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救助隊出動! ~子供達を救え~

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第7章「獣との戦い」
 
 
 氷室カイが洞窟の外に出た時には、既に戦闘は始まっていた。
 食べ物の匂いに惹かれて多数の狼が洞窟を取り囲んでいた。護衛の為に周囲を警戒していたメンバーは、順次狼へと対峙する。
「さがって下さいですぅ!」
「お前ら、わしと戦るんか? ほんなら、覚悟は出来とるんやろなぁ」
 最初に仕掛けたのは神代 明日香(かみしろ・あすか)コウ オウロ(こう・おうろ)だった。明日香は適者生存で、オウロは鬼眼でそれぞれ自分が上位の者だと威圧する。これにより一部の狼は身をすくませたものの、中には怯まずに近づいてくる狼もいた。
「さすがに数が多いなぁ。少し痛い目みせんと分かりゃせんか」
「そうですねぇ。まずは、私から行きますです!」
 敵意を見せている狼めがけて、明日香がサンダーブラストを放った。近くにいた狼を中心に雷が降り注ぐ。何匹かは直撃をくらい、引っくり返ったまま足を痙攣させていた。それを見ていた明日香が装着している魔鎧、エイム・ブラッドベリー(えいむ・ぶらっどべりー)が喋りだす。
「ビリビリですの〜♪」
「まだ行きますっ」
 明日香は続けて散開した狼達めがけて雷を落としていく。
「えいっ! えいっ! 当たって下さい〜!」
 いくつかの雷は狼に命中する前に樹木に阻まれてしまい、消滅する。
「木が邪魔ですの。明日香様、いつものように火の海にする魔法を使うと良いと思いますの」
「も、森が燃えちゃうからやっちゃ駄目です! というか、いつもなんてやってないですよ、エイムちゃん〜」
 物騒な発言に慌てる明日香。その隙を狙って狼が飛び掛って来たが、エイムの風の鎧で防がれる。
「明日香様、油断大敵ですの」
「わ、分かってます! エイムちゃんもその調子でお願いします!」
「頑張りますの」
 明日香が再び狼と対峙する。それを受けてオウロも動き出す事にした。
「そっちは任せといてよさそうやな。ほんなら、わしもいっちょやりますか」
 オウロの手から炎が発せられ、自身の身を纏う。
「オ、オウロさん!? 森の中で火は危ないと思うのです! もし周りに火が点いたら……」
「安心しぃや。わしの『狐火』はそんなヘマは起こさへん」
 自らが『狐火』と呼ぶオウロの火術。その扱いに彼は絶対の自信を持っていた。オウロの眼が火を恐れる狼達を見据える。
「わしかてなぁ、ほんまは終夏みたいに早ぅ子供達と遊びたいんや。それを邪魔する言うんなら、容赦はせんで」
 オウロが更なる狐火を狼に放つ。それを喰らった狼はダメージを負うが、火が狼の体や森に燃え移る前に消えていった。続いて放つ狐火も同様に、狼だけに的確にダメージを与えていく。
「す、凄いです!」
「せやから言うたやろ。ま、ここはわしに任せて、おまえは洞窟の方に狼が行かんように気ぃ付けといたってや」
「了解ですぅ!」
 
