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決戦 天沼矛!

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決戦 天沼矛!

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12:辛苦――勝利



 すべてのバリケードが突破されて敵も戦力の一割を失っていた。
「来たな。クレア、命令を出してくれ」
 涼司がクレアにそう言う。
「イコン一斉射撃!その後葵と真紀少尉、小次郎の三部隊に分かれて防衛。山葉は私の直衛だ。
「了解!」
 クレアは第二次防衛線の戦力を指揮下におさめると、それを小次郎に任せた。
「花音、行くぞ!」
「はい、涼司さん!」
 花音は<パワーブレス>を涼司にかけ、攻撃力をあげる。
「涼司さん、頑張ってくださいね」
「おう。加夜、終夏、美羽、ベアトリーチェ、行くぞ!」
 涼司がそう言うと、加夜が
「嬉しい。最初に名前呼んでくれた……」
 と呟く。
「加夜……この前の返事は後でな」
 涼司の言葉に加夜は驚く。
「……覚えて……嬉しい。よし、何がなんでも勝たなくちゃ」
「無茶はするなよ」
「涼司くんこそ、無茶、しないでね」
「おう!」
 涼司と加夜はそんな会話を交わすと、クレアの直衛として防御体制をとった。
 イコンから頭部バルカンが発射され弾幕の嵐が起きる。だが、距離が近すぎるために有効的な打撃は与えられない。生命力を何割か削った程度だ。
「この子達も……死ぬの?」
 オリガが呟く。
「当たり前じゃない。戦争なんだもの」
 エカチェリーナが答える。戦争経験者の女帝は厳しい。
「山葉先輩、大丈夫ですか?」
 陽太が駆け寄ってきて尋ねる。
「おう、カンナスキー、お前こそ無事だったか。死ぬなよ、環菜が待ってる」
「はい。俺は環菜様専属SSですからね。こんなところで死ねませんよ」
「よっしゃ。行ってこい!」
「はい」
 陽太がかけていく。小次郎の元へ。
「連携を忘れるな! 常に味方と組んで戦え! 同時に攻撃すれば威力は上がる!」
 静麻はクレア付の参謀として戦術指揮の補助を行う。クレアは教導団とはいっても戦闘よりも医療が専門なのでその方面を補う形だ。
 そして自身も光条兵器で攻撃する。
「悪いな、あいつの所に行く気はまだないんでね」
 失った幼なじみのことを考えながら静麻は攻撃を続ける。まだ、死ぬ気はない。
 敵からの攻撃も激しい。
 だが回復の術を持つものは大勢いる。逆に的に回復の術を使えるものはいなかった。次第に防戦一方だったものが、反撃へと変わってくる。
「いまよ、あのポイントに攻めこんで!」
 葵は敵の薄いポイントを突くと部隊を一斉に突撃させた。
 レオが<ゾディアック・レイ>を放ち敵の部隊に穴をあける。
「背面展開!」
 敵を突破すると背後に回り込み攻撃を仕掛ける。
「これでも、くらえ」
 亮一がバズーカ型の光条兵器を発射する。
 しかし魔力の低い亮一では光条兵器を有効に扱うことはできなかった。仕方が無いので愛用のミニミマシンガンに切り替えて敵の背後をつく。
 エヴァルトは敵の武器を狙って攻撃を仕掛けて、敵が機晶ロケットランチャーを手落とすととっさにそれを奪った。
 背後からの攻撃はそれなりにダメージを与える。
「くったばれええええええええええええ!」
 エヴァルトは叫びながら次々とランチャーを放った。
「行くぜ央介! ブチ抜け!!」
 久は虎の名前を叫びながらその上に乗ってランスチャージを放つ。
 それは魔法使いの胸を貫き絶命へと至らせる。
 SPが足りなくなりそうになるとSPタブレットを齧って回復し、<野性の蹂躙>で動物たちを呼ぶ。
