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激戦! 図画工作武道会!

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「まだだ! ネンドオーの炎は燃え尽きちゃいねぇぜ!!」

 そう叫ぶトライブの前には炎で包まれた紙粘土製のネンドオーがいる。(余談だがトライブは、夏休み中にたまたま見たロボットアニメに感化されている)

 先程の試合もシンクロという事が決着の糸口となったのだが、今回もそうなるであろう事は誰の目にも容易かった。

 文字通り燃え盛るネンドオーの前に立ちはだかるのは、アスカが寝る間も惜しんて?作った力作、軽量紙粘土製の堕天使人形クレイエルであった。

 軽量により機動性は勿論のこと、背中に生える四枚の黒き羽根が、先程までのネンドオーの攻撃を回避し、両手に持つ二挺拳銃を用いて有利に戦いを進めていた。

 その銃を見たアイムが言う。

「うーん、遠距離攻撃を主体とするクレイエル選手ですが、果たして近接戦闘はどうなんでしょうかねー?」

 バッとアイムの方を振り向くアスカ。

「言っておくけど、この拳銃を只のスクラップ銃だと思わないことねぇ」

「え?」

 フフンと鼻を鳴らしたアスカが得意げに語る。

「これは売却不可の、だからって捨てるに捨てれないという、ちょっと困った武器の一つ、碧血のカーマインの成れの果てから作った銃よ! 何故成れの果てになったか? どこぞのお馬鹿さん達が見事に壊したからよ〜、お気に入りだったのにぃ……」

 ワナワナと拳を震わせるアスカから同時に一歩距離を取ったのは、パートナーのルーツと鴉であった。

「ア、アスカ……やはり壊したことを怒っていたのか」


 ルーツがそう小さな声で尋ねるが、アスカは背中で黒いオーラを放ったまま答えない。

「ちなみに人形の骨組みにも使用してるから まさに魂を蝕む堕天使よぉ」

「アホらし……。たかが銃の一挺や二挺壊されたぐらいでそんな怒ることか? 早速逃げ……っ!?」

 そう軽口を叩きながら、さらに一歩アスカから距離を置こうとする鴉の体が思うように動かない。

 ルーツを見る鴉。ルーツは引きつった笑いを鴉に投げかけている。

「(体が動かない!? こ、この吸血鬼!! まさか俺が行動する前にやりやがったな!)」

「(絶対逃亡……? させてたまるかぁ!)」

 二人の思いが予想外の場外乱闘を生む。ただ共通しているのは「まさかトーナメントが終わったら我等もクレイエルの餌食に? に、逃げたい……!! だが逃げたら逃げたで後々が恐ろしいことは明白っ!!」という異なる意味での一蓮托生な思いであった。

「死なばもろとも」の考えは、トライブも同様であった。

 スキルの火術を使い、ネンドオーの全身を炎で包む最終形態。
 火を通す事で粘土を固い焼き物に変化させる事は、同時に粘土の強みであるその弾力による防御力と、傷を負っても再生できる柔軟性を破棄する事と同意であった。

 しかしそれにより、今ひとつだった攻撃力は遥かに強さを増す。まさに捨て身の攻撃方法であった。

「これが、グレートネンドオーだ!!」

 事前にドリルに変えておいた片腕を、相手に向けて突貫のポーズをとるネンドオー、いやグレートネンドオー。
 
クレイエルを操るアスカにもトライブとネンドオーの気迫が伝わっていた。それを受けてか、アスカのクレイエルからオルゴール曲が流れだす。

「元々はオルゴール用の人形にしようと思ってたけど、トーナメント用に改造させてもらったの! さあ、クレイエル! あなたの神速の回避力とスプレーショットで勝利のメロディを響かせて!! オルゴール曲はダンテ「神曲」地獄篇よぉ!!」

