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最終決戦! グラン・バルジュ

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最終決戦! グラン・バルジュ

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第四章 枢要部への侵入

 けたたましい音と共に、機関銃の銃弾が、グラン・バルジュ艦橋の窓ガラスへと突き刺さる。
「おっし! どうだ!?」
 飛空艇に乗りながら、しばらくの間引き金を引き続けていた天城 一輝(あまぎ・いっき)が、その指から力を抜く。
 艦橋ならば窓を破壊すれば侵入できると踏んでいた一輝であったが、どうやらそう簡単にはいかないようだった。ヒビが少し入っているだけで、壊れてはいない。
 恐らくは強化ガラスか、もしくはゴースト兵器の力を付加された特別製のガラスだろう。
「なっ……侵入者だーーっ!!」
 カモフラージュで接近したはいいものの、攻撃に時間が掛かってしまった。物音で一輝に気付いたバルジュの隷使の兵士たちが、次々に窓へと押し寄せてくる。
「ええい! こうなったら何度でも! ぶち壊れるまでやってやるだけだ!」
 咆哮しながら、再び機関銃を打ちまくる。
 小さかったヒビが広がっていき、やがて窓ガラスが壊れ始めた。
「今だっ! 頼んだぞ!」
 艦橋の死角で待機していたローザ・セントレス(ろーざ・せんとれす)ユリウス プッロ(ゆりうす・ぷっろ)に指示を飛ばす。
「ユリウス! ディフェンスシフト、お願いしますわよ!」
「了解した!」
 持っていたタワーシールドを構え、ローザを守るようにディフェンスシフトを展開する。
「こ、こっちに来るぞ! 撃てっ! 撃て撃て!」
 指揮官らしき兵士が、飛来するローザとユリウスの撃墜を命じる。
 が、いくら激しい弾雨が来ようとも、二人は怯むことなく割れた窓ガラスへと突っ込んでいく。
「くそっ! こいつっ……ぎゃあっ!!」
 外に向けて撃っていた兵士の足から、突然鮮血が吹き出る。
「はんっ!! 俺を忘れちゃだめだろーが!」
 援護射撃を行いながら、ローザの進路を作っていく一輝。
「え、ええい……どっちから片付ければいいんだ!」
「指揮官殿! 飛空艇が! 飛空艇がやってくるのであります!」
「ひっ……うわああああああっ!!」
 悩んでいたほんの僅かな時間。その間に、ローザとユリウスが窓ガラスを突き抜け、艦橋内部へと侵入した。
「さて、痛い目に遭いたい方からどうぞ掛かってきてくださいませ」
「う、うおりゃああああっ!!」
 再び銃を構える兵士。
「やめろっ!! ここの機材はデリケートなんだ! もし弾が外れて大事なデータをぶっ壊してみろ! 私がグスト様とソレント様にゴーストの餌にされてしまう!」
 そこに、指揮官の焦燥を帯びた怒号が飛ぶ。
「ではどうすれば!?」
「なに、飛び道具でなければいいのだ。いいな! なんとしてもその侵入者たちを生きて返すな!」
「ぐっ……」
 ――やるしかない。
 そう思ったのだろう。その場にいた兵士たちは剣やら斧やら、接近戦での武器を構えてローザたちに襲い掛かってきた。
「いい度胸ですわね……」
「やってやろう……」
 対するローザとユリウスもまた、武器を構える。
 高周波ブレードを手にしたローザは、一瞬にして間合いを詰め、向かってきた兵士数人を横一文字に切り裂く。
 が、次の瞬間、攻撃後の隙を突こうと別の兵士が襲い掛かってきた。
 手にした剣がローザの背中に振り下ろされる――はずだった。
「おっと、そうはさせぬよ」
 いつの間にかローザの後ろにいたユリウスが、敵の一撃をディフェンスシフトで完全に防ぐ。
 それどころか、攻撃を弾き返して、敵の身体を壁にめり込ませた。
「ローザ、我としては早急に始末してもらえると楽なんだが」
「それもそうですわね。それじゃ、ちょっとそのままの姿勢で」
 言うや否や、背中に足をかけ、大きく飛び上がった。
「でえええい――やああああああっ!!」
 気合一閃、高周波ブレードを持ったまま円を描くように回転し、兵士を次々と斬っていく。
 まるで高速回転した独楽が、他の独楽を弾くような、そんな単純な光景に似ていた。
「くっ……。退却っ! 退却するのだ!」
 状況の不利を見て、指揮官が退却の号令を出した。
 その声を聞いて、部下である兵士たちも我先にと逃亡していく。
「あちゃー、逃げちまったぜ……。まぁいいや。やつらを追うよりも、ここの制圧が優先だ」
 周りを見渡す。
 銃撃の際に数台ほど、コンピュータが壊れてしまっているが、一輝が持っていた『日曜大工セット』と『はんだ付けセット』を使えば、苦もなく情報を引き出せそうだった。
 だが……。
「困ったな……、俺、パソコンとか使えないんだよな……」
「なぁに。そこらへんで寝ている奴らがごまんといるであろう?」
 ユリウスが、意地悪な笑みを浮かべながら、顎で示す。
 床に這いつくばっているのは、先ほどの戦闘で傷ついた兵士たち。
「ああ、なるほどな。それじゃ、手伝ってもらうとするか」
 一輝は、近くの兵士の襟首を掴んでコンピュータの前へと引っ張っていった。

