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第3章 ぼくらの動物園戦争・その4



 見回りに出た園長他数名の飼育係は、空に檻の数々に言葉を失った。
 九尾の狐の説得もあってか、多くの動物は暴れることなく、統率の取れた動きで公園から脱出したと言う。
 暗闇からぞろぞろと数名の生徒が現れ、困惑と憤怒が入り交じるバーバル氏を取り囲んだ。
「……なんだ、おまえ達は。こいつはおまえ達の仕業かっ!」
「密輸は、ダメ。動物を、毛皮にしたり、はく製にしたりするのは、もっと、ダメ」
 その中のひとり、スウェル・アルト(すうぇる・あると)は淡々とした口調で言った。
「動物は、生きていてこそ、素晴らしい。それから、ライオリンは、どこ。ライオリンを、解放して」
「なんだその、ライオリンってのは……?」
「マ・メール・ロアで出会った、ライオリン。エメネアに尋ねたら、空京のミスドに、それらしいのがいると、言っていた。行ってみた。でも、違った。探しても、見つからない。きっと、園長が捕まえてるからに、違いない」
 バーバル氏は言ってる意味が理解出来ず、あんぐりと口を開けた。
「嬢ちゃん、ライオリンは多分いないよ!?」
 パートナーの作曲者不明 『名もなき独奏曲』(さっきょくしゃふめい・なもなきどくそうきょく)が慌ててスウェルを止める。
「空京のミスドでドーナツ買ったら、それっぽいの貰ったじゃないの、嬢ちゃん」
 そう言って、それっぽいのを出した。
「これも結構かわいいよ? これで我慢しようじゃないの、ねっ!」
「……ライオリンを、はく製にしていたら、許さない。ライオリンと、動物達の解放を、園長に要求、する」
「……ってまた聞いてないのね」
 思考が停止していたバーバル氏はふと我を取り戻し、スウェルを睨みつけた。
「わけのわからんことを……、うちの動物を逃がした礼はたっぷりさせてもらうぞっ!」
「ほんと俺様、命がいくつあっても足んないわ、嬢ちゃん……」
 ため息を吐き、名もなき独奏曲ことムメイは火術で目の前を薙ぎ払った。
「しゃーない、俺がしっかり守るとしますか。俺様の魔法、しっかり受けろよ野郎共っ!」
 その炎を合図に戦いが始まった。


