しなことを気く子だねぇ」
 おばさんに首を傾げられ、どうしてそんなことをコトノハが聞いてきたのか、不思議そうな顔をする。
「(妙ね・・・呪いで都市が数百年に一度しか、外の人とコンタクトをとれないというのに。毎日変わらない・・・そうだ、相手は地球人じゃないから。昨日今日のことじゃなくて別のことを聞かないと)」
 コトノハは口元に片手を当てて考え質問を変える。
「私たちがここへ来る前・・・つまり数百年前にも、同じ場所にこの町が現れたらしんだけど。その時はどうだったのかしら」
「さぁねぇ。そんなことあった記憶がないねぇ。なんとかっていう龍からこの都市が呪いを受けて、たった数時間しか経ってない気がするんだけど。それから私が外の連中と会ったのは、あんたたちぐらいだよ」
「覚えてないのかな?何か違うような気がするけど」
 彼女の話しにウェリスがムーッと唸る。
「うーん・・・もしかして、同じ日をずっと繰り返してる可能性があるかも。図書館へ行って調べてみましょう」
 会話の内容に疑問を抱き、コトノハは図書館で調べてみることにした。



「うーん、このたてものはちゃんとあるみたいです」
 ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)はレンガ造りの建物に触れて、存在するものなのかどうか調べる。
「このうらがわになにかまほうのもようとかないですか」
 建物の裏側をじーっと覗き混んでみるが何もない。
「じゅうにんのひとたちに、おはなしをきいてみるです」
 往来を眺めて話しかけやすそうな人を探す。
「あのおじいさんにきいてみるです。おじいさん、ちょっとおはなしいいですか?」
「なんじゃ?」
「このまちはなんだかきえちゃうそうです。きえちゃってるあいだ、だいじょうぶですか?」
「平気じゃ、この通りわしも元気じゃろ?」
 元気そうな老人を見て、なるほどとヴァーナーは頷く。
「なにかこまったコトがあったらおてつだいするですよ!」
「そうじゃのぅ。お嬢ちゃんのような可愛い子がずっといてくれると、わしら老人も話し相手に困らないのじゃが」
「うーん・・・ずっといるとでられなくなっちゃうんで。ちょっとこまりますね」
 ヴァーナーは老人にハグし、困った顔をして見上げる。
「そうか・・・ならしかたないのぅ」
 老人は少女から離れて、どこかへ行ってしまう。
「あぁ・・・いっちゃいました。ちょっとかわいそうでしたけど、でられなくなっちゃうのは・・・」
 トボトボと歩いていると急に人気がなくなり、住人たちの姿が見当たらない。
「みんなどこへいっちゃったんでしょう?」
 誰かいないかキョロキョロと辺りを見回す。
「な、なんですか!?」
 どこからか突然、うぅーっと唸り声が聞こえてくる。
「おはかのほうから・・・?なんですかあれはっ」
 都市に集まってきた悪霊が、墓のところへ集まっているのだ。
 “ぁあぁ・・・ぁあっ”と喉から無理やり出すような恐ろしい声音が聞こえ、生気のない黒くくすんだ肌の色の悪霊が、ペタペタと石畳を這いながらヴァーナーへ迫る。
「きゃぁあ、おばけぇえっ。こっちこないでくださいー!」
 捕まったら食べられてしまうと、ヴァーナーは必死に都市の中を逃げ回る。



「今・・・、誰かの声が聞こえたような感じがしましたけど、気のせいでしょうか」
 火村 加夜(ひむら・かや)は気のせいかと思い、散歩をしつつ図書館へ向かう。
 彼女が聞いた悲鳴はヴァーナーの声だったが、運悪く少女は加夜に気づいてもらえなかった。
「一応、店で買った食べ物や、カウンターとかに触れるようですけど」
 クナイたちが悪霊に襲われた空き家を覗き込む。
「ここは・・・ちょっとやめておいたほうがよさそうですね」
 案内掲示板を見て他の場所は後で見ることにし、図書館へ行くことにした。