◆◇◆

「どうやら、艦橋のほうが制圧されたらしいでー」
 トレジャーセンスで鍵と罠の両方を探していた土御門 雲雀(つちみかど・ひばり)の隣を歩くはぐれ魔導書『不滅の雷』(はぐれまどうしょ・ふめつのいかずち)が、そう伝えた。
 彼女が放った使い魔のネズミは、一輝たちの侵入を伝えていた。
「ほんとか? みんな、うまく行ってる感じがするぜ!」
「俺たちも、早く鍵を集めようか」
 優雅に長髪を靡かせながら、エルザルド・マーマン(えるざるど・まーまん)が行動を促す。
 侵入後、彼女たちはグラン・バルジュの動力源を破壊するために動いていた。
 動力源部屋自体はそんなに遠い場所にあるわけではない。ただ、入口の扉が厄介だった。鍵穴が三つあり、それを全部刺さないといけない仕組みになっていたのだ。
「確か……三つ集めないと先に進めねぇとか、そんな仕掛けがあるんだったけか。カグラ」
「そやねぇ……。でもまぁ、それは他の人たちと協力したらええやん」
 さも当然そうに、不滅の雷が口にする。
『カグラ』というのは不滅の雷の愛称である。
「そんなことはわかってるんだけどよ……大体こっちの道で合ってんのか……?」
「大丈夫。俺は雲雀と一緒ならどこだって一緒にいられるさ! 相対性理論をも超越して、永遠という時間を君と共に……」
 キラキラと、まるで普通のマンションのブレーカーぐらいなら数秒で落ちるのではないかと思うほどの発光力で、目を輝かせるエルザルド。
 そんな彼の明るさとは対照的に、雲雀の顔には影が差している。
「てめーのその能天気っぷりが、たまーに、ほんっとうにたまに、うらやましくなるぜ……」
「はっはっは。そんな憎まれ口を叩く雲雀も可愛いなぁ……」
 少しだけ涙目になりながら、エルザルドは尚も明るく返す。
「はぁ、親バカなんて言葉はあるけど、雲雀バカなんはあんただけやわ……」
「まぁ、冗談はここまでにして、鍵だね。鍵」
「絶対8割以上は本気やったで。あれ」
 話題を逸らそうとするエルザルドを見て、カグラが雲雀に耳打ちする。 
「だー! とにかくだ。先に進むぞ。さっきからあたしのトレジャーセンスが全く反応しねーんだ。場所を変えるぞ」
 踵を返した、その時だった。
 背後から、いきなり冷気が漂ってきた。
「なんやろ。急にひんやりしてきよったけど……」
「行ってみるぞ!」