 ◇◇◇


 園長がステッキで地面を打つと、護衛に連れていたシャンバラヒポポタマスが唸り声を上げた。
 見た目は温厚そうなカバさんであるが、実は外見に反して超絶凶暴な水陸両用の殺し屋なのである。
 その前に遠野 歌菜(とおの・かな)が、両手に槍を構えて立ちはだかる。
「相手もビーストマスターか……、でも、私だってビーストマスターの端くれなんだから!」
「はっはっはっ、食い殺されろ、小娘!」
「いいえ、毛皮や剥製にするために密売をする人には、絶対に負けませんっ!」
 ヒポポタマスの巨大な牙を防ぎ、すかさず適者生存に威圧を重ねて強烈な視線を放つ。
 すると、ヒポポタマスの目から獰猛さが薄れたような気がした。
「私はあなたを傷つけるつもりはないの。お願い、大人しくして……!」
「どうした! 私のいうことが聞けんのかっ!」
 バーバル氏がステッキでお尻をひっぱたくと、再びヒポポタマスは襲いかかった。
「きゃあ!!」
 体当たりを食らって歌菜は吹き飛ばされる。
 そこに飛び込む黒い影、通りすがりの帝王ヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)が彼女を受け止めた。
「気をつけろ、女! 偉大なる俺には及ばずとも、やつはこの動物園の帝王なんだぞ!」
「ご、ごめ……、って言うか、ありがとう」
「礼などいらん。帝王として当たり前のことをしたまでだ」
 ヴァルはすこし照れた様子で、ぐるるるる……と唸るヒポポタマスを見つめた。
 そして、適者生存を放つ。
 我こそは帝王。全てのもの上に立つ男。獣の上に君臨出来なくて、どうして帝王が名乗れようか。
「馬鹿め、素人が! その程度の眼力で、この私に勝てると思ったか!」
 その鋭い眼光に、ヴァルは思わず気圧された。
 大自然のヒエラルキーをヒポポタマスも敏感に感じ取り、バーバル氏の命令に忠実に従っている。
「下がれ! おまえにはどちらが真の帝王なのか、わからんのか!」
「ふん、この道25年のプロには敵わんということだ! さあ、ヒポポタマス、二人を殺せ!」
「お、おのれ……!」
「帝王がこんなところで諦めちゃダメよ!」
 はっとして振り向くと、傍らには歌菜が立っている。
 二人の眼光から繰り出される強者の波動、重なり合う適者生存が、バーバル氏の適者生存を押し返す。
「な……、なんだと……!?」
 次の瞬間、四つの瞳が、バーバル氏の眼力を打ち破った。
 実際にそれが起こったわけではないが、その瞬間、空に稲妻が走ったような感覚を両者は覚えた。
 ヒポポタマスは目を爛々と輝かせ、バーバル氏に敵意を向け始めた。
「おまえの体、そして心を縛りつけていた鎖は既にない! だが、自由とは自身の力で勝ち取るものだ。それを今からこの帝王が実践する。この背中を見、そして思い出せ。獣としての誇りを!」
 ヴァルは言い放つと、ヒポポタマスの身体をペタペタと触った。
「我らと共に闘うなら、宜しい。ならば野生の蹂躙だ」
 その言葉に、ヒポポタマスはガアァァァと威嚇の雄叫びを上げた。
 もはや、水陸両用の殺し屋は二人の軍門に完全に下ったようだ。
 バーバル氏には受け入れがたい現実だったようで、石像にように固まったままピクリとも動かない。
「さあ、どうする小さな世界の帝王よ。道は二つ、この帝王に屈するか、あるいはしばかれるかだ!」
「……私はどっちを選んでもしばく気まんまんですけどね!」
 ヴァルと歌菜がじりじりと間合いを詰める。
「く、くそ……、誰か……!」
 バーバル氏が部下に助けを求めようとしたその瞬間、暗闇に閃光が走り、複数の悲鳴が上がった。
 ドサッドサッと倒れていくのは、愛すべき動物園の飼育係たち。
「所詮は契約者じゃねぇパンピーか……、俺の前に出てくるには随分と歯応えのねぇ」
 吐き捨てるように言うと、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)は拳を鳴らしながら迫った。
「俺と勝負しろ、園長! おまえも男なら、正々堂々身体一つでぶつかってきやがれ!」
「いいだろう、私も獣人のはしくれ……、ただの人間とは違うのだよ、人間とは!」
 バーバル氏に獣の眼光が宿る。
 メキメキと音を立てて筋肉が発達していき、その手に鋭い爪が突き出した。
「そうこなくっちゃな……、ここまで来たかいがねぇ」
 ラルクは呼吸を整え、ドラゴンアーツで全身に力をみなぎらせる。
 神速と軽身功で極限まで高まった速度は、引き絞られた弓から発射された矢の如し、大地を蹴った瞬間にはバーバル氏を目と鼻の先に捉えていた。この速度を脚に乗せ、渾身のあびせ蹴りを放つ。
 しかし、バーバル氏とて伊達に園長はしていない。
「馬鹿め! 私は百獣の王たるライオン族、そんな攻撃止まって見えるわぁ!」
 紙一重で回避し、眼前の獲物の頭上に爪を振り下ろす。
 だが、引き裂かんと繰り出された腕を、ラルクはあっさりと掴み取った。
「ナニッ……!?」
「……まるで弱いな、園長。動物に頼ってたツケが垣間見えるぜ。あんた自身の拳には覇気が足りねぇ!」
「だ、黙れ! 私はこの動物園の王なんだーっ!!」
 ラルクの両の拳が闇の中に閃く。
「うららららららららららーーーっっっ!!!」
 機関銃のように繰り出される鳳凰の拳が、余すところなくバーバル氏の全身に叩き込まれる。
「ぎにゃあああああああああ!!!」
 勢いよく吹き飛ばされた彼は空っぽの檻に突っ込み、ドサリと倒れると完全に意識を失った。
 辺りに静寂が戻ってくる。
 ラルクはポケットから煙草を取り出し、火を着ける。
「ふぅ……、またつまねぇもん殴っちまったぜ!」


