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リアクション
一方、洞窟内の別の通路では、モンクの師王 アスカ(しおう・あすか)がスヤスヤと眠るパラミタオオモグラの横にどっしりと腰を下ろし、スケッチブックに向かって軽快にペンを走らせていた。
「う〜ん、創作意欲が湧いてくるわぁ!」
アスカの横では光術でモグラを照らす吸血鬼でローグのルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)が周囲を警戒している。
「でも見事よね〜さすが地下の王様♪ いいわ〜そのポーズ!」
「アスカ……まるでモグラ博士だな……」
「だってこのために、ちゃんと地上でモグラの知識を仕込んできたんですもの。やっぱり秋は芸術よね〜。ほら、ちゃんと手元を照らしてよ、助手でしょ?」
「だれが助手だっ!? っていつの間にかモグラと仲良くなってるし……」
頭を抱えるルーツの上に、パラパラと洞窟の壁面の土砂が落ちる。
「しかし、モグラの奇行は、どうやら天敵の蛇の所為みたいだな。見た所、それが原因で洞窟の強度が弱い。モグラの習性である修復行動が出来ていない証拠だ」
上を見上げたルーツがそう呟く。
「これは本当に急いだ方が良さそうだな。アスカそろそろ行こう!」
「え? 蛇? 興味ないから遠当てで一撃よ。私の邪魔をする子は……お仕置きね♪」
ルーツの助言もデッサンに夢中なアスカの耳には届かない。
「よう! おまえらも救助部隊か?」
ルーツが声に振り返ると、ソルジャーの天城 一輝(あまぎ・いっき)と英霊でナイトのユリウス プッロ(ゆりうす・ぷっろ)が手に持った透明なポリカーボネートシールド越しにライトを照らして立っている。
「一輝? それにユリウスも?」
「我らは登山用のザイルを垂らしてここまで降りてきた。脱出する時はアスカとルーツも使えばよかろう」
ルーツが見ると、二人の来た道にはザイルの紐が延々と伸びている。
「花音や迷子になった生徒達がいても、「なんだこれ?」と思いつつザイルを辿ってくれるかもしれないからな」
「なるほど、用意がいいな」
ポリポリと頭を掻く一輝が言う。
「それが全部そういうわけでもない。これを見てくれ」
「銃型HC?」
「ああ、俺はこれのアラーム設定を利用し、花音達が装備している筈の銃型HCを介して情報のやり取りをする算段だったんだが……応答がないんだ」
「つまりは、応答が出来ない状態。石化か麻痺、或いは……胃袋の中という事であろうな」
デッサンから顔を上げずアスカが言う。
「ちょっと? 不吉なこと言わないでよ!」
「そうだ!」
ユリウスに一輝も反論する。
「そんな事になってみろ、校長に怒られるんだぜ?」
「……ロイヤルガードの存在で、すっかり有名無実となった元クィーン・ヴァンガードの一輝が何を言う」
ユリウスが一笑に付すのを見て、
「だよなぁ……」
と、がっくりと肩を落とす一輝。そもそも一輝は、心なしか「ヤベッ忘れてた」的な涼司の視線に見送られつつ洞窟へと侵入したのであった。ちなみに、現在の校長もクィーン・ヴァンガードであったハズである。
「我らは日が暮れる前に決着を着ける為にも花音達の捜索を優先する。アスカらは……デッサンを続けるのだな?」
ペンを動かし続けるアスカを見て、悲しげな溜息をついたルーツが静かに頷く。
「じゃあな! まぁヤバくなったら、ザイルを辿って逃げてくるんだぜ?」
二人に手を振り、再び歩きはじめた一輝の前に、一瞬光る光。
「誰だ?」
「わぁぁ! 人だ! 救助に来てくれたんですね!」
「落ち着け、満夜。箒は今振り回しても何にもならないであろう。しかもレレレの人のように掃くな。砂が舞い上がってしまう」
一輝達の前に現れたのは、両手に山盛りのキノコやサツマイモを抱えたウィザードの朱宮 満夜(あけみや・まよ)と吸血鬼でウィザードのミハエル・ローゼンブルグ(みはえる・ろーぜんぶるぐ)である。
「……おまえら、確か花音達と一緒に落ちたハズじゃあ……」
一輝の前に来てもその場で駆け足を続ける満夜がうんうんと何度も頷く。
「そうです。花音さんの手伝いで収穫作業──芋掘りを手伝っていて……。というか事前準備がスコップと落ち葉集めようの手製の箒って、どう?」
「落ち着け、満夜。今の状況では他に語らねばならない事があるのだろう?」
「そうですね。とりあえず花音さんは動けないんです。それで私が運搬するのは無理なので他人に任せようと思って、脱出してきたんです」
「動けない?」
「モグラに噛まれて石になってます。頭以外が……」
「石化して動けない者は、地上からロープで助け上げるしかないだろうな」
一輝が満夜とミハエルから事情を聞いていると、アスカがデッサンしていたモグラが急に起き上がる。
「あ、ちょっと〜! 動かないでよ〜!」
「きゅう! きゅう!」
モグラを宥めようとするアスカがふと何かに気がつく。
「この子、何かに怯えてる?」
「ご名答です!」
アスカが満夜に振り返る。