 
 カイ、サー・ベディヴィア、エッツェル・アザトース、西表アリカの四人は前衛として、洞窟へと向かう狼を減らす為に戦場を駆け回っていた。
「はっ!」
 ベディヴィアのハルバードが狼へと襲い掛かる。その穂先が突き刺さる直前で軌道を変え、狼を器用にすくい上げた。
「せいっ!」
 そこにカイの一刀が振り下ろされる。攻撃を喰らった狼は地面に叩きつけられ、動かなくなった。
「ベディ、これでいいんだな?」
「えぇ、ここで狼を斬り捨ててしまうと、子供達に血を見せる事になります。そのような事は避けるべきでしょう」
 カイは刃を使っての戦いは控え、峰打ちで狼を攻撃していた。先ほど動かなくなった狼も、どうやら気絶しているだけらしい。
「ど、どうしよう。ボクの武器はライトブレードだから峰打ちなんて出来ないしなぁ」
 攻撃するべきかどうか悩むアリカ。迷っているうちに狼が飛び掛ってくる。
「きゃっ!」
 だが、狼の攻撃はアリカに届かなかった。その手前にエッツェルが立ちはだかる。狼の牙はエッツェルの腕に突き刺さっていた。
「エ、エッツェルさん!?」
 目の前の光景にアリカが驚く。しかし当の本人はケロリとしていた。痛みを知らぬその体躯にとって、鋭い牙など何の意味もなさないのである。
「おやおや、元気な子ですねぇ。でもおいたはいけませんよ」
 狼を腕につけたまま、森の陰へと入っていく。そして狼を腕から引き剥がすと、おもむろに叩き付けた。そして腰の刀を抜く。
「ふふ、気絶させるのはあくまで愛すべき子供達に血を見せない為。つまり、見えない場所でなら手加減する必要もない訳です」
 禍々しい暗黒の瘴気を身に纏ったまま、刀を振りかぶる。その雰囲気に完全に気圧された狼は一目散に逃げていった。
「そっか、そっちにいる狼を相手にしていけばいいんだね」
 そう言ってアリカがライトブレードを構え、草むらの向こうへと飛び込んで行く。
「ボクは手加減出来ないからね! 体に痕をつけられたくなかったらあっち行って!」
 アリカと入れ違いに、エッツェルがカイ達の下へと戻ってくる。狼に傷つけられた腕はリジェネレーションによる自己修復が始まっていた。
「さて、奥の狼達はアリカさんに任せて、私達はここを守るとしましょうか」
「そうですね。ですがその前に腕の傷を治された方がよろしいでしょう。私がヒールを――」
 ベディヴィアがエッツェルを回復しようとする。しかし、何故かエッツェルは怯えるように後ろに下がった。
「い、いえ。すみませんがお断りします」
「よろしいのですか?」
「えぇ。私はアンデッドですからヒールは不要。いえ、むしろ害悪なのです」
 結局本人の強固な意志により、リジェネレーションによる自然治癒に任せる事になった。
 
 
「変身! パラミティィィィ・セェェェェェェット!!」
 洞窟の前ではエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)がクリスタル状の物体を大きく掲げていた。そして掛け声ともにクリスタルが強い光を放つ。
 その光が収まった時、その中心にはパワードスーツを着たエヴァルトの姿があった。
「パラミティール・ネクサー! 子供達に害をなそうとする獣達よ。この俺が成敗してくれる!」
 エヴァルト改めネクサーは、二本の槍を器用に組み合わせると狼の群れに突進し、振り回した。それによって群れていた敵を分散させると、槍を分離させて二匹まとめて吹き飛ばして行く。
 その後ろ、洞窟入り口では無限大吾とロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)が盾を構えて最終防衛ラインを守っていた。大吾は銃で、ロートラウトは槍を使用してネクサーを回避して来た狼を追い払う。
「ここは通さない、絶対に子供達を護ってみせる!」
「数が多いよ! 大吾くん、一気に吹き飛ばしてくるから援護よろしく!」
「了解!」
 加速ブースターで移動速度を上げ、そこから突進技、ランスバレストで狼に思い切りぶつかる。突撃をまともに喰らった狼は大きく弾き飛ばされ、他の狼に激突した。前に出たロートラウトと入れ替わるように、前方で戦っていた明日香が戻り、入り口前の守備に加わる。
「戻りましたです! 私も入り口をお守りします!」
「お願いね! ボクはこのまま前に出るよ!」
 
