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【臨海学校! 夏合宿!!2020】漕ぎ出せ海の運動会!

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【臨海学校! 夏合宿!!2020】漕ぎ出せ海の運動会!
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〜まずは下ごしらえ!!〜



「おしゃああ!! 今年こそはあの巨大カマスを釣ってやるぜ!!」

 姫宮 和希(ひめみや・かずき)は水着の上になぜか詰襟を羽織るというバンカラスタイルのままバスから華麗に降り立った。ガイウス・バーンハート(がいうす・ばーんはーと)はドラゴニュートというより人間の老人のように深々とため息をついた。辺りを見回せば、若い女達は皆競ってかわいらしい水着を纏っているというのにこのパートナーといったらどうしてこうも男らしい格好にこだわるのだろうか。ああ、自分にも目の保養がほしい。

「なんてことを考えてるのね」
「こ、こら! かってにそんなことを言わないでもらいたい! そのような破廉恥なことは考えておらぬっ」

 その言葉に桐生 ひなは哀れむような表情でその肩を叩いて続ける。

「まぁ、無理することはないと思うんですよ。水着、いいですよね。男性なら誰でもそう思いますよ」
「頼むから、あらぬことを記事にしないでくれたまえよ……?」

 ガイウス・バーンハートは冷や汗をたらしながらデジカメで撮影する桐生 ひなを眺めていた。取材班として参加している彼女には、特例でカメラの所持が認められた。その代わり、イベントごとには第三者的な視点でのみ参加すること、という約束が交わされている。

「いいんですよぉ。無理しないで」

 黒い微笑を赤い瞳に宿しながら、次の獲物を探して彼女は歩き始めた。



 それはそれとして、今年のパラミタ内海も気候に恵まれていた。
 日差しは突き刺さるようで、海はそれに反射してきらきらと輝いている。砂浜は真っ白でところどころに転がっている貝殻は宝石のように煌いていた。
 北側には岩場が連なる浅瀬があり、南に向かってはジャタの森が見える。ブーメランパンツの水着を華麗にまとうラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)は、その肉体美を惜しげもなくさらけ出していた。

「おおー! いい場所じゃねぇか!」
「よくきタ」

 駆け出したラルク・クローディスの前に現れたのは、褌にさらしを巻いた黒髪の女性と、褌一丁の男性だった。タク・アンの腕には蛮族らしく身体に刺青が伺える。どうやら彼らが話に聞くキージャ族であるというのは、昨年参加しなかったものたちにも理解できた。

「おう、今年は色々世話になる」
「逢えルのヲ楽しみにシてイた。懐かシい顔と、新しイ友タちを」

 片言交じりの会話は相変わらずだが、その歓迎を意味するのか早速といわんばかりに昼食を用意してくれていたようで、真っ白な砂浜に大きな葉っぱが敷き詰められていた。その上には、空京では見かけない食べ物がいくつか並んでいた。それを見るなり、ナガン ウェルロッドははき捨てるような声を上げる。

「け、相変わらず不味そうな食いモンばっかだなぁ」
「おお、褌の恩人。あエて嬉しい」

 黒髪の美女ナラ・ヅーケが歓喜の声を上げて抱きつくと、ナガン ウェルロッドは苦笑しながら「あー。えっとー。うん」と言葉を漏らしていた。

「褌の恩人!」

 褌の青年タク・アンも彼女を見習ってナガン ウェルロッドの前にひざまずく。もはや困惑というよりもちょっとどう反応したらいいのか分からないわずかな動揺を見せながらも、拒むことも出来ずに「うー、ん。ああ」と意味不明な言葉を漏らす。
 普段の彼女を知るものたちは、その変化に暖かなまなざしを向けていた。それに気がつくと、いつもどおりの悪態をつくナガン ウェルロッドの姿があった。