「実は、このキノコとかは脱出する際に持ってきたんですけど……その、途中でヘビに会っちゃって……」
「ヘビ?」
一同が洞窟の奥に目を凝らす。
「シャアアアアァッ!!」
「「パラミタオオヘビだ!!」」
「ルーツ! ヒプノシスでヘビを眠らせて!! モグラを守らなきゃ!!」
「間に合わない!!」
ルーツが珍しく悲痛な声を上げ、それを見ていたユリウスが一輝に叫ぶ。
「一輝!!」
「任せろ!!」
サッとハンドガンを構える一輝。
「元クィーン・ヴァンガードを舐めるなよ!!」
洞窟に一輝の銃声が響く。
同じ頃、セイバーの桜葉 忍(さくらば・しのぶ)と強化人間でビーストマスターの柊 レン(ひいらぎ・れん)は洞窟内の少し開けた場所で、数匹のパラミタオオモグラと共に鳴り響く銃声を聞いていた。
「銃声? 誰かパラミタオオモグラを攻撃しているのか?」
そう呟く忍の心に、モグラ達に近づきテレパシーで会話を行っていたレンが会話が終わらせて精神感応で忍に話しかけてくる。
「(モグモグ達はニョロニョロを退治してくれたら元いた場所に帰ることができると言ってます)」
「(そうか……レンちゃん、モグラ達に俺達がヘビを退治する代わりに洞窟に落ちた人達を全員外に出してもらうように言ってくれないか?)」
「(わかりました)」
再びテレパシーでレンがモグラに話しかける。元来ビーストマスターであるレンは獣の扱い方に長けており、交渉は容易なことだなと、忍は考えていた。
「(わかった必ず地上へ戻すと言ってます)」
「よし、じゃあ早速ヘビ退治に向かうぜ。しかし、この洞窟の中では場所的にこちらが不利だし大技を使うと崩れる可能性がある……さてどうしたものか?」
レンの指示でモグラ達がのそのそと洞窟の壁に生徒達の脱出用の道を掘り始めるのを見ながら、忍はそう考えていた。
慎重な忍の考えとは真逆な行動を見せていたのが、グラップラーのエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)であった。
「シャアアァァーッ!」
「逃がすかぁ!! うおおりゃあああーっ!!」
狭い洞窟内をパラミタオオヘビの背に乗るように捕まって進むエヴァルト。
早々に魔鎧化して、エヴァルトの戦力増強のための鎧に形状を変えたナイトのベルトラム・アイゼン(べるとらむ・あいぜん)が叫ぶ。
「でも、この姿は結構目立つよな! ドリルとかブレードとか!」
「両肘とつま先のブレード部分で切り裂くなり、膝のドリル風突起で貫くなり、殴った直後に指を伸ばし、尖った指先で寸剄の貫手を使うなり……て色々考えてたけど、こいつの皮なんでこんなに固いんだよ!」
「そりゃヘビ革の製品は高級品だからだぜ!」
「ベルトラムさん! それは違うと思います! わわわぁぁーっ!!」
エヴァルトの肩に捕まり、必死に振り落とされぬように耐えているアリスでウィザードのミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)は、かれこれ数分前、洞窟内に降り立っていたエヴァルトが二人に語っていた事をすっかり忘れているな、と思い出していた。
「毒を持つほどの生物が、サツマイモ畑を狙うなどというセコイ真似を好んでするとは考えにくい。天敵にでも会ったのだろうか?」
「天敵?」
「ヘビとか」
光術で周囲を照らしていたミュリエルが首をブンブンと振る。
「お兄ちゃん、私、ヘビは苦手です!」
すっかり青ざめたミュリエルを見てベルトラムが口を挟む。
「なるほどー、世の中にゃ物騒な生き物もいるもんだ! しゃーないから、一緒に行こうかね!」
「ああ、狙うはモグラにあらず! 見つけたら先制攻撃で一気に畳み掛ける!」
「お兄ちゃん、攻撃するんですか? 大丈夫でしょうか? 落盤事故とか……」
「うん、穴の中もいつ崩れるか分からないから、そんなに大暴れは出来ない。それほど通路が広いわけではないだろうから長い武器を使えるわけではないだろう」
冷静に状況を分析するエヴァルトを見て、ホッと胸を撫で下ろしたミュリエルの小さな願いは、いざパラミタオオヘビと出会ってしまった際に瓦解する。エヴァルトの格闘家としての本能を忘れてしまっていた事に、彼女は大きな後悔をするのであった。
「(やっぱりお兄ちゃんの攻撃の力が半減していますね。地面の中は酸素が少ないって聞いたことがあります)」
暴れるパラミタオオヘビに捕まっていたエヴァルトが前を見ると、少し開けた場所が見える。
「しめた! あそこなら思いっきり戦えるぜ!!」
「やっぱり戦うんですかーっ!?」
悲鳴を上げるミュリエル。
「それほど大量には食べないがサツマイモは多めに持ち帰って、天ぷらの材料にでもしよう。ミュリエル! 俺達は金欠なのだ。タダなら、この機を逃すわけにはいかん!!」
「私、解決する頃には疲れて寝てしまっていると思います……」
しかし、数秒後、その場所にいた忍とレンとモグラ達を巻き込んでの大バトルになることは、ミュリエルにも知る由がなかった。
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