「誰かいますか?」
 図書館に入り誰かいるか呼びかけるものの1人も館内におらず、明かりだけついていてしーんと静まり返っている。
「全部、5000年前のものだけですか。新しいのがありませんね」
 一通りざっと本棚を見て作られた年代を確認すると、全て闇龍の呪いによってこの場所から消されることになってしまった先のものがない。
「時空を超えたわけじゃないようですね。となると・・・この都市自体の時間が永遠に繰り返されているということになりますけど」
 棚から地図を取って広げて見る。
「えーっと現実に願いとして起こった現象は・・・。一時的に夢が叶って、身体的に起こったことと・・・こういうのがあったらいいにと叶えたことでしょうか。叶えて呼び出した執事とかは、触れることが出来ても消えるいずれ虚像ですね。場所がバラバラだから特に願う位置とか関係なく無条件っぽいですけど」
 それらが起こった場所をペンで線を引く。
「食べ物は満腹感がなかったら虚像ですね。あとは・・・住人が使っている住居は本物っと・・・。そうじゃないのは触れられても、なんだか違和感がありましたし・・・」
 刺すような視線を感じ、線を引く手を止める。
「そこに誰がいるんですか!」
 がたっと椅子から立ち上がり、大声で呼びかけるが誰もいない。
 椅子に座ろうとすると、“きゃぁああーっ!”と、少女の悲鳴が聞こえてきた。
「何っ、どうしたんですか!?」
 図書館に入ってきた入り口を見ると、ヴァーナーが悲鳴を上げながら、館内へ飛び込んでくる。
「―・・・何もいないようですけど」
 いつでも閉められるように加夜はドアの取っ手を掴み、廊下の様子を見るが何もいない。
「さっき凄い悲鳴が聞こえたけど、何かあったの?」
「悪霊が出たの!?」
 調べ物をしようとコトノハたちや、美羽たちが入ってきた。
「もうそんなのが出たのっ!どこにいるのかな悪霊・・・。皆、怪我はない!?」
 綺人たちも得物を持って図書室へ飛び込む。
「えーっとですね・・・」
 名前を聞こうと加夜は自分にしがみついて震えているヴァーナーの方を見る。
「―・・・ヴァーナーです。ふぇえん、ひっく・・・」
「ヴァーナーさんが悲鳴を上げてここへ走ってきたんです」
「そうだったの、私たちが来た時には何もいなかったけど?」
「でたんです、あくりょうがでたんですっ!ボクをたべようとおそってきて、それで・・・うわぁああんっ」
「もしかして近くにいるかもね。調べたらすぐにでましょう」
 コトノハは泣いているヴァーナーの頭を撫でてなぐさめてやりながらカレンダーを見る。
「これって5000年前のやつよね?ずいぶんキレイだけど・・・」
 長い年月が経っていれば変色していてもおかしくないと、訝しげにカレンダーを睨む。
「ちょっと文献を調べてみたんですけど、どれもこの土地がそうなった原因についてありませんでした・・・。でも年代は5000年前のしかありません」
「それってやっぱり、都市が呪われてから時が止まったように、同じ日しかやってこないってことかしら」
 住人の話と加夜の説明を聞き、今日が終わったらまた昨日と同じことをする繰り返しなのだと理解する。
 つまりこの都市の中では、同じ日がずっと続いているのだと分かったのだ。
「ずっと同じ日を繰り返す・・・。出られなかったら僕たちもそうなるってことかな?」
「彼女の説明からして、恐らくそうでしょうアヤ」
「なるほどね」
 クリスの言葉に綺人が軽く頷く。
「一部の現実に何か秘密が隠されているような気がするんですけど。もしかすると、いやな予想になるかもしれません」
「言ってみて」
 加夜の推理を聞こうとコトノハは椅子に座る。
「わざと住人たちを生かしておいて、その環境だけを残しておいたんじゃないでしょうか。その・・・つまり、都市を訪れる者を安心させるために・・・」