 ◇◇◇


 サイレンの音が鳴り響き、空京警察のパトカーが公園を取り囲んだ。
 続々と乗り込んできた警官が、気を失っている関係者を取り押さえると、すぐさま署に連行していった。
 事務所に向かう現場の責任者らしき刑事の前に、数名の生徒が声をかけた。
 閃崎静麻酒杜陽一九条風天御凪真人
 そして、レン・オズワルドである。
「密売の証拠なら、もう押さえてあるよ。過去10年分の取引の記録、それから顧客名簿だ」
 静麻が手渡した書類の束を、刑事はパラパラとめくって目を通す。
「取引相手には結構な大物も絡んでるみたいだ。司法機関の下っ端を買収なり自分の身内に摩り替えたりしている可能性もある。なんなら、俺のコネをフルに使って密輸組織と癒着がない幹部に情報をリークしてやるぜ?」
「頼もしい限りだ。が、しかし、ここからは我々の仕事だ」
「ああ、あくまでもしも必要なら……の話さ。頼りにしてるぜ、刑事さん」
 そう言って、敬礼すると、刑事も返礼した。
「ご協力感謝する! ところで……」
 ふと、刑事は先ほどから視界の隅に見える人物……、木に縛られた神代明日香を指差した。
「あそこの木に括られてる女性は、動物園の関係者かね?」
 尋ねられた一同は、奇麗に口を揃えて答えた。
「いいえ、僕たち知りません」
 さて、ここで皆さんの記憶からはるか遠ざかっていた人物が舞台に上がる。
 各校の生徒を事件に引き込んでおきながら、これまで全然関係のない場所を捜しまわっていた男。
 王 大鋸(わん・だーじゅ)である。
「おーい、アゲハーっ! いんのか、コラァ! いんなら返事しろや、コラァ!!」
「ダーくん、ごめん……」
「あん?」
 振り返ると、暗い表情の小鳥遊美羽が立っていた。
「お、おい、どうした? まさかアゲハのやつ、とんでもねぇことを……!?」
「違うの。喋るゴリラを見つけて、アゲハの頭が大丈夫ってことを証明したかったのに……」
「ウッホウッホ!」
 連れてこられた赤城長門ゴリラは、文明をどこかに置き去りにしていた。断固として人間の言葉を話さないため、生徒たちの中には彼が人間であることを忘れ始める者も現れたとかなんとか……。
「全然、ゴリラが喋らないよぉ……」
 とその時、アゲハが動物園の奥からゴリラを連れてやってきた。
「だーかーらー! ゴリラ、ちゃんと喋るって言ってるしぃ!」
「どうもすみません。なんだかぼくの所為で、事態を混乱させてしまったみたいで……」
「……ご、ゴリラが喋ってるっ!!」
 脳天に雷を食らったような衝撃に、大鋸は目を見開いたまま固まった。
「ま……、でも良かったじゃん。悪い業者は逮捕されたし。ゴリラはどうすんの、これから。森に帰る?」
「とりあえず、空京のマンションに帰ろうかと……」
「はぁ? なんでゴリラのくせにマンション借りてんだよ!?」
「田舎から出てきたんでマンションを借りたんですけど……、何かおかしなことしてますか……?」
 二人は不思議な顔で見つめ合う。
 先に口を開いたのは、ゴリラのほうだった。
「あの、さっきからゴリラゴリラって呼んでますけど……、まさか本当にゴリラだと思ってませんよね?」
「ち、違うの?」
「言ってませんでしたっけ? ぼく、シャンバラ人なんですよ」
「……ええーっ!!」
 脳天に雷を食らったような衝撃に、アゲハは目を見開いたまま固まった。
「彫りの深い顔立ちだし、結構毛深いでしょう? 昔から、すぐゴリラってあだ名付けられちゃうんです」
「いや、彫りが深いってレベルじゃないじゃん!  つか、なんで裸なんだよ!」
「ぼく、逆に服を着ると暑くって……、それに裸で出歩いて注意されたこともなかったので……」
 それは間違いなくただのゴリラ認定されているからである。
「……で、ゴリラはなんでこんなとこにいたわけ?」
「初めて来た都会で人気のない場所を歩いてたら、いきなり誘拐されたんです。事情を話して返してもらおうと思ったんですけど、怖い人たちだったんでそれも言えなくて。ごめんなさい、あなた達に迷惑をかけて……」
 ペコリと頭を下げたゴリラ……に似た人に、アゲハはポリポリと頬を掻いた。
「ぼく、もう田舎に帰ろうと思います。勉強のために出てきたけど、都会はやっぱりあってないのかも……」
「そんなこと言うなよ」
 アゲハはおもむろにゴリラ似の人の腕を掴んだ。
「たしかにさぁ、人がいっぱいいると悪いやつもいっぱいいるよ。でも、同じくらい良いやつもいっぱいいるんだよ。あんた、勉強のために出てきたんだろ、こんなことぐらいで逃げ出してんじゃねぇーよ」
「アゲハさん……」
「困ったことがあったら、あたしが面倒見てやるし……、もうすこし頑張れよ!」
 その言葉にゴリラ似の人はうるうると涙を浮かべた。
 そう、思えば彼に取って彼女は、都会に出てきて初めて優しくしてくれた人間だったのである。
「ぼく、頑張ります……、見ていて下さい、アゲハさん!」