「上等!! 行けっ!! グレートネンドオーォォッ!!」

 ギリギリまで引き絞られた矢が放たれるかの如く、炎を纏ったネンドオーが突進する。

「乱れ撃ちなさい!! クレイエル!!」

 オルゴールの音楽を響かせながら、クレイエルが二丁拳銃を乱れ撃つ。
ガンッガンッとネンドオーに当たる銃弾。しかしネンドオーは突進を止めない。

「上空に回避すればよかろう?」
鴉を拘束しながらルーツがアスカにそう進言するが、アスカは首を横に振る。

「ダメ。上に逃げると、もしもの時回避出来ない。それにさ、私、こういう勝負燃えるのよねぇ!!」

 そう瞳の奥に真っ赤な炎を燃やしてアスカが言う。

「クレイジーだ……」
既に逃げるのは無理と悟った鴉が呟く。

――ガンッ!! 

 ネンドオーのドリルを付けていない片腕がクレイエルの銃撃によりふっ飛ぶ。

「まだだ、たかが腕をヤラれただけだぁッ!!」

「ちぃ、しつこいわねぇッ!!」

 クレイエルまであと数歩まで迫るボロボロのネンドオー。

「喰らえェェッ!!」

 トライブの咆哮に応えるようにネンドオーの頭部の口がカパッと吠える。

「「ファイナルト?リルクラッシャァァァァァァ!!!」」



――ガンッッッ!!!