「ど、どういうことですか!?」
 ヴァーナーは彼女の説明に泣きそうな顔をする。
「訪れた者たちを悪霊たちの餌にするためじゃないでしょうか」
「私たちを餌にですかーーっ!?」
「いやですたべられたくないですー!」
 加夜の話しにベアトリーチェとヴァーナーがしがみつきあって悲鳴を上げる。
「コトノハ・・・コトノハ・・・」
「誰か呼んだ?」
 コトノハは誰か自分を呼んだか、生徒たちに聞くが全員ふるふると首を左右に振る。
「また・・・誰なの!?」
 耳元で囁くように呟き声が聞こえ、ぱっと背後を振り返ると明らかに生きていない者が、ニヤッと笑って立っている。
「アナタ、ネガッタ。ワタシトトモダチニナリタイ」
 以前訪れた者を見ていた、噂の謎の者と友達になりたいと願ったコトノハと、友達になってやろうと現れたのだ。
 図書室でどこからか加夜を見ていたのもこの悪霊だ。
 それを見たベアトリーチェとヴァーナーは、隅っこで震えている。
「(あれが消えた来訪者を見ていた悪霊みたいだね)」
 殺気看破の反応が感じ、綺人は忍刀の柄を握ったまま悪霊を警戒する。
「えぇーっと。じゃあ・・・ちょっと教えて欲しいことがあるんだけど。以前この都市に来たあなたが見ていた人ってどうなったのかしら?」
 その亡者へコトノハが質問を続ける。
「タベタ、ミンナデヒキチギッテタベタ」
「皆ってもしかして、同じような感じの・・・?」
「ソウ・・・ソイツ、リョウリ。クッテル、トキ。タベタ」
 悪霊が小さくそう呟くと、バダンッと図書館の出入り口が閉まり、窓も閉まってしまい閉じ込められてしまった。
「あっ、開かない!」
 慌てて美羽が出入り口のドアを開けようとするが、悪霊の影響で開けられなくなってしまう。
「窓も開きません」
 加夜は悪霊から逃れようと、窓を開けようとするがやはり開かない。
「どういうことですか、割れません!」
 クレセントアックスで叩き割ろうしたが、なんと悪霊の影響でびくともしない。
「魔法でも破壊出来ませんわ」
 瀬織はドアを壊して出ようとしても、それも無理だった。
「別次元というわけでもないようなのだが、やるぞコトノハ」
 都市の夢が叶うというのを利用し、ルオシン・アルカナロード(るおしん・あるかなろーど)は神子のプロファイルに自分の名前を書き、神子として覚醒する。
 ルオシンとコトノハの2人は闇龍の呪いを消そうと、神子の波動発動させる。
「特に変わったような感じはしないのだよ・・・」
 神子の波動では闇龍の呪いは消せず、悪霊を倒すしか方法はないと光条兵器、エターナルディバイダーをコトノハに投げ渡す。
「光術でもいつままでもつか・・・」
「引きこまれたら終わりです、全て倒すまで頑張りましょう」
 ユーリと瀬織はターゲットに向かって光術を放つ。
「ベア、私に光条兵器を」
「は、はい美羽さんっ」
「ありがとう、やぁあっ!」
 光の剣の形状をした光条兵器を振るい、壁から染み出るように現れた悪霊の身体を貫く。
「きゃわぁあっ。た・・・たすけくださぁあい。やだやめてくださいっ、きゃぁああ痛いですっー!!」
 ヴァーナーは亡者に足を掴まれ、ズルズルと引きこまれそうになり、もう1匹に腕を噛みつかれる。
「いやぁあ、来ないでーっ」
 喰らおうと追いかけてくる悪霊から逃れようと、ベアトリーチェが必死な形相で駆け回る。
「隠れるところないけど、なるべく捕まらないように気をつけてね。ちょ、ちょっと大丈夫!?」
 駆けつけくれたコトノハに助けてもらうものの、ショックのあまりヴァーナーは気絶してしまう。
「私が気絶したヴァーナーさんを悪霊に襲わせないようにします」
「お願いね」
 ヴァーナーを加夜に任せ、コトノハは亡者どもに挑みかかる。
「はぁ・・・これでとりあえず片付いたかしら」
 開くようになった出入り口のドアを開け、図書館から逃げるように出る。