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一角獣からの依頼

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一角獣からの依頼

リアクション

「適正検査?」
「簡単に純潔かどうかが分かる検査がありますの」
 コウは嫌な予感しかしなかったが、とりあえず、聞いてみた。
「用意する物は『火鉢』のみですわ」
「火鉢?」
「えぇ。自称純潔なる乙女のみなさまには準備として『スカートは履いたまま下着を脱いで』いただきます。火鉢を跨いで、その上でくしゃみをしてください、灰が飛び散らなかったら適格でございます。もちろん火鉢を跨ぐ際には股を大きく開いて−−−」
「なぁ゛にを言ってるかー!!!」
 顔を真っ赤にして、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)はビシッとベイバロンを指さした。
「おまえっ! じょ、女性でありながら不埒極まりない事をペラペラと…」
「純潔かどうかの話をしているのですから、そういった言葉が出るのは当然でしょう」
「そんな訳あるか!! は、恥を知れっ! 恥をっ!!」
「はいはーい、そこまでにしようねー」
「おまえもだ、悪ふざけが過ぎるぞ」
 ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)コウが仲裁に入った。確かにどちらもが『過剰』であった。
「とりあえず『純潔かどうか』は自己申告って事でー」
「あぁ。検査なんてオレがさせねぇから安心しろ」
 互いにパートナーを引きながらにフェードアウト。それでも話題の種は残したようだ。
「ユニコーンかぁ」
 アリエル・シュネーデル(ありえる・しゅねーでる)は瞳を輝かせ、「会ってみたいなぁ」と雫していた。物語好きの彼女にとって今回の事件はイルミンスールの『ユニコーン』に遭遇できる絶好の機会。『ユニコーン』や『バイコーン』の名が話題に出る度にソワソワしていたが、パートナーの『福音書』 ガブリエル(ふくいんしょ・がぶりえる)は対照的に顔をシカメていた。
「ユニコーン、ユニコーンと騒いでいるけどぉ」
 相変わらずのシカメっ面だった。「そもそも、そのユニコーンは信用できるのですか?」
「ガブ… どうしてそんな事を言うのです?」
 『ガブ』…………? その呼び方には違和感しか覚えなかったが、とりあえず、ブツケた。
「ユニコーンは、主犯と思われるバイコーンの対となる存在なのでしょう?それに事件のことを知っていながらパッフェルさんに頼みに来た、それなのに。この場に居ない」
「???」
 アリエルは首を傾げ、名を出されたパッフェルも顔を向けた。そんな中で次に口を開いたのは源 鉄心(みなもと・てっしん)だった。
「確かに、それは俺も聞いておきたい」
 鉄心は真っ直ぐにパッフェルに向いた。「ユニコーンはなぜ、姿を消した?」
 2人が言うように、この場に『ユニコーン』の姿はない。パッフェルに協力を依頼した後に去ったのだと彼女は言うが、その理由について問うと、その答えは「……わからない」だった。
「……純潔なる乙女以外とは……出来るだけ接触したくない……のかも」
「あ、いや、そのルールは知ってるんだがな。……って、ルール?」
 鉄心が自問に立ち止まった隙に水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)が挙手をした。
「私たちも、ユニコーンには聞きたいことがあるわ」
「ちょ、ちょっと待って!」
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は慌てて手を挙げて広く言った。「ちょっと整理しよう! バラバラに動いたら危険だし、効率も悪いだろうし」
 現時点で情報を持っているのはパッフェルだけ。僅かな情報を元に事件を解決に導かなくてはならない。まぁ、いつもの事である。
 まず、詩穂は『ユニコーンに会いに行く』を希望する者を募った。事件の依頼人であり当事者である『ユニコーン』から話を聞くことは、事件解決の為にもやはり必要なことに思えた。
 鉄心緋雨がそれぞれにパートナーと共に、そして2人のパートナーを連れた七那 夏菜(ななな・なな)を合わせた7人が『ユニコーン』探しに向かうこととなった。
「パッフェルさんが南側を捜索した、という事は……」
 茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)は地図を広げて言った。「東、西、北側の3チームに分かれましょう。『囮役』の人数に応じて『護衛』の人数をバランス良く割きたいですね」
 3チームの目的は『バイコーン』や『バイコーンに協力する者』を捜し出すこと。そして同時に、すでに捕らえられている『純潔なる乙女』を捜し出すことも求められる。
「何かあったらすぐに携帯で連絡を取り合いましょう」
 班分けが済むと、携帯番号の交換だけでなく、チームとして武器や服装の確認が行われた。その様子は難しい顔を突きあわせて行う、というよりは学園祭の準備期間のようでもあった。
「ねぇねぇ、胸元で良いかな……」
 ペンダントを胸に、鏡から顔を上げた東雲 いちる(しののめ・いちる)は思わず息を飲んだ。同じく胸元にリボンをあしらったエルセリア・シュマリエ(えるせりあ・しゅまりえ)が銀髪のウェーブを調整していた。
「エル君……」
「ん? なんだ?」
「綺麗……」
「ちょっ、馬鹿! 綺麗とか言うな!」
「ぅぅん…………よし! 私も女の子として、もっと頑張ります! うん、頑張ります!」
「おい! 勝手に対抗意識燃やすな! こっちは好きでやってんじゃねぇんだ!」
「ふふ、良いんじゃない? せっかくやる気になってるんだから」
 執事服を着たノグリエ・オルストロ(のぐりえ・おるすとろ)が微笑ましい笑みを見せた。「それにエル、とっても綺麗ですよ。お世辞じゃないから自信を持って♪」
「そんな心配してねぇよ! つーか、そういうこと言ってんじゃねぇ!」
 ノグリエは僅かに傾いたいちるのリボンに気付いて、そっと直した。
「大丈夫、いちるも十分綺麗だよ」
「ほんと? ありがとう。ちゃんと乙女に見える?」
「うん♪ ばっちり」
 各チームの『囮役』を見ても、いちるのように『純潔なる乙女になりきる為のオシャレ』を楽しんでいる者も多く見られた。『バイコーン』と遭遇すれば、間違いなく危険な目に遭うことだろう、それを理解した上で笑顔でいられるのはやはり信頼できるパートナーや仲間がいるという安心感からなのだろう。
 さて、『囮役』の面々は最後まで笑顔でいられるのだろうか。一行は、3方向に分かれての捜索を開始した。