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救助隊出動! ~子供達を救え~

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第4章「追いかける者達」
 
 
「うーん、やっぱりもうかなり先に行っちゃったのかなぁ」
 篁透矢達やラルク・クローディス達から離れた森の中、アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)が一人で先へと進んでいた。知り合いである橘恭司から今回の件を聞いて自分も手伝おうとしたのだが、準備に手間取っているうちに既に透矢達は森の奥へと進んでしまっていたのだった。
「やっぱり剣を取りに戻ったのが失敗だったかなぁ。でも、やっぱり私はこれを使いたいし……」
 腰に差している剣を撫でる。本来アリアは弓や魔法に適正があるのだが、ある人物への憧れから剣を使う事をこだわりとしていた。
「うん、ヘコんでばかりもいられないよね。相手が増援を呼びに行ったって話も聞いたし、そっちとでもいいから戦って貢献しないと!」
 ぐっと気合を入れたその瞬間、前方から草木を掻き分けながら走る音がした。アリアは剣の柄に手をやり、やって来る者に備える。
「はぁはぁ……こ、ここまでくれば……って、何っ!?」
「! あなた達は……!」
 姿を現したのは、先ほど透矢達に蹴散らされたならず者達だった。彼らを見てアリアは身構え、そして彼らもまた、突然現れた人物に注意を払う。
「くそっ、こんな所にまで追っ手をよこしやがるとは……」
「追っ手? やっぱりあなた達、馬車を襲ったっていう盗賊達ね。 子供達から手を引きなさい! もしも危害を加えてたら容赦しないわ!」
 アリアの迫力にならず者達がたじろぐ。相手は女一人とはいえ、それだけで油断出来ないのは先ほどの戦いが証明していた。
 両者の間に緊張感が走る。その時、ならず者の一人がある事に気付いた。
(……ん? 『もしも危害を加えてたら』だと? ってこたぁこの女、俺達がまだガキどもを捜し回ってるって知らねぇのか?)
 男は自分の予想を確かめるため、一芝居うってみる事にした。
「ガキどもねぇ……。今んとこは何もしてねぇぜ。『今んとこ』はな」
「なっ! 今の所は、って……。止めなさい! 下手な事はしないで子供達を解放するのよ!」
 冷静であれば、あるいは冷徹であればこのような手には乗らなかったかもしれない。だが、彼女を形作る優しさと素直さが不幸にも嘘を真実と思い込ませてしまった。ならず者は彼女が信じきっているのを確信する。
「そいつは俺達の気分次第だな……。それより姉ちゃんよ、俺達に剣を向け続けていていいのかい?」
「くっ……」
 攻撃の意思を見せ続ける事の危険性を感じ取り、アリアが苦悩する。二人のやり取りを見て、他のならず者達も男の意図に気付いてはやし立てる。
「あー、今頃ガキどもは泣いてるだろうなぁ。いつ殺られるのかってビクビクしながらよぉ」
「へへっ、一人ひとりじっくり殺っていくのがいいな」
「や、止めて! 子供たちにひどい事はしないで!」
「だったらどうすりゃいいか……分かるよなぁ?」
 すっかり流れに飲まれたアリアに男が突きつける。しばしの逡巡の後、アリアは構えを解いて剣を手放した。
「……これでいいでしょ」
「抵抗するんじゃねぇぜ……。おい、ふんじばっちまえ」
「おう」
 両手を後ろで縛られ、更に身体全体を木へと括り付けられる。
「約束よ。子供達を解放してちょうだい」
 縛られながらもアリアが気丈に言う。だが、男達はくくっと笑うだけだった。
「ガキどもの為に結構な事だなぁ。だが残念、俺達は約束なんか守る気はねぇぜ。……いや、そもそも約束なんて無かったのさ。ガキどもがどこにいるか、俺達にも分かりゃしねぇんだからな」
「そんな……騙したのね!」