担当マスターより

▼担当マスター

梅村象山

▼マスターコメント

マスターの梅村象山です。
リアクションの公開が遅れてしまい、まことに申し訳ありません。
そして、本シナリオに参加して下さった皆さま、ありがとうございました。


今回、オマケ的な要素で『病院で頭を診てもらう』というサンプルアクションを加えたのですが、
皆さんもご存知の通り、危うくメインストーリーが精神病院に持ってかれるところでした。
まさか三分の一を超えるプレイヤーさんが、やってくるとは予想外です。
これほどの患者が出てくると言うことは、よほど現代社会の闇が濃いのでしょう。
嘆かわしい限りです。

それから、本シナリオのラストシーンですが、一応3パターンほど想定していました。
動物解放に参加する人数やそのアクションの内容次第では、三通りの結末が考えられると思ったのです。
1つ目は、動物の解放に失敗し、園長達に逃げられる、もしくは返り討ちにあうパターンです。
2つ目は、動物の解放に成功し、園長達には逃げられるパターン。
3つ目は、動物の解放に成功し、なおかつ園長達を逮捕することに成功する大団円パターンです。
これまでの経験から言って、普通に大団円パターンになるだろうとは思っていましたが、
最初にアクションにザッと目を通した時、精神病院アクションが多くて、ひやりとさせられました。
あくまで判定の結果とは言え、1つ目と2つ目って、全然スッキリしないエンディングですから。
書くほうもちょっと辛いです。


次回シナリオガイド公開は、まだ未定です。
シナリオが決まり次第、マスターページでご報告しますので、チェックして頂ければ嬉しいです。
それでは、また次回、お会い出来る事を楽しみにしております。