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第三章:働け! 別働隊!!


 鉄心の言った救助隊は、到着するや否や直ぐ様救助作業を開始していた。

『シールドフォーム』と名付けられた救助作戦を行うのは、ソルジャーのエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)と吸血鬼でサイオニックのメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある) 、サイオニックのルカルカ・ルー(るかるか・るー)と剣の花嫁でサイオニックのダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)とドラゴニュートでテクノクラートのカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)と英霊でメイガスの夏侯 淵(かこう・えん)らであった。


 花音達が地下の洞窟内に落ちた矢先、地下に潜る第一部隊を編成中の涼司に、どこかで拾ったらしい『安全第一』とかかれたブカブカのヘルメットを被ったルカルカがこう声をかけたのが発端であった。

「涼司。ちょっち考えがあるんだけど聞いてくれる?」

「いい考えか?」

「まぁね」

 ルカルカが涼司に語った作戦の概要は、まず、地上班と地下班に分かれて準備作業を開始し、要救助者を見つけたらパートナー間通話とHCの反応で位置特定後、脱出用の縦坑を掘削する、という内容であった。
「わかった……任せる」

 しばし後、涼司に手を振って戻ってきたルカルカが、周囲を見ながら呟く。

「モグラ道は土が盛上る位だから、掘削深度は浅いはず……その規模と形状からダリルが計算で必要掘削深度を出す。うん、我ながら完璧じゃない!」

 カンナパチンコ施設工事現場かレンタル店で借りてきたトラックに乗る一番小型の工作機械(ユンボー)を操縦し、脱出孔の作成を始めたダリルがルカルカに声をかける。

「全く……芋堀で国の危機とはな」

 ルカルカが呆れ顔のダリルに振り返る。

「実は今回のは簡単そうに見えて実はとてつもない危機なのだぞ?」

「危機?」

 作業の効率化の為、まず大まかにユンボーで地表を堀り進むダリルがルカルカに向き直る。

「花音に何かあったら山葉はどうなる?」

「……あ」

「青学、ひいては西国の危機。可及的速やかに救助せねばならないのだ」

「そっか……急がないとね! ダリル、カルキノス! 地上の方はエース達とよろしく頼むわ! ルカルカたちもそろそろ地下に行くわよ! 淵、準備はいい?」

 ルカルカを穴の付近で待っていた淵が軽く片手を挙げてそれに応える。

「ルカが前、俺は後ろ警戒、蝙蝠を先行させ前進する、だろう?」

「よろしい! モグラに出会ったときは?」

「神の目と指輪光で追い返し、もしヘビが出れば氷嵐やルカの近接で倒す、で?」

「じゃ、最後ね。救助者達を見つけたときは?」

「天井を氷嵐で硬め、ルカが錐状カタクリで上へ掘削。俺が内壁を氷膜で補強している間に、ルカが空飛ぶ魔法かけ梯子を昇り易くし、ダリルがESPで補助、カルキノスが梯子を引き、速やかに救助する……」

「大正解! ほら、クマラ達はもう潜っちゃったわ、 行くわよ!!」



 ふとそんな事を思い出しながらダリルは時折、氷術で地盤を硬め、氷ごとさざれ石で氷化し崩落を防ぎつつ掘削作業を続ける。
もちろん、効果範囲を錐状にしたカタクリとESPで掘削、不要な土砂を飛ばす事も忘れない。
こういった一瞬の判断が命取りになる場面において、彼の何事にも慌てない冷静沈着さはルカルカ達の助けともなっていた。
ダリルが払いのけた土砂は、武者人形とオルガ(アリス姿の少女ゴーレム)が黙々と運搬している。