 
 それぞれの活躍で狼たちを退けるものの、数が多い上に気絶から回復した狼の中には逃げずに再び向かってくるものもいた為、入り口周辺の後衛組の負担が増加していた。
「明日香様、このままだとジリ貧ですの」
 襲い掛かる狼を風の鎧で受け流しながらエイムが言う。確かにエイムの言う通り、大吾と明日香の最終防衛ラインまで迫ってくる狼の数も多くなっていた。
「ちっ、追い払ってもキリが無い。このままではマズいな……」
 ネクサーが思わずつぶやく。その時、どこからともなく声が聞こえた。
「どうした! 弱気などらしく無いぞ、ネクサー!」
「そ、その声は!」
 ネクサーが見上げると、そこには赤いマフラーをつけた仮面の男がいた。その男、風森 巽(かぜもり・たつみ)はポーズを決めると高らかに名乗りを上げる。
「蒼い空からやって来て、子供の笑顔を護る者! 仮面ツァンダーソークー1! 戦友(とも)の危機を救う為、ここに参上!! とうっ!」
 巽改めソークー1は木の枝から跳び立つと、狼めがけて爆炎波を放った。それに合わせるように蹴りも放つ。
「喰らえ! ツァンダァァァァァ爆炎キィィィィィィィック!!」
 まるで特撮のワンシーンのように、大きな爆発をバックに狼が吹き飛んで行く。綺麗な着地を決めたソークー1にネクサーが駆け寄る。
「ソークー1! お前も来てくれたのか!」
「当然だ戦友よ。誰かの涙を拭う為、誰かの笑顔を護る為、そこに我は現れる」
「ならば戦友よ、今こそ!」
「ああ、我らの力を合わせる時!」
「二人の心が合わされば――」
「――恐れるものなど何も無い!」
「パラミティィィィィィィル――」
「ツァンダァァァァァァァァ――」
『ライトニング・シュゥゥゥゥゥゥゥゥト!』
 二人の掛け声と共に、ネクサーの連結槍にソークー1が轟雷閃で雷属性を纏わせて蹴り飛ばす。それをネクサーがサイコキネシスで軌道を操り、狼を次々となぎ倒して行った。
「す、凄いです。これがヒーロー……」
 凄まじい攻撃に思わず明日香がつぶやく。攻撃が終わった時、そこには気絶か、そうでなくとも痺れて倒れている狼達の姿があった。
 