 海鳥たちがやってきて敵兵の目をついばんだ。
「ぎゃー!」
 目を失って悲鳴をあげる魔法使い。
 大目立ちした久は敵の的になり、一斉に狙われる。
「ぐあああああああああ!」
 それは彼の狙い通りでもあったのだがやっぱり痛いものは痛い。
「頭下げてまで頼まれて背中向けれるほど俺も温くはねえんだよ! ルルール、回復頼む!」
「わかった。<ヒール>!」
 治癒の魔力が久を癒す。
「にしても襲撃とか、寺院の人達も元気よね。そんな元気が余ってるなら、テロなんかよりエロい事すりゃ良ーのにー。全く、気がしれないわ」
 いやらしい性格のルルールがそんなことをさっぱりとした顔で言う。快楽主義者らしい言葉ではあるが。
「涼司くん、危ない!」
 涼司に向かって飛んでくるロケットランチャーの弾を涼司の前にでてかばう加夜。
「きゃああああああ!」
「加夜! 馬鹿!」
 弾を受ける加夜に向かって涼司が悲鳴をあげる。
「加夜さん! <ヒール>」
 花音がすぐさま加夜に<ヒール>をかける。
「加夜さん! 女の子が傷つくってどうするんですか! お嫁にいけなくなりますよ!」
 花音が加夜に向かって叫ぶ。
(「まあ、涼司さんならもらってくれると思いますけどね。頑張ってください」)
 と声を小さくして囁く。
 加夜は顔をカーっと真っ赤にしてうんうんと頷く。
「加夜! 大丈夫か?」
 涼司が飛んでくる。
「あ、うん。大丈夫! 全然大丈夫」
「無茶するなよ……」
「うん」
 涼司が小さく呟くと、加夜も小さく答える。
 お互いに照れているようだ。
「ぼーっとしてないで。山葉君! 危ないよ!」
 今度は終夏が前に出て涼司をかばう。
「終夏!」
「終夏さん!」
 涼司と加夜が叫ぶ。
「またですか! <ヒール>」
 花音が涼司の女性関係に思いを馳せた……かどうかは知らないが戦うこと自体に抵抗はないのでとっさの判断ですぐに<ヒール>を飛ばす。
「あいたたた……」
 終夏が倒れ、起き上がりながらつぶやく。
「大丈夫か終夏!?」
 涼司が駆け寄る。
「大丈夫だよ。山葉君とラーメン食べるためにもこんなところで負けてらんないよ。それにしても痛いなー」
 終夏は立ち上がると、加夜の側に寄る。
(「山葉君は渡さないよ……」)
(「私だって、涼司君は渡しません」)
 二人の女の視線が火花を散らした。
「そこー、世界を作るな。俺だってな、俺だってな、ジーナのために必死なんだよ!」
 蒼也がそう言いながら光る箒で飛んできて他の怪我人に<ヒール>をかける。
「志方ない人たちですね。今は戦争中ですよ。<アシッドミスト>」
 綾乃の<アシッドミスト>で敵の魔道銃が腐食する。
「イコンを叩くのには失敗したが……お前ら鏖殺寺院に好き勝手はさせんぞ!」
 ウィングがまだ濡れたままの体で<ドラゴンアーツ>と<怪力の篭手>で強化した腕力で機晶姫を叩き切る。
「いい加減に帰って欲しいもんだぜ! 鏖殺寺院さんよう!」
 永谷が<軍用バイク>を片手で操作しながら<ヴァーチャースピア>でチャージをかける。
 その攻撃は機晶姫の機晶石を破壊し、機能停止に至らせる。
「怪我人は私のところにも回せ! 治療する!」
 クレアが<医学>と<応急手当>、<ヒール>を駆使して負傷者を治療していく。
「あなたはここで待機、あなたは戦部の下で戦線に加わってくれ。あと少し、あと少しだ。あと少しで敵は撤退する」
 クレアの基本的な軍事知識では、軍隊というものは二割の損害を出した時点で敗北とされている。すでに一割を倒したとの報告を受けているので、敵の目的が玉砕してでもエレベーターの破壊をするのでない限りまもなく撤退すると目算していた。
「ハンス、<オートガード>を!」
「はい、クレア様!」
 クレアの命を受けてハンスが<オートガード>を発動させる。