 ようやく真実に気付き、アリアが身をひねる。だが、どれだけ動こうともしっかりと括り付けられた身体は自由にならなかった。それを見て男達が更に大きく笑う。
「ヒャヒャヒャ! 簡単に信じるてめぇが悪いのさ! せっかく捕まえた上玉の女。ガキどもなんかよりよっぽど愉しめそうだぜ!」
 
 
 その同時刻、森の上空を「『シャーウッドの森』空賊団」の団長、ヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)と副団長、リネン・エルフト(りねん・えるふと)の二人が小型飛空艇で飛び回っていた。ヘイリーが携帯電話を耳から離し、舌打ちする。
「駄目、やっぱり淳二とは連絡が取れないわ。というより、この森じゃあ携帯電話自体使えなさそうね」
 彼女は1ヵ月半前に入団した長原淳二からの連絡を受け、活動拠点であるタシガン空峡からヘリファルテを駆って援護に駆けつけたのだった。
「仕方ないわね。助け出す子供達でもそれを捜してる人達でもいいから誰か見つけて――」
「……ヘイリー」
「どうしたの? リネン」
「あれ……」
 リネンが指差す先、そこには木に括り付けられてならず者達に弄ばれようとしている少女――アリアの姿があった。男の一人がアリアに手を伸ばし、服を引きちぎる。
「あれは……! 何て奴らなの。リネン、助けるわよ!」
「了解……行ってくるわ」
 リネンが刀を持ち、ヘリファルテに着陸態勢を取らせる。そしてならず者達の上を通り過ぎる瞬間に飛空艇から飛び降りた。
 
 
「へへへ、意外といいカラダしてるじゃねぇか」
 男が服の切れ端を捨てながら下卑た笑みを浮かべる。アリアの服は胸元から大きく引きちぎられ、白い肌や下着が姿を覗かせていた。身体を縛られている為隠す事も出来ず、アリアは叫び声を上げる。
「い、いやぁぁ!」
「いいねぇ、その表情。たまんねぇぜ。さて、じっくり可愛がって――やるぁっ!?」
 男がアリアの胸に手を伸ばそうとしたその瞬間、真上からリネンの一撃を喰らって卒倒した。他のならず者達は突然現れた少女に目を丸くする。その隙を逃さず、上空で待機していたヘイリーがロビンズボウで武器をはじき落としていく。
「なっ、上!? ――あれは『シャーウッドの森』のヘイリー・ウェイク!」
「あら、あたし達も有名になったものね。もっとも、その相手があなた達っていうのは喜ぶべきなのかしら」
「く、くそっ!」
 状況は不利と見て、残った男達がアリアや倒された男を見捨てて逃げ出そうとする。だが、男の一人が前方の草木を突き抜けて現れた拳を喰らい、倒れこむ。
「な、何――ぎゃっ!」
 もう一人の男には、自分の影から伸び出てきた爪が刺さっていた。影からは手、腕。そして最終的には女の子が姿を現していた。その女の子は草木の陰から出てきたもう一人の女性に声をかける。
「まったく、じゃから敵に気付かれぬように数を減らしていくと言ったであろう、ヒルダよ」
 ヒルダと呼ばれた女性は懐から煙草を取り出し、火をつける。途端に辺りに強烈な甘い匂いが漂い始めた。
「隠れて攻撃? 面倒くせぇっすネェ」
「おぬしという奴は……。本来であればこやつらからどのくらいの規模の戦力かを聞きだそうとしていたのじゃがな」
「んなモン、どんだけいようが全部ブッ飛ばしちまえばいいんすヨ」
 二人の会話を聞きながら、ヘイリーがヘリファルテを着陸させる。その間も視線はずっと彼女達に向けられていた。その視線を受け、女の子がひらひらと手を振る。
「んふ、そんなに警戒せんでもええぞ。おぬし達、『シャーウッドの森』のヘイリー・ウェイクとリネン・エルフトじゃろ?」
「本当にあたし達も有名になったわね……。それで? あなた達は何者かしら」
「まぁそう焦るでない。まずはこちらが先じゃろうて」
 そう言って女の子がアリアの所へ向かう。
「これまた扇情的な格好じゃのう。……んふ、良い身体つきをしておる」
「え、えぇっ!?」