 爆風がリング内に吹き荒れ、煙となって観客席を襲う。


 やがて晴れたリングの中には、両足と頭部を吹き飛ばされたネンドオーと片腕を失ったクレイエルが全てを出し尽くしたかのような体勢で重なるように横たわっていた。

 しかし、クレイエルからはオルゴールの音色が未だに続いている。

「あなたの心に響きましたか?」と倒れたクレイエルから声が響く。

 その様子を確認したレフリーが叫ぶ。

「ネンドオー選手、戦闘不能とみなし、TKO!! 勝者、クレイエル!!」

「「「ウオオオォォォォーッッ!!」」」

 生徒達から今日一番の大歓声と拍手が起こる。

「クレイエル選手、最後は間一髪でしたが、勝利しました!!」

 鳴り止まぬ拍手の中、トライブがアスカと握手をしている。

「負けたぜ……あんた強いな!!」
 
満足した様子で鼻の頭を指で掻くトライブにアスカが笑う。

「クレイエルの片腕を持って行くなんて本当に凄いわ。私が熱血君に負けてしまう可能性も十分あったよ?」

「(……熱血君?)……いや、どっちにしてもグレートネンドオーは一回きりの技だ。それを耐えたあんたが強いのさ」

 レフリーが両者の間に割って入り、二人の両手を高く上げる。

 沸き起こる歓声と拍手の中、リングサイドからそそくさと退避を試みるルーツと鴉であったが、それに気がついたアスカが一睨みし、両者の歩みがピタリと止まるのであった。

「((ルーツ、鴉……後で覚えときなさいよ〜)」
そう思いながらも、アスカは心地良い勝負の余韻にしばし浸るのであった。


「アイムさん、これも名勝負でしたね?」

「素晴らしいですよ! 決勝戦クラスの激闘がこんなに続く大会なんて私初めてです!!」

 うんうんと互いに頷き合う二人。そこに飛び込んでくる観客の別の歓声。

「え? 何? 何ですか?」

「イチローさん! 第二リング! 第二リングを!!」

 アイムに言われて第二リングを見るイチロー。
その光景に目を見開く。

「ああああーっっとぉぉ!?」


 第二リング上では、詩穂の工作、茶運び人形のカラクリ王がリング上でバラバラになっており、詩穂がそれを半べそで回収していた。

 そんな詩穂を見下ろすように勝ち名乗りをあげるのは、蒼空学園の制服の上に白衣をまとい丸眼鏡をかけた浦野カゲローとワイヤーで構成された虎であった。

「えっ……と、試合時間29秒!? 秒殺ですか!?」
 
イチローがスタッフから手元に寄せられた書類を読み上げ、驚嘆の声を上げる。

「しかし、何もバラバラにしなくても……詩穂選手が可哀想ですよねー……」

「えー、今、手元に映像が届きましたので、見逃した方々とともに振り返ってみたいと思います」

 イチローがそう言うと、モニターに映像が映る。



 まだネンドオーとクレイエルが激闘を続ける最中、その試合は始まった。

 意気揚々と入場したきた詩穂とカラクリ王と対峙するのは、丸眼鏡のカゲローと複数のワイヤーで組み上げられたその工作、エントリー名『プロトタイガー』であった。

 ミシンの廃材をメインに使った工作のカラクリ王は、糸・ゼンマイ・歯車・ミシンのポピンが動力の茶運び人形である。

 リングインした詩穂がカゲローに握手を求める。

「カゲローちゃんだっけ? 頑張ろうね?」

 差し出された詩穂の手を見て、卑屈な笑みを浮かべるカゲロー。

「頑張る? ふんっ、努力なんていうのは才能の無い奴がやることです。だから僕は頑張らなくてもいい」

「えー!? 何、それー! これから我が子達が戦おうっていう時に」

「我が子?」

「そうだよ。詩穂は、工作と作り手は親子だと思っているの」

「……くだらない。道具は己の夢を叶えるために利用するものです」

 レフリーが二人をリングサイドへ誘導する。
突然振り返るカゲロー。

「ですが、そのカラクリが貴方の子であるならば、僕の痛みを少しは分かってもらいましょうかねぇ」

「え? 何?」

 詩穂がカゲローに真意を聞こうとするが、既にカゲローはリングサイドに降りてしまっていた。


――カァァーーンッ!


ゴングが鳴り、カラクリ王がカタカタと全進しながら、

「血は人間の絆、愛の証、愛の在りきゆえ 親は子を思い、子は親を思い、血と涙を流す……。拙者は親と子の絆を守るため、人の心を捨て機械に堕ちた外道を粉砕すべく、地獄から引導を渡しに細川半蔵より遣わされた茶運び人形! カラクリ王……」 
「イッツ、ショータァァーイム!!」

「なんで『ショータイム』なんだよ、英国かぶれが!!」

 自分の工作でありながら突っ込みを入れる詩穂であったが、事態は急転する。

 名乗りを上げるカラクリ王に飛びかかるプロトタイガーが、避けようとするカラクリ王の手にしたモップを強烈に弾き飛ばす。

「あわわ!? 疾風突きが使えないよー!!」

 先制パンチに悲鳴をあげる詩穂。
カゲローが叫ぶ。
「タイガー、食い散らかしてやれ!!」

「ガルルッ!!!」
と叫んだタイガーがカラクリ王に飛びかかる。

 咄嗟に手でタイガーを払いのけようとするカラクリ王だが、ちょうどタイガーのボディのワイヤーとワイヤーの間に腕が挟まれてしまう。

「ガルルッ!!!」

 馬乗りになったタイガーが、カラクリ王へ噛み付き、さらにマウントパンチめいた技を振るう。

 激しく叩きつけられるカラクリ王。
レフリーが割って入り、TKOを宣告しようとするが、タイガーは攻撃を止めない。

「よし、もういい。戻れ、タイガー」

 カゲローがそう叫んだときには、半身が破壊された無残なカラクリ王がリング上に横たわっていたのであった。


 映像を観終えたイチローとアイムは、数秒間言葉を失っていた。

「これは……」

「工作というよりも、まるで人の復讐の道具ですな……一体彼は何故このような工作を作ったのでしょうかね?」

「シード枠の浦野カゲロー選手はこれで準決勝進出ですが、非常に後味の悪い試合になりました!」

 少し怒気を含んだ声でイチローがそう告げる。
こうして、第一回戦の13試合は全て終了したのであった。