「んもー、みんな、私も忘れないでよね!」
 美羽がバリケードから顔を出しながら<ブライトマシンガン>で敵を攻撃する。
「忘れてねーよ!」
「ん! 涼司ツッコミありがと!」
 目立ちたがりな美羽は戦場でも自己主張を忘れない。
「すみませんすみません。美羽さん戦場でふざけないでください。すみませんすみません」
 ベアトリーチェは謝りながら<ヒール>で怪我人を回復させる。
「私はふざけてないってば!」
 美羽が抗議する。
「そこ、漫才は戦闘が終わってからにしろ」
 とクレアからの叱咤が飛ぶ。
「すみませんすみません」
 ベアトリーチェはさらに謝った。
「クレア、こいつらに関わった時点でお前もすでに漫才師の仲間入りだ」
 涼司がそう言いながら機晶姫の機晶ロケットランチャーを剣で弾き飛ばす。
「む……それは不本意だな」
「クレア様、ドツボにはまってしまいますよ」
 ハンスがクレアに注意する。
「むう……閃崎、何とかしてくれ」
「……あー、なんだ……とにかく攻撃を続けろ。鏖殺寺院、そろそろ負けを認めたらどうだ!」
「……鏖殺寺院のために……鏖殺寺院のために」
 呪詛のように繰り返す鏖殺寺院の兵士たちの言葉を聞いて静麻はこめかみに手をあてる。
「無理か……鏖殺寺院とまで漫才なんかしたくないぜ?」
 静麻がつぶやくと美羽が
「だから私は漫才師じゃないってば!」
 と叫ぶ。
「こっちは。あそこのやりとりに関わるなよ! そこ、怪我人の回復と後方搬送を! そっちはあのポイントに移動しろ。とにかく穴を作るな。穴を作ればそこから一点突破されるぞ!」
 小次郎は冷静に漫才との関わりをつくらず矢継ぎ早に指示を飛ばす。
 柔軟に手薄な部分を塞ぐ戦術で敵の攻撃をやんわりと受け止めている。
「いまです、側面突撃!」
 リースが率いる少分隊が敵の側面から不意打ちを仕掛ける。
 数の差が出始めたからこそできる戦術だった。
 パワードスーツで<幻槍モノケロス>を振り回しながら突撃するリースにロザリンドがパラディンの特色を活かして盾として守る。
 最強の矛盾が即席で出来上がっていた。
「<命のうねり>!」
 ロザリンドが<命のうねり>でさらに味方を回復させながら側面攻撃を続ける。次第に乱戦となって行って全体攻撃の術や武器は使えない状況になってきた。だが、それは正面から敵の攻撃を受け止めて叩き潰すだけになったとも言える。脅威だった魔道銃も誤射を恐れて次第に使われなくなれ、戦局は転換点を迎えた。
「<ディフェンスシフト>じゃ! 貴公ら受け止めよ、支えよ。防げ。さすればこちらの勝ちとなろう」
 グスタフが正面から敵の攻撃を受け止める。
「後衛、撃って撃って撃ちまくるのよ。味方を巻き込まないように気をつけて!」
 アンジェラが後衛を支える。
 視点を戻してクレア直衛。
「「いっせーの、せ!」」
 リアトリスとベアトリスが行きのあった攻撃で敵を翻弄する。
 二人はフラメンコを踊りながら戦うという独自の世界観を創り上げており漫才には加わらない。
「涼司君」
「今だよ!」
「応! はああああ!」
 涼司は<ツインスラッシュ>で一度に2回の斬撃を放つと、敵の銃器を弾き飛ばす。涼司はとにかく敵の武器を取り上げることに主眼をおいて戦闘を行っていた。
 そして視点を再度転じて葵方面。
「絶対、皆を守るって決めたんだから! 守るって言ったら守る! 東とか西とか関係ないの!!!」
 葵は<オートガード>、<フォーティーテュード>、<ディフェンスシフト>、<護国の聖域>といった各種の術で自分と味方の防御力をあげると、とにかく守ることを主体とした戦術を取っていた。
「これ以上、先には行かせないよ! エレンディラ!!」
