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空京暴走疾風録

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空京暴走疾風録

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第11章 大人と子供 環七北/23時頃

 その有料青空駐車場は、少し前から“空狂沫怒苦霊爾夷(クウキョウマッドクレイジー)“のたまり場のひとつとなっていた。
 たむろして煙草を吸ったり、缶ジュースやコーヒーを飲んでいた少年達のひとりが、腕時計を見て立ち上がった。
 ――そろそろ“出っ発(デッパツ)“すっか。
 それを合図にして全員が自分のバイクにまたがり出した時、出口に人影が立ちふさがった。
「すまないが、ちょっと話を聞いてもらえないかな?」
 立ちふさがったのは3人。イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)アルゲオ・メルム(あるげお・めるむ)セルウィー・フォルトゥム(せるうぃー・ふぉるとぅむ)だった。
「あンだてめェ?」
「オレたちゃ急いでんだよ?」
「ケガしたくなけりゃ退け」
 一際高い排気音が鳴り響いた。
 が、イーオン微動だにしない。
(なるほど、威嚇のつもりか)
「教えてやろう。“脅す“とはこうやるのだ」
 イーオンの全身から、禍々しい“気配“が吹き出した。「アボミネーション」だ。
 が、居並ぶ“空狂沫怒(マッド)“の連中も、すぐには心が折れはしない。同じ技の使い手が、何人かいたらしい、
(ふん――『北』最強の看板は、伊達ではなかったということか)
「自警団の者だ」
 イーオンは口を開いた。
「キミたちのことを非常に迷惑だと思う人間がこの辺りに大勢いてね。何とか退いてもらえないかと、こういう次第だ」
 目前の少年達は答えない。
 ひとりが、またがっているバイクのアクセルを吹かす。イーオンに向かって突っ込もうとした気配を察し、アルゲオが一歩前に出た。
「話は終わってない」
 そう言ってクレセントアックスをつきつける。
「人の話を聞かないのは、よくない」
 イーオンは話を続けた。
「若い時と言うのは、とにかく世の中全てが気に入らなくなるものだ。君達は実際正しい。大人になると“理不尽“をいっそう強く思い知らされる。何が“理不尽“って、それに従わなければならない事が最大の“理不尽“だ。
 そう。君達の抱える“怒り““苛立ち“は、この世で一番純粋で尊いものなのかも知れない。世の中を変えていく根源的な“活力(エネルギー)“は、そういうものなのだろう。
 だが、抱えた怒りが無法と破壊しかもたらさないのはとても哀しい。
 “壊す“よりも“創“りたまえ。“暴走“は、何も生み出さない――」
 がくん、と少年達の姿勢が崩れた。
 彼らは次々にバイクごと地面に倒れていく。
 両者の「アボミネーション」対決は、イーオンの方に軍配が上がった。
「ふぅーー」
 イーオンが溜息を吐くと、セルウィーが「SPリチャージ」を施した。
「話が逸れています、マイロード」
「む、そうだな」
「我々の仕事は、彼らをここから追い出す事です。彼らを更生する事ではありません」
「頭ごなしに『ダメだ、ダメだ』と言うだけでは、彼らはますます依怙地になるだけだ」
「それで道を誤ったとしても、それは彼らの自己責任でしょう?」
「『自己責任』は、『責任能力』のある者達にのみ負わせる事ができるものだ。彼らにはそれがない。
 ――まぁ、だからと言って俺達が監督責任を負う事も無いな、確かに」
 セルウィーが頭を振りながら、倒れている少年達にも「SPリチャージ」と「リカバリ」を施し、回復させる。
「さて、改めて話をしようか」
 少年達が立ち上がったのを確認してから、改めてイーオンは口を開く。
「あぁ、『アボミネーション』を使いたければ止めはしない。同じ事の繰り返しだが、こちらは気にしない。夜は長いからな?」
「……分かったよ、くそったれ」
「何がだね?」
「ここにはもう近寄らねぇよ」
 ――けっ。
 うなだれ、ふて腐れた顔で、彼らはバイクを押し駐車場から出て行った。

「さすがですね。ものの数分で、ミッション達成です」
 遠ざかるバイクの音を聞きながら、アルゲオは言った。
「見事な手際でした、マイロード」
「――大した事はしていない。私はただ力で彼らを脅したに過ぎない」
「それが一番手っ取り早いオプションでしょう? 兵法は拙速を好みます」
「これが単純な『戦闘』ならばな。だが――」
(彼らは別な場所に移っただけだ。何の解決にもなっていない)
「アルゲオ」
「何でしょう?」
「俺は、大人として彼らに対しようと思っていた。少なくとも成年には達しているわけだからな」
「そうしていた、と思います」
「自分を大人として見せようなんて、子供のやる事だ。
 相手を納得させるのではなく、力を振り回して脅すなんて、彼らのやっている事と変わらん。脅迫なんぞ下策の極みだった。
 ――まだまだ子供だよ、俺もな」