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大決戦! 超能力バトルロイヤル「いくさ1」!!

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第13章 くずおれる龍

「海人! やっとみつけたぜ」
 雨月晴人(うづき・はると)は、西城陽に車椅子を押されて山道を登る海人と、その周囲の生徒たちをみつけて、歓声をあげた。
「うん? 誰だ? 海人を探していたのか? どうしてだ?」
 西城は雨月に尋ねた。
「相棒が、頼みたいことがあるっていうんでな」
 雨月は、アンジェラ・クラウディ(あんじぇら・くらうでぃ)を示していった。
「海人。私、あの子、助けたい。あの子、寂しそう」
 アンジェラは、車椅子の海人に顔を近づけていう。
「……」
 海人は無言のまま、空を眺めている。
「あの子って、誰だ?」
「ふふ。設楽カノンだよ。いま、音が濁って、ガノンになっちゃったけどね」
 西城の問いに、横島沙羅が答える。
 強化人間たちは、みな、カノンの変化を感じとっていた。
「カノンの精神が崩壊したのか!? 何とかしなきゃな。でも、どこにいるんだ?」
「ふふ。海人が知ってるよ」
 横島は面白そうに笑っている。
「私も、あの子の居場所、わかる。案内する」
 アンジェラが先に立って歩き始め、西城は海人の乗る車椅子を押して、後を追う。

 そして。
 海人たちは、ガノンと国頭たちが激闘を繰り返す現場にたどり着いた。
「こ、これは!?」
 雨月は息を呑んだ。
 山頂に近いその場所は、力を解放させたガノンが巻き起こす爆発によって、山肌を削られ、瓦礫がそこら中に飛び散る、惨憺たる状況になっていた。
「カノン、相当、荒れてる。でも、あの男も、しつこい」
 アンジェラは、国頭を睨む。
 そこに。
「カノン、どこに行ったんだ? あっ、いたぞ! な、何だあの姿は!」
 カノンの護衛役を務めていた生徒たちも、次々に現場に到着してきた。
 彼らは、カノンが飛空艇に乗ってから、カノンがどこに行ったか探し、あちこちをさまよってきたのである。
「と、とにかく、カノンを助けなきゃ!」
 国頭に襲われるガノンを助けようとする生徒たち。
「海人、頼む! カノンを助けてくれ」
「海人。あの子、止める、あなたならできる!」
 雨月とアンジェラが、海人に頼み込む。
 海人は無言だが、力をガノンに向けようとし始めていた。
 だが、ガノンの闘いと同時に、他の参加者同士のバトルロイヤルも進行していたのである。
 生徒たちがガノンを助けようとしたとき、その場所に、闘い続ける2人の参加者が乱入してきた。

「あともう少しで山頂だ! 本気でいくぜ」
 アルノー・ハイドリヒ(あるのー・はいどりひ)がいった。
「まだ、追ってくるか。しつこい奴だな。俺一人を抜かして何になる? そこまでして、ライバルを蹴落とし、少しでも自分が先に山頂にたどり着きたいか?」
 榊孝明(さかき・たかあき)が呆れたような口調でいう。
「当り前だ! それがこのバトルロイヤルの基本なのだから!」
 アルノーは、サイコキネシスで周囲の瓦礫を巻きあげ、一面に展開させて、視界を塞いだ。
「この闘いに真剣に取り組むか。危険な奴だ」
 榊もまた、サイコキネシスで砂煙を巻き起こし、視界を塞いだうえに、ミラージュによって自分の幻影を散りばめる。
 アルノーと榊。
 2人の巻き起こした撹乱の幕が、辺りを覆い、ガノンを助けようとする生徒たちを踏みとどまらせた。
「う、うわー!」
「み、みえないよ!」
 戸惑う生徒たち。
 嵐の中で、ガノンと国頭はなおも激戦を繰り返している。
「砂嵐と幻影だ。まず、俺に攻撃は当たらない。こっちから仕掛けたいが、どこにいるんだ?」
 榊は目をこらし、アルノーの姿を探すが、肉眼では見当たらない。
 そのとき。
(孝明。聞こえるかい?)
 益田椿(ますだ・つばき)が、精神感応で榊に呼びかけてきた。
(椿! 来ているのか。どこにいる? そうか。カノンを守ろうとしているあの生徒たちの中に紛れているんだな)
 榊は驚いたが、益田のサポートを受けられることにホッとしている自分にも気づいていた。
(あんたの相手は、右に30度の方向にいる。そう、そこさ)
 益田は、アルノーの位置を榊に教えた。
「椿。助かったぜ!」
 叫んで、榊はサイコキネシスで持ち上げた岩を、益田に教わった方角に投げつける。
 同時に。
「読みきった! そこだ!」
 撹乱の嵐の中、榊の位置をみきったアルノーの銃が、死角から火を吹いた。
 榊の攻撃と、アルノーの攻撃が、互いをうちすえる。
「うわあ!」
 2人は同時に悲鳴をあげ、倒れた。
「な、なぜだ!? 幻影も仕掛けていたのに! うっ」
「甘いな。俺は、特殊部隊で訓練を受けていたんだ。うっ」
 2人は、同時に失神する。
 海人の力はここでも正常に作用しており、2人とも致命傷は免れていた。
「孝明!」
 増田は、倒れた榊に駆け寄る。
「アル!」
 ギルベルト・ハイドリヒ(ぎるべると・はいどりひ)もまた、倒れたアルノーに駆け寄り、ヒールで傷を治す。
「アルが望まないとわかっていたから、闘いには手を出さなかったけど、本当にこれでよかったかな?」
 ギルベルトは、アルノーに囁く。
(もちろん、OKさ)
 アルノーは、消え行く意識の中でそう呟き、親指を上げようとしていた。