「はい。<パワーブレス>! 命まではとりません。撤退しなさい。それでも葵ちゃんに危害をを加えるのならデリート(完全消去)しますよ!」
 エレンディラは過激なことを叫びながら前線の味方に<パワーブレス>をかけると、混戦していない場所を見つけては<サンダーブラスト>を放っていた。
「クリスティー、とにかく盾になるよ」
「分かっています」
 クリストファーとクリスティーは葵の指揮下で盾役となりながら敵の侵攻を防ぐ。そこを味方の攻撃で敵を倒していく。
「みんな、ここを突破されたら最後よ。ここが最終防衛線なんだから死に物狂いで戦いましょう!」
 メイベルがそう言いながら<その身を蝕む妄執>で敵を苦しませる。
「わかったよメイベル。えい! <光術><光術><ヒール><パワーブレス>」
 シャーロットが魔術を駆使しながらパートナーの戦いを支える。
「もちろん!」
 セシリアがモーニングスター型の光条兵器を振るいながら答える。
「【ガーターの誓い】に掛けて!」
 フィリッパが女性を守る戦いにおいては数倍の力を発揮する<ヒロイックアサルト>を発動させる。
「涼司くんに負担はかけられない!」
 ルカルカが涼司のそばに戻ってきて無事な姿を見せてから安心させると、再び葵の下で前線戦闘に戻った。ブライトマシンガンで敵を攻撃していく。
「お帰り願おうか!」
 ダリルが葵の下で攻撃分隊を指揮して敵を落としていく。
「やらせないぜ!」
 カルキノスが<パワーブレス>で支援する。
「もうすぐだ。 だが、油断せぬようにな!」
 淵が奪魂のカーマインで敵に攻撃しながら叫ぶ。
「あんまり戦闘はすきじゃないんだけどなぁ……」
 そう言いながらも天音はしっかりブロウガンで攻撃していたりする。
「まあ、そうぼやくな」
 ブルーズがそう答えながら<命のうねり>で味方を回復させる。
 視線転じて真紀の指揮下。
「撃て! 撃て!」
 真紀はとにかく銃器や遠距離攻撃を使えるものを集めて部隊を作り後方から戦線を支えていた。
 サイモンも機関銃で敵を攻撃する。
 ショウは真紀の指揮下では異色な接近型として前に出て機晶石を狙って攻撃をしかけていた。
「いい加減敗北に気づきやがれ寺院共!」
 陽一は二丁拳銃で七面鳥撃ちをしながら敵を退ける。
「天御柱にはダチがいるんだよ。ゼッテーやらせねー」
 政敏はスナイパーライフルで敵を次々と狙撃していく。
「ライザ、ネージュ、エリー。連携していくわよ!」
『了解!』
 ローザマリアはパートナーと連携して一気に敵を殲滅する。
「やれやれ……」
 亮一はミニミ機関銃を腰だめに構え撃ちしながらぼやく。
「負傷者はこちらへ!」
 そして梓が負傷者をヒールで治療する。
 アルバートとソフィアは相変わらず前衛に出て盾を持って味方を守っている。
「侵入者は殲滅する……」
 エヴァルトはそう言って<爆炎波>を放つ。業火が敵を焼く。
「エヴァルト、支援する!」
 デーゲンハルトが<アシッドミスト>で敵の銃器を腐食させる。
「お兄ちゃん、ちゅ~」
 ミュリエルがアリスキッスでSPを回復させる。
 エヴァルトは恥ずかしがっているが。
「じっくりゆっくりたっぷりと時間をかけて苦しんでくださいね?」
 グロリアは笑顔で毒を吐きながら轟雷閃で機晶姫に攻撃する。
「………」
 レイラが後方から無言で碧血のカーマインでグロリアを支援する。
「させません」
 アンジェリカが傷つく味方を<ヒール>で治療する。

 そして……

「クレア様、敵が撤退していきます!」
 ハンスの報告通り敵は撤退を始めた。
「遠距離攻撃できるもののみ追撃! ただし絶対に敵の前には出るな。背中から狙え!」
 そして命令通り銃や魔術の使い手が追撃していった。

 敵は逃げきるまでにさらに何割かの戦力を失い、天沼矛の防衛はこうして果たされた。