◆◇◆
 
 雲雀たちが見たのは、局所的な、氷の大地――
 無機質なグラン・バルジュの廊下にはそぐわない、銀世界だった。
「くっ……くそっ……。動けっ!」
 凍り付いてピクリともしない銃の引き金に力を込めているのは、バルジュの隷使らしき敵兵。
「探偵の邪魔すると痛い目みますよ〜」
 不敵な笑みを浮かべて、空飛ぶ箒の上から、霧島 春美(きりしま・はるみ)が警告する。
「ちっ……こうなったら……」
 敵兵は銃を投げ捨てると、ズボンのポケットに忍ばせていたナイフを取り出し、襲い掛かってきた。
「はぁ……痛い目見るってちゃんと言ったのに……。悪いのは頭? それとも耳?」
 ぴょこん、と可愛らしくウサ耳とピンクのポニーテールを弾ませ、マジカルステッキを振る。
 超感覚を発動させているため、敵の挙措というものに驚くくらい勘が効く。
「それっ、ブリザードー」
 ゆえに、敵が向かってくるまでの間に、呪文を発動させることも可能だった。
 春美の周囲の空気が、一気に冷却される。そして、無数の氷槍となって、敵兵に向かっていく。
 が、相手を穴だらけにすることはなかった。
 身体の端のみに突き刺さってゆき、そのまま向こうの壁まで持って行った。
 壁に縫いとめられる敵兵。まるで蝶の標本のように身動きが取れない。
「やれやれですね……。まぁ話を聞く手間が省けたわけですけど……」
「楽勝だったね。春美」
 手を出すことなく一部始終を見守っていたディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)がユニコーン、ピンギキュラの上から声をかける。
「当然。春美がのりだしたからには絶対ハッピーエンドよ! さてと……」
 逃げ出そうとして身じろぎしている敵兵へと近づき、マジカルステッキを喉元に突き付ける春美。
「動力源の鍵はどこ? 言わないと、どうなるか想像できますよね?」
「くっ……。あっちの奥だ」
 観念したようにして、右手の道を顎で示す敵兵。
「ディオ、どう思う?」
 超感覚を発動させているパートナーに意見を求める。
「僅かだけど、反応らしきものはある。そいつ、嘘は吐いていないっぽいよ」
「よし。あっちね――ああ、その氷、もうしばらくしたら溶けるだろうから、そしたら逃げなさい。次この中で見かけたら殺しますので、そのつもりで」
「わ、わかった……」
「あの……自分たちも同行してよろしいでありますか?」
 話しかけるタイミングを計って、雲雀が話しかける。
「ああ、さっきから見ていた人たちですね。いいですよ。一緒に行きましょう。何があるかわからないですから、戦力は多いほうがいいです」
 雲雀たち、春美たちは頷き合うと、鍵のある部屋を目指した。
 数分ほど走ると部屋のドアが見えてくる。
「あった!」
 壁と全く同じ模様で、人の目を欺こうとするようなドアだった。
「これは確かに気がつかないですね……」
 ドアノブを回す春美。しかし、鍵が掛かっているらしく開かなかった。
「ディオ、ピッキングお願い」
「まかせて〜」
 鍵穴をちょこちょこと弄くると、カチャ、と音がした。
「開いたよ」
「さっすが! でもここからも油断しちゃだめよね」
 ドアの向こうへ進んでいく春美たち。
 中は生活感の全く無い部屋で、木箱が雑然と点在しているだけの、物置同然の景観を呈している。
 特にトラップも敵もないその部屋で、後は鍵を探すだけだったのだが――
 それが一番厄介だった。
「ぜ……全部鍵かよ」
「あらまぁ……。どれが正しい鍵なのかわからへんなぁ……」
 木箱の中に入っていたのは、鍵、鍵、鍵……そして、鍵。
 どれも似たり寄ったりの銀の鍵ばかりで、制御室の扉を開く鍵がどれなのか全く見当がつかない。
「春美たちの超感覚を使っても、時間掛かるかもしれないですね……」 
「雲雀、トレジャーセンスのほうを使って手伝ってあげたらどうかな?」
「それもそうだな――自分も手伝うでありますよ!」
「よーし! それじゃあがんばりましょう!」
 こうして、五人の鍵探しが始まった。

◆◇◆

「はっはー! これで……二桁の大台だっ!」
「ふん、俺の道を邪魔はさせんぞ!」
 敵兵の首を刎ねながら、血飛沫で服を濡らすシオン・ブランシュ(しおん・ぶらんしゅ)と、その契約者ジークフリート・ベルンハルト(じーくふりーと・べるんはると)もまた、制御室を目指して進んでいた。
 途中、バルジュの隷使たちと戦闘があったが、シオンが軽々と敵を狩っていってくれたため、苦することはなかった。
「う〜む。何だか趣旨が変わってきていると思うのだ」
 漆黒の長髪を掻いて、ノストラダムス・大預言書(のすとらだむす・だいよげんしょ)が首を傾げる。
「ノスの言うとおりだ。こんなところで遊んでいる場合ではない」
 黒い仮面と鎧に身体を包んだ、クリームヒルト・ブルグント(くりーむひると・ぶるぐんと)もまた、呆れたように注意する。
 仮面に隠れていて見えないが、少なくともいい顔はしていないだろう。
「あらあら……魔王とその御一行じゃないの」
 その時、偶然その場を通りかかった七刀 切(しちとう・きり)が、ジークフリートたちに声をかけてきた。
「うわっ……敵とはいえ流石にこれはキツいでしょ……なんつーグロ画像」
 シオンが倒した敵の残骸がすぐに視界に入り、一歩後ずさる切。
「自分みたいなちびっ子が、こんなことしちゃだめだぞー」
「つーんだ」
 切のちょっとした苦言に、シオンは顔を逸らして聞こうともしない。
「ちょ……無理やりなツンデレキャラを装ってまでしてワイの話をスルーするか!」
「安心してくれ。貴様にデレることは未来永劫ない」
「くっ……」
「切、まぁそうカッカするな。というか、そっちも鍵を探していたりするんだろ?」
「そうだねぇ……でもそう簡単には見つからなくてね。とりあえず持ってそうなやつ、もしくはありかを知ってそうなやつをさっきからボコってみたりしてるんだけど……」
 切の言葉を聞いて、ふむ、と顎に指をかけるジークフリート。
「そうか……。今、俺は余力を残して起動源の破壊に専念しようかと考えたところなんだ」
「えっ!? 魔王様?」
「本気なのか? ジーク」
 驚くシオンとノストラダムスに、ジークハルトは自分の考えを述べる。
「ああ。一気に片をつけるためにも、ここは切を頼ろうと思う」
「何かそういう話になっているが……それでいいのか? 切」
 ちょっとした憐憫を帯びた声で、クリームヒルトが切に確認を取る。
「いいよ〜。元々鍵は探してたしね」
「そうか……なら頼んだぞ」
 ジークフリートは期待を込めて、微笑を浮かべる。
「あいよ。まかせといて」
 それだけ言うと、切は走り出した。
(切ならば、きっとやってくれるはずだ!)
 切の背中を見送った表情は、どこか温かかった。