 ダリルが作業を続ける傍では、カルキノスが竜アーツパワーを活用し強化した両手のドリルを疾風突きで大地に叩き込みまくって、同じように掘削作業を続けている。

「機晶石首飾で遠くまで届くぜ!」

「カルキノス、迅速な作業も重要だが、慎重さも忘れないように」

「わかってるぜ、ダリル!」

 カルキノスも氷術で地盤を硬め崩落を防ぎつつ、シールド工法で脱出孔を作成する。

「掘ったら縄梯子を下ろすんだな?」

「そうだ。梯子の先は太ワイヤーに繋ぎ、ユンボーのショベル部を掲げた下に滑車をつけ通す
先端を軽トラの尻に結んで救助の時に引くのだ」

「ふん、ユンボー借りれなくても飛竜二匹が軽トラと滑車の代わりになるぜ!」

「実は……乗りたかったのか?」

 ダリルの言葉を無視するかのように、カルキノスは両手を地面に叩き続けるのであった。


 
 ダリル達と同じく地上で掘削作業を続けるエースは、別の観点から地下の救助者達を助けられないだろうかと模索し、それを実行に移していた。

「ナガエノスギタケ。別名、モグラノセッチンタケ。モグラの巣の側にあるモグラのトイレに生えるといわれる茸だけれど、長く伸びた菌糸が特徴で、食用ともなる地上部分の地下にモグラの巣(モグラは巣の近くにトイレをつくる)があるといわれる茸だったよね?」

 エースの傍でツルハシを振るうメシエが、サイコキネシスで掘削中に掘った土の移動を行いながらエースに頷く。

「そのようですね」

「ということはだ。地中の穴が迷路状としても、地上のナガエのスギタケの地下にモグラの巣があるっていう事だろう!」

「巣が一つだけならそうかもしれませんが、どうなのでしょうね? パラミタオオモグラはまだ研究が左程進んでいない生物だと言います」

「むぅ……」

 メシエの言葉に、エースは再び崩れやすい土を氷術で固めつつ、拝借してきたスコップで掘削を進め始める。

「こちらも出来ればユンボーなど借りれると良いのだが……それとダリルのカタクリズムかな」

「私も肉体労働はあまり好きではないですが、有事だから仕方なくやっています。ユンボーの操作は軍事活動で色々と妙な車両を扱いなれているダリル君の出番ですよ?」

「どっちにしろ、地下班の連絡待ちってことか……」

「ですね……それに今回の作戦はダリル君達のスキルが要なので、彼らのSP切れには特に注意しなければいけません」

「その場合には驚きの歌で回復させようぜ」

 エースがそうメシエに言った時、彼の胸ポケットに入っている携帯電話が鳴る。

「クマラ達か!?」

 大慌てでスコップを置き、携帯電話に出るエース。

「もしもし?」

「あ、エース? 今ね、オレとイアラが救助者見つけたんだ」

「花音さん達か?」

 エースの声に、ダリルとカルキノスも作業を止めて注目している。

「うーん……その他の人達かな?」

 地下に潜ったモンクで魔女のクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)とローグで悪魔のイアラ・ファルズフ(いあら・ふぁるずふ)の前には、セルファと真人、乾とアニアが泥がつきヘトヘトになった顔でしゃがみ、彼らの前には力尽きたパラミタオオヘビが横たわっている。

 クマラが携帯電話をかけながら周囲を見渡す。

「ルカルカ達も一緒じゃないのか?」

「うん、分かれ道があった時さ、時間もないし二手に別れたんだけど……まずかったかな?」

 倒れたパラミタオオヘビをつんつんしながら、イアラがブツブツと呟いている。

「いくら地下世界の住人だからって、いきなり地下探索やらせるかよ……ったく!」

 そんなイアラをスルーしつつクマラがエースに続ける。

「とりあえず、この人達を助けた方が良くないかな? みんなすっごく疲れてるし、救助活動は無理だと思うんだ」

「……わかった。じゃあクマラとイアラはそこで土を氷術で固める作業を地下からも行ってくれ。こっちも地上から掘削作業を開始するから」

「了ー解!!」

 プツンと切れた携帯をじっと見つめた後、溜息を漏らすエースにカルキノスが近づいてくる。

「見つかったのか?」

「ええ、別の救助隊だけど」

「……ミイラ取りがミイラになるって事、あるんだなぁ」

「取り急ぎ彼らを助けよう! またルカルカ達からの連絡を信じて、ね?」

 額の汗を拭ったエースはスコップを拾い上げ、縦穴の掘削作業を開始するためメシエと移動を開始する。

 ふと、エースが空を見ると頭上にあった太陽が若干下がり始めていた。

「急いでくれよ……みんな」