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はじめてのひと

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●着信、二件

 受信機が軽く振動した。
『着信、二件』
 表示がチカチカと明滅する。
 画面にはヒビが入り液晶は掠れ気味だが、送信者の名前ははっきりと読めた。

 送信者:スカサハ・オイフェウス
 送信者:七枷 陣


「……」
 黙ったままそれを読むのは一人の少女である。
 ウルフシャギーにした髪はショッキングピンク、汚れてはいるがところどころ、青いアクセントを入れているのが暗がりでもよく見えた。
「R U……」
 言いかけてやめる。二つのメールをじっくりと読む。
 次の瞬間、
「こんなもの!」
 クランジΞ(クシー)はメール受信機を振り上げ、足元に叩きつけようとした。受信機を握る右手は半壊している。指は人差し指と親指の二本しか無く、ところどころ配線が飛び出していた。
 しかし受信機が手を離れようとした瞬間、彼女の手はぴたりと静止していた。
「……ナニ熱くなってるのサ。後期型風に言えば『本機にそのような感情は存在しない』だネ」
 金属片が擦れあうような笑い声を上げて、クシーは受信機……情報源を、スカートのポケットに戻した。
「本機にハ、『羨む』などという無意味な感情は搭載されてイナイ……アハハ」
 歩き出す。Υ(ユプシロン)は逃したがΦ(ファイ)は処理した。任務は失敗ではない。
 あの場所まで戻れば、きっと彼らが体を修理してくれるだろう――クシーはそう願った。
 それは本来、クランジが持たないはずの『希望』という感情なのだが、彼女はそれを自覚していなかった。