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はじめてのひと

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●貴女の手をとって、ずっと隣で歩き続けたいと想います

 タイムカプセルメールをしたためる。
 到着予定日は今年のクリスマス、12月24日の深更だ。
 送り主は影野 陽太(かげの・ようた)
 宛先は、御神楽環菜。

 メールを書いている陽太の背中を見つめながら、エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)は気をきかせておく。
(「いきなりメールが来たら環菜も驚いてしまうかもしれませんわね。ですのでわたくしは、予告編を……」)
 陽太が考えている到着時刻の10分前に届くべく、タイムカプセルメールを用意した。

「TO:御神楽環菜
 FROM:エリシア・ボック

 10分後に影野陽太からのメールが届く予定ですわ。恐らく恥ずかしい内容だと思います。
 もしも傍らに陽太がいるなら、存分にツッコミを入れてやってくださいまし。」


 ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)も参加したくなって、エリシアに小声で相談する。
「おねーちゃんが『予告へん』? を送るんなら、わたしは『ついしん』をおくろうかな〜?」
「追伸? ……ああ、追伸ですわね。変なこと書いたら駄目ですわよ。もしかしたらこれは、陽太の一世一代のメールになるかもしれないのですからね」
「は〜い。まっかせてー」
 というわけでノーンは、陽太の30分後着予定でタイムカプセルメールを発信したのだった。

「TO:御神楽環菜
 FROM:ノーン・クリスタリア

 環菜おねーちゃんへ
 おにーちゃんのこと、よろしくお願いします。」


 エリシアとノーンの二人が、そんな援護メールをしたためているとは知らず、陽太は切々とメールを綴っていた。部屋の壁には、環菜の形見となったイルミンスール魔法学校の制服が飾られている。
 環菜をこの世界に連れ戻す。そしてあの制服を返すことが、現在の陽太にとって最大の目標だ。
 彼はメールを書き上げた。そっと、送る。
 その日その夜、生きて環菜がこれを読むことを祈って。

「環菜へ

 メリークリスマス
 貴女が今このメールを読むことが出来る幸いを切望します。

 あの夏の終わりの夜に告げたとおり、俺は貴女のことを世界で一番、愛しています。
 貴女は、俺の最愛の女性で、あとファーストキスの相手でもあります。
 くちづけを交わした『はじめてのひと』(そして唯一の相手)が貴女だということを、本当に嬉しく想います。

 ずっと環菜のことだけを見つめて、貴女の為だけに強く有能になろうと走り続けました。
 結局貴女を守れず、支えられもしませんでした。
 貴女が孤独に、不可避の死と向きあい気丈に生きた時、何も出来なかった自分自身の不甲斐なさに絶望を感じます。

 だから、今度こそ貴女の隣で貴女を支えたいと願います。

 富も地位も名誉もいりません。
 ただ貴女の隣にずっと立って、貴女の笑顔を間近で見ることができる幸せだけを望みます。
 貴女の幸福が、俺の幸福です。
 でもワガママな俺は貴女ともっとふれあいたい、心を重ねあいたい、想いを紡ぎあいたいとも願ってしまいます。

 俺は環菜のことを世界で一番、愛しています。
 貴女の手をとって、ずっと隣で歩き続けたいと想います。

 いつか気が向いたら返事をください」