 黒地に赤い水玉が映えるビキニに、赤いハイビスカスが闇に浮かぶ様子が描かれたパレオを巻きつけているのは天貴 彩羽(あまむち・あやは)だった。豊かな胸が歩くたびにたゆん、たゆん、と揺れて視線を釘付けにしている。青地に白い水玉ビキニに、かわいらしい兎が描かれたパレオを巻きつけているのは、天貴 彩羽の双子の姉で強化人間となった天貴 彩華(あまむち・あやか)だ。

「彩羽〜!! すっごいよ、果物がいっぱい!」
「って、何もいわれてないのにいきなりかぶりついちゃダメでしょ」
「気ニしないで。これハ、貴方たちのたメに用意した」

 キージャ族の美女、ナラ・ヅーケがにこやかに二人に語りかけると、天貴 彩華はすぐに並べられた果物にむしゃぶりついた。彼女の喜びの悲鳴が、その果物のおいしさを物語っていた。姉の素行をわずかに詫びて、天貴 彩羽もすぐにそのご馳走の前に腰を下ろした。
 ドレッドヘアーに明倫館男子水着に身を包むのは赤城 長門(あかぎ・ながと)だ。胡坐をかいて座り込むと、おもむろに木の実に刺さっているストローから果汁をすする。意外なことに甘みよりも塩気……まるで冷たいスープのような味わいだった。

「ほぉ、こりゃ珍しいのぅ」
「ま、釣りの前に腹ごしらえしないとネ」

 同じく明倫館女史の水着を着ている少女は、金のポニーテールを海風にたなびかせながら、食事の場に入り込む。ホーク・キティ(ほーく・きてぃ)は周りの大きな胸の女性たちを冷ややかな目で眺めながら、星型の果物にしゃぶりつく。コチラはシャーベットのように冷たく、食感はふわふわとして甘いそれはデザートに相応しい一品だった。

「そうよね、そういえば私たち合宿にきたんだものね。運動会のことばっかり考えてたけど」
「うん! すっごくおいしー!! あれ、でもここにあるのは海産物じゃないんだね?」

 シャンバラ教導団公式水着を絵の様に着こなしているローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は、見た目がいようとしか言いようがないきのこのバーベキューを手にとる。だがその香りは芳しく、一口かじると上質な肉の味が口いっぱいに広がる。同じ水着をまとうシルヴィア・セレーネ・マキャヴェリ(しるう゛ぃあせれーね・まきゃう゛ぇり)も、黄色い果物にかぶりつきながら小首をかしげた。

「うむ。海の幸は夕食に出るからだろう」
「今は山の幸で我慢しろってことか?」

 にこやかに微笑みながらストローに口をつけているグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)のことばに、典韋 オ來(てんい・おらい)が付け足す。物言いはともかく、今は目の前の山の幸を十二分に堪能しているように見えた。
 多くの生徒達が昼食にかぶりつき始めると、運営委員会たちがタク・アンやナラ・ヅーケらとならんで食事を愉しむメンバーの前に立った。

「え、ええと。まずは皆さん、運営委員長に任命されました、橘 綾音です。
 競技については、まず最初に釣り競技の方々に集まっていただきます。
 そちらの説明が終った後、海中玉入れを開始します。それまでの間、お手伝いしていただける方々は今晩泊まるテント設営の準備をお願いします。
 海中玉入れの後は、リレー、ビーチバレーの順になります。ただ、時間的にビーチバレーは明日の朝一番に開始とさせてください。
 手が空いた人からキャンプファイヤーの準備もお手伝い願います。
 それでは、明日のお昼までという短い間ですが、目いっぱい楽しみましょう!」

 橘 綾音が高らかに説明を終えると、拍手が巻き起こる。運営側のメンバーも彼女へ賞賛の拍手を送ると、丁度よく食事が終わったようで、後片付けを開始した。
 食事後の葉っぱのシートは、そのまま救護テントを建てるために使用されることになった。
 大きな葉っぱで小さな葉っぱをいくつもくるんで、手作り枕を作った如月 日奈々はテントの中から照り返しの強い海を眺めた。日陰の中だと、海風が心地いい。