 アリアが顔を赤くする。同性だから先ほどのような危険は無かったが、別種の――ある意味同種の?――危険を感じていた。
「本来ならじっくり愉しみたい所じゃが……依頼の最中じゃからの、ほれ」
 女の子がロープを切断する。リネンがブラックコートを貸し、アリアがそれを着て胸元を隠す。
「あ、ありがとうございます。えっと……」
「……リネン・エルフト。『シャーウッドの森』の副団長……」
「あたしはヘイリー・ウェイク。リネンのパートナーで団長よ。さて……」
 ヘイリーが視線を女の子に移す。
「改めて、あなた達について聞いてもいいかしら?」
「んふ、いいじゃろう」
 女の子が含み笑いを一つ。姿は少女だが、その笑みは年相応どころか、学生とも思えぬ不思議さを持っていた。
「わしはファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)、そしてこやつがヒルダじゃ」
ヒルデガルド・ゲメツェル(ひるでがるど・げめつぇる)っス」
「わしらは冒険屋ギルドに来た依頼の、ならず者退治をしにここまで来たのじゃがな。その途中でおぬしらに会ったというわけじゃ」
「冒険屋ギルド……聞いた事があるわ。確か街の人達だけじゃなくて、学生や同じ冒険者からも依頼を受ける人達だ、って」
「んふ、さすが『シャーウッドの森』。良く知っているのぅ」
「それはお互い様ね。ま、敵じゃないならいいわ。あたし達はこの先に用があるし、そろそろ行かせてもらうわね」
 そう言ってヘイリーが背を向ける。そしてならず者達から戦利品になりそうな物を奪い取ると、それを載せてヘリファルテに乗り込んだ。最後にアリアへと視線を向ける。
「あなたは早く森を出なさい。今この森にはそこら中にこいつらみたいなのがいるらしいから、いつまでも残ってると危険よ」
「あ、あの! 私も行きます!」
「何を言ってるの。さっきみたいな事になっても知らないわよ」
「もう油断はしません! それに私は、ジャスティシアとして子供達を助ける義務があります!」
「だからって――」
「……ヘイリー」
  食い下がるアリアを止めようとするヘイリー。彼女の肩をリネンが掴んだ。リネンの眼が「連れて行ってあげよう」と語っている。
「……本気?」
「この人の意思、強いわ……」
 リネンの言う通り、アリアは普段は控えめで大人しいが、いざと言う時には自分の意思を貫く強さを持っていた。そしてリネンはこれまでの境遇ゆえに流されて生きる事が多かった為、強い信念を持つ者には尊敬の念を抱いていた。
 結局ヘイリーは、リネンの意思を受け入れる事にする。
「分かったわ。このままじゃ一人で森の奥に行きかねないし、どうせあたし達も目的地が分かってる訳じゃないものね。ヘリファルテは一人乗りだから乗せてあげる訳には行かないけど、スピードを落として一緒に行ってあげる」
「あ、ありがとうございます! ヘイリーさん、リネンさん」
「よろしくね。えーと……そういえば名前を聞いてなかったわね」
「そうでしたっ。私はアリア。アリア・セレスティです」
「アリアね。それじゃ、改めてよろしく」
「……よろしく、セレスティ」
 こうして、リネンとヘイリーがアリアに同行する事になった。それを見ていたファタが口を挟む。
「それでは準備は良いかの? 早く行かぬと日が暮れてしまうわい」
「あれ、あなた達もついて来るつもりなの?」
「当然じゃ。わしは女の子の味方じゃからの。特に――」
 ヘイリーの質問に、ファタが笑みを浮かべて答える。その視線は隣に立つリネンへと移った。
「――15歳までの女の子が特に好みじゃ」
「……!」
 視線を受け、リネンがビクッと身体を震わせる。そして逃げるようにヘリファルテに乗り込むと一足先に高度を上げていった。
「んふ、ああいう仕草もまた、可愛いのぅ」
「……念の為聞くけど、冗談よね?」
「本気っすヨ。アネゴは」
 ヒルデガルドの言葉に、思わずこの先の心配をしてしまうヘイリーなのであった。