(海人。あなたの力でも、あの子、止められないの?)
 混乱の中、アンジェラは、精神感応で海人に呼びかけた。
(このままでは、ダメだ。あの子を止めるには、非常に大きな力がいるが、次々に参加者が乱入してくる状況では、ひとつのことに集中することができない)
 海人の声に、焦りがみえた。
(じゃあ、どうすればいい?)
(あの子の精神が崩壊するきっかけになった、直接の原因を絶つべきだ)
(きっかけ。それ、何? 温泉か?)
(いや、違う。本当のきっかけは)
 龍。
 アンジェラの脳裏に、その言葉が閃いた。

 ガノンと国頭が死闘を繰り広げていたころ、ガガ山の、割れた怪龍岩付近では、生徒たちと「深紅の龍」の激闘が展開されていた。
「がおわあああああ」
 恐るべき吠え声とともに、超高温の炎を吹き、辺り一面を焼き焦がしていく龍。
 パラ実生を始めとする、龍を倒しにきた生徒たちは、龍を取り囲んでバラバラに攻撃するが、攻撃のほとんどは龍のかたい鱗に弾かれてしまう。
「これはまた、ずいぶんと粗暴な龍だ。被害が広まる前に早めに倒して、眠りにつかせた方がいいな」
 アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)は紙ドラゴンと武者人形を動員し、戦闘準備に入る。
「うむ。鱗や筋肉が薄い、腹部か顎の下を狙えればよいのだが」
 そういって、シグルズ・ヴォルスング(しぐるず・う゛ぉるすんぐ)は、武者人形とともにアルツールの前衛につく。
「いくぞ!」
 シグルズはユニコーンに乗ると、武者人形を連れ、龍に向かって突き進んでゆく。
 シグルズの背後には、後衛を務めるアルツールと紙ドラゴンの姿があった。
「ばおおおおおおおお」
 シグルズたちに向かって炎を吐きかける龍。
「大丈夫だ。俺の氷術なら、防げる!」
 アルツールは氷術で巨大な氷の盾を空中につくりだすと、龍の炎を見事に防いでしまう。
「よし!」
 シグルズは龍の周囲を慎重にまわりながら、隙をついて剣を振るう。
 カキン!
 剣が龍の鱗にあたり、火花が散った。
「サンダーブラスト!」
 アルツールの放った雷術が、龍の鱗に電気を走らせる。
「みなさん、準備はいいですか? 私たちもそろそろ仕掛けますよ」
 牛皮消アルコリア(いけま・あるこりあ)は、仲間に呼びかける。
「了解じゃ。誘う凪よ、原初の力を呼び起こし賜へ」
 ランゴバルト・レーム(らんごばると・れーむ)は、襟に固定されたマイクから、渋い声を周囲に送る。
 ランゴバルトによって、原始的な荒ぶる力が牛皮消の仲間たちにわきあがり、物理攻撃力を上昇させる。
「さあ、後は、歌い続けよう。ああ、あ、あ、あー」
 ランゴバルトは情感のこもった声で歌い始める。
 ランゴバルトの歌により、ナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)の魔力が強化された。
「イエス、マイロード・アルコリア様。龍退治、お付き合い致しますわ」
 ナコトは、空飛ぶ魔法を全員にかける。
 牛皮消たちの身体が、宙に浮き上がる。
「いきますよ!」
 剣を抜いて、牛皮消は出撃を宣言した。
「ばおーおー!」
 龍は、目ざとく牛皮消たちを認識し、すかさず炎を吹く。
「ファイアプロテクト!」
 シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)の魔法が、龍の炎を和らげる。
「みんなの支援があるから、闘えるんです。死ね、龍よ!」
 牛皮消の剣が、龍の頭部に振り下ろされる。
 目や口を狙ったが、狙ったところに当てるのは難しく、鱗に弾かれる。
「動きを止めさせてもらいます! アルティマ・トゥーレ!」
 牛皮消の剣から、冷気が放たれる。
 冷気をくらった龍の身体の一部が凍りついた。
 ナコトも、ブリザードを龍に仕掛けている。
「さあ、続いて仕掛けます!」
 牛皮消は剣を振りまわして旋回し、龍の装甲に斬りつけた。
「いまです! 心臓を狙います!」
 牛皮消の剣が、龍の鱗の合間にさしこまれ、心臓をひと刺ししようとした。
 だが、分厚い龍の筋肉を貫くのは容易でない。
 牛皮消は、必死で龍に組みついた。
「こっちは顎の下を狙う!」
 アルツールとともに龍を牽制していたシグルズが叫び、龍の首根に組みついて、力強い拳の一撃をその顎の下に叩きこんだ。
「ごわあああああ」
 龍が吠え、無秩序に炎を吹き散らした。