 
 後は今の攻撃の範囲外にいた残りの狼達を片付けるだけ、そう思って武器を構えなおす一行の前に、ふらふらと小型飛空艇が飛んで来た。
「や、やっと着いた……。何で移動だけでこんなに苦労しなくちゃいけないのよ」
 操縦者である山本ミナギは、重量オーバーで不安定な挙動をする飛空艇を必死に制御し続けた為に精神的に疲労した状態で降りてくる。その後ろから獅子神ささらと獅子神玲の二人ものんびりした顔で降りてきた。
「いやぁ、かなり荒い運転でしたねぇ。もう少し何とかならなかったんですか? ミナギさん」
「う〜、お腹空いた……」
「だから、あんたら二人が乗り込んだのが原因だってのよ……」
 ミナギが拳を握り、肩を震わせる。だが、周囲の状況に気付くと気を取り直した。
「おっと、いけないいけない。ここは格好良く登場するチャンス。せっかくの機会を活かさないといけないわ」
 と、何を思ったのか近くの木を登り始めた。ちなみに周囲には到着の時からバッチリ見られている。
 結局木の上まで登ったミナギは、そこで格好良い(と思われる)ポーズを決めると、高らかに名乗りを上げた。
「狼達、そこまでよ! ……皆、待たせたわね。でももう大丈夫。三千世界に渡る主人公、この山本ミナギ様が狼達の好きにはさせないわ!」
 ビシッ! と狼に向かって指を突きつける。だが、周囲の面々は微妙な顔をするだけだった。心なしか狼達からも「何言ってるんだろうこいつ」みたいな雰囲気が漂う。
「……え、ちょっと、何でそんな空気になるのよ。あたしよ、あたし。この山本ミナギが格好良く登場したっていうのに、何でそうなる訳?」
「いや〜、そうは言っても……ねぇ」
「せやなぁ……」
 アリカとオウロが明後日の方向へと視線を逃がす。仕方無しにベディヴィアが現実を突きつけた。
「申し訳ありませんが、既に大勢は決しております」
「嘘っ!?」
 ミナギが驚愕する。更にソークー1が追い討ちをかける。
「あと、その登場なんだが……すまん。さっき我がやった」
「えぇぇぇぇぇぇ!?」
 どうしたものか、という空気を醸し出す皆。そんな中、ささらが必死に笑いをこらえていた。
「ククッ……いや、失礼……プッ。さ、さすがはミナギさんです……ククッ」
「わ、笑うなぁ! 元はといえばあんた達が移動手段用意してこないから悪いんでしょ!」
 ミナギがささらを怒鳴りつける。そんな真剣とは程遠い雰囲気の中、正気に戻った(ある意味では空気の読めない)狼がアリカに跳びかかろうとしていた。しかし、跳びつく寸前に何者かが放った矢によって阻止される。
「皆、大丈夫!?」
 矢を放ったのは四方天唯乃だった。唯乃はレッサーワイバーンに乗ったまま他の狼にも弓を射って牽制する。
「遅くなってごめんなさい。私も援護するわ!」
「ちょっ! だからそれはあたしの役目だってば!」
 後から現れた唯乃に美味しい所をかっ攫われた形になったミナギが再度驚愕する。それに対して、降下してきた唯乃はただうろたえるだけだった。
「え、え? どういう事?」
「あー、まぁ彼女の病気みたいな物なので、放っておいて下さい」
「は、はぁ……」
 ささらのヒドいフォローに一応頷いておく唯乃。その扱いにミナギが激怒する。
「病気って言うなー! もう怒った、こうなったら狼相手にストレス発散よ!」
 拳銃を抜いたミナギが狼達に発砲する。弾は次々と当たり、喰らった狼達は次々と逃げ出していった。どうやら実力はちゃんとあるらしい。
「アキラ、ささら! あんた達も戦いなさい!」
「う〜。ミカミさん、私お腹が空きました〜」
「帰ったら何か食べさせてあげるから我慢しなさい! っていうか、あたしはミ・ナ・ギだっての!」
「う〜」
 一応刀を抜くものの、空腹でふらふらの玲。見かねてカイが声をかける。
「何だ、腹が減ってるのか?」
「そうです〜。何か食べ物が欲しいです〜」
「なら、さっき洞窟に食料を運んでおいたから分けてもらうといい。残っていたらだが、菓子もな」
 食料という言葉に反応する玲。ふらふらだった身体は瞬時に凛とした佇まいになり、刀で狼をなぎ払っていった。
「この子達を片付けたらご飯〜。なら、ぱぱっと片付けちゃいましょう」
「やれやれ、争いはあまり好きでは無いのですがね」
 玲とミナギをカバーしながらささらが剣を振るう。更にその三人を援護するように唯乃が霊装シンベルミネに呼びかける。
「ミネ、魔法を使うわ! 援護をお願い!」
「はーい。それじゃ主殿、行くよっ」
 シンベルミネの身体が片腕分の篭手・肩当・マントへと変身し、唯乃の右腕に装着される。唯乃は光輝以外の魔法の扱いを苦手としていたが、こうして魔鎧のサポートを受ける事によって他属性の魔法も扱う事が可能となっていた。
「行くわよっ! サンダーブラストっ!」
 落雷が狼の行動範囲を狭めていく。更にミナギの射撃で追い詰められた狼は、唯乃が続けて放った氷術で動きを止められる。チャンスとばかりにミナギが銃を構えなおす。
「ナイスっ! もらったわ、これで――」
「えい」
 ミナギが弾を撃つより早く、ささらが剣でスイングして狼をかっ飛ばした。いい当たりをもらった狼は木々の向こうへと飛んでいく。
「ちょっとぉぉぉぉ!?」
「おや、どうしましたか? ミナギさん」
 三度愕然とするミナギと、ケロっとした顔で相手をするささら。二人のやり取りを見ながら唯乃がシンベルミネにつぶやいた。
「あれ、絶対わざとだよね……」
「ボクもそう思う……」
 
 
 向かってくる狼もあと数匹を残した所で、ふと玲が気付いた。
「そういえば……狼の肉って美味しいんですかね」
 玲が狼を見る眼差しが『倒』から『食』へと変わる。その眼を向けられたなら狼でなくとも身の危険を感じるだろう。残っていた狼達は全て脱兎のごとく逃げ出し、ようやく洞窟前に平穏が戻ってきた。
「む〜、食べてみたかった……」
 玲は心底残念そうに、狼達が去った方向を見ていたのだった。