「……今年は、平和な臨海学校になりそうですぅ……」

 そんな如月 日奈々に、クロス・クロノスが入ってくる。その手には薪が抱えられていた。ヴァーナー・ヴォネガットも同じくその巻き運びを手伝っていたようだ。木材のこすれる音でそれに気がついた如月 日奈々は小首をかしげる。

「薪ですかぁ? それ……どうするんです?」
「暑くっても、お湯が必要になることもあるかもしれないし、一応火種を作っておくつもりなんだ」
「お湯を沸かしておけば、消毒するのにもつかえるですよ〜」

 彼女たちがてきぱきとこなしている横で、如月 日奈々はのんびりと包帯や消毒液などがきちんとそろっているか改めて確認し始めた。ほとんどの傷は魔法でどうにでもなるとは思うが、かすり傷程度ならこういった魔法を使うことはしないほうがいいといわれており、こういった救急道具が必要になってくる。
 外の日差しはあまりに強い。熱中症や日射病が心配だった。そんなことを頬に感じる熱で感じていた彼女は、ふと思い出して救護テントの中に穴を掘るため、小さなスコップをとりだした。
 この地域は、砂浜を掘ると真水が出てくるのだ。
 そのことを思い出し、すぐさま水が使えるよう支度をしておくべきだと思ったのだ。



 同じ頃、ルイ・フリードは夏の日差しの中その肉体美を惜しげもなくさらしながら、砂浜に巨大な穴を掘るべく木製の板を砂地に着きたてていた。
 アピス・グレイスもそれに習って巨大なランスでの一撃を、砂浜に放つ。そのため天を舞った砂が、如月 佑也の頭へズサーっとスコールのように打ち付けた。

「ぶは! お、思いっきり砂被った……」
「はっはっは!! まけませんぞおおおお!!」
「ちょ、競うな!!」

 ルイ・フリードはアピス・グレイスの掘り進む姿に触発され、板切れで砂浜を掘り進む。その掘った砂も如月 佑也の頭に被りそうだったが、今度はうまいことよけて直撃は免れた。
 そんなこんなで気合の入った二つの穴が出来上がると、そこには確かに水が染み出してくる。如月 佑也が確認し、真水であると判断すると、すぐさまビニール製の折りたたみバケツを使って水を料理班の代表として活動している七瀬 歩のところへ持っていくため歩き出した。

 昨年度のかまど班として活躍したマティエ・エニュールからアドバイスをもらって、七瀬 歩とベアトリーチェ・アイブリンガーはようやくいくつかのかまどを作り終えた。蒼空の男子水着にパーカーを羽織った本郷 翔もバーベキューに使えそうな大きく平らな石を見つけてくると、すぐに火の支度を開始した。

「ありがとうね!」
「えへへ、去年の知識が役に立ててうれしいですよー」
「結構凝った料理を作ったんですか?」
「去年は、キージャの人たちが食べたことないからって、カレーと、バーベキューがメインでした。あと、ご飯も粉もキージャの人たちからもらえて、パンも焼いたんですよ。翌日はあまったパンでサンドウィッチにしました」
「じゃ、今年もそうしよっか。お魚がいっぱい来るといいなぁ」
「ええ。ここの支度が問題なければ、他の食材も探してきます」
「お、俺も手伝うぜ? 海中玉入れまで時間もあるしな」

 石を運ぶのを手伝っていたラルク・クローディスが進言すると、本郷 翔はにっこりと頷き、他の食材調達に手伝ってくれるメンバーを伴って、キージャ族の住まう森へと向かっていった。
 そこへ曖浜 瑠樹が顔を出した。

「マティエ、今年もかまど手伝ってんのか?」
「お手伝いですよー」
「あ、去年のかまどの材料とか、結構そのまま残ってたから、組み方を教えてもらってたんだ」
「りゅーきはテントですか?」
「ああ。材料の場所だけ教えて、後は釣りの材料探してた。でもまだ時間ありそうだから、少し手伝ってくるさ」
「なら私も手伝うですよー」
「ありがとうね、マティエ!」