「よし、ルカルカたちもいくよ! 龍の動きを止めるのに協力するんだ!」
 ルカルカ・ルーたちも、シグルズたちや牛皮消たちに遅れをとるつもりはなかった。
「カタクリズム発動! 龍にぶつけるよ!」
 ルカルカのサイコキネシスが、みえない力の嵐を巻き起こし、周囲の木々を薙ぎ倒し、龍に圧力をかける。
「よし、俺も。カタクリズム発動!」
 朝霧垂もまた、みえない力の嵐を起こし、ルカルカが発生させたものにぶつける。
「そう。その角度だ。いいぞ。これで、乱気流が生じる。竜巻の発生だ」
 2人に、カタクリズムを衝突させる角度を助言した、ダリル・ガイザックが満足げに呟く。
 ダリルの計算どおり、ルカルカと朝霧のカタクリズムの衝突により、大きな竜巻が発生し、龍を包み込む。
「よし、次だ! 雷よ、風とともに龍を襲え!」
 ダリルの雷術を使って、竜巻の中に雷の攻撃を組み入れる。
「俺もいくぜ! 氷術をくらえ!」
 夏侯淵も、ダリルと並んで氷術を使い、竜巻の中に氷の攻撃を組み入れる。
 雷と氷。
 2つの要素が竜巻の中でミックスされ、すさまじい氷雷の竜巻が龍を襲うことになった。
「う、うわー!」
 竜巻に巻き込まれたシグルズたちと牛皮消たちは、龍の身体から吹き飛ばされて、天高く巻きあげられていった。
「よし、とどめだ。垂、いくよ!」
「おう。最終攻撃だ!」
 ルカルカは、朝霧とともに跳躍。
 空中で手を取り合った2人は、一体化した身体を高速回転させる。
 2人の足先から冷気が放たれ、巨大な氷の錐のようなものが形成されたかたちになる。
「ダブル・アルティマ・カタクリズム・キーック!」
 2人が力を合わせてつくりだした氷の錐が、深紅の龍の身体を貫いた。
 どごーん!
 大爆発が巻き起こる。
「ふ、ふわあああ、すごい!」
 ライゼ・エンブは、ぽかんと口を開けて爆発の様子を眺めている。
「やったか!?」
 ダリルは、拳を握りしめた。
 2人の足から放たれた冷気が、龍の身体を凍りつかせ、その凍りついた1点を蹴りが貫いたのだ。
 攻撃は、龍の内部にも届いたはずだ。
 爆発の煙がしずまると、龍が、ぬっと顔を出した。
 その身体に、ひびが入っている。
 ぱきぱきぱき
 ぐわーん!
 龍の身体が、木っ端みじんに砕け散った。
「やったー!」
 ルカルカと垂は互いに掌を打ちつけあい、くるくると勝利の舞いを舞う。
 そんな2人の頭上に、大量の赤い花びらのようなものが舞い落ちる。
「あっ、きれい」
 ライゼは、息を呑んだ。
 深紅の龍の身体を構成していた粒子が、大量の赤い花びら状のものと化して、周囲に飛び散っているのだ。
「これは! 実に興味深い。あの龍は、血と肉でできていたのではなかったのか?」
 アルツール・ライヘンベルガーは、竜巻に吹き飛ばされて身体をめりこまされていた地面から飛び起きると、赤い花びら状の物体に大きな関心を寄せた。
 気がつけば、飛び散る花びらの中に、紅の帽子の男が姿をみせている。
 アルツールと目があって、男はニヤッと笑った。
「遠い昔、都があった。都の人々は、超能力の研究も行っていたのだ。いま、この山で行われている闘いは、愚かなものだ。都の人々がみたら、笑うだろう。闘いの中でしか磨かれない力は、特定の目的にしか利用できない。そう。彼らを導く者の目的のためにしか」
 男の言葉に、アルツールは首をかしげる。
「いったい、君は、何者だ?」
 アルツールの問いに、男は答えない。
「人よ。悠久のときを経て、また会うこともあるだろう。これで、大いなる殺戮の女神は鎮まるはずだ」
 そういって、男の姿はかき消えた。
「いったい、何なのだ? アトラスの傷跡は、古代シャンバラの首都の跡地だ。あの男は、その都の記憶を受け継いでいるのか? あの男は、龍の化身か。ならば、あの龍は何だ? 古の都で研究されていたという、歴史を見守り、語り伝える一種の生体機械か? 悠久のときを経て、メインプログラムが人への悪意を強めたという伝承もあるが?」
 歓声をあげるルカルカたちをよそに、アルツールは深く考え込むのだった。
 気がつくと、2つに割れたはずの怪龍岩が、もとの状態に復元されていた。