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第1章 狙われた魔女

 本物の魂を奪うために秦天君たちの協力を得ようと、もう1人のオメガ・ヤーウェ(おめが・やーうぇ)はドッペルゲンガーの森の中で、彼女からのコンタクトを苛つく様子もなくじっと待っている。
「あら・・・ようやく連絡がきたみたいですわね」
 数日後、鏡を通して秦天君から連絡がきた。
「ドッペルゲンガーのオメガ、例の実験を始める時がきたよ。本物になり代わったら、あちきたちに協力してくれるはずだよねぇ」
「もちろんですわ。確か大いなる発展のため、魔科学の実験ですわね?」
「そうなんだけどねぇ。ちょっと状況が悪くなってきたから、そろそろ進めたいのさ・・・。あんたのために魂を奪ってやるからさ、いいかねぇ?」
「えぇ、それで構いませんわ。どのみち、完成させるには館の魔女の魂が必要ですし、約束さえ守ってもらればいいのですから。とはいえ、急な話ですから協力者を集めないといけませんわ」
「あちきは場所を用意しておこうか。闇世界の入り口は、あいつらが監視してそうだし」
 秦天君は十天君のリーダーに連絡を取り、孫天君にイルミンスールの森へ来るように伝えてもらい、実験に使う町と城を化血陣の術で作ってもらった。
 一方、鏡から森から外へ出たドッペルゲンガーは、手っ取り早く助力者を集められそうな場所を狙い、イルミンスール魔法学校から下校してくる生徒たちを階段下の傍の陰に隠れて待ち構えた。
「そなた、魔科学というものに興味ありません?」
 パラミタの地の資源を食い荒らすことなく、座標をセットするたけで行きたい場所へ一瞬で移動する転送装置を作れたりすることを魔女たちに話して聞かせる。
 それだけではなく本来の力を数倍に増幅させてくれる武器や、痛覚のない不老不死の身体になれる実験について話す。
「生活が楽になるだけじゃなくって、力を得たり不死になれるなんて最高ね!いいわ、協力してあげるっ」
 魔女たちはドッペルゲンガーの甘い言葉に誘われ、十天君が作った仮初の町へついていってしまった。



「むむ、魔女がいなくなっているですか。これは何か嫌な予感がしますねぇ」
 イルミンスールに用事があってやってきた佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は、学校で魔女たちがいなくなっているのを知り、怪しまれないようにそれらしい仮装用の衣装を借りて着替える。
 髪をおろして頭にフードを被り、袖の裾辺りに古代文字のような刺繍を施したローブを纏い、中にスパッツを穿いた姿だ。
 化粧をしたその顔を鏡で見た彼は、“これは・・・彼女にみせられないかなぁ”と、小さな声音でぼそっと呟く。
「慣れなきゃしょうがないよ」
「まぁそうだんだけどね」
「ボクだってこの仮装になれなきゃいけないし」
「いやぁ、女の子からもてそうだねぇ」
 傍にいる仁科 響(にしな・ひびき)の姿をちらりと見て、彼のことを知っていて何の悪気もなくさらっと言う。
「―・・・っ!」
 その言葉にカチンッときた響は、眉を吊り上げてムッとした顔をする。
「そんなこと言っているとボロが出ちゃうかもよ?」
「えっ、ボロって何!?」
「さぁ〜、なんだろうね」
「気になるじゃない、待ってよーっ」
 謎めいた言葉が気になりながらも、慌てて1人で先に森へ入っていく響の後を追いかける。
 弥十郎の方へ振り返らず“ちょっとだけお返ししちゃった♪”と心の中で言い、ぺろっと舌を出して笑う。



「う〜ん・・・魂を分離させる方法が、どこかにのってればいいんだけどな」
 御剣 紫音(みつるぎ・しおん)は館にいる本物のオメガも、もう1人の存在のドッペルゲンガーも助けようと、イルミンスール魔法学校の図書館で調べている。
「この文献はどうだ?」
 本棚からハードカバーの大きな本を取り出し、ぺらぺらとページを捲る。
「どれもドッペルゲンガーの人格についてとか基本的な情報ばっかりだな」
 本からは情報を得られず、ぱたむと閉じて元の場所へ返す。
「ネットにもないか・・・」
 検索をかけてサイトにないか調べてみるが、そこにもそれらしい情報はない。
「はぁ、仕方ないな。こうなったらアーデルハイトに聞いてみるか」
 吸収した本物の魂を身体から分離させる方法を知らないか、おやつを持って彼女を探す。
「ありゃ・・・留守みたいだな?」
 学校の中を探して歩いてみたが、どこかへ出かけてしまっていて会えなかった。
「んー・・・やっぱり直接、相手に語りかけなきゃ無理か。そういえばもう1人のオメガはなんて呼んだらいいんだ?いつまでもドッペルゲンガー・・・って呼ぶのは可哀相だし」
 髪をぐしぐしと掻きあげて、魔女たちと一緒にいるドッペルゲンガーを何て呼んだらいいか、うーんと唸りながら考える。
「俺が思うにはオメガって始まりを表す名前だよな?じゃあ、その反対のアルファ・・・て呼ぶか。なんにしてもどっちかしか助けれなくて、片方が不幸になるなんて・・・俺は嫌だな。十天君の誘いに乗っても、その先にあるものが幸福じゃないって教えてやらなきゃな。問題はどうやってそれを使えるかだけどさ・・・」
 片方が救われて本物でない方は友達と呼べる存在が出来ず、永遠に真っ暗な森の中でたった独りきりで過ごす。
 本物じゃないからと、アルファだけを不幸には出来ない。
「命に偽者も本物もないんだからさ・・・」
 どうしたら2人の魔女が幸せになれるのか、そのことばかりを考え込む。