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はじめてのひと

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●五年前の世界のメイベル・ポーターより

 再び、ショッピングモール『ポートシャングリラ』に視点を移そう。
 その中心街で、メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)たち四人は、揃って色違いの『cinema』を購入した。
 もちろん家族割を適用、買ったその足で屋外設置のオープンカフェに腰を下ろし、秋の黄金色に変わりゆく街並みを楽しみながら、携帯電話のセッティングを行っている。
「使い方、覚えましたかぁ?」
 髪と同じプラチナホワイトの『cinema』を手に、メイベルが呼びかける。
「うん……まあ、なんとか? あれ、メール画面ってどう出すんだっけ?」
 多機能なだけに慣れるのが大変だ。サンレッドの『cinema』を操作するセシリア・ライト(せしりあ・らいと)が、戸惑いながらフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)にヘルプを仰いでいる。
「あらあら……前の画面に戻っていますわね。落ち着いてそっちの……ほら、メール型のアイコンをタッチするのですわよ」
 フィリッパはもう熟知したらしく、ペールブルーの『cinema』をすらすらと操作しながら教えていた。
「住所録の登録も終わりましたよ〜」
 シャーロット・スターリング(しゃーろっと・すたーりんぐ)もコツをつかんだらしい。ホログラムディスプレイから立体画像を出して、アニメーションさせて見せている。
「おっと、シャーロットちゃんも早いなあ。ひょっとして機械が苦手なのは僕だけ?」
 と言いながらセシリアは一生懸命携帯電話ばかり触っているので、手つかずのシナモンティーが冷めかけていた。
 四人が、一斉にメールする相手はもう決めてある。シルミット姉妹に出すつもりだ。それも、五年後の彼女たちに。
 イースティアとウェスタルのシルミット姉妹――これまでの冒険で仲良くなったイルミンスール魔法学校の姉妹である。まだ二人ともティーンエイジャーですらない幼さとはいえ、すでに二つの大きな冒険を四人と共にしていた。夏祭りで共に遊んだ記憶もまだ新しい。このところはプライベートでも何度か交流を持っている。
 彼女たちの五年後を想い、まずはメイベルがメールを発信した。

「おはようございます。もしかしたら、こんにちはかこんばんはの方が良い時刻なのでしょうか?
 あなたたちと知り合って五年という月日が経過した日に向けて、私たちはメッセージを送らせていただいています。

 たまたまの事故で迷宮の奥に隠れていたあなたたちを発見した私たちですが、今のあなたたちはどうでしょうね?
 かつての私たちがあなたたちを助けたように、誰かを今助けているのかしら?
 それとも別の道を見つけて進んでいるのでしょうか?
 そして私たちとはどんな関係になっているのでしょうか?

 そのことを想像しつつ、今メッセージを五年後の世界に送るのですが、もし良かったらこの感想を、五年後の私たちに教えていただけませんか?
 これを読んだあなたたちからの感想をどんな風に聞いているのかも大変楽しみです。
 きっと素敵なものでしょうね。

 五年前の世界のメイベル・ポーターより、五年後の世界の二人へ」


「それでは次は……私が」
 つづいて、シャーロットが温めておいた文面を送る。
 メイベルのメールの直後に届くよう、タイムカプセル機能を設定し、送信。

「シャーロット・スターリングです。

 私自身、封印を解かれてから暮らしている五年後の世界に向けてということなので、私自身も緊張しています。
 五年という歳月は人を成長させるのには大きい時間だと言われていますが、私もあなたたちもどうなのでしょうね?

 スタートラインが同じあなたたちとともに私も成長しているのでしょうか?
 メイベルさんたちみたく素敵になっているのでしょうか?
 ……と、このメッセージが届いたときの様子が私も今から楽しみです。

 親愛なるお二人に、2020年より」


「よく顔を合わせている相手だけに、なんだか改まってメールするのは照れくさいね……」
 セシリアは口元に笑みを浮かべている。姉妹にはいつも、「お姉ちゃんお姉ちゃん」と、困るくらい懐かれている彼女なのだ。生まれつきセシリアには、保育士の素質があるのかもしれない。
「それじゃ、つたない文章だけど送るとしますかー」

「やっほー、セシリアだよ。

 メイベルがタイムカプセルでメッセージを送ろうというものだから、みんなで色々と考え抜いた末に君たちに贈ることにしたんだ。
 贈るなんて言葉を使っているけれど、少し年上だからそんな言葉遣いをしているだけでたいして偉くもなんともないんだよね。
 もしかしたら、五年後には立場が逆転しているかもしれないしねー。

 五年なんて歳月が過ぎた後の姿なんてまったく想像がつかないよ。
 自分たちがどうなっているかすら想像がつかないのに、君たちの姿を想像するなんてね。
 僕たちも君たちも今同様元気いっぱいだと良いね!

 2020年元気いっぱいのセシリアライトより」


「私たちのメールを読んでいただけるのは2025年になるのですわね。遠い未来のようい思えますわ……本当に……」
 英霊であるフィリッパは、事実上長い年月を生きていることになるのだが、だからといって時間の感覚は普通の人間と何ら変わらない。とりわけメイベルとパートナー関係になってからは、めまぐるしい日々に時間の貴さを感じることしばしばである。
 未来のことなど誰にもわからない。
 しかしメイベルと共にあるかぎり、輝かしい未来が待っているとフィリッパは信じている。
「それでは、送らせていただきましょう」
 メール送信を示すアイコンに、指先で軽く触れた。

「お久しぶりですね。
 どう書き出すべきか迷いましたので、こう書かせていただきます。

 五年後の世界に向けてメールを出すというもの、普段と違って面白いものですが、書く内容もどう書くべき悩んでしまいますね。
 五年という月日はメイベル様もセシリアさんもシャーロットさんも、そしてあなたたちも大きく変えるには十分すぎる時間ですね。
 既に英霊として何百年という月日を過ごしている私自身はその月日の影響を受けず、以前のままの私で皆さんの姿を見守り続けているでしょうね。
 もし五年前と比較されたいのでしたら、私に尋ねてみてください。

 変わらずにいるフィリッパ・アヴェーヌから愛を込めて」


 円形のテーブル、四人は互いの文面を見せ合い、笑いあった。
 五年後もこうしていたい。五年後も、こんな風に笑って、シルミット姉妹からの返事を一緒に読みたいものだ。
「ねぇ、お茶だけど、乾杯しない?」
 変かな、と笑いながらセシリアが切り出した。ティーカップを持ちあげる。
「それでは、携帯電話を新たにしたことに」
 フィリッパは頷き、
「私たちと、イースティアちゃん、ウェスタルちゃん……みんなの友情に」
 シャーロットも応じた。
「素晴らしい未来に」
 メイベルは笑顔で告げるのである。
 乾杯。
 ティーカップをごく軽く触れあう。