 七瀬 歩が満面の笑みで二人を見送っていると、今度はロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)が顔を出した。獣人のメリッサ・マルシアーノ(めりっさ・まるしあーの)もいっしょだ。二人とも百合園女学院の水着を身につけていた。その両腕には、薪が抱えられていた。

「お二人とも調子はどうですか? わぁ、結構しっかりした調理場なんですね?」
「リンちゃん! うん。でも去年いた人のおかげだよー」
「これ、少しでも足しになればと……後でお魚沢山釣ってきますから、期待しててくださいね?」
「期待していますね」
「歩さーん! 海水もってきましたー!」

 バケツを抱えて入ってきたのは、ニーフェ・アレエだった。その後ろには、もっと大きなバケツを持ったルーノ・アレエもいる。

「ありがとー!」
「あれ、お二人もコチラのお手伝いなんですか?」
「私はリレー、姉さんはビーチバレーに参加だからそれまで暇なんです。ね、姉さん」
「ええ。私は後ほど釣りの競技もお手伝いにうかがいます。といってもつれた魚の運び位しかできませんが……」
「それじゃ、抱えきれないほど釣り上げないといけませんね」

 ロザリンド・セリナのその言葉に、一同は微笑を漏らす。メリッサ・マルシアーノはルーノ・アレエたちが持ってきた海水が不思議なのか、小首をかしげてバケツの中をのぞきこむ。どう見ても、バケツの中身は海水のみのようだった。その様子を見て、ベアトリーチェ・アイブリンガーがにっこりと笑って説明を始めた。

「これは、お塩を作るんです」
「お塩? あのお塩?」
「そうだよー。調味料になりそうな草とか、ハーブとかも全部ここで用意しようと思って。お塩も、海水から作るの。煮詰めて、このろ過装置でろ過して、残った白いのがお塩になるんだ」

 七瀬 歩の言葉の後、ベアトリーチェ・アイブリンガーは実際に手作りらしいろ過装置を見せてくれる。一見すると珈琲を入れるサーバーのようにも見えるが、ガラス容器ではなくろ紙を穴が悪用に巻いた葉っぱに乗せ、その下のボウルに水が流れるようにしているようだった。

「これだけ海水があっても、ちょっとしか出来ないかもしれないけど」
「また汲んで来ますよ」
「如月 佑也たちが、今真水を持ってくる。そっちの浄水作業も併用するから、忙しくなりそうです」

 機晶姫姉妹が張り切ってそういうと、それすらも楽しむように七瀬 歩は笑う。ロザリンド・セリナは簡単に挨拶を済ませると、釣竿を抱えて岩場へと向かった。
 気合を入れて釣って、もっと楽しい思い出にしよう。そんな言葉を胸の中に秘めながら。



 

「はーい! では釣りの方々に説明しますー! これから資材探しがてら釣り用の餌を探してください! そのあとこの岩場に集合するための合図を送ります。集合後、釣り上げた魚は順次裁定していきます。リレー開始前には競技を終了とします」
「念のためだけど、人魚や魚でも子供はダメよ? 必ず海に返すこと。そのへんの裁定は人魚さん達に手伝ってもらうわよ」

 影野 陽太に続いて、アルメリア・アーミテージが説明する。彼女の脇には、岩場に乗り上げて頭を下げるだけの挨拶をする。エメラルドグリーンの尾びれを美しく見せており、濡れた髪は美しく豊かに輝いていた。本当に童話の中に出てきそうな人魚姫そのものだったが、まだ幼さが残る顔立ちと小柄な容姿をしていた。

『人魚のエイリです。今回の釣り競技の裁定をお手伝いします』
「彼女はリレーにも参加するの。だからこの競技もリレーまでってことでよろしく」
「あと、リレーの最中に競技者が釣り上げられたら洒落にならないので、リレーが始まったら全員この岩場から離れてくださいね」

 所注意を改めて聞かされて、釣り競技参加者は一同元気よく返事をした。